河童男

 ここは木の影エリア最下層、始まりの泉。僕はちょっと有名な子取り河童だ。

 今日も天井から緩やかな滝に抱かれて赤子が落ちてくる。

 ふわり、ふわりと、ゆっくり。落ちるのは危なくない。降りる、と言った方がいいのかもしれない。

 児童園の河童、回収河童、子守り河童などと言われているけれど、つまり天井より生まれたばかりの赤子を滝から引き揚げ、育て親を見つけてやるのが僕の仕事だ。

 ぽちゃんと赤子が落ちた音がすると、水から顔を出して抱き上げる。だいたいが一歳に満たない赤子だけれど、たまには三歳なんてのも落ちてくる。そういう時には会話がしたくてワクワクするものだ。

 影の世界では珍しく仕事を受けるのではなく、児童園に就職した。子供たちが喜ぶので河童の姿を買い、仕事中はずっと河童になっている。この姿だと水の清らかさが体で感じられるから好きなんだ。まるで水晶の泉に包まれている気分になる。

 バシャン! と大きな音がした。

 見ると五歳くらいには見える子供が浮いている。

「おぉ、大きいねぇ! おおい! 大丈夫?」

 抱え上げると目をまん丸くして僕を見る。男の子だ。

「かっぱ……」

「そうだよ。お腹すいてない? 写真を撮ってチップを胸に埋め込んだら終わりだからね。そしたら甘いおやつを食べようね。今日は何かな?」

 そっと体を拭き上げながら頭を撫で、目を見てひたすら話しかける。

 すると男の子が不安そうに僕の指を握る。

「どうしたの?」

「天井の海で龍神様に遊んでもらったの。とっても楽しかったから遅くなっちゃった。大きい子、いらない?」

「そんな事ないよ。僕も他の先生たちもとっても嬉しいよ。きっと優しい人に育ててもらえるから大丈夫だよ。みんな待っていたんだよ」

 そう言うと笑顔で僕に抱きついた。

「僕、河童なお父さんがいい!」

「人気者で困っちゃうなぁ」

 男の子と手を繋いで園の中に入ると、みんな驚いて走り寄ってきた。この園が始まって以来の年長さんだから当然だ。

「今日からここのお兄ちゃんだね。よろしくね」

 だから今日も、明日も僕はここに居る。

 愛されたかった僕だから。

 大きくなってしまった僕では欲しかった物を手に入れる事は二度と出来ないから。せめてもの慰めに、あげる事しか出来なくなった僕だから。


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