第2話

「おまえ、今度は立花に惚れたのか?」


 帰り道、良太は唇を歪めて、いつも通りの下卑た調子で僕に言った。


「馬鹿が」


 僕はそう言って、良太の頭をがしりと掴み、そのまま前方に押す。奴のスポーツ刈りのちくちくとした感触が俺の手に残った。


「一学期のときは、鈴木。二学期のときは高原。おまえ、いっつも隣の席の女が好きになるもんな」


 頭を小突かれた位でこの男が黙るはずがない。僕の言葉や態度をまったく意に介した様子もなく、良太は話し続ける。


「おまえ、惚れっぽいよなあ。まあ、気持ちは解る。おまえは席替え運がいい。隣にブスが来たことないもんな。真鍋とかさ」


 失礼にもクラスで一番太っている女子の名前を例にあげながら、良太はヘラヘラと笑った。

 確かに、僕は一学期は鈴木さんが好きだった。鈴木さんは小学生の癖に胸がでかくて、スタイルが良かった。いつも短いスカートを履いていて、白い太ももがまぶしく光っている。男子たちはみんな彼女の胸か脚を見ていた。彼女の側でわざと何かを落として、彼女の脚をじろじろと見るのが男子の間で流行った。僕も一回やった。彼女はいつしか長いズボンしか履いてこなくなった。

 二学期のときは、高原さんだ。彼女は鈴木さんと違って発育は、まあ普通だったけど、ともかく可愛かった。瞳が大きくて、睫毛が長い。まるで美しくあるように造られた人形じみたところがあった。だから、彼女は大変にモテた。噂では彼女の下駄箱には毎日ラブレターが入っているが、彼女のストーカーが毎日、そのラブレターを彼女の目につかない内に捨てているらしいとまで言われていた。僕もラブレターを書いてみようかと思ったけど、こっぱずかしくてやめた。二学期の途中から彼女は学年一のイケメンの池原と付き合い始めた。学年中の男子が涙を流したことは間違いがない。


「次は立花か」


「まだ、そうと決まったわけではない」


「まあ、前二人ほどではないけど、かわいいんじゃないか。むしろ、現実的な範囲かも」


 一体、何が現実なのだろう。耳年間なだけで女と付き合ったこともない良太に何が解ると言うのか。なぜだか、自分でも驚くくらいにカチンと来た。


「まあ、頑張れよ」


 どこかしたり顔で笑う良太を見ていると、一発本気で殴ってやろうかと思ったけれど、そんなことをしても自分の拳が痛くなるだけだと思い、やめた。

 良太はすたすたと僕の前を歩いていく。僕は彼の背中を見つめて、小さくため息をついた。






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