俺には幼馴染が六人いた!?
カル
第1話 転校生
『あなた、名前は何て言うの?』
どこか遠い夏の記憶———。
麦わら帽子を深くかぶり、ひまわり畑をかき分けながら現れた少女。
スラッとした姿に見惚れたままの俺はその時、なんて考えたのだろうか?
天真爛漫な姿に惹かれながらただひたすらに追いかけ、遊んだ記憶。
何もなく、友達もいなかった俺の思い出に色を付けてくれた人。
たった一つの夏の淡い思い出。
「起きろおおおおおおぉぉぉぉぉ!」
「ぶへっ!」
時刻は7:00、とてつもない苦しさに息をおもいきり吐きながら俺は目を覚ます。
重さの原因の方向を、動かせない体をすこし動かして視認すると、甘栗色のポニーテールが揺れ動くのが見えた。
「お……重い……死ぬ……。」
「おはよう!朝食出来てるよ!」
目の前にいるのは『
ウチは両親とも共働きで朝から仕事に行くので家には誰もいないはずなんだが…………ん?。
「お前どうやってここに入ってきたんだ?」
「ママさんから鍵貰ってるよーん。」
鍵についている鉄製輪っかを指でくるくると回転させながら俺に鍵を見せてきた。得意げな彼女の表情をしたまますぐにフライパンのほうへと向き直る。
「あーなるほど……。」
眠気のせいでいまいち頭が回らない俺は彼女が準備してくれた朝食を頬張り、コーヒーでどうにか眠気を飛ばそうとする。
春休みボケがいまいち抜けてない状態で食べ終わるとそのまま歯磨きをしながら考え事をしていた。
「ってなんでさらっと鍵受け取ってんだあぁ!」
驚愕のあまり家中に響き渡る声で叫んだ。
どうやら最も目が覚める方法はこれだったらしい。
***************
「とっくの昔からそうだったのに今頃驚くことなの?」
「息子に何一つ話してくれなかったぞ……。」
呆れながらため息をこぼす。
まだ朝のためか、4月と言っても外は寒く白い息が出るんではないかとか思うほどであった。冷えた指隙を息で温めながら縮こまって歩く。
ブレザーに身を包んだ俺は前から入る風が恨めしく思えた。
「そういえば今日転校生が来るんだって!」
「転校生?」
「そ!ロシアからの留学生であり転校生。」
「へー珍しいこともあるんだなぁ。」
お世辞にもこのあたり一帯は都会とは言えない、ゆえに転勤してやってくる人がいても外国からこんな辺鄙な場所にやってくるとは思ってもいなかったからだ。
いや、ロシアからやってくるってだけでロシア人とは限らないな。もともとこのあたりに住んでいた人がロシアに行き、最近帰ってきたということも考えられる。
「まぁ、なんでもいいけど関係ないしな。」
俺にとってはどうでもよいことであった。
強いていうなれば気になることと言えばロシア人はこの時期の気温を寒いと思うのだろうか、この時期で上裸になれるとしたら遺伝の問題だろう、もしそうなのであれば俺はこの気温になれることを放棄して毎日マフラー手袋をつけて登校をする。
学校に到着すると昇降口の近くで一人の男子生徒が壁に寄りかかっていた。
俺たちに気づくと何やら気味の悪い笑みを浮かべながらこちらの方へとやってきた。
「よう!今年もお前らと同じクラスだったな!」
「私のドキドキ感を返して!」
「お前それ言うためにこんな寒い中待ってたのか……?」
男の名は『
この学校では毎年クラス分けをしているので廊下に張られたクラス分けを確認し、新クラスがスタートすることになっている。
「で?俺らのクラスは?」
「Fだ!ファンキーでファンシー、そしてファッショナブルのF!」
「ファニーのFだろ」
クラスは基本アルファベット順のためこの学年はA~Hまでクラスが分けられている。しかし、Aは国際系、Hは理数系のため普通科となっているのはB~Gまでのクラスである。
クラスに入り、指定されている自分の席に着いてから10分ほど待っているとガラガラと教室のドアが開けられ奥から一人の女性教師が入ってきた。
「私がこのFクラスの担任『
スラッとした姿勢に黒のスーツがピシッときまっている。
まだ若く、まるで大学生に見えた先生は手短く本日の日程を話した。
日程がある程度話し終わると先生は咳ばらいを一つした後、おもむろに大きな声で話し始めた。
「本日はロシアから転校生が来ております!」
「先生!女の子ですか!?」
「そうです!」
「うおおおおおおぉぉぉぉ!!」
食い気味に質問をした翔梧に笑みを浮かべながら先生は答えた。
うーむ、先ほど上裸になれるなら~などと言っていたが異性の線を考えてなかった……コンプライアンス違反になっちゃう訂正しとこ。
俺の脳内アナウンサーが原稿を読み込むかのように訂正をしている最中、俺の脳は停止した。
理由は一つであった。
「『イリーナ・カレリン』です。よろしくお願いします。」
―――息をのんでその光景を見た。
おとぎ話や空想の世界の話、いやそれ以上であった。このようなひとを白い雪のような美しい姫……すなわち白雪姫なのだろうと。
同じ制服を着ているとは思えない姿に女子生徒も含めたクラス全員が見惚れていただろう、俺と智里を除いて。
「見惚れてるのはいいけど何か質問はありますか?」
「あっ……はい!どうして日本に来たんですか?」
「父の転勤の都合です。」
最初に質問をした翔梧を起点とし、様々な所から質問が出た。
殆どはロシアに関係すること文化の違いといったことであった。しかし男たちはお互いアイコンタクトをしていた。今彼氏がいますか?といったことを聞きたかったようだ。
結局彼女にその質問をぶつけるものはおらず、あらかた質問が出尽くすと彼女は少し困ったような顔をしながら先生に質問をした。
「先生……このクラスに佐藤颯太くんは居ますか?」
「えーっと佐藤佐藤……あ、あの人です。」
俺の机を指さした瞬間クラスの視線が一気に俺に集まったのが分かった。
イリーナは俺と目が合うと目で見てわかる通り明るくなってこちらの方へ走ってやって来ると、いきなり抱き着いた。
「ソウタ!久しぶり!」
ロシア人とはかなり挨拶が大胆な民族なんだなぁ、そしてさよなら俺の学園生活。
クラス中の男子の殺意が俺に集中しているのが一発でわかった。
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