世界の終わりに

 「足が痛い!」


 休日の朝。ソファーでゴロゴロしていた息子が、突然悲鳴を上げた。


「どんな風に痛いの?」

 

 掃除の手を止めず問いかけた私に、彼は泣き声で答える。


 「世界の終わりみたいに、痛い……」

 

 なんだ、それは?(;´・ω・)

 様子を見ると。

 かかとに、ちっっっちゃな擦り傷。ちょびっと滲んだ血。


 君の世界は、これくらいで終わっちゃうんやなぁ( ̄▽ ̄;)


 「痛いの今だけだよ。すぐ治るって」


 声を掛けても、息子はうずくまったまま。


 「痛くて動けない……本とって」


 仕方ないのでお望みの本を渡すと、力なくめくり始めた。



 何度目か分からなくなってきた緊急事態宣言。

 検査、陽性、自宅待機。身近で起こるパンデミックに恐々とする平日。

 何処にも行けず、時間を持て余す休日。近所の公園も遊具は封鎖。こどもに自転車練習でもさせるかと思ったら、タイヤがパンク。

 愚痴を言えばきりがない。

 

 「まずは、自分がバランスを保つ。それが世界のバランスに繋がる」

 ヨガの先生の言葉を思い出す。

 自分が誰かのためにできることなんて、僅かなことだよなと思う。

 まずは、自分が目の前の日々をきちんと生きていくこと。

 愚痴をこぼし、弱音を吐きながら。

 でも投げ出さず、淡々と。

 今は会えないあの人も、きっとそうやって日々を生きているんだろう。そう思ったら、背筋が伸びる。

 今日も、私は此処で生きている。しょうもないことで怒ったり、笑ったりしながら。悪いことばかり拾い集めることもできるけれど、どうせなら、日々のささやかな喜びを積み重ねたい。ちっぽけな幸せを紡ぎたい。

 それが、何処かで誰かのバランスに繋がっていけばいいなと思う。



 「お母さん、見て!」

 

 息子がはしゃいで呼ぶ。見ると、開いた本には不思議な雲の写真。

 虹みたいな彩雲。山の頂上の傘雲。荒々しい海みたいな、アスペリタス雲。


 「アスペリタス雲は最近発見されたんだって。すごい!」

 

 さっき世界が終わったはずの君は、もう未知の世界にワクワクしている。

 この世界にはまだ、不思議なこと、楽しいこと、嬉しいことが、いっぱい待っているんだろう。きっと。

 まだまだ、世界は終わらない。



 余談。


 「お母さん、なんか楽しいこと無い? 暇!」


 「他人から与えられる楽しみを待ってちゃダメ。幸せは自分で探しなさい」


 「えー、幸せって何処にあるの?」


 自室に幸せを探しに行った息子。何やらゴソゴソしていたけれど、戻ってきた彼の手には……。


 貯金箱?(。´・ω・)?


 「100円、200円、300円……」


 おもむろに金勘定を始めた息子。君の幸せは、お金だったんかい!!(;゚Д゚)


 


 


 

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