第2話 勇者のおしごと ホラーハウス編

 前回のあらすじ

 サン、勇者見習い未満となる。

「ちょっと!その名前で呼ばないで!」

 そんなこんなでサンの勇者への冒険が始まったのだった。



 古びた洋館の前にサン、ザン、パーフェクトとハリーの四人が立っていた。

「ここが報告にあった場所か。」

 ザンが扉の前でつぶやく。

「ここに何があるの?」

「なんでも夢喰バグの反応が確認されたそうです。定期調査に行った勇者の人とも連絡が取れなくって、急遽私たちが派遣されたんですよ。」

 パーフェクトがサンの疑問に答える。

「なるほど......あともう一つ、なんでハリーさんもいるの?」

 サンが隣のハリーを横目に言った。

「いやまあその、ギルドの皆さんに協力するって条件でこの前の罪が免除されたんっス。いわゆる司法取引ってやつっスか。」

「シュバルツの夢喰バグ化したコアを解析するときにこいつの知識がかなり役立ったからな。まあ反省してるみたいだし俺たちの監視のもと手を貸してもらうことにしたんだ。」

 ハリーは照れ臭そうにしながら答える。

「へへっへ、まあしばらくブラックホール研究はお預けっスけどね。そうだ!皆さんのお役に立てるよう!今日はこんなものを持ってきたんっス!」

 そういうとハリーは背中のハリのどこかから小型の機械を取り出す。

「夢幻力測定器というものっス。ありていに言ったら夢幻力を通じて勇者や魔法使いの皆さんのステータスを測るものと捉えてもらっていいっス。」

「へえ、おもしろそうじゃないか、どれどれ。」

 ザンが機械に手をかざすとステータス画面が浮かび上がった。


 ザン・キルソード 年齢24 男 『斬撃の勇者』

 戦闘力A 判断力A 夢幻力C 創造力B 精神力A 

 甲斐性B オシャレ度C 好き嫌いE 家事D 優しさA

 総合判定A

 スキル 『斬鉄』『斬鎧』『斬り流し』


「おいなんか余計なステータスが多くないか?」

「ザン兄ちゃん好き嫌い多いの?そういやこの前のパーティでも野菜とか食べてなかったね。」

「掃除とかもできないんですよねザンさん、机の上とか散らかりっぱなしだし。」

 ザンは苦い表情になりながら装置をパーフェクトに渡す。

「くそっ書かなくていい情報まで表示しやがって......さあ、次はパーフェクトさんもだぞ......」

 同じようにステータスが浮かび上がる


 メイド・パーフェクト 年齢17 女 『奉仕の魔法使い』

 戦闘力C 判断力A 夢幻力B 創造力A 精神力B

 オシャレA 家事A 甘いもの好きA 肌のうるおいA 上品A 

 優しさA 瀟洒A おちゃめA 美しさA いいにおいA

 総合判定B

 スキル 『高速洗浄』『ディッシュブーメラン』『家具創造』


「おおー!すごい!さすがパーフェクトさん!」

「Aランクがいっぱい、すごいっス!」

 パーフェクトは照れながら「いえいえ、そんな。」と謙遜している。

「ずるくない?」


「つきぼくー!」

 サンは意気揚々と機械に手をかざす。しかしなかなかステータスが表示されない。

「故障?」

「いや、異常は見受けられないっスが......」

 しばらくしたのちステータスが表示された。


 サン・ライトメア 年齢10歳 男 『勇者見習い未満』

 戦闘技能F 判断力F 夢幻力#NUM! 創造力F 精神力F

 わがままA 好き嫌いE 優しさA 怖いものを見ると夜眠れなくなるA

 総合判定F

 スキル なし!


「......ふん!」

 サンは勢いよく機械を空に放り投げる。するとザンはその意図を瞬時に理解し、

「──夢幻解放 『斬鉄』」

 一刀のもとに夢幻力測定器は真っ二つになった。

「ああ!ちょっと!なにするんスか!」

「ごめんねハリーさん......でもこんな悲しみしか生まない機械は無くなったほうがいいんだ。」

「真実は時として人を傷つける。こうするしかなかったんだ。」

 パーフェクトは好き嫌いEランクサンザンコンビを呆れた様子で眺めていた。



 ──突然、洋館の門が勢いよく開かれた。

「うわぁ!なに!?」

 サンがザンの後ろに隠れる。

「遊びすぎたようだな......さっさと入れということらしい。」

 4人は館の中をのぞき込む、館の中は暗闇が広がっていた。

「固まって移動しましょうか、サンさんも魔剣を準備しておいてください。」

 パーフェクトがサンに促す。しかしサンはきょとんとした顔で言う。

「え?魔剣?なにそれ?」

「一話でブレクと戦った時に出したやつだよ。夢幻力を練って勇者は魔剣を、魔法使いは杖を創造クリエイトするんだ。」

 そういってザンとパーフェクトはそれぞれ魔剣と杖(モップ)を見せる。

「どうやって?二人はどういう風に創造クリエイトしてるの?」

 ザンとパーフェクトはそんなこと意識したこともなかったといった顔をしてから言った。

「ええと魔剣はだな、『斬る』ことにかけてはだれにもまけん!って感じでだな。」

「ダジャレなの?」

「ええと杖はですね、『奉仕』の道では私が一番つえぇ!って感じでですね。」

「ダジャレなの!?」

 そうこう言い合っていると、館の奥からみえないが出てきて4人を掴み、館の中に引きずりこむ。

「な!?これは心霊アストラル体の手っスか!?」

「触れられない!ふりほどけないよー!」

「遊びすぎた!」

 暗闇の中に連れ去ったあと館の門は固く閉ざされてしまった。



「──夢幻解放 『斬壁』!」

 ザンが館の壁に剣技をふるうが傷一つつかない。

「これ以上は夢幻力の無駄遣いか。」

 ザンは真っ暗闇の通路を見渡す。持ってきた懐中電灯で照らしているが心もとない灯りだ。近くではハリーが怪しげな機械をいじくりまわしている。

「サンさんやパーフェクトさんとはぐれちゃったっスね。電波が乱れてて電話も通じないし、しかし心霊現象に遭遇するとは、科学者として解明したくてワクワクするっスよ。この館、電気は通ってるはずなのに電球がつかず真っ暗なのはどこかに吸われてるんっスかね?オカルトっス~。」

「電気が通ってる?それなのに明かりがついていないのか......そのことと夢喰バグはなにか関係がありそうだ。奥に進みつつ調査と二人の合流をめざすぞ。」



「パーフェクトさん!?いる?いるよね!?」

「はいはい私はここですよ。」

 サンはパーフェクトのスカートの裾を掴んで後ろを歩いている。パーフェクトは創造クリエイトしたランタンで廊下を照らしつつ調査を進めていた。

「くらいよこわいよくらいよこわいよくらいよこわいよくらいよこわいよくらいよこわいよ。」

 サンは今にも泣きだしそうだ。

「おかしいですね。私たち同じところを歩いているように感じます。」

 一方パーフェクトは冷静に当たりの様子を分析していた。

「どういうこと!?心霊現象!?」

「そうと決まったわけではないですが。見てください。私たちが進もうとする先に、既に私たちの足跡が付いています。空間が歪められている、夢喰バグの仕業でしょうか?いえ、夢喰バグならもっとわたしたちに直接攻撃するやりかたで──」


「──あなたたち、迷っちゃったの?」

 不意に二人の後ろから声がする。二人が振り向くとそこには

 ──目元の隠れた白装束の少女が立っていた。ニタニタと気味の悪い笑みを浮かべている。パーフェクトは息をのんで尋ねる。

「──あなたはいったいなにも「幽霊チェエエエエエエッック!」

 いきなりサンが飛び出してランタンを少女の足元にかざす。

「よし!!!!透けてない!!!足ある!!幽霊じゃない!!!大丈夫!!!!」

 安堵するサンだったがパーフェクトがたしなめるように言う。

「サンさん、よく見てください。足のない幽霊というのはですね。江戸時代に丸山応挙という人が描いた幽霊絵画から広まったものなんです。それ以前には足のある幽霊も描かれていて、つまり足がある=幽霊じゃない、ではないんです。」

「へー、パーフェクトさんは物知りだねぇ。ん......?」

 サンはもう一度足元を眺める。たしかに足はあった、が、しかしそこには──影がなかった。

「えっ。」

 気づいた瞬間少女は姿を消していた。辺りを見渡す間もなく、後ろから声が聞こえた。

「──うらめしや」



「表は蕎麦屋なんだぜぇ。この洋館はよぉ。」

「へー、和洋折衷なんっスねぇこの屋敷、オイラたちは裏口から入ってきたってわけっスか。」

「なぜ洋館で蕎麦屋を?」

 ザンとハリーの二人は、と談笑していた。話は少し前に遡る。



「ザンさん!こっちから夢喰バグの反応が確認されたっス!」

 ザンとハリーの二人は反応のあった方向へ全速力で駆けつける。するとそこには戦闘の跡と焦げ臭いにおい、そして姿が立っていた。

「あ、あいつが夢喰バグっスか!?正気度が削れそうっス!」

「いや、夢喰バグの気配はしない、となると何者だ......?」

 大男もこちらに気づいて向きなおる。

「NND?OMERITTIDRD!」

 すると大男が聞きなれない言葉で話しかけてきた。言葉は通じないが、こちらを警戒しているのは明らかだった。ザンは大男に向かって言う。

「落ち着け!俺たちはギルドのものだ!この館の夢喰バグを退治しにきたんだ!」

「ATTIHIK!KTTHABNEZ!ORH夢喰バグWTIJSNKTND!」

夢喰バグ!?あいつ今、夢喰バグって言わなかったか!?おいハリー!おまえ宇宙人と話せる機械とか持ってないのか?」

 ハリーは困ったように言う。

「人を便利屋みたいに言わないでくださいっス!......まあ持ってまスけど。」

「あるのかよ!」


 そして今に至る。蛸頭の大男は落ち着くと自己紹介を始めた。

「俺様は『星人ほしびとの勇者』リトルリトルってんだ。でけえ図体なのにリトルってな!ガハハ!しかしイデア共有型翻訳機って未開の地球人にしちゃたいしたもん持ってるじゃねぇか。高かったから俺は買わなかったのによぉ。」

「この人──宇宙人、ナチュラルに失礼なこと言ってるっスね。それはオイラの自作っスよ。あとこの星で一番賢い生物は我々ハツカネズミっスから。裸の人類サルなんかと一緒にしないでくださいっス。」

「お前もたいがい失礼だぞ......ていうかお前ハリネズミじゃなかったのかよ。」

 ザンはさっさと二人の談笑を打ち切らせると本題に入る。

「俺たちもこの洋館を調査しに来た勇者なんだ。お前がさっき戦っていたのはなんだ?夢喰バグか?」

「たぶんそうだ。真っ暗でどんな姿かはわからなかったがな。少し手痛い一撃を受けちまったが、途中で館の空間が歪んで助かったのさ。」

「どんな戦い方を?」

 ザンの質問に腰のバズーカ砲を見せて答える。

「遠くにいたから『排怒羅砲ハイドラキャノン』をやたらめったら撃ちまくってたのさぁ。だが手ごたえはなかったな。近くにいたならこの拳で『打撃痛恨ダゴン』をぶちかましてやったんだがな。」

 どうやらバズーカ砲が魔剣のようだ。ほかにも魔拳も持っているらしい。

「手痛い一撃ってなんスか?」

 続けざまにハリーも尋ねた。

「なんか目の前がいきなり光ると体が鋭い痛みとともに動かなくなっちまってよぉ。もう終わりって思ったが急に空間移動がおこって助かったんだ。ちょくちょく部屋割りが変化するのは夢喰バグとは別のやつの仕業らしい。」

 ハリーがそれを聞いて考えこむ。

「この館の電気が吸われていて、リトルリトルさんが受けた一撃......そういえば物理的に触れられない心霊アストラル体でも高電圧は通じたような......」

 ザンも何かを察する。

「サンとパーフェクトさんとの合流を急ごう......手遅れになる前に。」




「あーっはっはっはっは!あはははは!あはははは!」

 幽霊の少女はお腹を抱えて床をたたきながら大笑いしていた。サンは泡を吹いて倒れたので近くの部屋のベッドに寝かされている。パーフェクトが傍らで介抱をしていた。

「まったく......悪ふざけもたいがいにしておいてほしいですね。」

「いやーごめんごめん、あんまりにもいいリアクションしてくれたからさ、つい。」

 反省の色なしといった様子だ。しばらくしてサンが目を覚ますと少女は自己紹介を始めた。

「私は『心霊の魔法使い』ポルターさ。この館の主。心霊現象ならたいていの事象は起こせる。以前は肝試しにきた人を驚かせる仕事をしてたんだけど、夢喰バグが発生してからは人を入れないようにしてる。」

「私たちはその夢喰バグを退治しに来たんです。詳細を聞かせてくれませんか?」

 しかしポルターはパーフェクトの要請をきっぱりと断って言う。

「いや結構、どうやらスペクターハンド君が君たちをこの館に招き入れたそうだけど、はっきり言ってあの夢喰バグは君たちの手に負える存在じゃないんだ。」

「......そう言い切れる根拠は?」

 珍しくパーフェクトが不機嫌を露わにして尋ねる。

「あの夢喰バグ心霊アストラル体でできてる。物理的な攻撃が通じないんだ。それだけじゃない、この館の電気を吸い取ってるのはあいつなんだ。どういうことかわかる?あいつは心霊アストラル体でありながら高電圧に耐性を持ち、さらに電気で私たち心霊アストラル体に攻撃することもできる。心霊アストラル体どうしなら干渉しあえるけどああやってビリビリしてたら私たちは近づけない。」

「それじゃあ無敵じゃん!」

 サンが口を開く。

「そ、無敵なんだ。でも大丈夫。私が能力で空間を歪めてこの館から出られないようにしてるんだからね。定期的にやつの居る部屋をワープさせてるんだ。だから放っておいても問題ないってこと。さ、さっさとお帰り。」

 ポルターは出口はあそこのジェスチャーをする。しかしサンはポルターをまっすぐ見て言う。

「でもこのままじゃこの館に誰も訪れられないよ?もう人を驚かせられなくてもいいの?」

 ポルターは少し間を置いて言う。

「いいのさ、私の楽しみよりみんなの安全だ。それに館にはほかにたくさん幽霊仲間がいるから寂しくないよ。」

「......でも。」


 サンが何か言いかけたところで部屋の扉が勢いよく開かれる。そこにはザンとハリー、リトルリトルの三人が立っていた。

「サンたち!無事だっ「「ぎゃああああああああああああああ!!!!!!!!!!宇宙人------!!!!!!!!!!!!!」」

 サンとポルターはリトルリトルの姿を一目見るなり悲鳴を上げる。

「──夢幻創造! 『心霊騒動ポルターガイスト』!」

 ポルターがスキルを発動させると部屋中の家具や道具、小物が勢いよくリトルリトルたちに向かって飛んで行った。

「ちょ!やめ!」

 そのうち漁船の模型がリトルリトルにクリティカルヒットし、リトルリトルは倒れ込む。

「自身も幽霊なのに宇宙人が苦手なんですね......」

 パーフェクトがあきれ顔で言う。しかしポルターはすでにどこかへ飛んで行ってしまった後だった。


 数秒とたたないうちにリトルリトルは飛び上がって目を覚ました。

「いててて......一体何なんだぁ?」

「実はかくかくしかじかで」

 サンはポルターとの話をザンたちと共有した。

「その魔法使いが空間を歪ませていたのか。おい今そいつはどこにいる?」

 ハリーはまた怪しげな機械をいじる。しばらくすると警告音のような音が鳴り始めた。

「......まずいことになってるっス。今、ポルターさんの近くに......夢喰バグがいまス。」



「ふー、やれやれ、まさか幽霊の私が驚かされるなんてね。」

 ポルターは大広間にでていた。辺りは広い空間が広がっている。

「あの宇宙人さんには悪いことしちゃったな後で謝りに......いけるかなぁ?」

 気配を察知したポルターは覚悟を決めた顔をして振り返る。

「ねえ、夢喰バグも怖がることってあるのかな?」

 そこには暗闇、否、雲のような不定形の夢喰バグが広がっていた。

(『湾曲空間トリックルーム』は私が同じ部屋にいたら意味がない......ここは!)

「──夢幻創造 『黄金かな縛り』!」

 無数の手が闇の中に突っ込んでいき夢喰バグにつかみかかる。手ごたえは感じた。夢喰バグの動きは抑えられているようだ。しかし、突如まばゆい光が生じる。──それは高電圧の稲妻であった。

(こいつ!動きを止めても能力の発動自体は抑えられないのか!)

 稲妻がポルターめがけて飛んで行く。そしてポルターの心霊アストラル体を破壊しようとする寸前。

「ぐわぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

 リトルリトルが間に入って身を挺してポルターをかばっていた。

「リ、リトルリトルさん!大丈夫っスか!?」

 身を案じるハリー、しかし案外リトルリトルはケロッとしていた。よく見ると辺りに水のようなものが飛び散っていた。

「体を覆う体液で電気を逃がしたのさぁ。ちょっと痛いがな。」

「え?ちょっと気持ち悪い。」

 ポルターが一歩後ずさる。

「助けてやったのになんて口のききかただぁ!ともかくてめぇ!一人で行ったら危ねぇだろうが!何してやがる!」

「いや、逃げ出した先で偶然出くわしてね。しかし近くに来るまで全然気づかなかったよ。この夢喰バグも成長してるってことか。」

 一息ついた後リトルリトルに向かって言う。

「......ありがとうね。それとさっきはごめんねぶつけて。」

「へっ、感謝の言葉だけでいいってぇの。って、気持ち悪いって言ったことの謝罪はなしかよ。」

 リトルリトルは守るように前にでる。

「なぁに、助けられたのはお互い様だしなぁ!......おいてめえら!ポルターは無事だ!」

 夢喰バグを挟んだ反対側ではパーフェクトが杖(モップ)を構えて夢喰バグに向けている。そしてそのそばにザンが立っていた。

「パーフェクトさん、俺の夢幻力も使ってくれ。俺のスキルはあの心霊アストラル体の夢喰バグには全く役に立たん。」

「ありがとうございます。──夢幻創造 『道具創造・家電』」

 瞬間、パーフェクトの手によって杖(モップ)が巨大な掃除機に変換される。

「対・心霊アストラル体への調整完了。吸い込みます!」

 すると掃除機の先に向かって夢喰バグが吸い込まれる。さながら竜巻のようだ。

「────!!!!!!!」

 夢喰バグが声にならない音をあげながら吸い込まれていく、数秒もするとすべて飲み込まれてしまった。

「お掃除完了です。袋は絶縁体ですから電気も通しませんよ。」

 掃除機はパンパンに膨れ上がっている。

「いやあ奇怪な夢喰バグでしたっすねぇ。名づけるならそう、『闇雲』ってとこっスかね。」

「さて、こいつはどう処理するか。」

 ザンが首に手を当てて考えているとリトルリトルが声をかける。

「俺様が宇宙まで持って行って太陽に捨ててやろうかぁ?いま上空に宇宙船を待機させてる。」

「あ、その前にちょっとこのバグを調べさせてほしいっス。」

 そういってハリーが掃除機に駆け寄って操作し始めた。

「サンプル獲得と......ん?」

 ──突如、ハリーの持っている怪しい機械が異常な値を示す。

「────!!みなさん離れて!」

 そして、掃除機が大爆発を起こす。辺りに黒煙が立ち込めた。

「おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい、うそだろ?」

 ザンが吐き捨てるように言う。

「な!なにが起きたの!?」

 サンが持っていた懐中電灯を掃除機があったほうへ向ける。するとそこには

 ──獣のような姿に変化した闇雲が立っていた。

「な!?電気の力で自分の体を形作って掃除機を壊したっての!?そんなのあり!?」

 ポルターが驚嘆の声をあげる。

 突然、闇雲が明かりを向けるサンに向かって前足の攻撃を繰り出した。

「サン!逃げろ!!」

 ザンの声に驚いたサンが懐中電灯を放り投げる。すると闇雲の攻撃が懐中電灯のほうにそれた。攻撃を受けた懐中電灯が粉々に砕け散る。

「うへぇ~、あれが当たってたかと思うと......ブルブル。」

「なんだぁこいつは!物理もきかねぇ!対・心霊アストラル体の道具も適応される!こいつはいったいどうすれば!」

 リトルリトルが吠える。すると闇の中から無数の手が伸びてきて闇雲を除く全員を別の部屋まで引きずりこむ。

「スペクターハンド君!?は!?今なら!」

 全員が別の部屋に移動した後、ポルターが叫ぶ。

「──夢幻創造 『湾曲空間トリックルーム』!」

 闇雲の電気のブレスが直撃する寸前、全員は退避することに成功した。


「サンプルの解析結果が出たっス。」

 別の部屋に移動した全員はハリーの報告を神妙な面持ちで聞いていた。

「もはや突破口となりえるのはそれだけか......それで、どうだった?」

「簡単に言うとあの夢喰バグは無数の極小の心霊アストラル体の集まりっス。そしてその心霊アストラル体の表面に特殊な金属を身に纏っているんス。さっきリトルリトルさんが体液で電流をそらしたように、金属で電流をそらすことであの夢喰バグ心霊アストラル体でありながら高電圧の耐性と電気を操る力を身に着けたんっス。」

「でも弱点もあるっス。さっきサンさんに攻撃したときのことを覚えてるっスか?あの時闇雲はサンさんではなく懐中電灯狙ったっス。」

「あの時は怖かったなぁ。ん?それってつまり闇雲は光が怖いってこと?だから電気を吸って館を真っ暗にしたんだね。」

「怖いなんてものじゃないと思うっスよ。さっきのサンプルに強い光を当てたところ......闇雲の体は破壊されたっス。」

 全員が驚いてハリーのほうを向く。

「闇雲は電気から身を守るために金属を纏ったっス。しかしそれがあだとなりまスた。この金属に光が当たると光電効果と似たような原理で内部で電気が発生......それがヤツの心霊アストラル体を破壊するんス。」

「つまり光を当てれば倒せるってこと!?やったー!」

 しかしサンのはしゃぎように対し他の面々の反応は冷ややかだった。

「やつを倒しきるにはどれほど強い光でなきゃいけないんだ?」

 ザンが尋ねる。ハリーは少し間を置いて答えた。

「倒しきるには......太陽の光でも足りないっス。」

 サンが困惑して言う。

「え?じゃあどうやって倒すの?」

 するとリトルリトルががポルターに向かって言った。

「ポルター、館内の住人を全員避難させろぉ。宇宙船に連絡して『衛星砲』をぶちかます。やつを倒すにはそれしかねぇ。」

 それを聞いてサンが叫ぶ。

「待って!それってこの館ごと破壊するってこと!?ポルターさんはそれでいいの!?」

「......どうせあの闇雲がいる限りここに人は招けないんだ。それにさっさとしないと光にも耐性をつけられてしまうかもしれないしね。なあに、てごろな廃墟とかあったら私たちはそこに移るさ。」

 サンはハリーやザンを見る。しかし二人は黙って首を振った。

「そんな......そんなことって......」

 サンがうつむく。目じりに涙を浮かべている。

 そのとき、パーフェクトが手を挙げた。

「提案が。」


「──サンの力を借りる。だとぉ?」

 リトルリトルが怪訝そうに言う。

「はい。この前もザンさんがサンさんの力を借りて強大な夢喰バグを打ち破ったんですよ。それに、さきほどサンさんの力を測定したところ夢幻力が測定不能を示しました。」

 ザンが首に手を当てながら言う。

「少なすぎて測定不能の可能性も......いやその時はFの値を示すか、だがあのときはサンがたまたま魔剣を創造クリエイトしたからできたことだ。サンはあのとき無我夢中にやってたから、今回も同じようにできるかどうか。」

 パーフェクトはサンをじっと見て言う。

「大丈夫です。できますよね?サン。」

 サンも答える。

「う、うん、僕頑張ってみるよ......」

 ポルターがパーフェクトに尋ねる。

「アンタのその姿勢は嬉しいよ。でもあんたにそんな義理ないだろ?どうしてそこまで?」

 パーフェクトはあたりを見渡して言う。

「私は『奉仕の魔法使い』です。それゆえ、いろいろなお屋敷を目にしてきました。しかし、ここまで手入れが施されたお屋敷はそうそう見ません。」

 ハリーも見渡して言う。

「自分にはボロボロの廃墟にしか見えないっスけど。」

「まあ、住人仲間がいろいろやってるからは入ってると思うけどさ。」

「それに、サンさんの夢は超カッコイイ勇者になることなんです。ここでポルターさんが悲しむやり方で解決したら超カッコイイ勇者になんかなれっこない。そうでしょ?」

「あ、うん。」

「私はそれを応援したいんです。サンさんの夢も、ポルターさんの願いも、両方、叶えたい。だからお願いします。協力してくれませんか?」

 ザンとハリーはだまってうなずく。そしてみんながリトルリトルのほうを向いた。

 リトルリトルはため息を吐いたあと、しばらくしてぽつぽつと話し始めた。

「あれは少し前──明治時代のことだったか。」

(明治時代を少し前って言えるってこの人いくつなんだろう。)

「訪れた外国人の宿泊施設として洋館が立てられてよぉ。その時、ある若い家主の娘が外国人にもそばのおいしさを知ってもらいたいって表を改装して蕎麦屋を始めたんだ。俺様はその蕎麦が好きでこういう見た目の外国人だっていって通ってたんだ。」

(娘さんはよく泡吹いて倒れなかったっスね。)

「人間の寿命は短いもんでなぁ。しばらくするとその娘も亡くなっちまった。後継者がいないってんで、蕎麦屋のあった部分は取り壊して全部洋館にしちまおうって話も出てきたんだ。──そこからだ。館でたびたび心霊現象が起こるようになったのは。」

(急にホラーチックな話になってきたぞ。)

「そこから人が寄り付かなくなってなぁ。取り壊しの話も立ち消え、あとは幽霊の住まう和洋折衷の洋館ができたって話さ。」

 ポルターが首をひねって言う。

「え~と、つまりどういうこと?」

「──俺様にもこの館を守りたい理由がある。それだけのはなしだ。」


 ハリーは怪しげな機械を操作して夢喰バグの居場所を探っていた。

「闇雲の現在位置!でました!」

 ザンとリトルリトルの周りには人魂がウヨウヨと浮いていた。

「なんなんだぁこいつら。」

「その子たちも協力したいんだって、その子たちがまとわりつくことで二人も心霊アストラル体に攻撃することができるよ。」

「へぇー、よろしくな。」

 そのころサンはというと......ブルブル震えていた。

「怖い~~~~~僕にできるかなぁ......」

 サンの肩にパーフェクトが手を乗せて言う。

「大丈夫です。サンさんは立派な勇者なんですから。」

「何言ってんだー?サンは勇者見習い未満、だろ?」

 ザンが軽口を飛ばす。サンはその言葉にムキ~っとなって言う。

「へーんだ!絶対あの闇雲を倒して認めさせてみるもんね!」

 ポルターが全員に声をかける。

「みんな!準備はいい!?いくよ!あのにっくき闇雲をぶっ飛ばしてやろうじゃない!──夢幻創造 『湾曲空間トリックルーム』!」

 すると立っていた床が一瞬にして消失する。はるか下方に闇雲が見えた。リトルリトルは背中の翼をひろげるとまっすぐに闇雲に向かって突っ込む。

「直接お前にこいつをたたき込みたくてうずうずしてたんだ!くらえ!──夢幻解放 『打撃痛恨ダゴン』!」

 リトルリトルの痛烈な一撃が闇雲の頭部に叩き込まれる。闇雲は顔面を床にたたきつけられてひるんだ。

「しゃあ!ざまぁみやがれ!」

「おいリトルリトル!一人で先走るな!」

 ザンは自然落下中なのでまだ上方にいる。すると闇雲の体からバチバチという音を立てて放電が始まる。

「気を付けてくださいっス!以前とは比べ物にならないほど出力も増してるっスよ!」

 狙いはリトルリトルだ。すかさず防御態勢をとる。

(クソ!たえられるか!?)

 そして攻撃が始まる瞬間──

「──夢幻解放 『飛剣』!」

 飛んできたザンの剣が避雷針のように電撃攻撃をそらした。

「おう、サンキューな!」

「気をつけやが......れ!」

 降りてきたザンが続けざまに闇雲のお尻に飛び蹴りを食らわせる。

「後は私が!」

 ポルターが床から顔を出す。周りには人魂が大量に集まっていた。

「今度は館中のみんなの力もあわせる!首輪をつけてやるよ獣野郎!──夢幻創造 『黄金かな縛り』!」

 無数の手が闇雲の体を押さえつける。しかし闇雲は再び電撃を放とうとする。

「させるかぁ! ──夢幻創造 『心霊騒動ポルターガイスト』!」

 ポルターの叫びとともに大量の剣や武器が闇雲の体に床ごと突き刺さる。ハリーが叫んだ。

「よし!闇雲の電気は剣に、次にアースとなった床に流れていくっス!完全封殺っス!」

 そしてさらに上方ではサンとパーフェクトがゆっくりと降りてきていた。震えるサンの手をパーフェクトが優しく包み込む。

「怖いですか?サン。」

「うん、とっても怖い。......でもこうしてみんなが頑張ってる。僕も勇気を出さないと。」

 するとサンの手から小さな光がこぼれる。

「でた!......いやだめだ!すぐに消えちゃいそうだよ!」

 パーフェクトは優しく語り掛ける。

「超カッコイイ勇者に、なるんでしょう?私は、サンが超カッコイイ勇者になるところ、見てみたいです。」

 サンも自分の手の中をまっすぐ見据えて言う。

「そうだ、僕は勇者になりたい......いやなるんだ!勇気を出すことなら!誰にも!まけえええええええええん!!!!」

 ──瞬間、サンの手の中からまばゆい光があふれだす。あの時と同じ、太陽サンのように輝く剣が創造されたのだ。

(なんて膨大な夢幻力......それこそ無限に等しいような......サンさんが頑張って勇気を出してくれたんです!あとは私の番!)

 パーフェクトはサンと一緒に剣を握ると高く掲げる。


 その光は、偽物の太陽。しかしそれゆえに、本物の太陽の無慈悲さをなくし、温かみと心を照らす光だけを届けることができる。いうなれば人々が心のなかに思い描く、太陽の良い面だけの再現。ともすれば、それは太陽よりも太陽らしく──


 今、二人の声が、重なる。

「────真・夢幻創造 『究極パーフェクト太陽サン』」

 放たれた光は一瞬にして闇雲の体を消滅させた。


 闇雲が消えたことで屋敷内に明かりがつく。あちこちで住人たちの歓声だろうか、ラップ音が鳴り響きポルターガイストが起こりまくっていた。

 他のみんなもサンとパーフェクトに駆け寄って喜びの声を上げる。

「いやあすごかったなパーフェクトさんのパーフェクトサン。」

「ほんとっスねパーフェクトさんのパーフェクトサン!」

「俺様も感嘆したぜ。パーフェクト......さんのパーフェクトサンにはよぉ。」

「ちょっと!僕も大活躍したんだけど!?もう勇者見習い未満なんていわせないからね!」

 ポルターもゆっくりと近寄ってきて満面の笑顔で言った。

「ねぇみんな......この館を守ってくれて......ありがと!」


 表の蕎麦屋の席でみんなはささやかな宴席を開いていた。

「なぁポルターよぉ、お前蕎麦とか打てねぇのか?」

「できるわけないでしょ、蕎麦の打ち方なんて知らないんだから......んー、でも案外挑戦してみたらいけるかも?」

「今度打ち方教えますよ。」

「さすがパーフェクトさんはなんでもできるね!」

 みんなが楽しそうにしている横で、一人ザンは神妙な面持ちをしていた。

「ザンさん、なにか不安なことでもあるんっスか?あとのことはギルドのスタッフに任せて今は楽しみましょうよ。」

 ザンがしばらくしてから口を開く。

「今回の夢喰バグが自然発生のものかどうか考えていた。」

 リトルリトルが笑い飛ばすように言う。

「おいおい!あいつのような強い夢喰バグは自然発生か、この前てめえが戦ったような元から戦闘力があったのが、悪夢ナイトメアの仕業で夢喰バグ化したときくらいだぜ?しかし今回は後者と違って残骸が発生しなかったんだろ?そんなもん自然発生に決まってんじゃねえか!」

 だがザンはあくまで神妙な面持ちを崩さない。

「自然発生にしてもおかしな部分はあるんだ。幽霊屋敷のようはホラーものは悪夢と感じる人もいるから定期的に調査員が入る。お前がそれだろリトルリトル。だがな、定期的に調査が入ってるならあそこまで強大な夢喰バグが自然発生するとは到底考えられない。少なくとも十数年は放置されていたくらいの強さがあったぞ。」

 リトルリトルも納得した面持ちになる。

「それも......そうだな。」

「あとはギルドスタッフの調査報告を聞こう。......嫌な予感が当たってなければいいが。」




 ──どこかの場所、どこかの時間である女が立っていた。その女は白い布で両目を覆い《左右4本》の腕で薬品をいじくっている。不意にその女に声がかかる。

「──また変なものを弄って遊んでいるのか、『腐敗の悪夢』ロトよ。」

「あなたの玩具おもちゃ弄りとそう変わんないでしょう?『破壊の悪夢』ブレクさん♪」

 ロトはブレクには目も向けずフラスコを揺らしている。

「お前の玩具が先ほど壊れたようだな。」

「玩具じゃなくてペット!せっかく弱いうちからじっくりじっくり育てたのに。あ~あ、残念。」

 ブレクは吐き捨てるように言う。

「ふん!くだらん。すでにあるものを夢喰バグ化させれば手間もかからんというのに。」

 ロトは嘲笑するようにいった。

「機械だと強さに限界が出てくるでしょう?それがわかってるからあなたもわざわざあんな変な機械作らせてから夢喰バグ化させたんじゃなくて?」

「......ふん。」

 ロトは何かの腐乱死体に薬品をかけると楽しそうに笑いながら言った。

「勇者さんたちもあの機械のコアと屋敷に残された痕跡の夢幻力が似てるってことに気づき始めるかしら。さぁもっとも~っと面白いことを始めるわよ。」

 ロトの高笑いは夢幻の闇の中に消えていった。

















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る