SS4 雨とネコ

 雨が降る中、傘を広げて寮までの帰路を歩く。

 湿気を含んだ重たい空気がねっとりと肌を撫でてくる。


 ニホンの6月がじめじめすることは知っていたが、知識と実際に暮らすのでは勝手が異なる。

 この国の住人は、春と夏の間にあるこの梅雨という特別な季節に、風情を感じるそうだ。

 しかし初めて味わう俺にとっては、心地の悪い時期に過ぎなかった。


 雨が降る日が多いのは当然のことながら、蒸すような湿度の高い日々は晴天とも曇りとも違う特殊な天気。

 気温の割りに体感温度が高く、スッキリとしない状態がもう一月続いている。


 もしこれが湿地帯ならば、それに合わせた生活様式というものがあるものだ。

 しかしニホンでこの時期は、四季の中の十二分の一でしかないので、あまり特別な対策はしない。

 せいぜい普段から傘を持ち歩き、除湿に気を使い、そして晴れの日を待つことを諦めて洗濯をする程度。

 体調不良とまではいかないが、今月に入って絶好調と言える日は数日しかない。


 今日も登校したときから雲が濃くて心配な空模様だったが、やはり昼頃から雨が降り始めた。


 雨の音が室内までに響く中、午後の実習では1年1、2組で屋内の演習場を貸し切って、各々自主練を行った。

 普段ならば、蓮司と身体強化限定の模擬戦をすることが多いのだが、本日は俺の方から断った。


 テトラドの会で“魔法狩り”を暴走させて以来、能力の使用はできる限り控えている。

 多少の魔力吸収や身体強化ならば問題ないことは確認してあるが、全力は試していない。


 おそらく精霊との接触が暴走の引き金になったのだと思うが、判断材料があまりにも少ない。

 何より右腕の魔法式が消えていないことが気がかり。

 次の暴走が前回と同じ条件だという保証はどこにもない。

 このまま爆弾を抱え続ける訳にもいかないので、今後のためにも専門家の診断を早く受けたい。


 これまでに固有魔法としての“魔法狩り”を発動させた後は、ステイツにいる研究員兼医師のクレアさんの診察を受けてきた。

 彼女は定期的に俺の魔法式の記録とメンテナンスを担当している。

 能力の機密を保つためにも、今回もやはり彼女を頼りたい。

 現在、飛行機のチケットの手配を進めており、フレイさんからの連絡待ちの状態だが、来週にでも一時帰国することになりそうだ。


 さて、2時間の自主練は他人との接触は控えて、闘技場の端の方で静かに型の練習に費やした。

 闘いの基礎は幼少期にローズかあさんに叩きこまれたし、ステイツで軍の演習に合流してからも様々な技術を吸収した。

 しかしまだ満足はしていない。

 世界へと目を向ければ、未だ見たことがない武芸がある。

 戦場に身を置いていれば、稀に面白い技と出くわすもの。

 たまには記憶の中にある敵の動きをついつい真似したくなる。


 最初は単発で丁寧に攻撃を繰り出していたが、興が乗ってくると、連撃や他のスタイルへのスイッチングなどを試して実戦でも使えるのか検討した。

 魔法学園で黙々と武道の鍛錬をする俺の姿は稀有けうだが、クラスメイト達はもう見慣れているので特に気にする素振りはなかった。

 それに先週の校長による授業の影響なのか、肉体強化に励む学生は俺以外にもちらほらといた。


 何度か休憩を挟んだが、2時間も動いていれば、肌着はぐっしょりと汗を吸っていた。

 梅雨の時期の汗は格段に気持ちが悪い。


 演習場にはシャワー室が併設されてあるが、実習直後は利用者が多くごった返していた。

 せっかく右腕の魔法式をテーピングで隠しているのに、不特定多数が肌を晒す場にのこのこ行く訳にもいかない。

 とりあえずは一旦タオルで汗を拭いて、急いで寮の部屋にあるシャワーを使いたい。


 そして今、寮までの帰路。


 演習場を出てから、寮までの最短ルートを頭の中で整理する。

 午後が実習の日は、その後のホームルームはなくそのまま解散なので、もう教室に戻る用事はない。


 汗で心地悪い状態なのに、追い打ちを掛けるように崩れそうだった空模様はみそうにない雨が降っている。

 これが梅雨最後の雨になってくれればいいのにと、叶うか分からない願望を頭に浮かべながら着実に寮を目指す。

 演習場から寮までは10分ほどだが、足元が悪いと長い道程みちのりに感じる。

 こういう時だけ、珍しく東高の広い敷地が恨めしい。


 ようやく俺が寝泊りしている男子寮が見えてきたのだが、ちょうどその手前で人だかりができていた。

 ざっくり25人ほどで、うちの寮の奴らが多いが余所の連中もいる。

 大半が傘を開いているせいで、なぜ人が集まっているのか、俺の位置からでは分からない。


 無視して帰ろうとしたのだが、ちょうど集団の端にいた情報通なルームメイト、由樹と目があった。


「おう、芙蓉。なんでも捨て猫だってよ」


 ここは東高の敷地内だぞ。

 どうして捨て猫がいる。


 場所以前に動物を捨てることに反感を覚える。

 そもそもニホンはペットに対する理解が甘い。


 ペットショップでお金を支払えば簡単に買えてしまうのも問題の一端。

 動物愛護の精神が進んだ国だと、すでに飼っている人から離乳の済んだ子を譲ってもらい里親になるのが一般的。

 珍しい動物ならば、なおのことブリーダーに認められなければ飼ってはならない。


 そして動物を飼うと、最後まで見届けなければならない。

 もし次の引き取り手を見つけられないならば、絞める覚悟だって必要。

 大量処分ならばガスが効率的だが、動物用医薬品を用いれば穏やかに眠りへと促すことができる。

 それでも命を奪う方法はとても単純だが、殺すという行為はとても難しいものだ。


「せっかくだし、見に行こうぜ」


 イベント事が大好きな由樹が誘ってくるが、俺としてはあまり気分が乗らない。

 1度姿を見てしまったら、なかなか離れられなくなってしまう。

 誰かが引き取ってくれればいいのだが。


 円状に何周もしている人々の中央は、ちょうど外灯の真下。

 しかしその程度では梅雨の雨はしのげない。


 人が多すぎて近づいても猫の姿があまりよく見えないが、黒色の耳をちらりと捉えた。

 想像よりも一回り大きそう。

 猫種はメインクーンとかだろうか。


 それにしても何か違和感がある。

 周りのみんなの空気が動物に対する慈悲ではなく、珍しいものに対する好奇に近い。


 そんな折、同じ寮の顔見知りの先輩や同級生達が、由樹と俺の姿に気づく。

 すると彼らはなぜか俺達へと道を開ける。

 理由はまだ分からないが、嫌な予感しかしない。


 たくさんの水分を吸った段ボールの中に捨てられた猫がいた。


「……会長。何をしているのですか?」

「会長じゃないニャ。紫苑にゃんこニャ。拾ってくれニャ」


“紫苑にゃんこ”とは、作り物の猫耳を付けた会長様のこと。


 今からでも間に合うかな。

 無視しよう。

 うん、俺は何も見ていない。


 その場で綺麗に回れ右してから、背を向けて歩き出す。


「待つニャー」

「俺、昨日から猫アレルギーなんで」


「嘘つけ!」


 わざとあからさまな嘘を口にしたら、心地の良いテンポでツッコミをされてしまった。

 俺は彼女の顔色を確認せずに足を早める。


 すると四つん這いになった会長様が全速力で追い越し、進路妨害をして来る。

 大分長い時間雨に打たれてびしょ濡れになった会長様は、今度は犬耳を付けている。

 本気で走って逃げるか迷ったが、イベントバトルでは逃げられないのが世の常。


「拾ってくれワン。凛花に生徒会ハウスを追い出されたワン」


 副会長の謀反か。

 意外でも何でもない。

 むしろこれまでよく耐えた方だと思う。


 残念ながら生徒会メンバーは全員副会長派だし、会長に悪いとは誰も思わない。

 それに2人の蜜月みつげつを考えると会長が素直に謝れば、凛花先輩は許すだろう。


「どうせ何か悪いことをしたのでしょ。さっさと謝って許してもらったらどうですか?」

「どうして私が悪いと決めつけるワン。こっちの言い分くらい聞けニャ」


『語尾を統一しろ』と口にしたいが、ぐっとこらえる。

 早く解放されるためにも、できる限り理性的で大人な対応を心掛ける。


「じゃあ今回、会長は悪くないのですね?」

「いいえ。10:0で私きっかけの喧嘩よ! でも謝れないわ!」


 堂々と自白する会長様だが、そういう清々しいところはとても羨ましい。

 慣れてしまえば、彼女の魅力の一つとして感じる。


「とにかく拾ってニャ。美味しいご飯と暖かいベッドを用意して欲しいワン」


 厚かましい捨て猫というか、捨て犬というか。

 下手に俺がかくまってしまうと、喧嘩が長引く可能性がある。


「うちの寮はペット禁止なので、」


 実際のところ、動物は魔術の研鑽けんさんのための使い魔や触媒としてならば、武器同様に学園側に申請することで、校内への持ち込みは許可される。

 屋内で飼えるものなら寮にも入れられる。


 会長のペットのリルなんかは、鎖で繋がれておらず放し飼い状態だが、誰も文句を口にしていない。

 いや、言えないの間違いなので、あまり良い例ではなかったか。


 そもそもここで俺が無視したところで、彼女はどうせいつものように勝手に俺達の部屋に入ってくるのだろう。


 男子寮の玄関と各部屋には電子錠が施されており、許可された人物の学生証でなければ通ることができない。

 しかし会長様の学生証は凛花先輩が作ったハッキングプログラムがインストールされており、学内の全てのセキュリティを突破できる。


 拒むことが無理だとしても、拒絶の意思を表明する建前は重要。

 他の生徒の目もあるこの場で、会長を男子寮へと連れ込むほどの器量は俺にはない。


「後輩君。凛花に学生証のハッキングツールを没収されたのよ。だからこうして頼んでいるのじゃない。察しなさいよ!」


 そんな高度な先読みは、俺にはとても無茶な注文。

 それにしてもいいことを聞けたな。

 これで勝手に部屋に押しかけられる心配がない。

 ついでに語尾がもう消えている。


 たしか彼女は、生徒会役員の権限で生徒会ハウスに寝泊りしているが、それとは別に一般の女子寮にも部屋があるはず。

 そちらに行けば食事も寝床も保証されている。


「さっさと仲直りしてください」

「ちょっと、最近私の扱いが雑になっていない?」


 雑というか、慣れたというか。

 防衛本能が働いていると表現すべきか。


 会長様の一挙手一投足全てに対して、真面目に付き合っていたら、こちらの心身が耐えきれない。

 俺は彼女の護衛であって、召使いではない。

 もちろん機嫌を損ねないに越したことはないが、甘やかし過ぎも良くない。

 それにこの任務において、凛花先輩を敵に回すのは好ましくない。

 だから会長を匿うことは避けたい。


 再び寮へと歩き出す俺に由樹も続く。

 彼だって余計なことに手を出したくない。


 これ以上会長がついてくることはなかったが、彼女にしては聞き分けが良過ぎる。

 いつもならば、もう一押しくらいあってもおかしくない。


 ***


 熱いシャワーを浴びている間だけは、梅雨の湿気を気にしなくて済む。


『芙蓉、俺はちょっと出かけて来るわ』


 寮の部屋に戻ってから、すぐに由樹が席を外した。

 なんでも部活の前に荷物を取りに来ただけらしい。

 急いで汗を流したかったので、俺には都合が良かった。


 以前から魔法式を隠すために、1階にある共同の浴場ではなく、部屋に併設されている小さなシャワー室を利用している。

 これまではルームメイトの蓮司や由樹が部屋にいても気にしなかったのだが、右腕の魔法式が消えなくなってからは勝手が異なる。

 できる限り1人だけの時間に利用しているし、彼らがいたとしても何かに集中している間に済ませている。


 せっかく2人がいないので、あまり時間を気にせずに丁寧に汗を洗い流す。

 個室のシャワーを使うのはほとんど俺だけなので、備え付けてあるシャンプーやボディーソープはこちらの好みで用意したもの。


 さて、人は顔や髪を洗い流す瞬間はどうしても無防備になる。

 状況によっては命取りもありうる。

 視界がゼロになり、背中はがら空き。

 しかもシャワーが、小さな物音をかき消してしまう。


 治安の良いニホンならばそれほど心配はないのだが、染み付いた癖みたいなもので警戒をしてしまう。

 だから俺は背中をできる限り壁に近づけて後方からの奇襲を防ぎ、目は常に開けて視界を完全には失わないようにする。

 さらに片手はシャワーヘッドを握っており、襲撃者にお湯を浴びせたり、投げつけたりできる状態を保つ。


 そんな俺に対して、身の程知らずが現れた。

 闖入者ちんにゅうしゃに対して、躊躇ちゅうちょなくシャワーを向ける。


「熱っ、ここお風呂!? 間違っちゃった!? ってか前が見えなーい」


 シャワー室のドアを開けることなく現れることができるのは、会長くらいしかいない。


 電子錠のハッキングプログラムを取り上げられたことで安心してしまったが、彼女には転移魔法があった。

 その性能は未知数だが、結界のない部屋に侵入するくらいは想定しておくべきだった。


 とりあえずこちらは何も着ていない状態なので、シャワーを止めずに彼女の視界を遮る。

 すぐに傍にあったタオルを取って下半身をおおう。


 局部は隠したが、俺はシャワーを会長の顔にかけ続ける。

 文句を言葉にしても彼女には通じないので、態度で表すことにした。


「後輩君。ちょっと! こんなマニアックなプレイまだ早いわ」

「勝手に部屋に転移してきておいて、何がプレイですか!」


「だから、間違っちゃったの! 後輩君のベッドに忍び込むつもりだったけど、見えないところへの転移は難しいのよ。そのくらい分かりなさいよ!」

「無茶を言うな。ついでに開き直るな! 嘘でもいいから、少しは反省して、しおらしくしろ!」


 そう言い終えたところで、俺はようやくシャワーを止める。

 会長は服を着たままびしょ濡れなのだが、俺だけのせいではなく、雨の中に長くいたからだと断じたい。


「先に出るので、シャワーを浴びてしまってください」


 ***


 寮の部屋では会長が長いシャワーをしている。


 会長をシャワー室に残した俺は、すぐに体を拭いて髪を乾かすと、動きやすいジャージに着替えた。

 彼女が脱ぎ捨てたずぶ濡れの服を、自身の洗濯物に混ぜて持ち出した。


 寮の1階には共同の洗濯乾燥機がいくつも並んでいる。

 東高は魔法第1公社の系列で資金は潤沢なので、寮の設備はしっかりしている。

 洗濯物を入れて蓋を閉じると、後は勝手に洗い、すすぎ、脱水そして乾燥まで全自動で行ってくれる。

 洗濯を始める前に学生証で認証を済ませておくと、電子ロックが作動する機能まである。


 男子寮で女子学生の制服を洗濯するとさすがに怪しいので、俺の衣類やタオルなんかも混ぜておいた。

 ちなみに会長様はちゃっかりと脱いだばかりの自身の下着だけは、洗濯ネットの中に入れてあった。


 洗濯機をセットして部屋に戻ったら、スマートフォンにメッセージが届いていた。

 同じ生徒会の1年生役員の由佳から。


 段ボールに入った会長と遭遇した時点で、由佳には凛花先輩の様子を探るように依頼しておいた。

 報告によると、謀反を引き起こした副会長は対外的には普通だったそうだ。

 しかし彼女を慕っている由佳は、いつもよりもピリつく空気を感じとったよう。

 放って置きたかったのだが、早期解決のためには、会長からの事情聴取は避けて通れないようだ。


 洗濯のために長袖のジャージを着た俺だったが、1度脱いで上半身肌着になって涼しむ。

 今は他に誰もいないので、部屋のクーラーを独り占めしてゆっくりできる。


「ふぅー、さっぱりしたぁ」


 白いバスタオルを巻いた会長様が、4つの勉強机が並ぶ居間に現れる。

 俺が背中を向けると、彼女は堂々と備え付けの小型の冷蔵庫から飲み物を取り出す。


 実はこのような光景は初めてではない。

 4人で生活することを想定されたこの部屋には、机にベッド、そしてクローゼットなど全て4組ずつある。

 勝手に来て、強引に寝泊りする会長様は私物をいくつも持ち込んでいる。

 冷蔵庫には彼女の飲み物とお菓子があるし、クローゼットの中には下着や寝巻なんかが入っている。

 この部屋の他の住人達もこのことを知っているが、さすがにバスタオル1枚でうろついていることは話していない。

 いつもなら会長様はシャワーを浴びる前に、蓮司と由樹のことを気絶させている。

 今日は2人とも不在で命拾いをしたな。


 会長が服を着るために寝室への扉を開けたタイミングで、もう1つ開閉音が鳴る。

 俺はすぐに掛けてあったジャージを手にして右腕を隠す。

 魔法式を庇う判断は誤りだった。


「俺としたことが、肝心の資料を部屋に忘れちまったぜ」


 外出したはずの由樹が意外と早く戻って来たのだ。

 そんな彼は急停止。

 視線が一点でフリーズ中。


 俺は急いで、バスタオル1枚の会長を強引に寝室へと押し込む。


「ちょっと、後輩君!?」


 無防備な格好をする彼女に対して、いつも興味のないフリをしている俺だが、さすがに他の男の目に入るのは嫌う。

 だけどこれはどちらかと言えば、由樹のため。

 会長ならば目潰しくらいならば平然と、最悪の場合は建物ごと粉砕しかねない。

 しかしこの行動は俺自身のためにはならなかった。


「芙蓉……大人……階段」

「いやっ、ちがっ」


「事後? それともこれから……」

「そうじゃなくて、」


「いやいや。あー! あー! 聞きたくない。聞きたくない。1時間、いや、2時間は戻って来ないから安心しろ。蓮司にも伝えておくから。ご、ごゆっくり」

「待て。そんなんじゃない。って、聞けぇー!」


 由樹は足早に出て行ってしまった。

 どうして俺の周りの連中は、こうも他人の話を聞かないのだろうか。

 良識のある蓮司が誤解を解いてくれることに期待するしかない。


 今は会長のケアが優先。

 寝室へと無理矢理押し込んでしまったが、怒っていないだろうか。

 とりあえずノックしてみるが、特段反応はない。

 ゆっくりとドアを開ける。


 すぐに足元に落ちているバスタオルが目に入った。


「まったく」


 ため息まじりな感想をこぼしてから、タオルを拾う。

 一度伸ばして、半分に折ってから自身の腕に掛ける。

 会長はしっかりしようと思えばできるはずなのに、凛花先輩や俺の前ではだらしない姿を全面に出さないと気が済まないのか。


 いつも会長が使っている空きベッドへと目を向けるが、そこには誰もいない。

 部屋全体を見渡すとして俺の寝台の上に彼女が横になっていた。


「今晩泊めてくれたら、紫苑にゃんこがニャンニャンしてあげるニャ」


 なんの冗談なのだろうか。

 再び黒い猫耳を付けた会長様は、夏仕様の軽めの掛布団から肌色の肩を片方だけ見せている。

 とても魅力的ではあるが、騙されてはならない。

 誘惑しているようだが、彼女の口角が微かに上がっている。

 こんなあからさまな罠に飛び込むほど、俺は愚かではない。


 クローゼットの中から彼女が持ち込んだ露出が少なめの水色のパジャマを選んで投げつける。


「さっさと服を着てください。それに髪の毛が濡れたまま、布団に入らないでくださいよ」

「もー。後輩君ったら。初めて会った頃と違って、あまり動揺しなくなって面白くないわ」


 動揺していない訳ではない。

 ただ表に出さないようにしているだけ。


 それに本日の会長様はイマイチ不調。

 いつもならば強引にスキンシップを促したり、蠱惑的こわくてきな誘惑をしたりと対極な顔を使い分ける彼女だが、今日はキャラが定まっておらず、良さを相殺している。


 肌を少しだけ見せてからの誘惑は俺の好みを押さえている。

 しかし猫耳を活かすために照明を明るくして余計な言葉を付け加えたせいで色気が半減してしまった。

 足せば良いものではない。

 なり振り構わない感じは、正直引いてしまう。

 攻め手を絞りきれないのは、凛花先輩と喧嘩中なのが原因だろうか。


 ***


 散々な日だ。

 天気だけでも陰鬱いんうつなのに、会長は凛花先輩を怒らせて寮に押しかけるし、由樹には要らぬ誤解を抱かせてしまった。


 意気消沈している俺を尻目に、パジャマ姿の会長様はドライヤーで髪を乾かしている。


「それで、何をやって凛花先輩に追いだされたのですか。どうして謝罪をしないのですか。先輩は良くできた人なので、しっかり謝れば許してくれると思いますよ」

「どうして私の話を聞いていないのに、私が謝るべきだと決めつけるのよ」


 たしかにここまで事情を何も聞いていないのに、先入観で会長側に問題があると思ってしまった。

 これまでの彼女の前科を考えれば仕方がないことかもしれないが、誤解などによるすれ違いの可能性もあるか。

 先程、会長は喧嘩のきっかけが自身だと口にしていたが、凛花先輩にも落ち度があったのかもしれない。

 それに凛花先輩は生徒会で頼れる先輩だが、熱くなりすぎる一面がある。


「後輩君、分かった? 人の話は最後まで聞くものよ。お姉さんからのアドバイス」

「あんたが言うな!」


 つい本心が口に出てしまった。

 会長様は校内ランキング1位の絶対強者だが、人の話を聞かないことでも他の追随を許さない。


 まぁ、俺からしてみれば、彼女だってまともな方。

 裏の世界には、言葉の通じない畜生にも劣る連中なんていくらでもいた。


「じゃあ今回は、会長は悪くないのですね」

「そうよ。ちょっと魔法の練習で失敗しただけよ」


 魔力の上限を見せたことのない会長様が、魔法の練習で失敗をすれば、被害は甚大だろう。

 そのためなのか、生徒会専用の第9演習場には、魔力を外に漏らさない結界が張られている。

 そしてただ魔法を失敗したくらいで、凛花先輩が怒るだろうか。


「それで、失敗の被害は?」

「……ゃんこ……」


「聞き取れなかったので、もう1度お願いします」


 魔法で強化していなければ、俺の聴覚は並の少し上程度。

 口元を読むにしても、そもそも口がほとんど動いていない。


「魔法に失敗して、凛花のにゃんこのぬいぐるみが千切れちゃっただけ」

「……やっぱり会長が悪いじゃないですか!」


 100歩譲ったとしても、彼女の過失だな。

 だけど解決の糸口は見えてきた


「どのように魔法を失敗したら、ぬいぐるみを傷つけつけるのですか?」


 俺の持つ会長のイメージならば、魔法を暴発させたら、建物のひとつが吹っ飛んでもおかしくない。

 それに意外と彼女は魔力の制御が上手い。

 単純に放出するだけでなく、固めて障壁を出したり、無属性の弾丸を撃ち出したりできる。

 さらには林間合宿では、身長の倍以上のリュックサックの形が崩れないように補強したこともある。

 そして普段からよく使う全身の身体強化も実はかなりの高難易度スキル。


 そんな彼女が失敗した魔法とは、


「凛花の固有魔法よ。ぬいぐるみの意思を呼び起こそうとしたの」


 そういうことか。

 ようやく今回の全貌が分かった。


 テトラドの一件で沙耶ちゃんの処遇を巡って会長と俺は対立することになった。

 その際に彼女の新たな能力を目の当たりにした。


「やはり会長は騎士達と同じ魔法を使えるのですね」


 固有魔法“指輪の騎士達”。

 彼女に誓いを捧げ、指輪を受け取った騎士達は強力な固有魔法に目覚める。

 さらに九重紫苑は騎士達と同じ能力を扱える。


 俺が知る限りだと、凛花先輩の物質操作、静流先輩の斬撃による遠当とおあて、リルの精神支配。

 他にも転移、呪術、回復。

 強力な能力だがその練度はとても低く、実戦だと虚を突く奇襲くらいでしか通用しない。

 それでも今後の成長次第では、ますます手がつけられなくなるかもしれない。


「そんなに便利な力でもないわ。出力はオリジナルの10分の1くらいだし、しかも能力の中身は騎士の適正によって決まっちゃうので、私との相性は関係ない。戦いで使いこなせていないことは後輩君だって知っているでしょ」


 何事においても、極めるというのはとても難しい。

 それが騎士達の個性が反映された固有魔法ならばなおさら。


 発動条件を満たすことは、魔法という超常を扱う第1歩に過ぎない。

 長い歳月を掛けて、ようやく免許皆伝になる。

 東高は新たな魔法を修得する場ではなく、プロとしての基礎を養う3年間。


 俺だって今の戦闘スタイルから、方向性の違う余計な魔法を増やしたいとは思わない。

 その点、霊峰で使ってしまったが、左腕に仕込んでいたファイアボールは邪魔にならない一点物。


 会長だって、そんなことを分かった上で練習していると思う。


「特に凛花の魔法は扱いが1番難しいの。私が使うと石ころをいくつかのパターンで動かすことしかできない。もっと他のモノも動かせていたら、もっと自由に動かせていたら、上手く沙耶ちゃんのことを守れた」


 たしかにあの場に凛花先輩がいたら、俺は沙耶ちゃんに指1本触れることができなかっただろう。

 魔法として威力や派手さはないが、とても汎用性はんようせいの高い能力。

 そんな彼女の固有魔法は、ただモノを動かす力ではない。

 モノの自我を呼び起こして、味方にする。

 プログラムされたゴーレムとは違い、各々が判断して独自に行動するので、イレギュラーへの対応がとても早い。

 決闘では数の利を得ることができるし、集団戦闘においては連携強化に使える。

 そして会長の言う通り、守りの戦いにとても向いている。


 次点だと、転移魔法が役立つ。

 発動には溜めが必要なので、戦闘中だと数メートルの移動がせいぜい。

 インターバルがもっと短ければ、空間的にでも沙耶ちゃんと精霊を引き離すことができた。


「そこで凛花の能力を練習するために、生徒会ハウスにあったぬいぐるみを使っていたら、他の魔法が発動しちゃって、前足が千切れちゃったの。ほら」


 そう口にした会長はどこからか袋を取り出す。

 彼女が着ていた衣類と違って、なぜだか雨に濡れていない。


 膨らんだ袋の中から白い猫が現れた。

 シャムに似ているが、実在する猫ではなく想像上のキャラクター。

 4本の足で立った姿勢のはずのぬいぐるみだが、その右側の肩から先が千切れている。

 傷ついた足は本体から完全に分離している訳ではなく、かろうじて残った皮膚に繋ぎ止められて、だらんとぶら下がっている。

 中の綿もいくらか抜けてしまっているようだ。


「凛花に謝るのは、この子を直してからよ。という訳で裁縫の練習をするから、それまで匿って」


 会長様はぬいぐるみが入っていた袋の中から、真新しい携帯用のソーイングセットと“はじめての裁縫”と表紙に大きく書かれた本を取り出す。


 彼女からは初心者丸出しの予感しかしない。

 ぬいぐるみの修復は、袖のほつれや、取れたボタンを縫い直すのとはレベルが違う。

 意外なところで器用さを見せることのある会長様だが、基本的には落ち着きがなく大雑把な性格なので、縫い物に向いているとは思えない。


 練習を所望する会長様だったが、突然俺のベッドの上にある布団のカバーをびりびりと引き裂いた。


「ちょっと! 何をしているのですか?」

「後輩君は馬鹿なの? 縫い物の練習をするために決まっているでしょ」


 理不尽すぎる。

 練習ならば適当ないらない布を使えばいいものを、俺の布団を破る必要はないだろ。


 初心者向けの本を開きながら、糸と針を手にする会長様に、俺は目を離すことができない。

 学校の備品とはいえ、今晩だって俺が使うはずのものなので気が気でない。


 そんな彼女の手つきは最初こそ良かったものの、徐々に縫い目がガタガタにズレていく。


「あ~、もう、イライラする。どうしてできないのよ」


 やはり暴発したのだ、たった5分で。


 予想通りの展開で、彼女の意外性が活躍することはなかった。

 ここでツッコミをしてしまっては状況の打開にはならない。


「どうしても自分で直すことにこだわっているのですか。誰かに頼ることはできないのですか?」

「静流も手芸は初心者だし、凛花なら得意だけど……」


 東高の副会長はなんでもできる天才肌だな。

 彼女の努力もあるだろうが、財閥工藤家の英才教育の賜物なのだろうか。


 それにしても仲直りのための裁縫なのに、喧嘩中の相手に教えを乞うのは確かに違うよな。


「他に知り合いはいないのですか? 生徒会メンバーならば由佳とか芽衣辺りが得意そうですよ」

「私はお姉さんなのよ! 情けない姿は見せられないわ」


『安心してください。俺の前ですでに何度も醜態しゅうたいを晒していますよ』とは決して口にしない。


「九重院ならどうですか?」


 転移魔法を使える会長ならば、距離はあまり問題にならない。

 小さい頃から暮らしている彼女にとっては馴染みの場所なので、羞恥しゅうちはないだろう。


「お姉ちゃん先生は家事とちびっ子達の面倒で忙しいし。久遠だって魔法の勉強で大変なのよ。それに院を出たのに心配をさせたくないわ」


 話ながらも会長は手元を見ずに、ぐちゃぐちゃと縫い合わせている。

 彼女の先生になれる適任者がいないようだが、このままにしていたらいつまで経ってもぬいぐるみの修復に辿り着けそうにない。


「少し貸していただけますか」


 俺は会長から針と布団カバーを受け取ると、彼女がやろうとしていた縫い方を真似てみる。


 魔法と料理以外の生きていくための知恵はローズかあさんから教わった。

 結果として家事スキルも標準装備。

 手芸全般が完璧とは言い難いが、縫うだけならば俺にでもできる。


 ちなみに魔力を持たない俺には魔法の才能はないし、ローズ自身が知識を授けることを渋っていた。

 そして料理に関しても、彼女が味音痴だったので、教わることなく自分で工夫するしかなかった。

 当時は吸血鬼の味覚は人間と異なると思っていたが、もしかしたら違ったのかもしれない。

 同じ吸血鬼のダニエラは食が趣味と言っていた。


 さて、実際に裁縫を行うのは随分久しぶり。

 最初のひと針、ふた針を通すときは丁寧に手先を意識する。

 プロセスの確認が済んだら、後は単調に手際よく糸を走らせていく。


「ちょっと、後輩君すごくない!? もっかいやってみせて。やって、やってぇ」


 そう口にした会長は、せっかくが縫い直した布団カバーを再び裂こうとする。


「待てーい!」


 理不尽を2度も許さない。

 彼女の手を掴み妨害する。

 フルパワーの絶対強者に敵わないことは分かっているが、さすがに屋内で馬鹿力を使うほど彼女は愚かではない。


「どうして駄目なの? 後輩君のいじわる。鬼畜。クズ男」


 酷い言われようだな。


「このやり方では、ぬいぐるみの前足は縫えませんよ。少し待っていてください」


 会長が持ってきたソーイングセットに入っていた縫い針は、初心者が扱うのにちょうど良い長さと太さ。

 しかし細かい作業をするのにはあまり向いていない。

 ぬいぐるみの足を半分くらいまでなら縫うことができても、途中で小回りが利かなくなってしまう。


 俺は1度居間に行ってから、大きめの救急箱を持って戻る。

 中から取り出すのは、皮膚を縫うための医療目的の縫合針。

 そしてピンセットと鉗子かんしも使う。

 糸だけは黒色のナイロン糸しかないので、会長が持ち込んだ白い糸の中から細いものを借りる。


 裁縫と違って、傷口の縫合なら自身の肉体はもちろんのこと、仲間の応急手当で時々行っていた。

 ステイツの同僚の間では随分評判が良かったものだ。


「会長は胴体の方を持っていてください。途中までは俺がやりますから、仕上げは自分でやってくださいね」


 彼女の弱点は単純作業を続けられないせっかちな性格。

 ならばほとんど俺がやってしまった方が確実。


 まずは綿を適量詰め直して、さっそく縫い始める。

 外科用の三日月型の弱湾じゃくわん縫合針に、刺繍用の糸を付けて、鉗子で挟む。

 ぬいぐるみの皮膚に針を刺すと、1度鉗子を外して、ピンセットで針を最後まで通し、再び鉗子で針を掴む。

 糸の片端を縛って抜けないようにすると、後は同じ要領で針を刺して皮膚へ糸を通していく。


「ここからは会長がやってみてください。縫合針は小さくて失くしやすいので、しっかり鉗子で挟んでくださいね」


 役割を交換して、今度は俺がぬいぐるみを持つ係。

 会長も短時間ならば、高い集中力を発揮する。

 彼女も俺の作業を引き継いで、しっかり等間隔に針を通していく。

 そして前足を一周したところで、最後に2回結んで余った糸を切る。

 これにて完成。


 ひと段落したところで、会長が心情を吐露する。


「私って駄目駄目ね。東高に入学して半年で絶対強者なんて呼ばれるようになったけど、せっかくの能力はまったく使いこなせていないし、魔法以外は何もできない」


 えらく弱気な会長様。

 これから凛花先輩との仲直りが控えているからだろうか。

 まぁ確かに会長は凛花先輩がいなければ、ポンコツだな。


「魔法だけが力ではありませんよ。会長には東高で得たものは他にないのですか。凛花先輩や静流先輩はもちろんのこと、あなたのことを慕っている者は少なくありません」


 嘘は言っていない。

 イベント好きな学園の女王は、自身の横暴以外では公平な人物で支持率が高い。


「指輪の騎士達。とても素敵な能力ではありませんか。さっさと凛花先輩に謝って、仲直りしてください」


 会長が騎士と同じ能力を使えるのは、おそらく副次的なもの。

 信頼できる仲間がいてからこそ真価を発揮する魔法。

 第5公社の副長という立場にもとても合っている。


「そうよね。人気者のお姉さんなのだからこのままでいいのよね。後輩君は良く分かっているじゃないの」


 会長の顔がパッと明るくなった。

 感情がコロコロと変わるのは、もはや彼女のアイデンティティのようなもの。

 できればもう少しの間は反省して欲しかった。


「後輩君も私の力になってくれる?」

「もちろん、手を貸しますよ。報酬次第ですが」


「意地悪ね。そういうドライなところ、お姉さん的には嫌いじゃないわ」


 素っ気なく突き放したつもりが、無防備な懐に飛び込まれてしまった。

 俺のことを意地悪と評した会長の方こそズルい。

 やはり彼女には、口では勝ち目がなさそうだ。


「それじゃあ、凛花のところ行って来るね」

「ちょっと待ってください。その恰好で出ていくつもりですか」


 今の会長様はパジャマ姿だ。

 転移の能力を使えば人目は避けられるのだが、さっき失敗してシャワーを被ったばかり。

 それに謝罪をする格好ではない。


 ***


 洗濯乾燥機から取り出した会長の制服を部屋へと持ち帰った。

 スピードモードを選んだので仕上がりを心配していたが、雨とシャワーに濡れただけなので目立った汚れはなかった。


 今は勉強机でコーヒーを飲みながら、寝室で制服へと着替えている会長様を待っている。


 そんな中、トントントンと、ノック音がした。

 会長側ではなく、共通の廊下の方から。

 コーヒーカップを置いた俺は、相手を確認してからドアを開ける。


 ノックの主は、俺と同じくこの部屋の住人の由樹。


「芙蓉、卒業おめでとう。絶対に祝わないぞ。こんちくしょうめ」


 そう言えば、まだ誤解を解いていなかったな。

 由樹の後ろには、3人目のルームメイトの蓮司の姿もあった。


「2人の仲が徐々に縮まっているので、いつかはこうなると思っていたが、案外早かったな」


 しっかりと周りを見られている蓮司ならば、由樹の早とちりを訂正してくれると思っていたが、期待は裏切られた。


「ちが、」

「後輩君。おっ待たせぇー」


 慌ただしいことに、寝室から会長様のご登場。

 しかもブラウスの上の方のボタンを掛けながらだ。


「やっぱり、芙蓉が大人になっちまったぁ!」


 由樹の暴走が止まらない。

 蓮司も何故だか納得したような面持ち。


「会長も何か言ってくださいよ」

「……は、はぁーん」


 まずい。

 何かを企んでいる顔だ。


「後輩君が意外と(手芸に)慣れていて驚いてしまったわ。(縫う)手つきがとても繊細で興奮したよ。おかげで(凛花と仲直りして)今晩はぐっすり眠れそう」


 どれも間違ってはいないが、一部を伏せつつ、誤解を拡大させるような言葉をあえて選んでいる。


 会長は俺のほほの辺りに軽く触れて耳元で囁く。


「私も頑張って仲直りするから、後輩君も頑張ってね」


 慌ただしい彼女はすぐに部屋から出て行ってしまった。

 俺の勘違いかもしれないが、彼女の腕の中にあった白猫がこちらに向けてお辞儀をしたように見えた。


 そしてとんでもない置き土産が残されてしまった。


 1時間の説得と現場検証の末、由樹と蓮司は何もなかったということで一応は納得してくれたが、まだ疑われている。

 証拠が出なかったせいで、逆に蓮司から避妊具を用意しておくように念を押された。


 会長と俺にそんな未来があるのだろうか。

 少なくとも場所くらいは選ぶ。

 寮の相部屋など論外だ。

 そんな趣味は俺にはない。


 そしてスマートフォンには会長から1文だけ、『凛花にはちゃんと謝ったから。以上』とメッセージが届いていた。


 ***

『おまけ』


芙蓉「会長の転移魔法どうにかなりませんか?」

凛花「屋内への侵入ならば、退魔の護符で防げるぞ」

紫苑「凛花。余計なこと教えないでよ」


芙蓉「さっそく胡桃にお願いしてみます」

凛花「ぬいぐるみのお礼さ」


 ***

『あとがき』

2人がいちゃつくだけの回でした。

次回より“SS5 ステイツ一時帰国”を全5話で予定しております。

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