第2話 奇特なアテ

 

 荒廃と化した灰色の大地。


 白い人骨、それも無数の頭骨によって埋め尽くされた、生きとし生きる者全てに嫌悪感を与える場所。


 赤黒く染まった夜空、そこに浮かぶ病的に青白んだ三匹の月たち。

 ありえない自然現象の数々が、ここが現実世界でないことを教える。


「あれがエイメンダース……」

「ふむ、悪夢の王ですか。厄介な」

「私たちでは手が出せない、というのは本当だったわけだな」


 死の怨嗟えんさくすぶるる絶望の峰にて、その上の頂きに座するのは、形容しがたい異形だ。


 異形へ殺伐とした視線を向ける4人の男女は皆苦い表情をしていた。


 皆が歴戦の強者を思わせる洗練された覇気を纏っている。一目見てわかる只者じゃない集団である。


「ねぇねぇ、どうにかならない?」


 親しげな声音で話しかけられたのは黒髪紅瞳の少年。

 その女性の声音には、どんな問題だって最後には解決してくれる相棒への大きな信頼が込められていた。


「あれは無理だな」

「……そう」


 たが、期待を抱く少女へ帰ってきたのは、脱力し諦めた者の声だった。


 男は落胆する美女の姿にたじろぐ。

 そのせいか男は最後にひとつだけ言葉を付け足した。


「だけど、まぁ、アテはあるさ」


 希望を与える少年の言葉。


 少女はもちろん、残りの2人の男たちも流石とばかりに誇らしげな視線を彼に向けた。


 だが、内心で少年は自分の言葉に嘲笑ちょうしょうを向けていた。

 そして自分の提示するその可能性が、限りなく奇跡をまつにちかい行為だとは、決して明かさなかった。

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