第203話 強い奴らなんて、いくらでもいる

 

「アーハハッ! 後輩相手にムキになるナンテ、ナイナイ〜!」


「″ッ、復活した!?″」


 すこし意識を離した瞬間だった。


 今しがた、黒い杭に体を吹き飛ばされてはずの道化の悪魔が、床に突き刺さる杭をもたれかかっている。


 大振りの黒ナイフで、爪のなかのゴミをとって、待ちぼうけを受ける盗人シーフの様ようにする様は、今しがた無残に殺されたことが幻でもあったかのようだ。


 けど、黒い杭はたしかに道化の背をささえている。


 あの攻撃は、現実に行われたはずだ。


 たしか、俺がソロモンと戦った時も、不思議なことが連続して起こったが……悪魔の特性なのか?

 いったいどういうメカニズムで、今の攻撃から助かったというのだろうか。


「アハッ!」


 道化の悪魔から一閃。投擲とうてきされるナイフ。


「あっはは!」


 ソロモンはゴム人間を潰す、光の切れ目、極めてわずかな瞬間を見切って、黒ナイフをキャッチする。


 すかさず投げ返して、道化の悪魔の額が、豪快に撃ちぬかれた。


「″ぇぇ、あいつって、あんな器用なことできたのよ……″」

「″たぶん、私たちの体だからだよ……そうだよね?″」

「″……″」


 すくなくとも俺は出来ない。

 シンプルに強い。ソロモンが圧倒的に強いんだ。


「なるほど、それくらいの肉体スペックか」


 毎秒数十体と溢れだすゴム人間をステッキで殴り倒しつづけるソロモンを、アダンは冷たい目で見つめながら呟いた。


「ソロモン、背中がガラ空きだぞ」


 アダンが腕をあげ、手に持つ長く細い、黒い杭を投げつけんと構える。


 その瞬間、蒼い雷光がほとばしった。


 アダンのすぐ横に姿を現したチェンジバースが、黄金の輝剣を首筋へたたきつける。


 獲った。

 確信する一撃。


 が、いつか、味わった嫌な予感が蘇る。


「ぁ」


 剣先が数センチ進むより、アダンが顔をギャロっとチェンジバースへ向けるほうが速い。


 そして、彼は口元を動かして、何かを高速詠唱した。


 すると、剣を振り抜こうとしたチェンジバースの体は、糸に引っ張られるように後方に吹っ飛んでいき、超大な迷宮校舎の断面にかこまれるホールの真ん中で、ピタリと静止した。


 空間にピンではりつけにされたようだ。


「ぐっ! ぅう、これは……ッ!」


 チェンジバースは牙を剥いてもがく。

 しかし、まったく動けない。


「≪ドル・ディ・モーラ・テーー」」


 すかさず、道化の悪魔の不穏な詠唱がホール全体に響きわたる。


 声をたどると、チカチカする奇抜な衣装を着たヤツが、遥か上階の断面で椅子に足を組んで座っているのを見つけた。


 ソロモンもまたソレに気づいたらしく、顔から笑顔を消して、手に持つステッキをぶん投げて、道化の悪魔がいたあたりを一気に倒壊させた。


 ただの一投で、迷宮校舎全体が揺れるようだ。


「あはは! させませんよ、テレスぅう〜……ーーーーあぁあ〜もしかして、我輩は読み違えましたかねぇえ〜!」


 ゴム人間をたちにまとわりつかれながら、指を軽く鳴らして、ソロモンは黒い杭の掃射で悪魔アダンを、直接攻撃。


 旧校舎の床が、ついに数十メートルにわたって砕ける。


 何も見えない。

 霊体化してるから、崩壊に巻きこまれる事はない。

 しかし、何階分も床がぬけるのは、想像以上に凄まじい環境の変化をおよぼしている。


 誰かが土埃をはらい、視界がクリアになる。


 ソロモンが床に倒れたゴム人間の頭を踏みつぶすのが見えた。


 俺たちの同居人は、まだまだ健在だ。


「では、遊び終わりにしよう。ソロモン」

「同感ですねぇえ〜!」


 黒い長髪をなびかせて、アダンはニヤリと笑った。

 ソロモンは俺の顔を今世紀最大に悪く歪めてくれながら、軽快に指を鳴らし乾いた音をあたりに響かせる。


 あの妙な一撃必殺が、ふたたび発動する。


 黒い杭が嵐のようにふりそそぎ、どんどん床に埋まっていく。ついでに、どんどん視界内のすべてが破壊されていく。


 ふとした時、黒い雨はやんでいた。


 俺たち霊体組は、目を離さなかった。


 なのに、その時になってようやく気づけた。

 口を開けて、アホになっていたわけじゃないのに。


「入った」

「………これは″入りました″ねぇえ……なんです、それぇ……」


 俺の体が、壁際で痙攣しているのが見えた。


 両腕はなく、吹きでる鮮血は殺風景な校舎を染めている。


 瀕死だ。

 直感的にわかってしまう。

 圧倒的なチカラを振りかざしていたはずの、ソロモンが死にかけている。


 なぜ?


 どうして? 


 意味がわからない。


 仮にも狩人の俺の体を、悪魔が乗っ取ってる状態なはずだ!


「″おいッ! 調子乗ってるからだろッ! ふざけんなよ、てめぇッ!?″」

「″いや、アーカム、これは……″」


 心の底から怒りが湧きあがる。

 すこし冷静な銀髪アーカムが怒らないことにも、イラつくほどに胸糞がわるい。


「ソロモン、お前らしからぬ、肉体の動きは、その身体の持ち主が常軌を逸した訓練によって身につけたものだろう。およそ、狩人か、宣教師クラスの良い素体だ」

「……」


 黙ってアダンを見あげるソロモン。


 黒ローブの悪魔は、アーカム・アルドレアの腕を2本、握手するように手のひらを掴み、ポタポタと垂れる血で、赤い規制線を描きながら、ソロモンへよっていく。


「お前の敗因は、我が肉体を所持してなかったと勘違いしたこと。それと、自分が″最強のカード″を持ってるとおごったこと」


 アダンは腕を適当にそこら辺になげ捨てて、黒い杭を手のなかに出現させ、握りこんだ。


「決して悪くない。狩人クラスの人間は、簡単に捕まってはくれない。考えうる最高峰の組み合わせではある。……だか、決して

「……アダン、貴方は、いったい、何を素体にーー」

「1000年後にまた会おう、ソロモン」


 ソロモンの問いかけには答えず、アダンは杭でソロモンの喉を貫いた。


 貫通し、壁に杭で固定される。


「″ぅぐッ!?″」

「″っ、アーカムッ!″」


 途端、俺の形はあやふやになり、気がついた時には、身体中を駆けめぐる激痛に何も考えることが出来なくなっていた。


「ぁ、あ゛ァアア! ぐ、くそォオ! あのクソ野郎ォオ!」


 自分のせいではないのに、死にかけの体に戻されて、ソロモンへの不満と憤怒が天元をむかえる。


 くそ、痛みで頭がおかしくなる!

 また腕をもがれた!

 何度目だよ!

 いつでも痛てぇ!


「ぅ、ぐぅ!」


 涙を流しながら、吸いこむ息が肺へ届かず、喉の穴からぬける虚脱感から逃れようともがく。


 これは無理だ。死んでしまう。


 遠くで道化の悪魔が、空中にはりつけにされた白い服の男に手を伸ばしてるのが見える。


 俺は気づいた。


 そうだよな、何を勘違いしていた。


 人間に限定しなければ、もっと強い体なんていくらでもあるじゃないか。


「ぅ、ぁ、あが……」


 自分の無能さを呪いながら、俺は死んでいく。

 目のまえで黒い長髪の悪魔が、しゃがんで好機の視線をニヤニヤと向けてくるのが恐ろしい。


 その後ろから、もう″竜″でなくなった青年が歩いてくるのには、泥沼に沈められるような絶望しかない。


「ぁ、ぁ、……」

「で、ソロモンはどっちが貰いマスカ?」

「我でよかろう? お前は新しい体を手にいれたのだから、それが今回の収穫だ」

「それは、イタダケナイ。使用感を試すついでに、ソロモンを″食べる″報酬を誰が獲得するベキカ、決めマショウ〜」

「……いいだろう」


「っ」


 張り詰めた空気のなか、俺の霞む視界がいっきに覚醒する。


 なぜなら、上階の迷宮校舎の断面から、人影が現れたからだ。


 その数は


 アダンと道化、あわせて5人。


 それらすべてが、もう人間には見えなかった。

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