風見鶏

 斜陽に包まれる教室には、制汗剤の甘さが微かに残っていた。

 佇む影は二つ――声が出てくれない。喉が詰まったようになる。焦るほど塞ぐ気道に、彼女は何度も浅い呼吸を繰り返した。握る手のひらが滑る感覚にばかり気を取られ、肝心な言葉が真っ白だ。

 対して彼女を待つ彼は、気にしなくていい、というふうに、へらりと笑ってみせた。気楽そのものの顔には、まだ大人になり切らない幼さが残っている。

 その調子のよい口が開く前に、彼女はたったひとことを、震える手で彼に差し出した。


 ■


 学校の敷地外にまで、喧騒が漏れ聞こえてくる。

 エプロン姿の高校生が自転車を駆ってすれ違い、冬部ふゆべの足が寸の間止まる。立ち漕ぎの後姿を眩しげに見送ってから、目的地へ向かう歩みを再開させた。

 現在北支部に、多くの学生隊員の姿が無い。代わりに一か月ほど前から出回り始めた小さなチラシは、冬部をはじめ正隊員らの間で静かなシフト戦争を勃発させた。「仲が良いのはいいことだけど」と、支部長のごく浅い笑いのツボを踏み抜いたことも、そこそこ有名な話である。

 夏の暑気が滲む青に、カラフルな風船で彩られたアーチが架かる。遠目にも不格好な「文化祭」の文字は、高校生の作り上げた今日この日を体現して、初夏の陽光に照らされていた。

「ああ。いらっしゃい、冬部さん」

 北校舎一階端、化学室。研究報告や科学コラムの模造紙展示、さらに実験ブースが設けられた室内には、家族連れの姿が目立つ。実験室に扉続きの準備室から文庫本を片手に現れた氷崎ひざきは、黒のワイシャツに白衣を羽織る出で立ちだ。

 冬部は一瞬、思考が止まった。氷崎が低く零す。

「……文化祭だけ、三年生は白衣です。どうかしました?」

「変じゃねぇよ。なんでもねぇ」

 一年前、絶対安静と釘を刺してきた担当医師の圧を思い出し、背が冷えただけ――無理を言って退院したあげく悪化させ再入院したのだから、単純に冬部の非なのだが。

 三年の引退を見据え、化学部の展示は二年生が中心に仕切っている。展示どころか開放すらされていない準備室で氷崎が読書に耽っていたのも、仕事が無いのが理由らしい。

「ここに来るより、他のお店に行ったほうがいいと思いますよ」

 忙殺されて捕まらなくなる前に、と。真っ当な助言が、挫けかけていた冬部の精神を抉る。


 文化祭参戦休暇を争奪するじゃんけんに無欲のまま一人勝ちしてしまった冬部は、敗者の隊長や隊員から、各隊員の写真を撮ってくるよう頼まれている。その大半は軽い口約束なのだが――ごく一部。半分泣きが入った懇願を無下にも出来ず、操作もろくにわからないデジタルカメラを預けられてしまった。

 不本意な撮影係のため息は重い。電源の付け方とシャッターの切り方を氷崎に教わり、穏やかな空気の化学室に背を向ける。


 午前中にもかかわらず、屋外には既に、祭りの名に相応しい群衆が完成している。

 保護者のみならず、他高校や中学校からも多くの来場がある文化祭は、冬部には肩身が狭い。すれ違った中学生ほどの三人組から不審がる視線を刺されつつ、模擬店が列をなす中庭に出た。

 中庭に二列、入場門のほうに一列、体育館に続く通りに一列。看板はあるものの、人混みのため遠目からの観測は難しい。狭い道に多くの来場者がひしめく中から、隊服でもない、それも片手で足りない人数を探さなければならない。

――無理じゃねえのか、これ。

 頼みの綱、風見かざみのクラスの店が見えた。

 案内役とはいかずとも、他の学生隊員の様子くらいは話を聞けるかもしれない。好転の期待を胸に、微かに白煙が立ち込める中に踏み入った。


 端的に表し、甘かった。

「えったいちょーじゃん! あっこの人な、オレの上司サマだからよろしく! ほらたいちょ、塩かソースかしかねーけど、注文どーする? トクベツ大盛りにしてやっから! え、ちょ、ジョーダンだって普通にやるって悪りーって!」


 気付いた時にはパックの焼きそばを手に、一歩離れた渡り廊下の壁にもたれていた。

 調理係として屋台骨を担っている風見に、とても他の相談を持ち掛けられる雰囲気ではない。片手で焼そばのプラスチック容器を支え、割箸を噛んで割る。キャベツに絡む濃いソースの味が、あまりしない。

 喧騒も、立ち込める煙も、食欲を誘う匂いや客引きの声すら。一枚透明な壁を隔てたそれらが、どっと無力感に拍車をかけた。

 いっそ、一切の撮影を放棄して帰ってしまおうか――割り箸ごと、食べかけの焼きそばの容器を閉じた冬部の目が、ある集団を捉えて止まる。

 祭りを楽しむ人間の目には、きっと映らない。部室棟の方面に向かう複数の男。


 それは錯視に似ている。「普通にそこにある」ものの見方を、意識して少しずらすだけだ。

 目を軽く細めた冬部が、もたれた背を伸ばすまで、そう長くかからない。

 大男の去った渡り廊下を、小さな影が、きょろきょろ辺りを伺いながら歩いていく。

 

 最寄駅から電車で二駅、伝統ある私立学園の制服。この辺りでは男女ともに一種のブランドがついて回る代物は、文化祭でも十分にその効果を発揮する。

 同じ調理担当から肘でどつかれ、風見は汗を拭いついで、鉄板から視線を上げた。学園の女子制服が三人分。

 中央のポニーテールに、旧い記憶が蘇る。

「お前、ヒナ?」

 中学の卒業式以来、疎遠になっていた同級生は、思ったよりも変わっていなかった。

 軽いナンパは一気に風見への非難に変わり、鉄板の前から風見を押し出してしまう。三十秒だけだからなと、追い打ちのような怒号が背に刺さった。

 鉄板の熱気で赤らんだ顔が、へらりと緩む。

「久しぶりじゃん。親父さんとおばさん、元気にしてっか?」

「うん、元気。……たまたま、部活早く終わったから。来てみた」

 日南ひなみさつきは、中学卒業とともに両親の都合でこの街を離れた。進学先をいま知って、風見はただ驚くばかりだ。

 物珍しさから制服をまじまじ見つめていれば、日南が少し声を尖らせ、煙の染み込んだバンダナ頭をはたく。

「じろじろ見るなバカ」

 日南の友人二人は野次馬の視線を向け、労働にいそしむクラスメイトらは、少女漫画じみた筋書きに砂糖を吐きつつ呪詛を唱えた。屋台の掛け声が無闇に大きくなり、応える側もまた然り。ただし――

 堪え切れなくなった、風見の笑い声が響くまでだったが。

「いやお前、マジでお嬢サマってガラじゃねえよなあって! 似合わねーカッ」

 拳が入った。最後まで言わせず、迷いのない一発を、日南はきっちりと最後まで振りぬいた。


 派手に転がった風見だが、幸い他の店は破壊せずに済む。

 日南の友人らは悲鳴をのみ、周囲も呆然と見守るしかない。辺りは一時死んだように静まり返り、当の加害者は人混みを分けて走り去った。

 恐る恐る、エプロン姿の一人が、風見の死体に手を伸ばした。すると死体はけろりと起き上がって、ピースサインなど決めはじめる。

 挙句に、

「大丈夫、オレ殴られ慣れてっし! すぐ仕事戻っから、こえー顔すんなって!」

 怖い顔などではない。本気で心配し、同時にあきらめ憐れんだ。そういう顔だとは、誰も何も、言わなかった。

「鬼火」の視認は、対策部に所属する隊員の基本技能に相当する。

 対象から淡く呪力が漏れ出た色影、さざなみに揺らぐそれの色調によって、視覚から鬼にあたりを付けることができる。ただし万能ではなく、必須技能でもない。

 有れば便利、当たれば幸運。

 そして、呪力の源は感情であるから、時おり邪念に共鳴することもある――蝋燭の炎に似た橙色が揺れるのを視ながら、文化祭に乗じた窃盗未遂犯を拘束し終えた。

 引き渡し先を迷った冬部が、行先が定まらない足取りの青年を見つける。

「助かった。悪ぃな、雨屋あめや

「滅相もない。お役に立てたなら幸いです」

 牛乳色の髪に、白いワイシャツと黒スキニー、緑色のエプロン姿。痩身長躯もやし体型の彼は、喫茶店で製菓担当として勤務するアルバイトだ。雨屋が顔見知りの生徒を呼び、文化祭実行委員だという彼女が警備員を連れてきたことで、ことの始末は穏当に終了した。

 冬部は少しだけ、あらぬ誤解を受けない、至極平和な顔の造形というものが羨ましい。そのあっさりとした顔がふわふわ笑いながら、ある一店舗に対し、製菓の技術協力をしている旨をこぼした。

 喫茶店から、補充の商品を配達に来た道程らしい。

「高校生の祭典に大人が手出しするのは、野暮かとも思ったのですけれど」

 経緯を濁す。ただ、横顔は決して暗くない。

 地図を広げ、骨っぽい指先が示した店は南校舎。奇しくも冬部に課せられた撮影ノルマの一人が所属する模擬店だった。「こっちです」と指された方向が目的地とは正反対で、冬部は何も言わず、雨屋から案内役を引きとる。ついでに、身幅に余ったワイシャツの袖でぶら下がる、ビニール袋の一部も。

 白い無地の袋は、冬部が焼きそばを入れているものと同じだ。覗き込んだ袋から甘い匂いがしている。

「これ全部、他の出店で買ったのか?」

「ええ。折角ですから、店長にもお土産がないと」

 悪びれない笑顔が、ふっと吹き飛んだ。

 前方から真っ青な顔の女子生徒が走ってきて、薄い身体に容赦なく体当りした為だった。状況についていけない冬部を置いて、悲鳴じみた声がまくしたてる。

「だから! 雨屋さん!! 私が迎えに行くからって!! 言ったじゃないですか!!」

 平均的な体格の女子生徒に手首を掴まれ、あまりにも軽々と引っ張られていく。

 呆気にとられかけ、冬部は慌てて後を追った。


 明治時代をコンセプトにしたという喫茶店では、探していた学生隊員の一人が店番をしていた。洋もののシャツに着物と袴を合わせて書生の恰好をした彼は、冬部が事情を説明すると、渋々ながら撮影許可をくれた。

 肩の荷がひとつ下りたところで、彼に勧められるがまま席に座る。メニュー表から、アイスコーヒーを頼んだ。

 曰く、ちょうど看板商品が切れ、客足が途絶え切っているという。

 書生が開けている紙袋、雨屋が携えていたそれと符号が一致する。看板商品もひとつ注文すると、気だるそうな声が返ってきた。

「やっぱお店はつえーっすよね。プロいわー」

「……他の店と揉めねえか? ここのクラスくらいじゃねえのか、外注するって」

「そりゃまあ。でも、不公平なんて店の場所からそうじゃないすか。外の一番いいとこは三年生で、一年はこんな二階の端っこの教室なんすよ。校舎の中まで来てくれる人って多少は減るし。目玉商品ってそんなに反則っすか?」

 不満げに口を尖らせる。アイスコーヒーの入ったカップが、強めの音を立てて置かれた。

「それに、どこも既製品買ってるようなモンっす。揚げたこは冷凍のやつ揚げてるだけで、フランク系も業務スーパーで買って焼くだけっしょ。それならうちのクラスのクッキーだけ責められるいわれはねーですわ」

 きっぱりとした物言いに、少し安心する。

――そういえば、雨屋どこ行った。

 件の女子生徒に連れられ、冬部よりも早くここに着いたはずだ。考えた矢先に声が聞こえ、振り向いた先の様相にコーヒーを吹き出しかけた。

「あれ、なんすか雨屋さん。いっそうちのクラス来ます?」

「えーと、まあ。損害分の補填を。すこしだけ、お待ちになっていてくださいね」

 どんな交渉があったのやら、困り眉を下げて笑う雨屋は、学生と同じ書生姿に変わっている。生徒に混じり客引きに繰り出すらしい。

 付き添いの男子生徒に連れられ、姿が見えなくなった。

 てめぇは配達途中じゃねぇのか――という疑問は、冬部の内心で行き場を無くす。

「冬部さんも着たかったっすか? 写真撮ってあげましょうか」

「冗談止せ。着ねえよ」

「まあーそうなりますよね。サイズが無いんで、どちらにせよムリっすけど」

 言いつつ、小皿に載せた「看板商品」を運んできた。

 冬部は思わず二度見し、恐る恐る、本当に食品なのか聞いて、笑われた。

 刀の鍔を模した細かな紋様に、深い青緑の硝子が嵌め込まれている。ステンドグラスに似た、透かしの鮮やかなクッキーは、大人の本気の悪ふざけ、という評価が相応しい。

 細工物を慎重に持ち上げる冬部を、彼がじっと見ている。室内にいる人間の顔を確認して、声をひそめた。

「初めはちゃんと、自分らで作ろうとしてたんすよ。割とぎりぎりまで練習してたんすけど、うまくいかなくて。代わりの商品考えようにも予算も残ってねえしで。実行委員……雨屋さんにギャン泣きしてた子なんすけど、すげぇ責任感じてて、やばくて。もしかして、文化祭前にクラス一人減るかもって」

 無意識で、冬部の眉間に皺が寄る。「今は大丈夫っすよ、わたわたしてんのは変わりませんけど」と。彼の補足は、信じて良さそうだ。

 彼女の影に、赤は視えなかった。静かな青色が、ゆらりとちらついただけ。

「でもまあ、雨屋さんのお節介で得しました。ヒマしてんだなって感じっすよね」

 他者の働きかけか、自身の意識かはわからない。もっと別の切っ掛けであるかもしれない。けれど――それを呪いとしないだけの縁を、彼女は持ち得ていた。実際に、鬼へと変じることはなかった。

 彼女は運が良かった。幸いにも。

 冬部は安堵し、クッキーに歯を立てる。重厚そうな見た目に反して口当たりは軽い。小気味よく、林檎の香る青が弾けた。

「雨屋のプライベートは知らねえけど、わざわざ作ってくれたんだろ。礼は尽くした方がいいんじゃねぇのか」

「大丈夫っすよ。そりゃ後払いではありますけど、売り上げからちゃんと金返そうって話してますって……」

 話すうちに、客が増えてきた。

 満席になる前に席を立った冬部は、模擬店の外に出来上がっていた人だかりに驚く。――再入荷の噂が立ったにしろ、こうも早いか。

 ぶわ、と。錯視の色彩が視界に溢れて足を止める。伏せた瞼を指でほぐしながら、人のいない階段の方に目を逸らした。一度切り替えると、しばらく視え方が不安定なのが、冬部の性質だった。

 廊下の壁に背を預け、少しだけ休む。

 対策部が、鬼化の判断を個人の主観に任せることはない。ふつう簡易の測定器を用いるなどして、客観的な呪力値を計測する必要があるから――

「……おい。そこの坊主」

 小さな背丈、フードを被った後ろ姿は、名指しも曖昧な呼びかけに立ち止まった。

「ちょっと、そのフード取ってみせてくんねえか。……モノに依っちゃ、場所を変えなきゃなんねえ」

 目は未だ、戻っていない。そこに鬼火が視えないのは、当人の個人差として出ない性質なのか、意図的に隠しているかのどちらかだ。ましてや「視られると都合の悪い存在なら」。

「やだっ離せ! チカン!!」

 甲高い声が、緊張の糸を引き千切る。

 大声に固まった冬部の横を、年相応とは言い難い素早さで駆け、彼女は雑踏に姿を消した。

 場に残されたのは、猜疑の視線で磔にされそうな、人相の悪い男だけ。


 視えたのは、ほんの微か。

 舞ったひとかけの火の粉は、煌々としたあけの色をしていた。



 誰もいない場所に行きたかった。

 渡り廊下の先に人混みがあり、体育館から北校舎へ方向転換した。換気のために解放されていた掃き出し窓を、空き教室だと勘違いしたのだ。

「そこ、出入り口じゃないよ。日南さん」

 呼吸の整わない日南は、呆然と中学時代の同級生を見上げた。氷崎の白衣と展示物から連想された部活名が口をつき、落ち着いた声が「そうだね」と相槌を打つ。

「……ちょっと、休ませて。人も全然いないし、いいでしょ?」

 手近な丸椅子は思いのほか低い。全体重を投げ出すと、ぎぎと怪しげな音を立てる。

 化学部の部員しかいない室内は、今の日南には気が楽だった。髪を振り乱して、見た目に構わず全力疾走してきたから。きっと、ひどいことになっているはずだ。

 準備を張り切っていた今朝には、こうなるなんて予想もしなかった。

「……ていうかホントに客入ってないけど、あたしが第一号とかないよね。もしかして人気無い?」

「人なら、さっき持ってかれたところ」

 さして感情の籠らない声で告げ、日南から離れる。

 下級生と思しき部員と話す白衣の背中を、日南はぼんやり眺めた。

――あたしは、ヒロを殴るために来たんじゃあない。

 切欠なんて覚えていない。気付いたら視界の中心に、あのバカみたいな笑顔があった。だから、ずっと、見ていただけだ。拒絶されて関係が切れるくらいなら、友人として傍に居たい。――そう思っているから。今日が怖くもあった。

 風見の反応は、あれほど望んだ「気まずくない」もののはずなのに。

 どうして、涙は止まってくれない。


 化学部の後輩らの視線は、一様に、氷崎へ助けを求めている。展示について相談事に答えてから、氷崎はそちらに足を向けた。

 泣きはらした瞳が眼鏡に映る。

 氷崎は中学生の頃から、日南の想いを知っている。その上で諭した。

「悪いんだけど、泣くなら外でやってくれないかな。ここで泣かれても、ちょっと扱いに困るんだ」

 にこりと首を傾げ、扉を示した氷崎に、日南が顔を上げて固まった。

 真っ白になった思考が、じわじわと憤りに歪む。乱暴に鞄を掴んで、――涼しい顔に叩きつけてやりたい衝動は、涙混じりの罵声に変わる。

「この、クソドS!! 死ね!!」

 化学室の扉が乱暴な大音量で閉まった。胸がすいたのは、一瞬だけだ。

 気合を入れたい日のメイク。無駄だった。丁寧に整えた髪も馬鹿らしい。踵の高いローファーは走りづらい。そんなもの、ひとつだって意味は無かった。

 一笑されて、それまでだったじゃないか。

 下ばかり見て走っていた最中、何かに強くぶつかった。大きく尻餅をつく。

 小柄な子どもに見下ろされていた。フードを被った下から、冷めた瞳が日南を見ている。尻の痛みに比べて華奢な少女に、怒りよりまず戸惑った。

 場の沈黙を、校内放送の声が破る。

 控えめな迷子のお知らせは、外の喧騒に揉まれながらでは、聞こえない人の方が多いかもしれない。教員と思しき声が伝える、お尋ね者の特徴は――

「迷子って……あんた? っわ、」

 彼女は何も答えず走り去った。

 見送った日南も、のろのろと廊下に手をついて腰を上げる。先ほどまでの怒りは、少女とぶつかった拍子に失くしてしまったのだろうか。

 ひどく惨めな気持ちだけが、胸を占めた。



 北校舎三階、無人の廊下に、軽い足音がぱたぱた響く。

 あの迷子放送は、警告と同時に罠だ。焦ってここから逃げれば、敷地外に出たところで捕まるのがオチだろう。

 計器を持ち出されたら言い逃れはできない。

 対策部は、一般市民の多いところで派手には動けない。鬼が入り込んでいる事態を悟られない為に、迷子放送なんて形を選んでいる――ならこちらは、校舎内に留まっている方が得策。

 面倒なことになったと、少女の口からは溜息が漏れる。休暇だろうに、鬼火を警戒するような仕事馬鹿人間がいるというのは、想定外だ。

――だから嫌だったんだ。角無つのなしだからって、こんなとこにお使いとか。くそ。

 狭間通りに出入りする人間連中が、文化祭なんてものの話をするからいけない。感化された馬鹿鬼が、屋台の飯を食べたい、買ってきてほしいなんて言い出しはじめる。お使いはいつも角無の仕事だ。

 あの時チョキを出せていたら、呑気にあっちで待っていられただろうに。

 数日前の勝負を恨みながら、彼女は人気のない廊下に座り込んだ。目をつむり、意識を集中して、呪力が漏れないよう――鬼火を隠すために、気持ちを静める。

 涼やかな、下駄の音。

「具合、悪いの?」

 長い黒髪を簪で結い留めた、綺麗な顔が、すぐ傍にあった。

 少女の隣にしゃがみ込んで、心配げな眼差しを送ってくる。白地に薄墨の菖蒲あやめが描かれた浴衣は大人びていて、新雪のような肌によく映えた。

 もやもやとした、言葉にしがたい後ろめたさが襲う。それとも、自分の傍で綺麗に装う、泥の味も知らなそうな人間相手に、苛立ったのだろうか。

「大丈夫、なんで。ほっといて……ください、」

――この女は、迷子放送を聞いただろうか。

 パーカーのフードを深く被る。願いとは裏腹に、下駄の音は去っていかない。

「あなたは、鬼かな」


「――……だったら、なに」

 目立ちはする。鬼だという証拠を与えてしまうようなやり方だけれど。この三階から、屋根を伝って逃げるのもいいかもしれない。対策部の筋肉男は、この女を窓から放り投げて引き付けよう。

 立ち上がる。善は早いほうがいい、応援を呼ばれたら困る。

「あなたのこと、逃がしてあげられるよ。俺」

 そう、浴衣に包まれた膝を抱えて、少女を見上げる視線が優しい。

 桃色の艶が光る口元は、笑んでいた。

「きっと、一時的なものにしかならないけど。すこし誤魔化すだけなら、大丈夫」

「……何言ってるかわからないけど。それ、あんたをここから突き落とすより確実な方法なの?」

「、……え!? ……う、うん。聞いてくれると、助かるなあ、なんて」

 下駄が鳴る。浴衣姿の身を起こす途中、しゃらりと金属の音が聞こえた。

「誰にも言わないって、約束できる?」


 ■


 連絡を入れた北支部から、歓喜の声と豪勢な謝辞が途切れない。その密度が薄くなった隙に「じゃあ頼む」と捩じ込み、電話を切った。

 件の同僚、冬部に撮影係を頼んだ彼は、職務とはいえ合法的な参加が叶うことに感激しきりでいた。預かったカメラも返却の目処が立ち、撮影係はめでたく解任であるらしい。

「検査の機械なら、保健室に置いてあります。たぶんですけど」

「じゃあ、拠点はそこだな。カメラもそこでいいか。……ありがとな、嬢ちゃんが詳しくて助かった。感謝してもし足りねぇ」

「いえいえ。わたしなんて全然」

 冬部はこの女子生徒のお陰で、冤罪を免れた身だ。

『わたしの親戚、です。痴漢なんか、する人じゃありません。……あの。まず、話、聞いてあげてくれませんか』

 そう言って場の風向きを変えた彼女がいなければ、鬼の警戒態勢や北支部への引継ぎも叶わなかった。どころか、警備員に捕まって身動きが取れなくなっていたのは冬部の方だろう。

 恐縮、というより萎縮の勢いで謙遜の言葉を並べる彼女に、せめてもの礼として、模擬店の食品の奢りを申し出る。

「出し物とかで忙しけりゃ、無理にとは言わねえけど」

「や、ひまですけ、ど……あ、はい……じゃあ、」

 保健室でカメラと諸々の肩の荷を下ろし、廊下で待っていた彼女と合流する。

 先を急ぐ背中に、迷いながらも、問いかける。

「何で俺を庇ってくれたのか、って。聞いても構わねえか?」

 彼女と冬部は、全くの初対面だ。


 カーディガンを着た、小柄な背が立ち止まる。「そうなりますよねえ」と。ぎこちない笑顔とは、今に至るまでただの一度も目が合わない。

「……怪しいものじゃない、です。えっと、イズミ……君の友人で、二年、榛名はるな紫乃しのと、申します。隊長さんのおウワサは、いろいろと。はい」

 深々とお辞儀を一回。左に流して耳の下で一つに結った黒髪が、ひょこひょこと揺れる。つられて冬部も頭を下げた。

「異類対策本部北支部所属、冬部だ。改めて、有り難うな。榛名の嬢ちゃ、……」

「……え、なんかしましたかわたし」

「気にしねえでくれ。何でもねえから」

 似た名前の仕事仲間に、一抹の呼びづらさが過る。

 それきり会話は死に絶えて、冬部は沈黙をやり過ごすように、歩き出そうとした。 

 動かないのは、紫乃だ。

「……おもっくそ、失礼なこと聞いていいですか」

「……、何だ?」

「……鬼を殺すって、どう思ってますか」

 俯く紫乃は、答えを急かさない。表情はうかがえないまま、細い声が後を続けた。

「だって、お休み、なんですよね。……なのになんか、警戒してるって、いうのって……隊長さんは、鬼が生きてるのを、絶対にゆるせない人、なんですか」

 どこから話すか、迷う。

 長い逡巡の後に、話しやすいところから、始めた。

「……そこまで熱心な人間じゃねえよ」

 見つけてしまったのも偶然。あとは成り行き。非番の人間がやるべきは、支部に詰めている仲間にきちんと引き継いで、あとを任せること。

 それと。対策部の取れる処置は、鬼の首を狩ることだけではない。

 現状、鬼は「疑い」。無闇に騒ぎ立てるのははばかられる。処置は検査結果が出てから決まることで――あの朱だ。楽観的な推測をしても、危険数値には達している気もしているが。

「所詮は、ひとを殺す仕事だ。……許す許さねえって、んなもん語る資格もねえし、この仕事が無くて済むなら、それに越したことはねえとは思う」

 雨屋が協力していた模擬店が過ぎった。彼女が鬼と化す寸前で踏み止まれた幸運に、ひどく安堵したのだ。

 悪ければ呪いとなるわけではない。

 人間が全員、善いわけでもない。

 鬼が全員、自らの呪いの根源に自覚があるとも、言えない。

「……人間社会の利益と、危険の排除、とか。は」

「あー……、……そういう理屈もあったか。……俺は馬鹿だから座学はよく覚えてねぇ。悪いな」

 鬼に至る過程の善悪は議論されない。鬼になったという結論、呪いの結実を人間社会から排することが、対策部の意義。

 人間社会から、鬼に関するものの全てを排する是非を問うつもりは、毛頭なかった。主語の大きな理想論は不得手だ。白状すると、実感が持てない。

「鬼だ、呪いだって、理不尽みてえな暴力があって……どうせなら、止められる側にいてえって、それだけだ。間違っても、正義なんかじゃねぇ。嬢ちゃんの質問に答えられてんのか、解らねえけど」

 社会というよりも、身近な人間の顔の方が、よく見える。


 呪いは、自己をこそ蝕む。

 呪力で変質し、鬼となった身体は、決して人には戻らない。自我を喪失し、暴走する脅威の塊になり果てる末期が、遅かれ早かれ平等に訪れる鬼化の果てだ。

「いずれ脅威となる芽を摘む」――その一点で納得して、対策部という場所を選んだ。


 平穏に生きている人間が、理不尽で害されるのは、おかしい。

 でも、その鬼とて「普通に生きていた」のかもわからない。

 理不尽で生まれた鬼を、鬼というだけで屠る対策部もまた、理不尽な組織だ。


 だから。対策部は、決して正義ではない。


 紫乃と真っ直ぐに目が合う。俯いてばかりだった彼女が初めて顔を上げたことに、冬部は気付いていない。

「……イズミンって、隊長さん大好きなんですよ。知ってます?」

 全く話が読めなかった。

 問われたことに答えられたのか、戸惑う大男はお構いなし。紫乃は冬部の右腕を両腕で抱え引っ張って、模擬店の並ぶ中庭へと連れ出す。

 はきはきとし出した声は、冗談めいて早口だ。

「わたしはですね、おともだちのイズミンが信じる隊長さんを信じるのです。……というわけでご相談ですけど、この列の屋台の食べ物を端から端までとかいけますか」

「店ひとつに一個か? それとも、全部のモン一種類ずつって意味か?」

「あっさすが、冗談全く通じねえ上に男前……いやいや財布出さんでくださいまじで。申し訳なすぎてこっちが死にますからやめて」

 紫乃はケバブをひとつ頼んだ。冬部は焼き鳥を買い、座れそうな段差に腰掛けた紫乃に促されるまま、隣に座る。

「会計でたまに、小さい紙みたいなの出してるのは、何なんだ?」

「あー。それたぶん生徒だと思うんですけど、前売り券っていうのがあるんですよ。先払いで、食券みたいなものなんですけど、ちょっとお買い得な値段で買えるんす」

「そんなもんがあんのか。すげえな、……」

 カメラを構える知った顔が、目の前を全力疾走していくのを、見た。

 くすんだ緑色、隊服姿の男の奇行に、紫乃が説明を求める。どこから話すべきか迷う冬部は、気乗りしないなりに、今日一日に起こったことを、順を追って話し始めた。

「……なんか、あれですよね。対策部って妙に愉快なひとの集まりですよねー」

「……全員じゃねえぞ。一部だ。一部」

「はーい」



 学生会館一階。本日は休業日である食堂は、北校舎同様に年季の入ったくすみ方をしていた。

 他校の制服姿の日南に、在校生から奇異の視線が刺さる。実のところ食堂は、外部の参加者には開放されていない――のだが。誰一人事実を指摘できないまま、ふらふらした足取りは、上階へ繋がる階段へ吸い込まれた。

 掃除の甘い階段を上って、二階の踊り場で、気持ちの良い風が吹き込む場所を見つけた。窓枠にもたれると、聞こえる喧騒が随分と遠い。

「……もう、いいかな。今日は」

 疲れていた。文化祭に戻ったところで楽しめる気もしない。いっそ面白いくらいにすべてが空回りして、ひとつも実らないどころか、裏目に出たことだし――

 途端に軽口が蘇り、瞬間的に苛立ちが再燃する。


 振りかぶった拳は、背後で、人間によく似た手応えと、呻き声とを得た。


 鳩尾のあたりを押さえ、薄い長身を折り畳んでしゃがみこんだ雨屋が、眉を下げて笑う。青ざめた日南に対し、自分は大丈夫だという意味の主張を、何回か試みる。

「私も男性ですので、ご心配なさらず。ほら」

 立ち上がった足がふらついて、説得力は無に帰した。

「……どちらさまか分かんないけど、大人しく保健室でも行ったら? 連れてこうか?」

「……お気遣い、痛み入ります」

 苦笑しつつ、おもむろに階段へ近付き、中腹辺りに腰掛けた。意味が分からなそうな日南を手招いて、提げていた袋の一つから、プラスチック製の容器をひとつ手渡す。

 チョコレート色のワッフルだった。買ったばかりなのか、まだ温かい。

「迷惑料ということで如何でしょう。それとも、甘いものはお嫌いでしたか」

「……ちょっと意味わかんないし、ふつーに怪しい」

「左様ですか」

 断られたことにさほどの反応もせず、他の袋からお好み焼きの容器を取り出し、頂きますと手を合わせた。お好み焼きを頬張る幸福そのものの青年に、日南が釈然としない気分を持て余す。

「あたし、帰るから。不審者さん」

 ワッフルを突き返して、上の階へ向かおうとする。見知らぬ大人に絡まれた、ささやかな恐怖心も混じっていた。

 応えた声は穏やかで、それでも少し、言うのを迷っていたのだと解る。

「お嬢さん、先程まで、泣いておられたでしょう」

 足音が止まった。白髪の頭頂部を見下ろす日南の頬には、くっきりと涙の跡がある。

 階段を駆け下り、脇のトイレに飛び込んで鏡を見た。化粧がどろどろに崩れた顔が、みっともなく赤らんでいく――羞恥か怒りか分からない。

 どっちでも同じだ。

 座ったままの雨屋は、薄い手にお手拭きを載せていた。控えめな笑顔で勧められたそれを、日南が迷わず奪い取る。最悪だと、何度も何度も繰り返した。

「……あんた、性格悪い」

 きっと、初めから気付いた上で指摘しなかったのだ。白々しくも。

 不満や後悔、自己中な感情。経緯なんてすっぽ抜けていて、口をつくのは澱ばかり。

 一方的で不親切な暴言を宥めるでも、慰めるでもない。ただ当たり前みたいに隣に座って、当たり前みたいに受け止めて――自意識過剰だけど、扱い方すら見透かされているんじゃないかと深読みしてしまう。

 本当に、嫌なやつ。

 まんまとその通り落ち着きを取り戻しはじめている、自分も。

「いい性格だと、よくお褒めにあずかるのですけれど」

「それ褒めてるんじゃなくて嫌味。大人のくせにその程度のことも分かんないの? バカ? ああバカか。身長伸ばすより頭に回すのが先じゃん。ご飯食べな」

「ふふ、いいんですよ。親愛なる友人は、そういう軽口が信頼と友好の証なんです」

「そいつもバカって事ね。お似合い」

 それでもこの不審者は、今日はじめて、自分の想いを肯定してくれた気がした。

 鼻を啜り上げる日南へティッシュを渡して、もう一度、ワッフルを差し出す。

「詳しい事情は存じ上げませんが、お腹が減っているのはいけません。相手に怒りたくないのなら、なおさら」

 何も考えていなそうな笑い方が、すこし、重なった。

 だから、仕方ない。――今日のことを洗いざらい吐き出してしまったのも、ポケットティッシュを使い切ってしまったことも。

 ワッフルのお代わりはあっちが勧めてきた。あたしの責任じゃない。


「雨ちゃんとヒナって、知り合いだったっけか?」

 方向音痴を裏門に送り届けたところで、風見と鉢合わせた。

 日南が勢いよく振り返る。見送ったばかりの細長い人影は、にこにことして、遠目にも洒落たお辞儀を――違う!

「……さっきね。迷ってたから、道教えてた」

「あー、雨ちゃん地図読めねーもんな」

「ヒロの友達?」

「だなー。まーだいたいどこで会うって、雨ちゃんのバイト先の喫茶店な。雨ちゃんの作る菓子、メチャクチャ美味いんだぜ」

 折り畳み式の長机を二つ、さらにパイプ椅子を両脇に抱えた風見は、資材置き場へ向かっている。まだ模擬店の多くは残っている時間帯だが、風見のクラスは早めに売り切ったところで店じまいをしたらしい。

「いくら何でも持ちすぎでしょバカ。手伝う、」

「いーっていーって、重いし。それよか危ねーぞ」

 段差で転びかけた日南を支えて、さっさと先を行く。係の生徒に長机とパイプ椅子を預けて、疲れの見えない顔で戻ってきた。

 風見はころころとよく喋る。文化祭の催しや模擬店を挙げて、今日に至るまでの経緯や噂、事件の数々を話題にした。一方的に話し続けてくれるのが今はありがたい。

――軽い声が途切れたのは、不自然だった。

 風見が凝視していたのは、何枚かの写真が掲示されたパネルだ。来場者によって人気投票がなされているようで、丸いシールの得票数差が遠目にも分かる。

 日南が、様子のおかしい風見を見上げて、


 見たこともない、真っ赤な顔で。解ってしまった。


――そっか。文化祭のミスコンだ。あれ。

 あの夏の、告白のことを問いただすつもりだったのだ。

 こんな三年の、最後の夏だった。風見はありがとなと笑って、普段通り別れて。それから先は怖くて、何も聞けないまま進学先が分かれて、それきりだった。

 告白の意味を本当に分かっているのかと、尋ねるつもりで来たのだけれど。

「ちょっと。いつまでしゃがんでるつもり、バカ」

 うずくまって顔を覆う風見の背を、ローファーの踵で強めに蹴った。

 すがすがしいほどの玉砕だ。白黒はっきりついて、良――くはない。痛い現実をまざまざと見せつけられ、心はぽっきり折れている。

 顔を上げないその男に、もう一発、蹴りを。

「喫茶店、今度連れてって」

「……へ? や、全然いーけど」

 見上げる頬が赤いのは、陽気のせいではない。その頬をつねり上げて、晴れもしない憂さを晴らす。

「痛っで! ……あのな、ヒナ、もうちょい待っ」

「何か言った? バカ。あたし友達待たせてるから、じゃあね」

「え、……っちょ、いまオレ一人になったら死ぬほど怪し過ぎて死ぬ、」

「にやける口元押さえてしゃがみ込んで、延々ぶつぶつ小声でうめいてる方がよっぽど怪しかったから。バカじゃない」

 無理矢理に口角を吊り上げる。もう少し、練習した方がいい。


「約束。あたしから連絡する。ちゃんと予定、空けてね」

――友達でいられるように、頑張るから。

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