バランス
お世話になっているヨガ教室が、連休明けまで休みになってしまった。
私が住む自治体も、緊急事態宣言が出た。それを受けての先生の決断だった。
一ヶ月前には、先生自身、感染者の濃厚接触者との接触が判明したとかで、「念のため、しばらくお休みにします」と連絡がきたりもした。
結局、その濃厚接触者は陰性と判明し、保健所にも相談した上で再開されたのだが。
「不要不急の外出禁止」令が出た時は、土日のヨガのクラスをとりやめ、代わりに野外ヨガとして近所の公園でヨガをやったりされていた。屋外なら、三密にはならないだろうということで。
もともとは教師だったそうで、行き場のないこども達のために教室を解放し、こどもを預かったりもされていた。
「今の状況で、自分にできることを」
そう言って笑っていた。
先生は独身で、ヨガ1本で生計を立てている。教室閉鎖は、どんなに大変なことだろうかと思う。
ヨガを始めて、一年。
体が固い私は、まだうまくポーズがとれない。
先生は、「大事なのはポーズじゃない、自分の体に目を向けること」なのだと言う。
曲がった背骨、反り腰、内股。不自然なバランスに気づき、自分と対話しながら整えていくこと。
朝、起きたら布団の中で伸びをする。デスクワークの合間に、背筋を伸ばす。強張った肩の力を抜く。
初めて、ガチガチになった体に気付いた。
力んでいるのは、自分。
苦しめていたのは、自分。
解放できるのも、自分。
些細なことの積み重ねで、体は少しずつ変わった。
眠りを妨げた背中の痛みは、いつの間にか遠のいている。
コロナ騒ぎの中で、先生は言った。
「まずは、自分のバランスを保つこと。中庸。それが、世界のバランスに繋がっていく。祈るように、ポーズを捧げる」
静かに、合掌した。
どんどん歯車が狂っていくような日々。
こんなことになる前に思い付いた物語があった。
能天気なラブコメになる予定だったそれは、オリンピック延期という事態の急変により、だいぶ趣を変えた。
コロナによって断たれていく繋がり。
それが必要なのだと分かっていても、「不要」の文字が切なくて。
それでも、繋がっていたくて。
纏めきれないまま、書き上げたのだった。
祈るように。
それでも……。
やっぱり、うまく言えない。
区役所勤務なのもあり、私たちの生活への影響の大きさをひしひしと感じる。
こんな時こそ、休めない。
我が子を保育園に、留守家庭に預けながら、何事も無いことを祈るしかない。
まだ、私たちは、私は、決断を迫られている。
この事態を乗り越えなければならない。
みんなで、一緒に。
こどもに邪魔されつつ、布団の上でポーズをとる。
仕事の合間に、首を回す。
深呼吸。
祈るように、捧げる。
あまりに、無力だけど。
それでも。
できることを、少しずつ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます