第6話

私は女を一目見て、おや、と思った。


そして気付いた。


欧米人ばりの派手な顔。


化粧はあのときよりも控えめだったが、忘れるわけもない。


ラーメン屋で私のチャーシューを取ったあの女だ。


二つあるほくろの位置も同じだ。


どうやって私の息子と知り合った。


女のほうはどうやら私のほうに気付いていないようだ。


四年前にラーメン屋で一度会い、チャーシューを取っただけの男なんていちいち覚えていられないのだろう。


家に上げ、二人から話を聞いている間、私は大変難しい顔をしていたことだろう。


息子はさすがに気付き、気にはしていたが直接それに触れることはなかった。


やがて息子が女を送って行き、そして帰ってきた。


家に入るなり開口一番「お父さん、どうしてあんなに険しい顔をしてたんだ。彼女がものすごく気にしていたよ」と言った。


「それはな」


私は四年前のラーメン屋での出来事を話した。


「えっ、それ本当なの」


「私がそんな嘘をつくわけがないだろう」


「間違いなく彼女なの」


「間違いない」


「そんな。彼女がそんなことをする人だったなんて」


結局、息子はあの女と別れた。


頭は良いと思っていたが、女を見る目はまだまだのようだ。


とにかくあの女は、人柄が良くて家庭を大事にするタイプのうえに、大手企業で出世頭の男を逃してしまったのだ。


たった一枚のチャーシューのために。



        終

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一枚のチャーシュー ツヨシ @kunkunkonkon

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