つつましい幸せ

 金木犀が香る季節になった。

 コロナ禍でも、変わらず花は咲く。


 我が家のベランダで、冷たい風に身を縮めながら咲いた花があった。

 10月の朝顔。

 夏の終わりにできた種。採取中に息子がこぼして、秋に芽吹いてしまった。花をつけることは叶わないだろうと思ったのに。

 「よく頑張ったね」

 娘と一緒にお水をあげた。

 

 「化石を発掘したい」

 先日、息子のリクエストに応えるべく、ある場所に行った。

 図鑑で見た縞々の地層。はたまた、炭みたいに真っ黒な崖。よく見れば、貝みたいな化石が埋め込まれている。

 そこは浜辺だった。目の前には果てしない海。波に削り取られて転がる石は、地層みたいな縞々模様。玄人らしきおじさんが、リュックいっぱいに石を詰め込んでいる。ここで、化石が発掘されているらしい。

 もしかしたら、恐竜の歯でも隠し持っているんじゃなかろうか。そんなことを思いながら、石をひっくり返していくのは楽しかった。息子は気に入った石を持参した袋に詰めていく。娘は綺麗な石を砂浜に積み上げてご満悦だ。

 浜辺には他にも親子連れがいて、はしゃぐ声が聞こえてきたけれど、そこはどこまでも静かだった。

 世界のはじまりみたいな場所だと思った。振り返れば、太古から積み重ねられた日々。大地にくるまれて、地球の思い出が眠っている。


 我が家のベランダで、もう一つ小さな花が咲いた。

 パンジー。数奇な運命を経て、オジギソウの命を引き継ぐように咲いたそれを、ベランダの片隅に植え替えた。春の花のはずなのに、冬に近づく季節に蕾が膨らみ花が咲いた。

 パンジーは、色によって花言葉が違うと最近知った。

 我が家のパンジーは、おひさまみたいな黄色。


 「つつましい幸せ」


 ささやかな日々を積み重ねて、つつましい幸せを噛みしめて。

 そんな風に生きていけたらいいのになと思う。

 いろんなことがあるけれど、いつかは空に還る。

 ささやかな日々も、大地にくるまれていく。

 つつましい幸せは、地球の思い出になって眠る。

 そんなことを夢想しながら、今日も目の前の日々を生きよう。




 

 

 


 

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