第5話 金髪少女は夢を見る

彼女が犬を拾い上げた瞬間、俺は彼女を突き飛ばしつつ彼女の頭を腕で覆った。

思い切り地面に体がたたきつけられながら俺たちはどうにか反対側の歩道まで行くことが出来た。


「大丈夫ですか!」


俺たちが歩道にわたり終えた瞬間、後ろの方から車の運転手が心配そうにやってきた。180ほどの身長に、白髪を結わせ燕尾服を着ている。まるで執事のようであった。いや、後ろにある車はリムジン、本当の執事だろう。

俺は素早く立ち上がると直ぐに汚くなったその頭を下げた。俺たちの傷が心配だったようだが、俺たちはその運転手に無傷であることを使えると、一礼したのち直ぐに走り去っていった。心臓の鼓動が鳴りやまないまま俺は彼女に対して怒らずにはいられなかった。


「イリーナ、お前……なんで飛び出した。」


長い沈黙の後、彼女は静かに一言つぶやいた。





「………あなたが私を助けに飛び込んでくれた理由と一緒です。」





「……!」


―――――瞬間的、刹那的であった。彼女が道路に飛び出したのを見た瞬間俺はその場に行かざるを得なかった。脊椎反射に近いものであった、彼女が危ない、ならば俺が助けなければならない。


「二人とも何してんの!?信じられない!」

「いや……あのですね……全員生きてるので説教は免除にしていただきというか……。」

「ソウタは私に怒ろうとしてたのに?」

「何それ!?どういうことか詳しく!」


そこからは智里による俺たちの公開説教ショーであった。

途中、涙が出そうになればすぐさま袖で拭いながら説教を彼女はひたすらに続けた。

まさかアスファルトの上に正座させられるとは思わなかった……江戸時代の拷問か

よ……。


「—————だからわかった!?」

「ウス……」「はい……。」


すでに俺たちの元気はなく、説教による精神的疲労のほうが圧倒的にきつかった。


「でもソウタがあんなことできるとは思ってもいませんでした。少し……かっこよかったよ?」

「膝プルプルしてて死ぬほど怖かったけどな。」


今思い返してみれば俺死んでる可能性あったな……。

運動が得意な部類とは言っても車の速さより早く動ける人間などいるわけがないのだ。


智里あいつが説教した理由も俺と同じ……なんてな!」


どうも智里が涙を流した理由は分からなかったが、俺たちを思ってのことなのであればありがたく受け取るとしよう、大体、智里に好かれる要素俺ないしなぁ。



***********



「大丈夫だったかなぁ……。男性の方なんて頭守られてなかったよ?」

「彼らが大丈夫と言っていたので大丈夫なはずですが確かに心配ですね……では……後日医師を派遣いたしましょうか?」

「べ、べ、別に心配ってわけじゃないわよ!ただ少し気がかりなだけで……」

「お嬢様、それを心配と人は呼ぶのです。」

「う、煩いわね!早く話をつけてきなさい!」

「かしこまりました。」


金色の髪を垂らし、机に頬杖をしながら少女は考える。

先ほど車で引きそうになった生徒たちのことであろうか。


否、それはすでについた話だ。ならば、


「どんな顔して颯太あいつに会えばいいのよ……。」


少女は昔のことを思い出しながら顔を赤らめていた。


~~~~~


『これ!あんたが大きくなるまで開けちゃだめだから!』

少年に渡したものは小さな小包であった。かなり軽く、入っている物は紙と何か固形の物で、軽く振ると小包の中でカランカランと音を立てていた。


『何?これ。』

『いいから!』

『うん、わかった。』

『えっ………。』


あの日ほど素直になれなかった自分を恨んだ日はない。

私が帰った後すぐに開けてほしかった、私の目の前でも良かった。

なのに、私は――――。


~~~~~~


「明日からか……。」


うなだれながら期待と後悔を胸中にしまう少女であった。

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