小学校

 リュウは毎朝、名札を服につけるのに苦戦している。


 「目に刺さらないようにしないと」


 そんなに!?(゜ロ゜)



 友達と何をして遊ぶのが好きか、聞いてみた。


 「蟻の巣ふさいで観察してる」


 アリが一生懸命修理するらしい(アリには申し訳ない……)。一緒にやってくれる友達がいて、よかったねぇ(^_^;)


 

 ある日、リュウが言った。


 「友達が忘れ物したら、なんて言えばいい?」


 隣の友達が教科書を忘れたらしい。


 「友達に何て言ったの?」


 「『なんで忘れ物しちゃったの? 』って」


 「……リュウ君も、よく忘れ物するでしょ? 一緒に教科書見せてあげたらいいんじゃない?」


 そうかぁ、とリュウは言う。リュウにとっては、いろんなことが勉強らしい。

 そのまま、ぽつりと言う。


 「怒りたくなった時、どうしたらいいかな?」


 「何かあったの?」


 「前に、友達と喧嘩した時『絶対許さん』って言っちゃった」


  難問だ。私自身も短気なので考え込む。


 「……イラっとしたら、10数えるとか? 少し落ち着くかも」


 「それでも怒りたくなったら?」


 「……」


 二人で考え込む。


 「お母さんも分からないなぁ。今度そういうことがあったら、教えてよ。一緒にどうしたらいいか考えよう」


 妙案が浮かばずそう言った私にリュウは頷く。さらに話は続く。


 「留守家庭で宿題の漢字やってたら、けい君に『汚い』って言われた」


 私はちょっと言葉に詰まる。

 リュウは、確かに字が汚い。一生懸命なのだけど、一字一字が大きくなったり小さくなったり、右に寄ったり左に寄ったり、アンバランスなのだ。

 低緊張と言われた彼は、昔から筆圧が弱くてお絵描きも苦手だった。もしかしたら、そういうことも関係しているのかもしれない。

 けい君という名前には聞き覚えがあった。留守家庭こども会で一緒の一年生なのだけど、乱暴で反抗的なところがあって、よく先生にも怒られているようだ。


 「そんな風に言われたら、嫌だったね」


 やっぱり、うまい言葉が浮かばなかった。考え込む私に、リュウは続ける。


 「けい君と一緒に遊べることもある」


 「けい君も、仲良くしたいんだね」


 「けい君、皆で遊んでる時に皆から責められてた。けい君だけが悪いわけじゃなかったのに」


 「……けい君も、辛かっただろうね」


 リュウは頷く。

 それで区切りがついたのか、話は終わった。

 私は考え込んでしまう。


 皆が、けい君を責める中で。

 リュウは、どうしたのだろう?


 学校で、リュウはいろんなことを感じているのだろう。

 マイペースなリュウが皆に馴染めるのか、私は心配した。

 一方で、皆に呑み込まれてほしくないとも思う。

 矛盾するだろうか。


 来年度の留守家庭子ども会の継続書類を出す時期になった。

 書類の中に、友達の名前を書く欄があった。

 誰と遊んでいるか聞くと、リュウは何人かの名前を挙げた。

 その中に、けい君の名前もあった。


 毎朝、一緒に家を出て学校へ向かうリュウを見送る。

 通学路で、たくさんの背中に呑み込まれていくリュウ。

 ひょこひょこ歩く背中に祈る。

 どうか、そのままの、あなたのままで。



 おまけ。


 「今日、皆で野球したんだよ!」


 「リュウ君、野球分かるようになったんだ! いっぱい役割があって難しいのに」


 「うん! ピッチャー、キャッチャー、部下!」


 部下!?( ̄□ ̄;)

 一体、どんな野球だったんでしょう……。

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