負けないで

連れが夜勤に出かけ、一人で延々子守していたときの出来事。


玩具箱からメガホンを発掘した二歳の娘。「これ、やって!」と私に差し出し、室内を走り回る。

「がんばれー」とメガホンで適当に応援していたが台詞が尽き、ZARDの「負けないで」を歌ってみたら、娘にクリーンヒット!

エンドレスな「負けないで」と共に走り回った娘は、私に抱きつき、やっとゴールイン。


傍らで、我関せずと読書に励む六歳の息子。

二人で遊んでくれたら楽なのになー。


容赦無く、娘から「次は、お母さんの番!」と命じられる。

メガホン片手に「がんばれー」と叫ぶ娘。

室内を駆け回る(振りをする)私。

途中で転び、力尽きてみせる。

「お母さん、もう、ダメだ……(いや本気マジで)」


くすくすと笑い声。

私の手に重なる、小さな手。


顔を上げると、娘と、さっきまで本を読んでいた息子が、私の手を握っている。


「お母さん……がんばるよ!」


立ち上がり、二人に抱きつく。

ゴール!


そしてメガホンを離さない鬼監督により、何度も何度も何度も同じシーンを繰り返し演じさせられたわけなんですけど…。


重なりあう、手。

束の間の、しあわせ。

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