よもやま話(2):プロットが小説になるまで&客観描写縛りの効能
今回はすこし長いです。
注記1:プロットが小説になるまでだけを知りたい方は、中盤以降の「イベント」や「起承転結」といったワードが出るところまで飛ばし読みしてください。
プロットが完成したら小説本文の執筆に入るわけですが、今回は実際に短編小説をプロットから書き起こしてみます。(あくまでも私なりのやり方なので、俺は違うぞ。みたいな苦情は無しの方向で。)
サンプルとして使用する短編小説は、ゆあん様主催の自主企画『筆致は物語を超えるか「海が太陽のきらり」』
https://kakuyomu.jp/user_events/1177354054891743810
に投稿した作品を使用することにします。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054891768056
注記2:ネタバレがお嫌な方はここでブラウザバックしてください。私の作品を既読の方、または、気にしない方、または、読むき気ねーよという方は続けてお読みください。
この企画は、主催者様が提示した「あらすじ」と「ルール」で皆が小説を書き、互いに批評しあったり、感想を述べあったりというもので「同じ話を、別の人が書いたらどうなるだろう?」という好奇心から生まれたもののようです。
それは置いておいて、早速はじめましょう。
提示された「あらすじ」と「ルール」は以下になります。
――以下引用――
■ストーリー(あらすじ:九一七追記)
高校二年生の夏。海斗は訪れた親の実家付近の海で、一人泳ぐ陽子と出会う。泳ぎが苦手だった海斗は、陽子との日々で泳ぐ楽しさを知っていく。
元の街に戻る前日。陽子は「秘密の場所」に海斗を連れ出す。飛び込んだ海斗は、その水中から海面に煌きらめく太陽を見た。
海斗がキスをすると、陽子は「さよなら」と言い残し、去っていった。
翌年、同じ場所に海斗はいた。飛び込み、水面から再び顔を上げ、そこにはもう陽子が居ないのだと実感する。
以来、その海面の輝きを「陽子」と呼んでいる。
※変更点はイメージを限定しすぎるため、記載しません。
■あらすじ時系列要点・詳細分解(執筆ルール:九一七追記)
・高校二年生の夏休みに、海斗が田舎に来る。
→滞在期間はお任せ
・海で一人泳ぐ陽子と出会う。
→どんな出会いが魅力的か
・陽子と泳いだ事で、泳ぐ事の楽しさを知る。
→この経験で、海斗の何かが変わっていく。
・会話の中で、海斗が都会から来たこと、やがて帰らなくては行けない事は話しておく。
→タイミングはいつでもOK。ただし、秘密の場所で飛び込む直前までには、両者が「これが最後の時間なんだ」と認識していること
・別れの前日、陽子は海斗を秘密の場所に連れて行く
→この時点までに、幾日を要しても構いません
・飛び込む。海斗は水中から煌く海面を見て、感動する
→個人的なイメージは「岩礁が丸く抉れていて、底が深くて飛び込みに適した場所」ですが、物語によってどのように扱っても問題ありません。水中から海面を見上げることができれば自由です
・陽子にキスをする。
・陽子は「さよなら」と言って去って行く。
→なぜ?
→理由がわかっていてもOK。その前後、陽子のセリフを増やしてもOK。
・別れの日、結局会えない(省略可能)
・三年の夏(つまり翌年)、海斗は戻ってくる。
→夢中になれる何かを見つけているかもしれない。語らなくても無視でもOK
・秘密の場所に行くが、彼女の姿は無い。飛び込んで、彼女がいないという事実を受け止める
・以来(いつでもよい)、海中から見る太陽の煌めきを、陽子と呼んでいる、または、それを見て陽子と口にする
→このシーンは完全に海斗目線なので、それ以外の目線の時は無視してOK
――引用ココまで――
引用した中の「あらすじ時系列要点・詳細分解」は、そのままプロットとして使用できます。
これだけ短いプロットだと、整理して組みなおさずとも行けそうですが、さすがにこれだけでは情報が足りません。
皆さんは小説を書くときに「テーマ」を決めますか? 私は決めるときと決めないときがあります。たまにはなにも決めずに気が向くままに、感じたままに、筆が進むままに書きますが、ほとんどは決めます。
テーマが決まって、それを十分に理解し、常に頭の片隅に置いておくと物語に一本筋が通ります。つまり話がブレにくくなるわけです。
今回は企画に参加するわけですから、キッチリとテーマを決めます。
とは言いましたが、企画の表題がそのままテーマになってますね。
「筆致は物語を超えるか」
筆致とは筆運びのこと、転じて筆の趣。したがって表題を意訳すると、
・筆力で物語はどう変わるか? (同じストーリーラインでも、作者の筆力次第で駄作にも凡作にも名作にも傑作にもなんじゃねぇの?)
・物語の面白みを超えるような、美ししい、または情緒的な、または感動できる描写は可能か?(感極まるような描写を見せてくれよ)
みたいな感じになると私は受け取りました。
ということで、テーマとしては「描写の可能性を探る」に決めました。
でも、それだけでは味気ないですよね。だから「切ない物語」をサブテーマにしました。
その理由を説明します。企画者が提示したのは「あらすじ」と「ルール」だけです。そこにはどんな種類の物語なのか? ということが示されていません。
どんな種類の物語なのか? とは、
・王道の青春ラブストーリー
・砂糖を吐きたくなるような、甘々のラブストーリー
・主に女性の方がキュンキュンしたくなるようなラブストーリー
・ちょっと切なくなるような青春ラブストーリー、または悲恋もの
・おいおい泣きたくなるような感動ラブストーリー
・悲しくなる悲劇
・ホラーな展開の恐怖もの
みたいな感じの分類です。私の感覚だと、おそらく全種類書けます。ものすごく苦戦しそうなのもありますが。
だから消去法で行こうと決めました。まず、私的に苦戦しそうな甘々とキュンキュン、悲恋もの、感動ものは外します。ホラーものや悲劇はもともとキライなので外します。
残ったのは王道青春ラブストーリーと、切ないラブストーリーです。
そこで考えました。王道青春ラブストーリーは、ほかの参加者が沢山書いてくれるんじゃね? と。そういう経緯で「切ない物語」をサブテーマに決めました。
次に、人称と視点を決めます。
テーマが「描写の可能性を探る」「切ない物語」ですから、描写に重心を置いていくわけですが、描写にも種類がありますね。
心理(心情)描写、人物描写、情景描写の三つです。
そこで考えました。心理描写を省こうと。ちょっと話が飛躍しすぎな気もしますが、考えてみてください。私はネット小説において客観型の小説を数えるほどしか読んだことがありません。
ネット小説の多くが心理描写なしでは成り立たない一人称であり、残るもののほとんども、三人称の心理描写ありです。
だったら。
人物描写と情景描写、そしてセリフだけで物語を構成したほうが、描写の種類が一つ減るぶん残る描写が強調され、企画の趣旨から外れないのじゃないかと。
そう考えました。
もちろん、心理描写をとことん追求したり、情景描写で究極の美を表現してみたり、人物描写で生き生きと動く登場人物を表現するのもアリです。というかその方が企画の性格からも主流でしょう。
でも私はひねくれ者なのです。あえて少数派についたり、人が少ないほうに進んでみたり、誰もやらないだろうと思えることに面白みを見出してみたりと。だからしょっちゅう後悔したり、ハズレを引いたりするんですけどね。
でもそれが性分だから仕方がないんです。自分に正直に生きたほうが楽しいし楽ですから。
横道に逸れすぎました。
ということで、今回は三人称の俯瞰視点客観型という、ネット小説界では確実にマイノリティな表現方法で行くことにしました。
この客観型の描写というのはもの凄く縛りが多い表現方法で、完全な客観表現だけにしようとすると、たとえば「高い山」とか「美しい花」とか「ゆでだこのように赤くなった顔」とか「カモシカのような足」みたいな主観入りの描写ができません。
上で挙げた例でいえば、客観型では「山」であり、「花」であり、「顔」であり、「足」としか表現できません。味気ないですよね。
だからこそ、なにも修飾することなく、言葉選びとその繋がりだけで感動的な情景や動きを、明確にかつリアリティを損なうことなく読者に伝えられたら面白いじゃないですか。
そんなのテメェだけだ。と言われても私はそう思ってしまうから仕方ないんです。
また横道に逸れてしまいました。
でも言わせてください。短編でもいいです。三人称の俯瞰視点客観型で何作か小説と呼べる作品を仕上げることが出来たら。あなたは確実に小説書くの上手くなりますよ。断言できます。
だって、考えてもみてください。心理描写も主観もなしに登場人物の感情や情景を読者に伝えるには、目に浮かぶような人物描写や情景描写が必要になります。
いままで比喩表現や主観表現に頼っていたことが、どれだけ描写の手を抜いているのかというのが如実に分かりますから。
だから三人称の俯瞰視点客観型が書けるようになって、そのうえで比喩や主観を加えると、あなたの表現力は一段階上のステージに上がります。面白い小説を書く方法とは別の話ですけどね。
注意点は主観を排除することに拘り過ぎないことです。完全に排除することは不可能に近いですから。だから極力排除するように心がけましょう。はじめのうちは主観を減らす努力をするだけでいいです。
いつのまにか偉そうに講釈垂れてしまっている私も、今はまだ満足できる三人称の俯瞰視点客観型の小説は書けません。微妙な主観が混ざります。完全に排除して美しい物語を紡ぐことは非現実的です。
だから極力主観を排した満足できるものを、いつか書けるようになりたいです。
どうもいけませんね。好きなことを書きだすと止まらなくなります。
話の本筋に戻りましょう。
さて、これで人称が決まりました。ただし、俯瞰視点の客観型小説は、映画のように視聴者に考えさせることが重要で、小説の場合はかなり読者を選びます。考えながら一文一文じっくり読まないと作者の意図が伝わりません。
それでも受け取り方は千差万別で、読者の人生経験にも左右され、万人受けする表現方法ではありません。
ですが今回の企画の意図は、
――以下 https://kakuyomu.jp/works/1177354054891740375/episodes/1177354054891740780 より引用――
作品毎にはっとするような表現、ニュアンス、文法。そういったものを読み合い、コメントしあい、共有しましょう。表現の研究を共にしましょうと言った趣旨になります。
――引用ここまで――
となっておりますから、読者の人気取りを気にする必要があまりありません。どうやったら人気が出るか? という研究も重要ですが、今回私はそこをまるっと無視することにしました。
ただ書きたいことを書きたいように書く。楽しい時間が過ごせましたよ。ええ。
横道に逸れすぎですね。戻ります。
ここからようやくストーリー展開の概要を「あらすじ」と「ルール」に従って決めていきます。
あらすじから登場人物を抜き出し、ストーリーの流れをイベントごとにまとめると以下のようになります。
注記3:ゆあん様に、あらすじの内容を加工して使用することは了承してもらってます。
海斗と陽子が海で出会う→海斗が泳ぎの楽しさを知る→陽子が海斗を「秘密の場所」に連れ出す→海斗が海に飛び込み、海中からきらめく海面を見上げる→海斗と陽子がキスし、陽子が「さよなら」と言い残して別れる→翌年海斗は「秘密の場所」に戻るが、陽子はいないと実感する。
こんな感じですね。これを起承転結で分けておきます。
イベント起:海斗と陽子が海で出会う
イベント承:海斗が泳ぎの楽しさを知る→陽子が海斗を「秘密の場所」に連れ出す
イベント転:海斗が海に飛び込み、海中からきらめく海面を見上げる→海斗と陽子がキスし、陽子が「さよなら」と言い残して別れる
イベント結:翌年海斗は「秘密の場所」に戻るが、陽子はいないと実感する
これを今回のプロットの骨子(仮)としておきます。
さて、今回は「切ない物語」を書く予定ですから、登場人物の設定を少しだけ追加します。(これは本来最初の設定でやっておくことですが、今回は先にあらすじやルールがあるので、順序が逆転しています)
海斗:元地元民、海には何か(忘れてしまった陽子との思い出や彼女の名前)を探しにやってきた。性格は感情で動くちょっとDQN気味の少年
陽子:海斗の幼馴染、すでに死んでいるか、生きてはいるが二度と会えない縛りがある。性格は照れ屋な面をプライドが高そうに見下す態度で隠している。海斗との再会を何よりも待ち望んでおり、彼に自分のことを思いだしてもらいたい。自分からは名前を教えない。
と、こんな感じになりました。
読み終わったときに、陽子が死んでいるか、生きてはいるが事情があって隠れたところから見ることしかできない。のどちらかを読者が感じ取ってくれれば成功です。
ここまできたらルールに従って追加した設定を加味し、仮決定していたプロットが使えるかどうか判断します。
このとき、私は陽子を追うように俯瞰視点を定め、各イベントごとに頭の中で物語を紡ぎ、その時出たセリフを忘れてしまわないようにプロットに書き込んでいきます。
ちゃんとエンディングまで頭の中で物語が紡げたらプロットとして採用し、ダメだったらダメだった場所を直します。
(私の場合はOKだったのでそのまま採用しました。)
OKだった場合は、ルールに従って必要なセリフや注記(※印)をプロットに書き込みます。
※俯瞰視点者は登場人物の名前も知らないし、心情も読めない。よって、物語の最後の方まで海斗は彼女の名前を知らない。ずっと少年、少女、彼、彼女で表現
イベント起:海斗と陽子が海で出会う
※浅瀬を歩く陽子の後方から俯瞰視点追跡開始。彼女の向こうの波打ち際に海斗が見える。
「こんな時間に一人で海に入るなんて危ねーぞ。死にてぇーのか?」
「あら、ご親切にどうも。でも忠告は無意味よ」
「人がせっかく心配してやったっつうのに言うじゃねぇか」
「こう見えてあたし、毎日泳いでるから」
※海斗に矛盾した行動をとらせ、読者に疑問を抱かせる。矛盾行動した明快な理由は書かない。(これが理由かな? 、と引っ掛かる程度のことはどこかで匂わせる)疑問を抱かせて注意深く読んでくれたら儲けもの
「考えてみりゃそうか。他所モンがこんな時間に泳ぐわけねぇしな。おし、いっちょ俺も泳ぐか」
「助けてくれてサンキューな」
「あなた、底なしのバカね。でなければ無謀な自信家よ。泳げもしないのに夜の海に入るなんて……死にたいの?」
「悪かったな」
イベント承:海斗が泳ぎの楽しさを知る
※海斗の泳ぎ上達過程は今回の物語では重要ではないので全部カット
「ちゃんと泳げるようになったじゃない。都会育ちのもやしっ子のくせに……」
「褒めてあげるわ」
「ヒデェ言われようだ」
「……楽しくなっちまってな。それに、ここに来た理由を思い出したんだ」
「あら、理由ってなに」
「口じゃ説明できねぇ」
※陽子が海斗のことを知っていたことを匂わせる
「口じゃ説明できない何かを探しに来たのね」
「……なんで分かった?」
「そんなの簡単よ」
陽子が海斗を「秘密の場所」に連れ出す
「明日帰るのよね。こっちよ」
「ったく、なんちゅう速さだ。コケんなよ」
※移動中の二人の状況が分かるように丁寧に描写する
※海を取り囲む崖をイメージして描写する
「ここよ」
「…………」
イベント転:海斗が海に飛び込み、海中からきらめく海面を見上げる
※すべてを思い出したことを匂わせる
「……子」
「どうしたの? 誰かの名前を呟いていたようだけど」
「いや、なんでもねぇ……水の中から光り輝く海面が見えた。それで思い出したんだ」
※陽子が海斗のことを昔から知っていたことを匂わせる
「……そう、探しものは見つかったのね。ここに連れてきた甲斐があったわ」
「ああ」
海斗と陽子がキスし、陽子が「さよなら」と言い残して別れる
※キスシーンには逆光を使う。あえて使い古された手法を使う
「もう時間ね」
「……さよなら」
「ああ、さよならだ」
※別れのシーンは書かない
イベント結:翌年海斗は「秘密の場所」に戻るが、陽子はいないと実感する
※崖の上からすこし背が高くなった海斗が姿を現す。
「いるわけねぇよな」
※陽子は霊体で海斗には見えない聞こえないOR声が聞こえない場所から陽子が覗き見ている
『あたしはここにいるよ』
※海斗はすべてを吹っ切っていることを匂わせる
「……いいか陽子! よく聞け。俺は俺の道を歩く。だからお前も自分の道を行け」
※ここで俯瞰視点者が海斗の名前を知る
『あたしの名前、思いだしてくれたのね。大好きだよ! 海斗』
『あたしにはもう時間がないの。本当にこれが最後。でも、あの夕方の海で成長した貴方に再会あえた。うれしかったんだよ。また会いに来てくれてありがとう。あたしの……海……斗』
こんな感じになります。
あとはシーンやセリフにあった描写を書きこみ、小説以外の部分を消して作品を完成させます。
完成した短編小説が以下です。確認してみたい方はどうぞ。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054891768056
今回はここまで。次回投稿日は未定です。
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