第2話 二人の幼馴染

「「きゃあああぁぁぁ!」」


女子生徒たちは驚きとともに、黄色い声援と興味津々な視線をこちらに向けた。

それに比べて男子生徒たちは俺に対し敵意を持ち、今にも殺してきそうな勢いで俺のことを睨んだ。

ただ一人、智里は俺のほうを見ながらげんなりした様子でこちらを見た。


「イリーナ……ここは日本だ、いきなり抱き着くのはやめた方がいい……。」

「どうしてですか?昔はソウタもギュッとしてくれたのに?」


あああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!

もういっそのことだれか俺を殺してくれ。恥ずかしさのあまり俺は顔が真っ赤になり、体温が上昇しているのがよくわかった。

周りの女子生徒たちの会話もさらに大きくなり、相思相愛だとか許嫁だとかもはや訳の分からない会話すら始まっているのが聞こえた。


「どちらにしろ俺たちはもう高校生だ、わかってくれ。な?」

「ハイ……。」


渋々俺から腕を離すと彼女はまた前のほうに行き、先生に自分の席を聞くと、直ぐに着席をしどうにかホームルームは終了をした。

いっそのこと終わらないでほしかった……先生が終わりを告げた途端多くの人が俺とイリーナの周りに集まってきた。


「ど、ど、ど、どういう関係なんだお前!?」

「もしかして昔結婚を誓った幼馴染とか!?」

「抱き着かれたときどんな感触した!?」


みな、思い思いの質問をぶつけてくる。いや最後のだけお前の欲望丸出しだろ。

一つ一つ答えていては埒が明かないので適当にあしらうことにした。


「はぁ……ただの幼馴染だよ、昔よく遊んだだけ。ロシアではハグは挨拶のようなもんだよ、あとで日本の挨拶をよく伝えておく。」

「なーんだ。」


みな興味を失ったのか俺からは離れ、イリーナのいる机のほうへと向かった。

俺の周りから人がいなくなり始めると智里が近づいてきた。


「この人気者~~。」

「見てたんだったら弁明する助けをしろ。」

「だって周りの人は誰も信じないんじゃない?」


確かにクラス分けをされた直後で俺たちの関係を知っている者などいないだろう。

その後一日中イリーナは周りの人たちから色々なことを聞かれたり、教えてもらってはいた。

日本語は話せるし、生活において支障をきたすことはほとんどないと思うのだが……。


「おーい、帰るよー。」


気づけば既に帰りのホームルームも終わり放課後になっていた。

後ろから唐突に声をかけられた俺は挙動不審な態度をとってしまう。


「うぉっ!なんだ……智里か。」

「どしたの空でも見て、考え事でもしてたの?」

「少し昔のことをな……。」


昔の出来事を回想してしまうほど清々しく、晴れやかな晴天。

懐かしむ余裕はない、それほど時代の変遷というものは速い。

だからこそあの時を大切にしておけばよかったのかもしれない、などといった後悔をしてしまう。


「なぁ……イリーナが帰ってきた本当の理由なんだと思う?」

「だから父親の転勤って……あ!」


彼女の父親の職業は『外交官』。普通に考えてこんな場所に住むはずがない、住むとしても霞が関に近い24区内だろう、給料も悪いなんてことはないだろうから住むのにも困らない、なのになぜこの土地へ帰ってきたのか。

と、考えているとちょうどよく後ろの方から元気な声が聞こえた。


「ソウタ!一緒に帰ろう!」

「あぁいいけどこいつも一緒でいいか?」

「どなたですか?」


彼女は智里のほうを見ると何やら困惑した表情を見せた。

空白の期間はおよそ10~13年にもなる、当然名前も言われなければわからないだろう。


「智里だ、神谷智里。」

「サトリ……サトリ……………サトリ!?」


彼女はようやく誰であるか理解したようであった。

昔から一緒に遊んだ幼馴染の一人、神谷智里という人物を。

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