夢見る世界の勇者サン! ~あなたのお願い、かなえます~
ヒトデマン
第1話 勇者見習い未満
ここは夢世界レムリア、人々が見る夢の中の世界であり、どんな願いでも叶う場所(※公序良俗に反するものは除く)。あちらこちらを魔導車が飛び回り、アンドロイドのアイドルが人気を集め、日照権でもめて飛行都市の着工が遅れている。
そんな世界で夢見る少年が一人、勇者になるという願いを秘め、勇者&魔法使いギルドの門を叩いた──
「こーんにーちわーーーーーー!!!!!!僕、サンって言います!10歳です!勇者になりたくてここに来ました!これからよろしくお願いしまーーす!」
突然の来訪者にギルドのオフィスは静まりかえる。しばらくしたのち剣を腰に携えた若い男が口を開いた。
「......えっとサン君、だっけ、はいこんにちは、俺は『斬撃の勇者』のザンっていうんだ。よろしくな。......ところで君はここがどういう場所か知ってるかな?」
サンはとぼけた顔で返す。
「ん~と勇者になるところ?」
ザンは深くため息をつくと諭すように答えた。
「......この勇者&魔法使いギルドはな、勇者に助けてほしいって人や、魔法使いに夢を叶えてほしいって人のための案内所なんだ。だから勇者になるにはまず勇者養成学校で勇者見習いとして学ばなくちゃいけないんだ。」
「ええっ!?そうなの!」
サンは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をする。
「......そしてもう一つ、勇者養成学校に入れるのは16歳からなんだ。君いくつだっけ?」
サンは目線を逸らして答えた。
「......10......はち歳」
「うそつけぃ!さっき10歳って言ってただろ!少し前の文読み返せ!」
あまりに繕う気もないウソについザンも声を荒げる、メタ発言も飛び出す。サンもすっかり萎縮してしまった。
「うぅ、わかったよ、それじゃ大きくなったらまた来るね。」
サンは深く肩を落とすと踵を返しギルドを後にした。
「──それから6年後、ギルドに見違えるように成長したサンが現れた。こんどこそ、本当に勇者になりに来たよ。」
「おい、地の文を自分で言うなよ。全然時間たってないぞ。」
ザンは呆れた顔でサンを見る。
「ええ~だめなの~?勇者になりたいなりたいなりた~い。」
サンは受付前で駄々をこね始めた。こうなるとオフィスにもどうすんだよこれ......といった空気が流れ始める。そんな中、モップをもったメイド服の女性がサンに声をかけてきた。
「サンさん、勇者は無理ですが、魔法使いはどうですか?」
「あなたは~?」
その女性は深々と頭を下げたのち、自己紹介を始めた。
「私は『奉仕の魔法使い』のパーフェクトといいます。以後お見知りおきを。」
そしてサンにウインクを飛ばす。サンも照れながら答える。
「ぼ、僕はサンです!それで、なんで魔法使い?」
サンは首をかしげる。
「魔法使いはですね、勇者と違って入学するのに年齢制限がないんです。勇者には荒事がつきものですから、でも魔法使いは何歳からでも大丈夫なんですよ。」
「ん~魔法使いか~魔法使いもいいかも~。」
「夢がブレブレだなおい。」
サンが魔法使いに進路を決めようとしたとき、突如、警報が鳴り響く。
「──11番地区にて魔導車に起因する
突如、ギルド内はあわただしくなり、ザンもパーフェクトもスタッフとともに状況確認に動いている。サンは蚊帳の外といった感じだ。
「自然発生したものなのか、それとも
ザンがギルドから出ようとする寸前、サンのほうに振り返って言う。
「よく見ておけよ、サン、これが勇者の仕事だ」
そして二輪型の魔導車に飛び乗り現場へ向かっていった。
「──かかかかかかかかかっこいいいいいいいいいいい!!!!!!!!」
突如興奮し始めるサン。
「さっ、サンさん!?落ち着いてください!」
「やっぱり僕勇者になりたーーーーーーい!」
そしてパーフェクトの制止も聞かずギルドの外へ飛び出して行ってしまった。スタッフも突飛な行動をポカーンと眺めていた。
「......あの子はザンさんのところへ?でも具体的に11番地区のどことかわかってるのかしら?それにしても男の子はやっぱり勇者に憧れちゃうのね。あの子の秘めた夢幻力なら立派な魔法使いになれると思ったのだけれど。」
サンは郊外の森の中を歩いていた。訳も分からぬ情熱に背中を押されて飛び出してしまったが、ザンがどこに行ったのかもわからなかったのでブラブラと歩いているうちにこんな
「うーん迷っちゃった。ここどこだろ。」
近くの木に寄り掛かって思案する。
「改めて勇者になるって決めちゃったけど大きくなるまでまてないなぁ。そうだ!困っている人を助けたら既成事実的に勇者だって認めてくれるかも!誰か困っている人とかいないかなあ。」
なんとも勇者とは思えぬ発言。
すると森の奥から「困ったなぁ~困ったなぁ~」という声が響いてきた。
「ナイスタイミング!この勇者サンが助けにいきますよ!」
声のするほうへ全速力で走ると開けた場所にでた。そしてそこには大きな機械と──サンと同じ背丈のハリネズミが立っていた。
11番地区では
「──夢幻解放 『斬鉄』!」
駆けつけたザンの放った一撃により、暴走した魔導車の
「
ギルドスタッフがザンに話しかける。
「魔導車の所有者の証言によると、何者かが停車中の魔導車に近づいてすぐ、
「そいつはどんな奴だ?」
「なんでも、黒い鎧をまとったような大男だとか。」
ザンは首に手を当てて思案する。
「この
ザンは二輪魔導車にまたがりエンジンをかける。
「後処理は任せた!俺は夢幻力の痕跡を追う!」
魔導車を全速力で飛ばしながらザンはつぶやく
「黒い鎧、そして機械を
深い森の中、ハリネズミとサンが機械のそばで向かい合っている。
「えーと、あんたがオイラを助けてくれるってんですかい?でも今オイラに必要なものはちょっと特殊でして、あんたがそれを満たせるかどうか。ところでアンタは何者っスか?」
怪訝な目でハリネズミはサンを見る。
「僕は勇者サンだよ!できることならなんでもやるよ!」
するとハリネズミは血相を変えて慌てふためく。
「ゆ、勇者っスか!?いや、この機械は違くて......ってアンタみる限り子供じゃないっスか!勇者ってのはウソっスね!びっくりしたぁ!」
偽称が露呈してもサンは動じず自信満々に答える。
「これから勇者になるの!君を助けてね!ところで君は何者?」
ハリネズミはしばらく思案したあと答えた。
「本物の勇者じゃないならいいか......オイラはハリーっていうっス。なんとあのマサチューチューセッツ大学の博士課程を卒業したドクターなんっスよ。すごいでしょ。」
「中身のない人ほど肩書を誇るよね。」
「うぐぅ!か、肩書すらない人に言われたくないっス!自分はこれから中身も実績もともなっていくんスよ!このマイクロブラックホール発生装置、シュバルツでね!」
そういうと近くの機械を指さす。機械はツボのような形に昆虫の足のようなものが片側三本づつくっついた造形をしている。
「この機械、シュバルツはアダマンタイト合金を使用してマイクロブラックホールに耐えられる強度を得、さらに新技術で温度を虚数ケルビンにし蒸発を「それで何が必要なの?」
サンに話をさえぎられて渋い顔をしながらハリーは答えた。
「......夢幻力っス。この夢のような機械を動かすにはそのものズバリ夢の力が必要なんスよ。」
サンは怪訝な顔で尋ねた。
「夢幻力って?」
「知らないんスか?勇者や魔法使いが力を行使する際の燃料みたいなやつっス。」
「なら勇者や魔法使いに下さいって頼んだらいいじゃない。それが必要って?」
素朴な疑問にハリーは気まずそうに答えた。
「......実はこの機械、行政の許可とか取ってない違法建築物なんっス、だからギルド所属の勇者や魔法使いに頼むとバレちゃうんス。だから夢幻力のアテがなくって。」
「ええ!?それだったら僕だって協力できないよ!僕立派な勇者になるんだから!」
驚愕するサンにハリーはサンの肩を掴んで懇願する。
「そこをなんとか!ブラックホールの研究は規制が多くてなかなか自由にできなくて、それを黒い人の支援でここまでこぎつけたんっス!ぜひ科学界の発展のために!このシュバルツのために!あなたでなくとも夢幻力持ってる知り合いにとかでも──」
「──夢幻力なら
突如、森の中から大男が現れた。黒い鎧のようなものを身にまとい、目は赤く妖しい光を放っている。
「あ!支援者の人!」
「この人が......?」
サンは現れた黒い大男に不気味な気配を感じて後ずさった。大男はサンには目もくれず、シュバルツをしみじみと眺めた。
「ふむ、素晴らしいな。完璧な出来だ。さすがはマサチューチューセッツ大学の卒業生。」
大男はゆっくりと機械に近づいていく。
「いやぁそれほどでも〜、それにしても夢幻力まで用意してくれるなんてアンタは最高っス!きっとアンタの名前も、オイラとシュバルツと一緒に歴史にのこりますよ!」
大男は嘲るように答えた。
「ああ、歴史に残るだろうな。──我が『破壊の悪夢』〈ブレク〉の名は。」
そしてブレクの手が機械に触れる。
「──夢幻拘束 『
瞬間、機械が暗黒の輝きを放ち、禍々しい夢幻力が機械を満たしていく。計器類が荒ぶり警報が鳴り響く。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!何!?」
「なんスか!?なんスかぁぁぁぁぁ!?」
「これにてこの
6つの足がギシギシと音を立て機体を持ち上げる。ブレクは機体の取っ手に手足をかけると静かに呟いた。
「いや、名など残らんか、歴史が、
ブレクの命令が下されるやいなや、周囲にマイクロブラックホールが大量に出現し、あらゆるものを飲み込み、消し去っていく。
「ああ!そんな!あんた
ハリーは狼狽しながら叫んだ。だがブレクは意にも介さず破壊を続けさせている。
「まずいよハリーさん!このまま町へすすんだらたくさんの人に被害が!でも僕にはこれを止める力なんて......」
縮こまっている二人に背を向けたままブレクは言う。
「お前には完成に貢献した褒美として、世界が消えゆくさまを特等席で見せてやろう。その無力なお友達も一緒にな。さあ、夢の世界よ。消え去ってしまうがいい!」
ブレクがシュバルツに進軍の命令を下す。今、世界は終わりを迎え──
「──完成早々悪いが速やかにたたっ斬られてもらうぞ。」
森の奥から、突如として二輪魔導車が突っ込んでくる。それと同時にシュバルツの足片側3本が切断された。『斬撃の勇者』がやって来たのだ。
「やはりお前の仕業だったようだな......『破壊の悪夢』〈ブレク〉!」
ザンはブレクを真っ直ぐ睨みつける。ブレクは感心しながら言う。
「まず足を狙って移動力をそいできたか......さすがだなザン。腕前はいまだ健在ということか、だが足を失ったのはお前もだ。」
いつの間にか二輪魔導車の後ろ半分はブラックホールに飲み込まれ削られていた。すれ違ったときに反撃を食らったのだ。倒れ行くバイクからザンは体制を崩さないように飛び降りる。
「ああくそ!高かったのにこれ!ブレク!てめぇ許されると思うなよ?」
ザンが悪態をついているとサンとハリーが近づいてくる。
「ザンのお兄ちゃん!助けにきてくれたの!?」
「たまたまだ、なんでお前ここにいるんだ?まあ今はまず、あの機械をなんとかしないとな。」
ハリーは現れたザンに驚きつつ懇願する。
「ゆ、勇者様っスか!?お願いです!あの兵器にされてしまったシュバルツを......オイラの夢だったものを......止めてくださいっス......」
ザンはハリーに目を向け、しばらくした後機械へとむきなおった。
「足を斬られて一時停止してるみたいだな。あの機械の弱点は?」
「中心にあるコアっス、そこを壊せば虚数温度を保たなくてマイクロブラックホールを作れなくなるっス。」
「わかった。」
サンも不安を隠せない様子で尋ねる。
「ザン兄ちゃん、僕にもなにかできないかな?」
ザンはサンの頭をポンっと叩いてからシュバルツへ構えた。
「その人連れてさがって......な!」
ザンは足をバネのようにして、全速力でシュバルツに接近すると、剣を抜き刀身をあらわにする。
「──夢幻解放 『斬鉄』!」
そして剣が振り下ろされ、シュバルツを両断した──はずだった。
「なっ!」
ザンは目の前の光景に目を疑った。剣が──折れていた、いや正しくは消えていた。ブラックホールは発生していなかったはずなのに。
「
動揺の隙にブレクが後ろに回り込んでいた。そして拳をザンに叩きつける
「──夢幻拘束 『破壊瞬撃』!」
「ぐがぁぁぁぁ!!!!!!!!」
ザンの体に重く、全身が砕けるような衝撃が走る。そしてザンは、その場に倒れ込んでしまった。
「そんな!なんで!?『斬鉄』だからアダマンタイト合金は切れないとか!?」
サンが困惑の叫びをあげた。
「いえ、あくまで鉄は比喩で、あの勇者さんの『斬鉄』はきっと金属ならばどんなものでも切り裂ける効果があると思うっス。」
ハリーは冷静に解説する。
「切れなかったのはおそらく、すでにシュバルツ自身がマイクロブラックホールとなっているんっス......きっとあのブレクの夢幻力の影響で。一時停止しててもブラックホールは作れるっスから。」
「そんな!コアはシュバルツの中にあるのに!どうやって破壊すればいいの!?」
サンが尋ねるも返ってくるのは弱々しい答え。
「地面との接地面から攻撃を......いや、結局内部はブラックホールとなっているから......打つ手は......ないっス。」
ハリーの返答は絶望感を募らせるだけだった。
そしてブレクは倒れたザンにとどめをささんと腕を振り上げていた。
「このまま世界と共に終わらせてもいいが、やはり私自身の手で引導を渡そう。ザン、貴様とは長い付き合いだったが......これで終わりだな。」
そして振り下ろされる瞬間──
「まてええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!」
サンが──立ち上がっていた。手にはそこらで拾ったであろう木の棒を構えている。ブレクも予想外の行動に驚いて動きを止める。傷ついたザンがサンを見てか細い声で言う。
「やめろ......サン......お前じゃ......ブレクには勝てない......逃げろ。」
「僕が相手だ!僕がお前を倒してやる!」
ブレクは呆れたようなため息をするとサンに向き直ってこう言った。
「勇気があるのだけは認めよう......だが勇気だけだ。そんなものでは相手にならぬ。さっさと立ち去るがいい。世界の終りまでわずかながら生き延びられるかもしれんぞ?」
だがサンはなおもブレクに立ち向かって叫ぶ。
「僕は勇者を目指してるんだ......今僕にできるのは勇気を出すことだけ!ここでお前に立ち向かわなかったら......僕は......僕は勇者になんかなれっこない!ここで逃げだしたりなんて......しない!」
──その時だった。
持っていた木の枝から、否、サンの両手から光があふれ出て、そして、太陽のように輝く剣を創造したのだ。
「......まさか!この土壇場で魔剣を
サンは自分が起こしたであろう現象にひとしきり驚いたのち、ブレクに笑みを向けた。
「──どうやらこれが僕に秘められた力のようだね......ブレク!お前は眠れる英雄を起こしてしまったのさ!くらえええええええええええ!むげんかいほうなんとかああああああああああああああ!」
(しまった!
サンはブレクにむかって突撃する。そしてその光輝く剣を振り下ろし──
かきーん。
「え?」
──剣が折れた。
ブレクがなにかしたわけではない、ただ剣はブレクの体とぶつかると同時に脆く折れてしまったのだ。
「......」
「......」
「......」
気まずい沈黙が流れる。しばらくするとブレクが憤慨して叫んだ。
「馬鹿馬鹿しい!このような下らんハッタリに引っかかるなど!」
「そんな~!いまのはピンチに大逆転!覚醒して大勝利の展開じゃないの!?」
「本当に終わりっスね......」
ブレクはシュバルツを再起動させようとする。
「もういい!こんどこそ世界を滅ぼしてやろう!シュバルツ!やれ!............!?」
ブレクは気づいた。
(倒れていたはずのザンが──いない。それにあの折れた剣先もだ。あの体で動けるはずもないし剣先がひとりでに動くはずもない。いったいどこに──)
「
ザンがブレクの背後に立っていた。それだけではない、消滅していた剣先も再生し
「何!?」
ブレクが振り返る間もなく剣技が繰り出される。
「──夢幻解放 『斬鎧』」
放った太刀筋は一つ、だが発生した無数の斬撃がブレクの鎧を砕けさせた。
「ぐぬぅうううううううううううううう!!!!!!!!!!!」
ブレクはこらえきれなくなって膝をつく。
「なにかが俺の体に突き刺さったと感じた後、膨大な夢幻力が流れ込んできたんだ。そして回復も魔剣の
なんと後頭部にサンの生み出した剣の剣先が突き刺さっていた。そしてザンはサンに向かって微笑んだ後、ブレクをまっすぐ見つめる。
「ブレク、俺はお前を止める。」
ブレクもザンに向きなおる。だがブレクにはもはや戦う力は残っていないようだった。
「またか、また
ザンは剣を構える。
「......ああ、そうだ俺はみんなの夢を守る!それが俺の役目だ!」
そしてザンはまっすぐに突っ込む。──シュバルツのほうへ。
ハリーが焦った声で叫ぶ。
「無茶っス勇者さん!シュバルツは無敵なんっス!」
しかしサンはハリーになだめるように言う。
「いや、ザン兄ちゃんなら大丈夫だよ。だって、あんなにキラキラしてるもん。」
シュバルツはザンが向かってくることを感知すると目の前に大量のブラックホールを発生させた。
(血迷ったかザン......?本体の完全防御に加え、この反撃......自殺行為にしかすぎんぞ......)
ザンはさらに加速させる。そして輝く刀身を更に延長させる。どこまでも長く、世界の果てまで届くほどに。
(力があふれる......今なら、どんなものでも斬れそうだ......)
「────真・夢幻解放 『斬空』」
瞬間、世界が──斬れた。ザンの一撃はブラックホールごと、シュバルツの機体を両断した。ザンはシュバルツを──空間ごと斬ったのだ。ブラックホールによる侵食は停止し、のちにはシュバルツの残骸だけが残った。
「ザン、貴様どういうつもりだ?」
満身創痍のブレクがザンに尋ねる。ザンはあっけらかんとした様子で答えた。
「いや、お前を斬ったら瞬間シュバルツが大暴走、世界がブラックホールに飲みこれる。みたいな
ブレクは苛ついた様子で言う。
「そういうマネができるなら初めからそのようにして世界を滅ぼしておるわ。......
するとブレクの体は闇のモヤのようになり、森の奥へと消えていった。
「ちょっとザン兄ちゃん!?逃しちゃっていいの!?」
「無茶言うな、実のところさっきの大技のせいでもうへとへとなんだよ。」
そういって地面に腰を下ろす。
「まっ、これにて一件落着ってことで」
そう言ったのち、ザンはグーグーといびきをかいて眠りこけてしまった。
しばらくした後、森の中は後処理のギルドスタッフであふれていた。サンとザンは、後から駆けつけてきたパーフェクトの持ってきたお弁当を囲んでいる。
ただ一人ハリーはシュバルツの残骸の前で佇んでいた。サンはおにぎりを飲み込んだ後、ハリーに声をかける。
「ハリーさん元気だしなよ。生きているならまた研究できる機会が来るよ。」
ハリーはしばらくした後、サンに向きなおって答える。
「──そう、っスね。一度シュバルツを作ったことでノウハウは完璧にインプットできたっス!よーし、今日からまた頑張るっスよ!」
サンの励ましにハリーも気を取り直す。そこにザンが近づいてきた。
「どうやら、元気になったようだな。」
そしてハリーにある紙を見せた。それは勇者&魔法使いギルドからのものであった。
『ハリー氏へ 勇者&魔法使いギルド
「許可なき違法建築物建設の協力の疑いで査問会に呼ばれることになっている。いくら
ハリーはだらだらと汗をながしながらか細く「了解っス......」と答えた。
森の中をサンとパーフェクトの二人だけで歩いている。ザンとハリーはまだ現場に残って作業をするとのことだった。なんでもシュバルツのコアを取り出す作業に入るらしい。
「今日はサンさんの不思議な力のおかげでザンさんが助けられたとか、大手柄ですね。今日はギルドの食堂でパーティを開く予定です。なにか食べたいものはありますか?」
サンは少し悩んでケーキ!と答えた。またしばらくしたのち、サンはパーフェクトに尋ねる。
「ねぇパーフェクトさん、今日ザン兄ちゃんがね、ブレクにとどめを刺さずに逃がしちゃったんだ。
パーフェクトは立ち止まり、目線をサンの高さに合わせると優しく言った。
「サンさん、
サンはわからないといった様子で首をかしげる。
「この夢世界レムリアといっても、すべての人の願いを叶えられるわけではありません。一位を願って一位を獲得した人のそばには、同じように願って叶わなかった人が大勢います。他にも、サンさんはケーキが大好きですよね。ですが、世の中にはケーキが大大大嫌いで目にもしたくないって人もいるのです。そういう人たちの悲しみ、怒り、無念、憎悪。それが具現化したものが
サンは目をぱちくりさせてパーフェクトの話に耳を傾けていた。
「そのような人もいる世界ですから、中にはこう願う人もいるでしょう。『自分の願いが叶わないこんな世界なら破壊されてしまえ』ってね。」
「それって......」
「ええ、はたから見るとただのわがままです。しかしそんな彼らもこの夢世界を形づくる構成要素の一つなのです。ですからブレクを斬ったとしても何も変わりません。かれら
サンは何かを心の中で決心すると、パーフェクトにまっすぐ目を向け高らかに宣言した。
「僕!勇者になるよ!そういう人たちも助けられるような、超カッコイイ勇者に!そうだ!今回不思議な力でザン兄ちゃんを助けたんだから成り行きで勇者として認められるんじゃないかな!?」
パーフェクトは困った笑顔で答えた。
「ウーン、特別な力があると認められたので特例で勇者活動に協力できるそうですが、でもやっぱり年齢を満たしてないので勇者とは呼ばれないとおもいますよ?」
「それじゃあ勇者見習いって呼ばれるのかな?」
サンは妥協したように言う。
「いえ、勇者見習いは養成学校で学んでいる人の名称ですから、呼ぶならこうですね。」
「──勇者見習い未満。」
「ええー!そんなのカッコ悪いよー!」
サンは猛抗議するが結局、ザンにもスタッフからもこの名前で呼ばれることになりそうだ。
そう、いまこの時から、勇者を目指すサンの冒険が始まるのだ。
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