第5話 SL人吉

五歳の息子は、電車好き。

三歳頃から、休日は電車の図鑑を三時間くらい読まされ続けてきた。

そんな息子が気になっているのが、熊本を走るSL人吉。


翡翠色の球磨川と、真紅の鉄橋。碧と紅を切り裂くように走る、漆黒の蒸気機関車。


浪漫だなぁ…✨


一念発起して乗車しに行くことにした。


当日の朝、バタバタと支度をし、出発。

最近お○り探偵に憧れている息子はリュックに虫眼鏡を入れ、娘はお気に入りのぬいぐるみを入れて背負っている。

何気無く息子のリュックを持つと、やけに重い。

中身を確認すると、なぜか娘の絵本が大量に詰められている。


息子曰く、「ユヅちゃんが泣いたら、絵本見せようと思って」。


いつのまにか、優しいお兄ちゃんになっていたんだなぁ…。


じんわりしたものの、結局大量の絵本は私が持つことに f(^_^;


そんなこんなで博多駅に到着。初めての新幹線に、はしゃぐ息子。

最初に乗るのは、800系さくら。木のぬくもりを感じるあたたかな車内が素敵な新幹線。

45分程で熊本駅着。くまモンと記念撮影し、いよいよSL人吉とご対面。


ホームには既に人だかり。黒煙がたちこめている。人をかき分け、先頭に到着。

力強く煙を吐き出すハチロク。本当に蒸気機関車だー!

早速こどもと記念撮影するも…


息子が鼻をおさえ、「くさい!」


確かに、煙たいかも…。


娘が目をおさえ、「いたい!」


確かに、目にしみるかも…。


仕方なく早々に車内へ。

まぁこういうのが、写真ではわからない生の体験だよね (^^;


席に座り、SLの案内を眺めていると、衝撃の事実が発覚。

今回、終点人吉まで二時間半乗るのはこども達がもたなさそうなので、八代駅で引き返す予定だったのだが、


憧れの球磨川は、八代駅の二駅先だった Σ(゜Д゜)


何のために高い切符代払ったんだか(ー_ー;)


と、出発と同時に娘が撃沈。私の膝枕で熟睡。


動けん…。


展望デッキで子どもに制服を着せ、記念撮影してくれるらしいのだが、連れと息子で行ってもらう。


束の間の休息。

車窓からはあたたかな光が差す。時折汽笛が鳴り、窓の外を煙が流れる。

落ち着いた木目調の車内は、周囲の喧騒にもかかわらず、人を憩わせる静けさがある。大正生まれの蒸気機関車の、歴史が沈殿しているのだろうか。

からだに感じる心地よい振動。膝上の娘に誘われるように、しばし微睡む。


が、息子の帰還により、静寂は打ち破られる。

連れが娘を預かるというので、そっと渡して息子と探検へ。

やおら背後で響き渡る「ユヅちゃんも行く!」という娘の泣き声。

お約束…。


私達が乗った2号車はビュッフェがあり、飲み物等が買える。ビールとおつまみで盛り上がっているテーブルもあり、羨ましい。

息子と記念乗車券にスタンプを押し、展望デッキがある3号車へ。


暗い通路を抜け、ドアを開ける。

途端、車窓の景色が飛び込んでくる。

後方一面が展望デッキになっており、天井から足元まで窓が広がっているのだ。

飛び去っていく線路。

窓を取り囲むようにベンチが設置されているが、中央の一番景色が見える位置に、こども用チェアがあるのが心憎い。

息子としばし景色を眺め、交代で娘を連れていく。

車内にはSLの模型やセピア色の写真が飾られており興味深いが、今回は眺める余裕なし。

こどもがもう少し大きくなってからリベンジしたい。ビールと地元のおつまみ、次こそ、車窓から眺める翡翠色の球磨川。


あっという間に八代駅到着。

ホームで待っていると向かい側に、特急「かわせみやませみ」が現れる。

レトロな青と深緑に塗り分けられた車両。内装も凝った豪華な造りで、こちらもビュッフェや展望デッキがある。いつかゆっくり乗って楽しみたい列車だ。


発車するかわせみやませみに手を振ると、乗客も親しげに手を振ってくれる。

遠ざかる列車に、「気をつけてねー!」と叫ぶ息子。車掌さんも手を振り返す。


こんな時、ちょっと不思議な気持ちになる。2度と会うことのない人達。束の間の人生の交錯。


余韻に浸る間も無く、娘が「オシッコ!」。

ダッシュでホームの階段を上り、トイレへ(*_*)


八代駅から快速で熊本駅へ。

娘は発車後、またも熟睡。こちらも寝れると思いきや、息子から一駅毎に起こされ、駅名を読み上げさせられる。


熊本駅で昼食。駅内の肥後よかモン市場へ。隙あらばこぼしまくる娘と格闘しつつ、馬肉丼を味わう。

昼食後、お土産タイム。阿蘇のソーセージ、馬刺、はちみつジュース。いろいろ心惹かれるものはあるけれど、疲れた娘がぐずりだし早々に切り上げることに。


帰りの新幹線は、つばめ。車内に金箔をあしらった豪華な新幹線だ。

が、到着したつばめには、なぜかミッキーやミニーが描かれている。どうやら限定のディズニーとコラボした新幹線らしい。


発車後、息子と探検。通路の窓や洗面所の鏡にミッキーが隠れていて、楽しい。


「ここはどうかな」と、ドアを開ける息子。


ふと見ると、「乗務員室」の文字 (゜ロ゜;


中から出てきた乗務員さんに平謝り。

ちなみに、乗務員さんのエプロンにもミッキーがかくれんぼしてました。


駆け足な電車の旅だったけど、息子は憧れの電車に乗れて大満足。

帰宅後も電車の図鑑を眺め、DVDを見ては「これに乗ったね」と悦に入り、寝室では「SL人吉の話をして」とねだり…。

「帰るまでが遠足」とか言うけど、息子にとっては、「寝るまでが旅行」な様子。


息子に電車の図鑑を読まされ、少しは電車に詳しくなった。

九州には、ななつ星を始めたくさん観光列車が走っているし、四国のアンパンマン列車も気になる。寝台特急カシオペアにもロマンを感じるし、登山列車も乗ってみたい。こまちとはやぶさの連結って、どんな感じなんだろう?

毎年、息子と地下鉄や新幹線のイベントにも行ってしまう。普段入れない車両基地の中は秘密めいていて、何回行ってもワクワクする。


息子がいなければ、知らなかったこと。

息子を通して、私の世界も広がっていくんだなぁ。


🍀子育てで見つけた幸せ🍀

こどもを通して自分の世界が広がる、幸せ✨
















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