銀も金も玉も
閉塞感から抜け出したくて、こどもと近所の公園へ行った。人は疎らで、盛りを過ぎた桜が舞う。
二歳の娘が「新型コロナウィルス」と流暢に喋り、六歳の息子がコロナのニュースを自作自演するようになった。
身近に迫った病魔から、こどもだけでも他県に逃がす試みは、最後の最後で潰えた。
公園には、兄妹の先客がいた。
暇をもて余していた彼らが話しかけてきて、息子と同じ小学校だと分かった。一年生のジュンちゃんと、三年生のイッくん。
三才の弟もいるそうで、ジュンちゃんは慣れた様子で娘と手を繋ぐ。
一緒に「だるまさんが転んだ」をやってから、クイズ大会になった。
イッくんは味のある子で、外車が見れる近所の自動車修理工場から、飛行機のパイロットが制帽を被る理由まで知っていた。
図鑑を読むのが趣味の息子が、遅れをとるまいと私の陰から質問する。
「どうして海が出来たか、知ってる?……地球が出来た時、隕石が落ちてできた穴に雨が貯まって、海になっていったんだよ!」
「原始地球だね」
イッくんがメガネを煌めかせた。
彼らは地球の歴史を辿り始める。
火山の噴火。三葉虫。恐竜。隕石。
生き延びた人類の祖先。
発祥の地はアフリカ。そこから世界中に。
猿人、原人、石器。マンモス。
遥かな過去から帰ってくると、そこはマグマもティラノサウルスもいない、のどかないつもの公園だった。
一陣の風が吹いて、桜吹雪が舞う。
バイバイを言い合って、別れた。
自然と、笑みが零れる。
こどもは、すごいなぁと思う。
いつだって笑う。どこだって遊ぶ。
宇宙までも、ひとっとび。
銀も金も玉も何せむに 勝れる宝 子にしかめやも
昔はピンとこなかった、山上憶良の気持ちが、少しは分かる。
離れても、離れられない。
こどもは希望であり、未来だ。
愛しい未来。
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