第3話 勇者のおしごと モンスターパニック編 前編

 とあるラジオスタジオの一室、黒いとんがり帽子とマントを羽織った如何にも魔女です、といった格好の少女がマイクの前でしゃべっていた。

「さあ!今回も始まりました!『拡縮の魔法使い』サイズ様の『あなたのお願い、かなえまshow!』。前回はクソ真面目なギルド連中の妨害を受けながらも、町のど真ん中にでっかくした怪獣のソフビ人形を鎮座させるという願いを叶えることに成功しました。さて、今回もリクエストのお葉書が届いています。......ドクロスパイダー!」

 サイズが叫ぶと天井から背中にドクロの意匠が付いた、人ほどの大きさの蜘蛛が下りてくる。

「お嬢様、こちらに。」

 サイズはドクロスパイダーの差し出した箱に手を突っ込むとその中から葉書を一枚を取り出す。

「今回のお便りはこちら!ペンネーム、ロトさんからのリクエストです。『サイズ様こんにちは。私は世に言うB級映画が大好きで、先日の怪獣騒動も楽しませてもらいました。今回は実際に動くモンスターが大暴れする光景がみたいと思っています。ぜひ願いを叶えてもらえないでしょうか?』......とのことです!ふっ、こんなのこのサイズ様にはお茶の子さいさいよ!さっそく願いを叶えてやろうじゃないの!」

 そういうとサイズはとても大きな鎌を創造クリエイトする。

「さあ、サイズ様の『あなたのお願い、かなえまshow!』始まりよ!」


 そのころ、ザンたちの所属する勇者&魔法使いギルド内は疲れ切ったスタッフであふれていた。

 怪獣騒動────『拡縮の魔法使い』サイズが町中に巨大な怪獣のソフビ人形を鎮座させるという犯行予告を出し、ギルドスタッフが厳重な警備を敷いたが、結局すり抜けられ設置を許し、大きなパニックを起こした事件である。ギルド内ではその後始末で大忙しなのであった。

 サンが辺りを見渡して言う。

「さすがに連日事件が続くとみんな疲れちゃってるね。マイクロブラックホール発生装置の夢喰バグ化に幽霊屋敷の夢喰バグ、おまけに先日の怪獣騒動だもん。」

「パーフェクトさんは怪獣騒動の後始末。ハリーは幽霊屋敷の夢喰バグの調査と仕事が山積みだ。俺もこれから怪獣騒動の首謀者、『拡縮の魔法使い』サイズを見つけ出して責任を取らせに出かけにゃならん。」

 ザンは魔導バイクのエンジンをかけながら答える。

「でも怪獣騒動では怪我人とかでなかったし、後回しにして今は休んでもいいんじゃない?」

 サンがザンの体をいたわって言う。しかしザンは笑顔を作って言う。

「そういうわけにはいかない。先の怪獣騒動では、多くの人が本物の怪獣だと思って恐怖の感情が大量に発生した。ああいったものは夢喰バグ悪夢ナイトメアの力の源となってしまう。だから厳しく罰を与えなきゃならん。」

「怪獣騒動はサイズって魔法使いが起こしたんだっけ?ラジオで犯行予告してたって言う。魔法使いなのにどうしてそんなことをするんだろう。」

 ザンがため息をついて答える。

「『魔法使い』は人の願いを叶えるのが仕事、その結果副産物として発生した夢喰バグは『勇者』がなんとかしろってスタンスのヤツもいるんだよ。この夢世界レムリアはどんな願いでも叶う場所(※公序良俗に反するものは除く)を謳っているからな。じっさい怪獣騒動では怪獣が出たって喜んでるヤツもいたし、今じゃ鎮座した一角は観光名所になりそうな勢いで人が集まってる。それもあってあいつの活動の大義名分になっているんだ。」

「だがな。」

 ザンが険しい顔で言う。

「あの騒動で恐怖におびえた人々がいるのも事実だ。ギルドの管理下にない中で、願いを叶えるために他の人々の気持ちを踏むにじるようなマネは、俺にはとうてい容認できない。それに聞くところまた犯行予告をだしているそうだからな。そんな行いは止めなきゃならん。」

 そういってザンは魔導バイクに乗りこむ。

「それに......新しい魔導バイクの乗り心地も試したかったところでな!」

 そしてザンは全速力で走り去っていった。


 勇者&魔法使いギルドには数名のスタッフとサンだけが残っていた。やることのないサンは応接間のソファの寝転がってぐだーっとしている。するとギルドに一人の男が入ってきた。ボロボロのローブをかぶり、髪はボサボサ、獣のようなにおいが立ち込めている。

「助けてもらいたいことがあってきたのですが......今よろしいでしょうか。」


 サンと男はソファで向かい合って話している。サンはザンからできそうな依頼だったら受けてよし、その後自分に連絡せよとの指示が出ていた。

「私......『飼育の魔法使い』のブリードと申します......頼みというのはほかでもありません......逃げ出してしまった私のペットたちを探してもらいたいのです......」

「ペット探し?それなら僕にもできそう!」

 サンが余裕綽々としていると見かねたスタッフが会話に入ってくる。

「ブリードさん。逃げ出したペットはどのような?また逃げ出した状況は?」

 ブリードは仏頂面のまま答える。

「逃げ出したのは猫......インコ......それとコモドドラゴンです......」

「コモドドラゴン!?」

「朝起きたらケージが壊されていまして......どうにも誰かがペットを逃がしたようなのです......そうそう壊れないアダマンタイト合金製のケージだったのですが......」

「壊した人がペットを連れ去ったってこと?」

 サンの質問にブリードは黙ってうなずく。

「実はペットたちがどこに行ったのかだいたいの見当はついているのです......しかしペットを奪った犯人と出くわすと争いになると思って勇者の方に応援を頼みに来たのですが......」

 ブリードはサンのほうをちらりと見ると困った顔をして言う。

「今日はどうやら都合が悪いようで......」

 しかしサンは胸を張っていう。

「ご安心ください!こう見えて二回も夢喰バグがかかわる問題の解決に協力したスペシャリストなんです!」

 ブリードは感心しつつ言う。

「それはすごい......私もなるべく早くあの子たちを助けてあげたい気持ちがありまして......ご協力感謝します。」

 サンは意気揚々と立ち上がって言う。

「さあ!ペット探しに出発だ!」



「うぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎ~~~~~~~~~」

 森の近く、十数メートルはあろうかという大きな女性が白い糸のようなものに体を縛られて唸っていた。その近くでザンが魔導バイクから降りて遠巻きに見あげている。

「お前......『大槌の勇者』トールじゃないか。何してるんだ?」

「見ればわかるでしょーーー!?し・ば・ら・れ・て・る・のー!」

 大きな体に見合ったとても大きな声でトールは答える。

 ザンは耳を塞ぎながら言う。

「それにしてもお前いつもとだいぶサイズが違うな......さてはの仕業か。」

「そーなの!あの子にこんな大きさにされちゃってさー!そのあと、ドクロのマークのついた蜘蛛の糸でぐるぐるに縛られちゃったのー!ねぇ、『斬撃の勇者』なら斬ったりとかして助けてよー!」

 大気を震わす大声に耐えながらザンは魔剣を創造クリエイトして構える。

「やれやれ、──夢幻解放 『斬縛』」

 ザンの放った斬撃はトールの体を傷つけることなく糸だけを斬った。自由の身となったトールは飛んだり跳ねたりして歓喜している。大地の揺れに体勢を崩しながらザンは何かを察してトールを制止しようとする。

「トール、お前声を抑えて「あ!り!が!と!ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 耳をつんざく轟音にザンは数分間気絶してしまった。


 深い森の中をサンとブリードは歩いている。歩きながらサンは携帯電話のコールを鳴らし続けていた。

「おや......誰かに連絡ですか......?」

「ザン兄ちゃんにペット探しに行くことになったって連絡しようとしてるんだけど、電話にでんわ。」

「報連相は......大事ですね......」

 ブリードはスルーする。

「そういえばどうやって迷子の子の場所を掴んだの?」

 サンの疑問を投げかけるとブリードはフードを脱ぐ。そして不思議な形のイヤリングが露わになった。

「これが私の杖です......このイヤリングで心を通わせ、生き物たちの話を聞いて場所が分かったのです......」

 サンは目を輝かせて言う。

「動物たちと話せるの!?すごい!どうやって!?」

「私の場合はイデア共有型というやり方で会話しています。前回の話でも話題に出てたでしょう?」

「僕その話題のときはいなかったんだよね。」

「あ......そうですか......」

 ブリードが足を止めて説明する。

「まずイデアというものを説明しましょう......空は『青い』とか、炎は『熱い』とか、お饅頭は『丸い』といったような......誰とでも、どんな生き物でも共通する。物の捉え方があるんです......」

「えー?夕方の空は赤いし、お饅頭の丸もちょっと歪んでるよー?」

「まあ現実としてはその状態のときもあります......しかし人々が空と聞いて思い浮かべるのはまず『青』ですし、心の中なら真円のように『丸い』お饅頭が作れます......そういった心の中に思い描くものを共有するのがイデア共有型なのです......ようは言葉でなく心を通わせて話しているのですよ......」

「じゃあ僕が動物とお話しできるわけじゃないのかー、残念。」

 サンはうなだれながらまた歩き始める。

「話したい生き物がいるなら私が翻訳しますよ......む、森の生き物たちの声によるとこの先に迷子になったペットがいるそうです......進みましょう......」

 そうして二人が草木をかき分けていく。すると──

 顔だけでブリードの背丈ほどの大きさの猫がいた。


 森の奥、小屋の中でサイズはイスに座りながら優雅に紅茶を飲んでいた。すると不意に持っていた糸電話から声が響く。声の主はドクロスパイダーであった。

「サイズ様、ギルドの連中がこの森に向かってきているようです。」

 それを聞いたサイズは不敵に笑いながら言う。

「いいわ、モンスターの恐ろしさを示すには『やられ役』が必要だもの。楽しいshowの礎にしてあげるわ。」


 森の中、サンとブリードは息を殺して茂みに隠れていた。さっきまで巨大化した猫に追い掛け回されていたのである。二人は小声で会話を始める。

「間違いありません......あれは私の猫です......」

「それならなんで襲ってきたのさ!」

「本人はじゃれてるつもりなのです......しかしあの大きさだと......もはやじゃれあいでは済まなくなりますね......」

「何かないの?大人しくさせる方法。」

 サンの質問にブリードは答える。

「いつもつけていた鈴付きの首輪をつけてあげれば大人しくなると思います......」

「それ誰が付けるのって話になるんじゃ......そうだ!」

 サンが何かをひらめく。

「ここは森の中、それをうまく利用しよう!」


 意を決したサンは猫の前に飛び出すと、大声で叫ぶ。

「猫よりー!犬のほうがー!かわいいんだぞー!」

 言葉は通じていないはずだが、何やら猫は苛立ちを覚えたようだ。サンに向かって真っすぐに襲い掛かってくる。それを見たサンはある地点に向かって全力で逃げこんだ。それは木と木の間の隙間であった。

「うにゃ!?」

 噛みつかれる寸前、猫の顔が自然のトラップに引っかかる。

「よし!成功!」

 が、サンが喜んだのもつかの間、少しつっかかっただけでするりと体まで隙間に入ってきた。

「ええー!?猫ってそんな狭いところも通れるのー!?」

 またもや危機一髪、といった直前、ブリードがスキルを発動させる。

「一瞬のスキがあれば十分です......──夢幻創造 『ハートキャプチャー』!」

 そして大きな鈴付き首輪が創造クリエイトされ猫の首に巻きつく。

「さらに一押し......!──夢幻創造 『マタタビボンバー』!」

 辺りにマタタビのにおいが広がり、でろでろになった猫は寝ころんで大人しくなった。

「これでまず一匹目発見だね!」

 サンは笑顔をブリードに向けて言う。

「ええ......あとインコとコモドドラゴンも早く見つかるといいのですが......」

「この猫が大きくなってたのはサイズの仕業なのかな?また変なこと企んでいるそうだし。」

「もしそうだとしたらほかの二匹も大きくさせられている可能性がありますね......」

 言い終えた瞬間、巨大な影が二人を覆う。

「──インコちゃん!?」

 そして二人を足で掴むと大空高く舞い上がってしまった。



 一方そのころ、目が覚めたザンはトールから何があったのかを聞いていた。

「私もギルドの要請でサイズさんを追っていたんです。すると森に近づいたとたん不意打ちをくらってしまって。」

 トールは面目ないといった様子で言う。ザンは首に手を当てて考える。

「あからさまに森が拠点ですって言ってるようなもんだな。まあ俺も放送の発信源を追ってきたからヤツとしては隠すつもりもないということかもしれん。」

 トールはハンマーを創造クリエイトして言う。

「罠だとしても、行かない理由はありませんね!」

 そして二人は森の中へ歩みを進めた。


 上空、二人はインコに捕まっていた。最初は暴れて抜け出そうとしたがこの高さから落ちたらひとたまりもないと気づいて大人しくしていた。

「なんで急にこのインコは現れたの?探す手間は省けたけどさ。」

「私のペットにはすべて鈴付きのアイテムをつけていたんです......鈴の音を聞いて私が近くに来ていると分かったのでしょう......」

「捕まってるのはなんで?」

「いつも餌をあげるとき私の肩に乗せてあげていたので......本人としては肩に捕まっている認識なんだと......」

「ゴハンダヨー!ゴハンダヨー!」

 二人を掴んだインコはいつもブリードが言っているであろうセリフをリピートしている。大きな体に見合った大きな声を出しているので二人としてはとても耳が痛い状況なのである。

 その大きな声に、またもやサンが何かを思いついあt。

「ブリードさん、このインコっていつもブリードさんが喋っていることを言ってるの?」

「ええ......インコは求愛のために相手の喋りをマネするんです......つまりは私のことが好きってことで......照れますね......」

「ブリードさん、『助けてー』って言ってみて?」

 ブリードは困惑して言う。

「え?しかし私のような声の小さい人間が言っても誰にも届きませんよ......」

「いいからいいから、お願い!」

「それでは......コホン......助けてー助けてー。」

 すると

「タスケテー!!!!タスケテー!!!!」

 ブリードの声を聞き、インコが大きな声で鳴き始めた。二人は大きな鳴き声に気を失わんばかりだ。

「やっぱり!これなら助けを呼べるよ!」

「うう......その前に私たちが気を失わなきゃいいですが......」


 突然、大地が揺れた。それは上空の二人にも分かるほどであった。揺れは次第に大きくなっていき地響きが伝わってくる。そして彼方に全速力でこちらに向かってくる巨人の姿が見て取れた。

「大丈夫ですかあああああああああああああああ!!!!!!!!???????今助けまああああああああああああああああす!!!!!!!!!!!」

 それは『大槌の勇者』トールであった。

 インコの真下に着くとそこから垂直にジャンプしてインコをキャッチする。着地すると辺りに土煙が舞った。そして掴んだインコに喋りかける。

「インコさん!大丈夫ですか!?怪我とかはしてませんか!?」

 大騒ぎするトールをなだめるように、肩につかまっていたザンが言う。

「......たぶん助けを求めてたのはその二人だな。」

 インコの声には耐えられていた二人もトールの大声には泡を吹いて気を失っていた。


 起きた二人とトールとザンは自分たちの持つ情報を共有していた。インコの足首にはブリードが創造クリエイトした鈴が付いている。もう大人しくなったようだ。

「つまり俺たちが追っていたサイズはペット誘拐犯の犯人でもあったってわけか。しして猫とインコを巨大化させていた。......残るはコモドドラゴンというわけか。」

 ブリードは頷いて答える。

「森の生き物たちの声によると向こうで大きな爬虫類をみたそうです。」

 ブリードが指さしたほうを見てトールは驚く。

「そっちは放送の発信源とおなじ方向!」

 サンも息をのんで言う。

「つまり......そこにサイズもいるってことだね。」


「そうよ。その通り......だったわ。」

 不意に四人の後ろから声がする。バカでかい鎌、黒いとんがり帽子とマント、その少女こそ『拡縮の魔法使い』サイズその人であった。片手に糸電話を持っている。

「待ちきれなくてこっちから出てきちゃったわ。こっちはもう準備万端だってのに、あなたたち遅いんだもの。」

 ブリードが珍しく声を荒げて言った。

「あなたですか!動物たちを巨大化させたのは!」

 サイズは不敵な笑みを保ったまま答える。

「あら、勇者だけでなく魔法使いも私を捕まえにきたの?ええそうよ。まあ猫とインコはあくまで準備運動みたいなもんだけどね。本番はここから。」

「本番......おいまさか!」

 ザンは悪い予感が当たったといった顔になる。

「ええ、そのま・さ・か・よ。怪獣といったらやっぱり爬虫類でしょう?」

 そして手に持った糸電話に向かって叫んだ。

「ドクロスパイダー!スーパーコモドドラゴンを放ちなさい!」

 どこかでスルスルと糸のほどける音が聞こえる。すると直後、森中に大きな叫び声が響き渡る。木々がなぎ倒され、山のような巨体を露わになる。その大きさは猫やインコの比ではない。超巨大になったコモドドラゴンが二本足で立ち上がっていた。それはまさに怪獣と呼ぶにふさわしい存在であった。

 サイズは高笑いしながら言う。

「さあ!存分に暴れなさい!壊しなさい!ぶちかましなさい!」

 コモドドラゴンはまず目に着いたトールに向かって突っ込んでいく。

「きゃー!こっち来た!」

 そしてトールにかぎ爪の攻撃を仕掛けた。トールはかぎ爪をハンマーの柄で防ぐ。

 ブリードが慌てて叫んだ。

「気を付けて......!コモドドラゴンは猛毒と恐ろしいバクテリアを持っています......!かまれたらひとたまりもありません......!」

「なにそれ!?なんでそんな恐ろしい生き物飼ってたの!?ていうかなだめたりとかできないのー!?」

「だめです......!巨大化した体に動揺して我を忘れているようです......!」

 コモドドラゴンが大きなアゴを開いた瞬間、トールは後方に飛んで避ける。しかし、着地の瞬間、コモドドラゴンが尻尾を大きくスイングさせて足に当てトールの体勢を崩す。その結果トールは尻餅をついてしまった。その瞬間を狙い、コモドドラゴンが覆いかぶさるようにしてトールを襲う。

「大変だよ!このままじゃトールさんが!」

 サンがあわてふためきながら言う。しかしザンはあくまで冷静だ。

「うーんさすがトールだな。ときどきポンコツな部分があるが伊達に勇者やってるわけじゃないってところか。」

「え?どゆこと?」

 サンはポカンとして尋ねる。

「まあ慎重を期して手助けしておこうか。サン、例の輝く剣を出してくれ。」

 サンはそれに応じて、「ぬ~ん」と唸ったあとナイフほどの輝く剣を創造クリエイトした。

「まだコツがつかめなくて短剣サイズのしか出せないよ。こんな量じゃきっと『真・夢幻解放』はつかえないと思う。」

「いいや、これで十分......さ!」

 ザンは受け取った短剣をトールに──ではなく、はるか遠くのの空まで投げ飛ばした。

「ザン兄ちゃん!?なにやってんの!?ここにきてコントロール下手くそキャラなんて確立しなくてもいいから!」

 コモドドラゴンが押し倒したトールに向かって大あごを開けて喰らいかかる。のど元に噛みつこうとした瞬間。

 ──逆にトールがコモドドラゴンの首を絞めて仰向けのまま抑え込んでいた。

「いやーさすがザンだねぇ、私の意図をすぐに分かってくれて。おかげで抑え込むよ。」

 コモドドラゴンはもがいて抜け出そうとするがトールにがっしりとホールドされている。

「ちょっとスーパーコモドドラゴン!何をやってるのよ!こうなったらもっと大きく......!?」

 サイズが上空の物体をみて驚く。巨大な何かが落ちてきていた。

 それは倒れる寸前トールが上に放り投げたハンマーであった。さらにサンの創造クリエイトした短剣がしっかりと突き刺さっている。

 サイズが信じられないといった様子で叫ぶ。

「体勢を崩した瞬間に投げてたの!?しかもなんか光ってるし!」

 トールはドヤ顔を作って言う。

「この技は夢幻力をたくさん使うんだけど、みんなの協力のおかげで何とかなったよ。この子に手加減する余力も残せた。」

 そういうとハンマーがおもちゃのピコピコハンマーに変化する。

「ダメージはなし!技の効果だけ受けてもらう!──夢幻解放 『脳天インパクト』!」

 落ちてきたハンマーがコモドドラゴンの頭に直撃し、辺りに間の抜けた効果音が響いた。


 コモドドラゴンは頭にヒヨコを浮かべながら気絶している。トールが立ち上がって自慢げに言った。

「私の『脳天インパクト』は頭に当たればどんな石頭でも気絶させられる......!まあまともにあたったのは数えるくらいしかないんだけどね。」

 ブリードはコモドドラゴンの小指に鈴付きリングをつけてからむせび泣いている。

「おお......!これで私の大切な家族が全員戻ってきました......!皆さんありがとうございます......!」

 だが、サンとザンの二人は険しい顔でサイズをじっと睨んでいた。

 サイズも苦虫を嚙み潰したような表情でこちらをにらんでいる。

「まさか私の最高傑作が負けるなんてね......怪獣は人に敗れるのがお約束ってことかしら......?」

 サンは短剣をサイズに向けて言う。

「悪だくみもここまでだよ!サイズさん!」

 ザンも魔剣を構えて言う。

「年貢の納め時ってやつだぜ。確定申告は済ませたか?お前はギルドの管轄にないからきちんとできてるか心配だよ。」

 サイズは一笑に付して言う。

「ご心配なく、私には経理までいろいろやってくれる優秀な部下がいるの。それに、私の『あなたのお願い、かなえまshow!』はまだまだエンディングにはほど遠いんだから!」

 辺りを夢幻力の渦が包む。『勇者』と『魔法使い』の戦い。これまでにない緊張感が周囲の空気を凍てつかせた。サイズが叫ぶ。

「──さあクライマックス、モンスターパニック編 後編の始まりよ!」





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夢見る世界の勇者サン! ~あなたのお願い、かなえます~ ヒトデマン @Gazermen

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