第202話 悪魔的な戦い
悪魔ソロモンが黒いステッキを振りまわし、高らかに笑う。
「ソロモンか。てっきり、教会に滅ぼされたと思ったが、生きていたのだな」
古びた黒ローブに身をつつむ、長髪の男。
悪魔アダンは細長い黒い杭を、かるく持ち直し、親しみを感じさせる笑顔でそういった。
その所作の節々に悪魔的無機質さは感じられない。
「ええ、我輩、なぜ生きてるのか不思議になりませんが、なんとかなっておりまよぉお〜。あ、そちら、古代竜、我輩を睨むのはやめていただけますかぁあ〜?」
「……君は、あの小さき者ではないな? 一体何者だ」
「何者、ですか。そうですねぇえ〜、アーカム・アルドレアに取り憑く悪魔の魂、くらいに思ってくだされば間違いありませんよぉお〜。ともあれ、貴方の敵ではありませぇえ〜ん」
そうは言っても、胡散臭すぎる喋り。
霊体となった俺からは、3人の悪魔に囲まれて、険しい顔をするチェンジバースの気持ちがよくわかる。
彼は思ってるのだろう。
「ふん、
「諦めないでぇえ、我輩、仲間ですよぉお〜。あちらの2人だけが敵というわけでぇえす」
励ますソロモンを、アダンは興味深く観察する。
道化の悪魔もまた、ひょうひょうとした佇まいで
今にして思えば、彼らは悪魔同士だ。
ソロモンは敵対する気満々だが、万が一にも友達だから見逃してやる、みたいな会話が発生したりしないだろうか。
「ソロモン、肉体を獲得したから、我と戦えると。そう見込んで出てきたわけだ」
「えぇ〜、こちら世界にて、まだ肉体を持たない悪魔2人、それも能力値がわかっている『源泉』の悪魔など、我輩とこの身体のスペックならば、十分に滅ぼせますからねぇえ〜! 体を持つ悪魔と、そうでない悪魔には決定的な能力差があることを、まさかお忘れですぁあ〜?」
「そうか。もしそうならば、たしかに姿を現すのには、絶好の機会だ」
アダンは楽しげに笑い、そして、指を鳴らした。
「眷属、あの悪魔を滅ぼせ」
アダンの足元から湧き出る泉のように、黒い水が溢れてくる。
それは、だんだんと形を成していき、ついには流動的、かつブニブニとしたゴムの質感をもつ人型へ進化していった。
ソロモンはニヤリと笑い、霊体として傍観する俺と銀髪アーカムへ、ウィンクしてくる。
勝てる、という事だろう。
「″それにしても、同じカテゴリーの悪魔同士なのに、仲良くはないんだな″」
「″そうだねぇ、あいつら悪魔だし……顔が性格悪そうだそよねぇ″」
呑気に俺たちが話してると、ソロモンは俺の体を、俺を越える超絶の動きであやつり始める。
そんな腕振り回したら、取れちゃうんじゃないか。
持ち主である俺としては、あんまり乱暴に扱って欲しくないのだが、相手は悪魔、配慮など期待できない。
にしても、だ。
俺と同じエンジンでも、ここまで違うのか。
痛感させられる出力差は、黒のゴム人間たちを、ステッキで叩きつぶしていくことで証明される。
軽油とニトログリセリン。
投入された燃料の質が違う、と。
「あーははははっはははッ!」
「アーハハハッ!」
ソロモンが無数に沸いていく、ゴムの人間を抹殺してる間、となりでは道化の悪魔とチェンジバースの激しい攻防がはじまっている。
先ほどと打って変わり、チェンジバースはパワーで押されはじめている。
投げつけられる大振りの黒ナイフ一本で、頭上の幾十にも重なる迷宮校舎が瓦解して、チェンジバースに致命を悟らせている。
指が一度、鳴らされれば、大炎熱に世界が揺れる。
どうやら、あの道化の悪魔は先程まで本気を出していなかったらしい。
片腕しかないのに、チェンジバースは防戦・回避で今にも詰みそうだ。
「アーハハハハハハッ、ハハハハッ!」
すぐ横で、繰り広げられる竜と悪魔の蹂躙劇。
味方などと、のたまわっていながら、一方的にやられるチェンジバースをソロモンは助ける気がない。
道化の高笑いが、古代竜を追いつめる。
世界最強の種族とうたわれるドラゴン。
その中でも、究極とされるオールド・ドラゴンでさえ、悪魔の理不尽なチカラのまえには膝を屈するのか。
「あーははは、はははははっ!」
「アッハハハハハハッ! アーハハハッ!」
「あーはは、は…………貴方、うるさいですねぇえ〜ッ!」
笑い声が被ってるのが、気に入らなかったのか。
ソロモンは、道化の悪魔を見て、指を鳴らした。
「ッ!」
すると、突如、空中に無数の淀んだ大きな黒杭が出現。
いつしか時計塔の広場で、人間の死体を
道化の悪魔は、ふり注ぐスコールのような杭に全身を貫かれて、ピクリとも動かなくなってしまった。
「″嘘だろ……一撃で……? というか、悪魔同士なら滅ぼせるんだな……″」
「″やれるなら、さっさとやれよー! 白タキシード可哀想だろーッ!″」
つくづく適当に戦う奴らだ。
効率、戦術、そう言ったものは彼らにはどうでもいいのか。
すべては気まぐれに過ぎないと。
うざいと思ったらチカラを叩きつけて黙らせる。
喰らっても平気なら避けない。
気の向くままに楽しく戦う。
それが許される。強いから。悪魔だから。
こいつら、本当に悪魔的だ。
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