SS7 草薙胡桃とリゼット・ガロ
前に重心があるこの剣は連撃に不向きだけど、一撃必殺の破壊力を生み出します。
それでも対峙する強敵は刃の軌道をしっかりと読み、バックステップでギリギリの間合いを保ちながら回避します。
本来、紙一重で回避するのは反撃を狙うためです。
でも目の前の彼女は、私を試すための所作であって、攻撃の気配はありません。
振ったカトラスの重みで上半身が前のめりになりますが、いくら反撃がなくても無防備な姿を
利き腕に握られた小太刀で地面を斬りつけることで、傾いた重心を中央へと押し戻します。
攻防どちらにも転じられる姿勢で、両の手の武器を構え直します。
「
右に小太刀、左にカトラス、そしてそれぞれの得物の上に、
2つの武器が札の形へと収納され、式神が新たな武器になります。
手の中にある札と、次の武器を手品の要領で取り替えます。
新たに右に召喚したのはツヴァイヘンダー。
長さだけなら太刀と大して変わらないけど、その重量で叩き斬る神聖ローマ帝国の流れを汲む刀剣なのです。
長い柄の上部に利き手、その下にもう片方の手を添える武器。
本来は両手で使うべきですが、持ち上げるだけならば片手でも大丈夫なのです。
わざわざ空けた左手の中に隠し持つのは2枚の小さな手裏剣。
回転を加えて投げるタイプの4枚刃の平型。
巨大な武器を扱う場合は自身の隙をカバーするか、相手の隙を生み出す必要があります。
ツヴァイヘンダーの切っ先を地面に引きずりながら直進します。
1度持ち上げて肩に載せると、タイミングと軌道を修正してから振り下ろします。
もちろんこんな単純な攻撃が通用するような相手ではないので、ゆったりと余裕のある動きで回避を許します。
地面に突き刺さった大剣を引き抜くと、柄に左手を添える
この状況下であり得る太刀筋は、切り払いしかありません。
そのことをしっかりと印象付けた上で、隠し持っていた手裏剣を投げます。
訓練用に刃を削ってありますが、それでも十分な回転を維持しながら標的へと飛来します。
直線的だった先程までの攻撃とは違って、複雑な軌道を描く手裏剣に対して、対戦相手は手に持つ細剣で冷静に叩き落します。
注意が手裏剣に向いた隙をついて、本命の切り払い繰り出します。
今度こそ攻撃を通したつもりでした。
「まだ……踏み込み、浅い」
ツヴァイヘンダーによる斬撃を、細剣で受け止められていました。
魔法障壁は使っていないはずですが、腕に残る手応えは壁を叩きつけたようなとても硬い感触です。
単純な剣の技量によるものではなく、何らかの魔法で強化しているのでしょう。
それでも飛び道具を打ち落としてからの、対応は彼女自身の反応速度によるものです。
振り抜けない以上、1度引くしかありません。
ツヴァイヘンダーを手放すことで、札を経由して式神に変化させます。
空いた手に次の得物を呼び寄せます。
ここまで接近したならば、どうしてもクロスレンジを維持することを意識してしまいます。
手の中に換装したのは、フィンガーナイフ。
柄の部分がとても短くて握ることができない代わりに、その端に着いたリングに指を通して回転しないように隣の指で押さえて使う暗器です。
ツヴァイヘンダーが化けた鴉に相手の視界を遮らせて、その影から切り込みます。
だけど指1本分届きませんでした。
ただナイフを突き出すだけなのに、体力が残っていなかったのです。
そのまま地面にへたり込んでしまい、全ての術が解けてしまいました。
ゴトゴトと、式神に変換していた武具が地面に落ちていきます。
「ここまで……休憩」
立ち上がることのできない私の隣に寄り添ったのは、先ほどまで対峙していた彼女。
見上げた白い髪が陽の光で銀色に輝いて見えます。
着ているのは東高の制服なのに、たった1本の細剣とその凛々しい
リズちゃんこと、リゼット・ガロ。
イタリーから海を越え、この島国に乗り込んできた女騎士。
少し不思議なテンポのある子だけど、面倒見の良い女の子。
東高の中庭の一角。
放課後の学生達の憩いの場である一方で、魔法を試す方々もいます。
演習場と違って使える魔法に制限がありますが、剣戟の軽い打ち合いくらいならば、誰も
剣術の修行は草薙の家でもたくさんしてきましたが、対戦相手は王道の剣道家ばかりでした。
分家としてニホン刀だけでなく、手裏剣やクナイなどの暗器の扱い方も学びましたが、東高に入ってからは西洋刀にも手を伸ばしています。
同じ刀剣だとしても、それぞれに求められる型は異なります。
そして新しい得物に慣れる上で、手っ取り早い方法は、
細剣しか使わないリズちゃんですが、その一挙手一投足にはしっかりと西洋剣術の思想が根付いています。
そこに辿り着くために、彼女自身が一通りの武具を手にしたのか、それとも多くの剣士たちを相手にしてきたか、あるいはその両方なのでしょう。
斬ること1点に関しては静流お姉様の方が勝っていますが、手加減とかできる人じゃないので手合わせしたことはあまりありません。
それに比べてリズちゃんはしっかりと私の動きに合わせて1歩先に回り、こちらの最適な行動を引き出してくれます。
新人戦では同門の伊吹君相手にカトラスで不意を突くことができましたが、まだまだ完成度が低く実戦では使い物になりません。
斬ることに特化した白刃を持つニホン刀に比べて、同じ長さの西洋刀でも重みがあります。
辛うじてツヴァイヘンダーを振り回すことはできても、あっという間に体力を消耗してしまいました。
幼少期より稽古しているので、基礎体力は十分につけているつもりです。
心肺機能はこれ以上鍛えようがないし、あとは筋肉と脂肪を蓄えるしかありませんが、それは身軽さと引き換えになってしまいます。
何より急激に鍛えることで、
そんな私ですが、草薙の裏門において免許皆伝まで後一歩なのです。
様々な術を修めましたが、残るは『
獣と契約を交わして、必要なときに呼び出して使役する術。
私の血筋は蛇との相性が良いのですが、私個人は蛇が苦手で、この術を会得できていません。
紫苑お姉様の相棒リルのように、強力な使い魔ができれば一気に強くなれます。
しかし主として認めさせることを考えれば、自分よりも強い相手を使い魔にするのは現実的ではありません。
結局のところ強くなるのに楽な近道はなく、少しずつ手探りに自身の肉体と技術そして魔力を高めるしかないのでしょう。
せめてもう少し身長が伸びてくれればとだけは、わがままを言いたいのです。
東高に入学したときは、新たな環境で静流お姉様の傍にいられる域を目指して、修練に励む前向きな気持ちでいっぱいでした。
目の前のリズちゃんは別格だとして、世界中のエリートが集まるこの学校でも、私の実力はクラスメイトたちと大差ありませんでした。
林間合宿では魔獣相手の命のやり取りでもあまり動揺しませんでした。
だけど鬼の集団と戦うことになったときは、偵察に専念するだけで大して役に立つことができませんでした。
この経験の後から周りとの差を自覚するようになりました。
単純な地力の違いではありません。
ほとんど同じ時間訓練しているはずなに、一緒に死線を乗り越えたクラスメイト達は見る見るうちに成長していきました。
私だって実力を蓄えているけど、そのペースは以前と変わりません。
そして決定的になったのが、新人戦。
リズちゃんたち3人は紫苑お姉様を狙う敵を撃退し、トーナメントに参加した私以外の3人は準決勝に進むことで、誰が優勝しても文句のない力を示しました。
今に至っては、静流お姉様達の第5公社から勧誘を受けていないのは、生徒会メンバーで私1人だけなのです。
ようやく立ち合いの疲れが取れてきたので、立ち上がり、飛び散った武器を拾いに行きます。
まだ完全には回復していないので、ゆっくりとした足取りです。
無生物を呪符へと変換するのに、1度魔力を支払えば維持にはあまり使いません。
今みたく集中力が切れない限りは、寝ていても元に戻ることはありません。
全ての武器を回収した私は、軽く背伸びしながら体をほぐします。
「もう1本、お願いなのです」
「無理……もう時間」
断られてしまいました。
いつもだと後2、3本ほど付き合ってもらうのですが、今日はこの後に予定があったのです。
珍しいことに私たち2人揃って、学園側から呼び出されております。
一昨日のホームルーム終わりに担任の後藤先生から通達されましたが、どこか歯切れが悪かったのです。
「……シャワー」
「そうなのです。1度寮でシャワーを浴びたいのです」
まだ集合時間まで余裕がありますが、汗を流すなら少し急がなければいけないのです。
***
第1演習場。
先日の新人戦での沸きだす熱気とは打って変わって、ランキング戦が組まれていない本日は閑散としています。
9つある演習場の中で唯一の屋外闘技場。
客席には雨除けの屋根があるけど、舞台のある中央スペースは日の明かりに照らされ、夜はLEDライトの照明が完備されておりナイターもバッチリなのです。
ここに来る前に急いで寮に戻って、部屋でシャワーを浴びたのでまだ少し体が火照っております。
髪の毛は夜に洗うとして、時間短縮のためにリズちゃんと一緒にシャワーを済ませちゃいました。
「よく来たな。魔導の
コンクリートで創られた長方形の舞台の中央にいたのは、この東高の
それは生徒会長であり校内ランキング1位でもある紫苑お姉様ではなく、立場も責任だって頂点の人物。
校長先生。
入学式や新人戦で、印象的な演説をしたやたらと暑苦しい人なのです。
学園の指導の舵取りを決めるトップでありながらも、3年生の実習まで担当しており、暇さえあればランキング戦にも顔を見せています。
学生たちの前に頻繁に現れる馴染みの人なのに、みんなから校長と呼ばれているせいで、その本名は誰も知らず、東高七不思議のひとつなどと言われております。
よくある話なのですが、東高七不思議の7番目は、7個全てを知った学生は行方を眩ますという結末です。
ちなみに私が知っているだけでも23個あるので、3回
なお校長先生の見た目は40歳くらいの男性なのに、公式記録の就任から逆算すると、70歳以上というのも23個の1つに入っております。
「2人とも放課後に悪いな」
校長先生の圧に隠れていましたが、担任の後藤先生と副担任の深雪ちゃんも一緒なのです。
2人とも何か大きな荷物を持っています。
それは旅行用のスーツケースよりも大きく、スタジオなんかにある音声や照明機材を入れるような頑丈で車輪付きの箱です。
担任達は文句を言わずに、次々にステージへと運んでいます。
深雪ちゃんは魔法を補助に使っているけど、座学担当の後藤先生は息が上がっております。
東高の実力主義は教員にも適用されるのでしょうか。
状況から話の経緯が見えないのですが、リズちゃんはとりあえず周りの流れを様子見するところがあるので、私が切り出すしかありません。
「ところで、どうして校長先生なのですか? 心当たりがないのです。集合場所が第1演習場だったのもよく分からないのです」
「広報活動だ!!」
急な大声です。
ごめんなさい。
私、この人苦手なのです。
紫苑お姉様も自分の中で勝手に完結するところがありますが、グイグイと引っ張ってくれるので、一緒にいて楽しいです。
それに凛花お姉様が程よくフォローするので、上手く回っております。
でも校長先生の場合は大きく一言叫んだだけで、十分だとばかりにそのまま腕を組んで仁王立ちしております。
代わりに荷物を運んでいた副担任の深雪ちゃんが説明してくれます。
「よいしょっと。校長先生の説明だと分からないよね。東高の広報用ポスターにあなたたち2人を起用したいそうよ。将来魔法使いとしてデビューしたら、社会へのアピールも重要な活動ね」
東高はニホンで2校しかない魔法公社傘下の魔法高校です。
入学を希望する学生はたくさんいて、毎年定員を大幅に超えております。
しかし広報活動は、受験生の募集目的だけではありません。
私達が暮らし、学ぶ東高があるのは、人口が密集している首都トウキョウ。
そんな場所で連日魔法の訓練をしているのだから、周辺住民の理解が必要なのです。
さらに学生達は生活面でも多くの人々に支えられています。
校舎や寮の管理に、購買の運営など、第1公社の直轄ではなく外部の事業者が入っております。
だから魔法や魔法使いが危険なものではなく、身近で頼りになる存在であることをアピールするのはとても大切です。
深雪ちゃんの言う通り、それはプロになってからも変わりません。
一般的に依頼主は、4つの魔法公社のいずれかを選ぶことになります。
さらに人気のある魔法使いや結社は指名を多く集めるので、人気はとても重要な要素なのです。
そのため魔法公社は一般向けの催しものをするし、魔法結社や個人として宣伝活動をする人だっています。
この魔法使い飽和の時代で、人々の支持を得られない者はいくら実力があっても業界から去っていくしかありません。
東高広報用のポスターに選ばれたことはとても名誉なことであり、学生でありながら名を売るチャンスだし、将来のための良い経験になります。
当初は訓練を早く切り上げることになって気乗りしませんでしたが、段々ワクワクしてきました。
リズちゃんと一緒ということもあって、不安や緊張はあまりありません。
「これがポスターの雛形で、こっちが衣装だ!」
そう言って校長先生は、後藤先生の運んで来た荷物から、色違いの2枚の服を取り出しました。
それはフリフリなピンクとフリフリな黒の、2組のフリフリドレス。
ステッキにヒール、そして腕輪にサークレットといった小道具もたくさんです。
嫌な予感がしながらも、校長先生の広げたデザイン案には、ドレスを着た2人の女の子が並んでいます。
まるで子供向けアニメなのです。
「校長先生? 私たちは高校生ですよ。これはちょっと……」
「もちろん分かっている。ワシの目に狂いはない。なぜなら校長であり……ニホン魔法少女学会の第1人者だからだ!」
やっぱりこの人苦手です。
誇らしげに語っていますが、つまりは駄目な大人なのです。
この場で撮影をするつもりのようで、大きな荷物の中から高そうな一眼レフカメラに照明器具の数々、そして撮影スタジオとかでしか見たことのないレフ板まで出てきました。
やたらとテンションの高いロリk……いえ、校長先生。
荷物運びで疲れ切って、息の上がっているアラサー教師の後藤先生。
私たちのことを心配そうに見守る新任教員の深雪ちゃん。
そして表情が完全に死んでいるリズちゃん。
傍から見れば、私もリズちゃんに近い状態なのでしょう。
たしかに私たちは2人共、背が低く、胸が小さくて、顔つきもやや幼いです。
幼児体型がコンプレックスなのは否定できないけど、さすがに魔法少女のコスプレを全世界に公開するのは恥ずかしいのです。
こういう話は事務所を通してからにして欲しいのです。
「お断りはできるのですか?」
当然のことなのです。
これはカリキュラム外の活動なので、ボーナスで単位を得られる可能性はあっても、断ってペナルティはないはずです。
それでも目上の校長先生からの申し出である以上、お伺いという体裁を選びました。
「草薙からは、“是非に”と頼まれている」
予想外の答えです。
なんと草薙の家に売られてしまいました。
校長先生が先回りしていたとは。
分家の小娘でしかない私に逆らう権利などありません。
後藤先生や深雪ちゃんに助けを求めますが、すぐに目を逸らされてしまいました。
「胡桃……頑張って」
リズちゃん酷いのです。
私だけ置き去りにして、自分だけ逃げるつもりなのです。
「何を言っている。お前さんの上司からも、ニホンでのプロデュースの許可を得ている」
私は親友の両肩に手を置き、その耳元で言葉を紡ぎます。
「リズちゃん、いつまでも友達だよ」
今、友情の尊さを実感しているのです。
しかし諦めていた私の心を、引き止めたのも友達でした。
リズちゃんがいつも腰に
「さすが察しがいいな。そうだ。ここは東高! 自分の意思を押し通したければ、その力を示せ!」
だから第1演習場ですか。
リズちゃんに続いて、私も懐の中の呪符に手を添えました。
せっかくシャワー浴びたのに、また汗をかきそうです。
担任の2人に戦意はなく、正面で両腕を組む校長先生はやる気満々なのです。
「2人まとめて、ワシが直々に相手してやる。1度でもダウンを取れば解放してやる。さっさと観念させて楽しい撮影会を始めようじゃないか。お前さんら2人ならワシのイメージ通りの魔法少女に変身できるぞ!!」
やっぱりロリコンなのです。
「ロリコン……」
あっ、リズちゃん言っちゃった。
思っていても、さすがに口することは
彼女はまれに、鋭く核心を突くことがあります。
「ロリコンではない。ワシはただ、うら若き学生たちが未熟なまま現場に送り込まれないように、成長の手伝いをしたいだけだ」
教育者としてまともなことを言っているはずなのに、なぜかいかがわしく聞こえてしまうは私だけなのでしょうか。
せっかく闘技場のステージへと持ち上げた機材を、過剰労働で
これから戦うことになる校長先生は、ただのロリコンではなく、国内はもちろん世界的に有名な魔法使いです。
御前会議の選考を受け、天皇陛下の名の下に初代“
初代と言っても戦争経験者ではありません。
戦時に帝国議会が定めた火属性の英雄の称号は“炎”でした。
しかし目の前の男はあまりにも突出しておりました。
本来ならば称号を引き継げば問題ないところを、戦後唯一、彼のために新たな一文字が刻まれました。
間違いなくニホンで1番の火属性の担い手。
この国の第1公社支部長も炎使いで、プロの中では上位にランクインしておりますが、目の前の校長の弟子でありその実力には大きな隔たりがあります。
そんな校長ですが、火の精霊王の契約者候補として幾度となく注目されております。
19世紀に精霊王がもたらした四元素の力は、多くの人々に目覚めました。
魔法が身近になった近代において、魔法教育は均一化の方向へと舵を切りました。
それでもこの枠から漏れる例外達がいます。
ひとつの時代に4柱の精霊王の契約者は各々1人ずつですが、欠ければすぐに選ばれるであろう特別な者が数人います。
彼、彼女らは誰かに教えられた訳でもなく、呼吸するかのように次々と魔法を極め、頂点へと昇っていきます。
まさに天から与えられた才能なのです。
故に、王の加護、
現在のニホンで精霊王の加護を受けていると言われているのは3人。
ゴーレム使いの凛花お姉様、西高絶対王者の一ノ瀬・ノエル、そして目の前の“焔”を冠する校長。
ちなみにあまり表沙汰にはなっておりませんが、4年前までは由樹さんも風の精霊王に見初められていたそうです。
あの一件は草薙も動いたので、お父様達の話を少しだけ聞いたことがあります。
希少な精霊王の加護持ちですが、大戦期の英雄には多くいます。
それだけの理由で、校長が“焔”を名乗っている訳ではありません。
彼は精霊王由来の四元素魔法、別名精霊魔法だけでなく、固有魔法としての炎術も扱います。
明かされておりませんが、歴史ある由緒正しき魔法結社の家系出身なのでしょう。
忘れられがちですが、王達の来訪以前の古来より四元素という概念は存在していました。
つまり校長は、教科書に載っていない火属性の手札を持っているということなのです。
「合図はいらん。初手は好きに仕掛けてこい!」
さすがに対等な条件での戦いではありません。
2対1の上、勝利条件はカウントなしのダウン1回、さらに先制までもハンデとしていただきました。
リズちゃんとの連携を活かせるかどうかが大きなポイントなことは、これから戦場に立つ3人とも分かっています。
だからこそ校長はこちらのタイミングで始められるように、先手を譲ってくれたのでしょう。
「……私が前」
前衛のリズちゃんは、突撃力はありますが防衛能力は完璧ではありません。
本来ならば、盾役が相手の攻撃を防いでからの反撃こそが彼女の理想の戦い方です。
一方、遊撃である私は前で刀を振るう事も、後ろで式神を操ることもできますが、どちらも校長先生には通用しないことを自覚しております。
私も前衛に回り2人で挟撃するのか、それとも縦に並んでサポートに徹するのかが基本フォーメーションですが、リズちゃんは後者を提案してきました。
たしかに慎重な作戦ですが、それだと彼女の方の負担が大きいです。
その後もいくつかの予想できるパターンに対する対処を手短に打ち合わせしました。
式神で防げる魔法は私が打ち落として、それ以外は回避の方針です。
そして決定打を持つのはリズちゃんだけです。
彼女の攻撃の形を作るのが私の役目なのです。
武器を持たずセミフォーマル姿の校長先生に対して、制服とはいえ細剣を構えるリズちゃん、そして両手に呪符を持つ私の構図です。
1枚の呪符を握り、開いた手から2羽の白い鴉が飛び立ちます。
戦闘力を持たない偵察用です。
右上と左下から飛来する式神に対して、校長は教本通りの丁寧な手順で作り上げたファイアボールで迎撃します。
鴉を燃やすことにより、放出されたエネルギーは敵の視界からリズちゃんを隠すのに十分でした。
見た目はシンプルな突きだけど、正体不明の魔法によってブーストされています。
かつて凛花お姉様の機動戦士型のゴーレム相手に、ヒト1人分の風穴をこじ開けた威力は、人間相手には完全な過剰攻撃。
それでも彼女は
当然のように防ぐ校長の姿か、はたまた致命傷を負わせてしまう2択を想像していました。
しかしリズちゃんが貫いたのは、彼の隣の
校長は一歩も動いてなく、回避したわけではありません。
相棒の顔には困惑の感情が浮かんでおります。
私も反撃を予感したときに、
校長が新たに出したファイアボールをゆっくりと、攻撃を外したリズちゃんへと投げつけます。
見てからでも回避できるような、彼女のことを侮った一手なのです。
回避からの反撃を狙うリズちゃんは、もちろん火の玉へと向かって直進します。
地面を蹴り飛び立った彼女は、空中で全身を捻ることで勢いを維持しつつ、紙一重にファイアボールを回避しようとします。
しかしタイミングが噛み合わずに被弾しました。
私たちの着ている東高の制服は、防弾防刃そして魔法に対しても防御性能があるので、下級魔法が直撃しても戦闘不能にはなりません。
制服ごと彼女を燃やすには、ファイアボールは火力不足で振り払うだけで簡単に鎮火されました。
「良く考えて術を使わないから、逆に利用されるのだ」
強引に力で押してくると思っていましたが、目の前の男はあくまでも指導者に徹しております。
ファイアボールではなく、より高位のファイアランス等を使っていれば勝負は終わっていたし、私とリズちゃんの分断を図ることだってできたはずです。
だけどヒントを口にして、立て直す時間を与えてくれました。
私は5羽の鴉を新たに生み出すと、横一列に並べて、リズちゃんと校長先生の間を真っ直ぐに飛ばします。
それを見たリズちゃんはすぐに私の意図を察知したようで、軽くアイコンタクトを交えました。
私とリズちゃんの立ち位置で見えている光景が違うのだと推察したのですが、検証結果は黒でした。
校長はファイアボール以外にも魔法を使っていたのです。
視界を惑わす何らかの幻術の類。
火属性由来ならば、熱によって密度の異なる空気を作り出し、光を屈折させることで発生する蜃気楼の一種なのでしょう。
彼女の返答によって、疑念が確信に変わりました。
最初に奇襲のために使った式神とファイアボールの衝突の時に、仕込まれたようです。
校長の新たなファイアボールに対して、リズちゃんは先ほどの再現のように射線上から飛び込みます。
1回の確認でも、頼りになる相棒は誤差を完璧に修正しております。
しっかりと空中で回避すると、校長の目の前で一歩踏み込むとさらに加速します。
迎え撃つ相手は詠唱の素振りを見せずに直立不動です。
衝突の瞬間を捕捉することはできませんでした。
それでも結果は一目瞭然です。
リズちゃんが突きを放った細剣の刃先は、校長の手で掴まれていたのです。
「現存する物理強化系で最大威力の術だが、最もエネルギー効率の悪い魔法だな。タイミングを逸らすだけで簡単に防げてしまう」
その口振りから、校長はリズちゃんの魔法の正体を見破っているようなのです。
私たち1年2組のトップアタッカーの彼女が手玉に取られる姿は、目の前の敵が火属性の扱いだけでなく、戦いにとても慣れていることを理解させられてしまいます。
校長は単純な力比べならば紫苑お姉様に劣りますが、それに勝るほどの、私たち学生では太刀打ちできない経験を重ねているのは明白です。
初回の幻術とは異なり、リズりゃんの必殺の一撃を完璧な形で防がれてしまったことに、私は動揺してしまったけど、当事者の彼女はいたって冷静でした。
イタリーの寡黙な騎士は、その唯一の得物を手放しました。
身軽になった彼女は、逆の腕から拳を繰り出します。
未だに細剣の刃を掴む校長の右を狙います。
接近した状態だと勢いは不十分ですが、何か勝算があるのかもしれません。
しかし校長は身体を正面に倒すことで、腕が伸びきる前に自ら衝突します。
「センスは悪くないが、また同じ術では工夫がないな」
私の目にはただの左ストレートに映ったのですが、リズちゃんは細剣での突きと同じく魔法でブーストしていたようです。
それでも油断も隙もない校長には通用しませんでした。
今更ながら本気を出していないとはいえ、かなり無理な試合なのかもしれません。
良い経験になるかもしれませんが、このままだとフリフリドレスでの広報ポスターは免れません。
一度距離を離すリズちゃんに対して、校長はその余裕からわざわざ追撃などしません。
そのタイミングで、私は
私だって、ここまでの試合運びで何もしていなかった訳ではありません。
リズちゃんの邪魔をしないように、いくつかの仕込みを済ませてあります。
草薙の五芒星は、精神に作用して動きを縛る術。
魔力ではなく精神力の綱引きなので、私にも勝ち目があるはずです。
「うぐぐぅぅ……胡桃たん、リズたんのコスプレはあきらめーん!」
精神を縛られていたはずの校長は、手にしていたリズちゃんの細剣をステージ上へと投げ飛ばします。
拘束があっさり解かれてしまったのです。
それにしても『胡桃たん』はさすがにキモイのです。
校長先生の株が高騰と暴落を激しく繰り返しております。
有能な魔法使いはみんな変人なのでしょうか。
今度は校長先生が攻撃を仕掛けます。
先程までの小手調べとは異なります。
火の上級魔法フレア。
燃焼によって生み出される火ではなく、純粋な高熱によって生み出される空気を黒く焦がす炎。
攻撃に用いれば、東高の制服を着ていても一瞬で溶かされてしまいます。
本来の性能ならば、離れた空間にいきなり熱源を発生させることのできる魔法ですが、1度自身の近くで見せることで、私達に予告してくれました。
初めて向き合う上級魔法に委縮してしまった私と違い、リズちゃんはしっかりと校長の姿を捉えています。
この瞬間から、私は戦いから除外されてしまいました。
校長はリズちゃんを試すために、ゆっくりとした動作で高威力のフレアを発射します。
高熱による炎の柱が横方向に伸びていきます。
十分に回避が間に合う速さだけど、彼女は足を止めて迎え撃ちます。
武器を拾うことを後回しにしたリズちゃんは地面に手を当てると、今までに見せたことのない暗詠唱で土魔法を発動しました。
造り出したのは私たちの身長を超える巨大な壁です。
炎の柱は壁の中へと吸い込まれていくと、そのベクトルを反転させて校長の方へと襲い掛かります。
ステージを分解して造り上げた壁は、薄いガラスの片面に金属を貼り付けてありました。
つまり光を反射する鏡。
もちろん魔法使いが扱う鏡が、ただの虚像を結ぶだけのはずがありません。
細剣による一撃必殺のイメージが強烈なリズちゃんですが、水以外の3属性を扱い、多くの手札をバランス良く持っています。
色々できるからこそ、得意技が際立つものです。
特に土魔法に分類される錬金術は、突きに次ぐ彼女の
フレアを反射できる鏡ということは、ほとんどの火属性遠距離攻撃に対抗魔法として通用するはずです。
凛花お姉様のゴーレム創成もそうなのですが、材料さえあれば自由自在に物を造り出せるのが土属性の特徴です。
錬金術は科学の理解も必要とする魔法ですが、熟練者ならば強力な魔道具を即興で造り上げることができます。
反射した攻撃の直撃を受けた校長先生ですが、自身の魔法で戦闘不能になることはなくても、さすがにフレアを放った後の無防備な状態を狙われたので、この戦いで初めてダメージを与えられたかもしれません。
「……やった?」
リズちゃん、そんなお約束を口にしてはいけません。
フレアの熱量と燃焼反応のせいで、校長の周囲が良く見えません。
離れていても息が苦しく感じるのはその熱のせいなのか、それとも酸素濃度が低下しているせいなのかは分かりません。
それでも屋外闘技場なので、時間経過によりフレアの残骸は徐々に大気へと拡散していきます。
これが物語ならば、無傷の校長が立っている展開なのでしょう。
しかし現実は、より無常で過酷でした。
校長がいよいよ固有魔法としての炎術を発動したのです。
彼の腕に巻き付いていたのは、
『フレアか。久しぶりに上等な供物を捧げてくれたな』
産まれたときから魔法の世界にいる私にとって、どのような
目の前の事象を素直に分析するならば、言葉を発したのは炎の龍。
言動だけでなくその事細かな動きから、校長が操っているのではなく、意思が宿っているように見て取れます。
そして言葉の意味がはったりでなければ、その異形は高出力のフレアを取り込んだのでしょう。
これが“焔”を襲名した校長の本領。
火を喰らう蒼炎の龍。
この業界にいれば、反則級の理不尽な能力者たちと遭遇することもあります。
目の前の強敵も、静流お姉様たち役員の3人と同じ側の人間。
たとえ火の精霊王の契約者だとしても、代償を伴う顕現無しでは、あの龍を破ることはできないかもしれません。
「そろそろ、お着替えの時間じゃ!」
ここまで指導に徹していた校長が勝負を決めることを宣言しました。
しかし彼の視界に私たち2人が入っているのに、その目が見据えているのはリズちゃんだけなのです。
校長はフレアに委縮した私を、この先の戦いから除外しております。
そっちがそのつもりならば、こっちも動きやすいです。
今の状態ならば、式神と入れ替わるタイミングはいくらでもあります。
全国にコスプレ披露することを避けるためならば、勝負に水を差すような汚い手も
校長の方に動きはないけど、炎の龍がリズちゃんに向かって飛び掛かります。
彼女の目の前には、先ほどフレアを跳ね返した鏡がありますが、意思を持つ龍は真っ直ぐではなく回り込みます。
蒼炎の怪物は術者との距離が伸びても、出力が下がることはなく、胴体の太さはそのままで長さだけが増していきます。
速度自体は銃弾に劣るけど、フレア以上の威力で追尾機能付きというのは厄介なものです。
2対1のアドバンテージなどとっくに消えております。
狙われているリズちゃんは、追いつかれないギリギリの速さでステップを踏みます。
今のところ彼女の誘導によって、龍が翻弄されているように見えます。
ステージ上で円を描くように動きながら、高低差も使って逃げ回ります。
初めて見る魔法に対して、じっくりと分析しているようです。
輪になった炎の胴体をリズちゃんが潜り抜けます。
大きな相手を手玉に取る上手い動きなのです。
追いかける敵も自身の体でできたトンネルを通過します。
絡まりそうになりましたが、実体のない炎なのですり抜けてしまい簡単に
移動距離が増すにつれて、龍の胴体がどんどんと伸びていき、戦闘領域を狭めていきます。
サイズに上限がないのか、それともこの闘技場程度では限界を推し量れないのでしょうか。
接触したステージをごっそりと溶かしておりますが、その周辺に燃焼反応が見られません。
メラメラと燃えているように見える蒼い炎ですが、がっしりと収束されているようです。
触れることさえしなければ熱を伝えないのは怪物の性質なのか、それとも校長の技量なのかは分かりません。
それでも徐々に安全地帯を奪われていくリズちゃんが不利な状況なのは変わりません。
炎を跳ね返す鏡は側面からとっくに溶かされており、彼女は地面に落ちていた自身の得物を拾い上げ、
水属性を扱うことのできない彼女ですが、使えたとしても生半可な魔法では通用しないでしょう。
もうリズちゃんに打つ手がないと判断した校長は、自身の使い魔へと最後の指示をくだしました。
それを察した彼女は、足を止めて即興で錬成を行います。
鋼鉄の全身鎧。
視界と最低限の関節動作を残してがっちりと身を守る防御態勢。
せっかくの機動力を犠牲にしてしまった彼女らしくない
炎の龍の首を引っ込める溜めを作ってからの突進は、今までの単調な動きに目が慣れていたせいなのか、インパクトの瞬間しか見えませんでした。
防御に徹したリズちゃんでしたが、それでもリングアウトは免れず、急ごしらえの鎧は半分以上溶けていました。
リングの外に敷かれた土に叩きつけられた彼女ですが、すぐに後藤先生が駆けつけて安否を確認します。
「耐え抜いたのは立派だが、これ以上の続行は無理だな」
担任の判断を待たずに、校長先生が勝利宣言をしました。
後藤先生に遅れて駆けつけた深雪ちゃんが応急手当を始めます。
彼女の腕に抱かれるリズちゃんの口許が小さく動いております。
『……だめ……胡桃』
全てを読むことはできず、彼女の真意を測ることができません。
勝負はすでに決しているのに、校長も後藤先生も次の言葉を口にしません。
ステージにいる式神は、私の姿に化けているのを含めて10体。
校長も、リズちゃんを追い込んだ龍も、まだ私本体の居場所を把握していないようです。
私の隠形は存在を希釈した結果なので、音や熱による探知を使われたとしても、見つけ出すことは困難です。
幸運なことに校長は、ステージ全てを焼いて炙り出す荒業は考えていないようです。
ならばまだ小さな希望が残っています。
しかしやみくもに攻撃しては、私の位置を察知されて終わるだけなのです。
試合が始まって未だに有効打がひとつもありません。
策を効果的に使わなければなりません。
基本に忠実に、厄介な龍よりも術者を倒すべきです。
式神では攻撃力不足だけど、校長はリズちゃんの剣閃を防いだことから、私の剣技が通用するとは思えません。
闘技場を見渡すと、ステージに君臨する校長と炎の龍、意識はあるけど動くことのできないリズちゃんを介抱する深雪ちゃん。
そして少し離れた位置に立つ後藤先生と、ポスター撮影のための機材と衣装……。
校長は強敵ですが、致命的な弱点があるかもしれません。
私は式神たちに決着までの道筋の指示を下しました。
宙をゆっくりと舞っていた鴉たちが、ざわつきだします。
無謀な特攻をする騒ぎに乗じて、そのうちの2羽が後藤先生の方へと近づきます。
厳密には彼の隣で大切に扱われているある物へと。
『さっきの小娘に比べて、ぬるいな』
校長の言葉を代弁しているのか、龍が余裕を見せます。
残り3羽を残して、簡単に溶かされてしまいました。
ステージ上の式神が減ったことで、相対的に私の存在感が増してしまい、隠形は解除されてしまいます。
私の姿を捕捉した龍は睨みを効かせます。
苦手な蛇に似た鋭い眼光は、今から行う逆転の一手を疑いたくなるようなプレッシャーを放ちます。
姿を現した私へと注意が向くならば望むところなのですが、熱せられた大気とは違い背筋が凍りそうです。
熱いと言っても熱源に集中しており、近づく程度では衣類に着火することがないのはとても助かります。
ここにいるみんなの意識の外から、ひとつの人影が校長へと飛びかかります。
それはリズちゃんの姿に化けた式神。
さらに黒い魔法少女の衣装をまとっております。
ちなみに実物の彼女よりも20センチほど小柄にアレンジしております。
「作り物にリアルはない!」
カッコいい台詞を吐きながらも、校長は式神を振りほどくことができないほど緩んでおります。
後一押しなのです。
身を削る一手を指します。
回収した衣装はもう1着あります。
リズちゃんを模した式神にみんなの視線が集まったことを確認して、早着替えを済ませます。
もちろん保険として、下着姿は式神に隠してもらいます。
ピンクのフリフリドレスまとった私は、先行しているパートナーにたじたじになっている校長へと飛び込みます。
最後に特技の武器の換装を行います。
選んだのは使い慣れた小太刀ではなく、マジカルステッキ。
そして記憶の隅から引き出した決め台詞がとどめです。
「悪いことをしたら、お仕置きよ」
「マッ、マーベラス!!」
こうして校長は帰らぬ人になりました……ではなく、悶絶してしまいました。
格上の相手を倒すには、隙を突くか、精神から崩しに掛かるしかありません。
草薙の影を司る家系として、房中術の知識はありますが、実年齢よりも幼く見える私では
とはいえ初めての色仕掛けがこれでは締まらないのです。
***
校長先生との試合はあまり誇れる結果ではないので、あの場の人間だけの秘密になりました。
ちなみに私とリズちゃんがモデルを断った広報ポスターはというと、ちゃっかり校長推薦の魔法少女の衣装で撮影が行われました。
あの後、校長が新たな学生を探している噂を聞きつけたのが、生徒の代表である紫苑お姉様でした。
しかし役員をはじめ、生徒会の面々は当然のごとく共演NGなのでした。
そして彼女の相棒として大抜擢されたのは……いえ、犠牲になったのは副担任の深雪ちゃんでした。
出来上がったポスターがあちこちに貼り出されておりましたが、私のイメージとは大分違います。
大きくバックにいる紫苑お姉様は、黒いドレスを着て、顔の半分を白い表情のない仮面で隠し、両腕を広げています。
彼女の腕の中で、ピンクの衣装を着た深雪ちゃんがマジカルステッキを握り締めてぶるぶると震えています。
完全に闇の帝王とヒロインの構図で、ダークファンタジー路線なのです。
このポスターですが様々な物議を呼び起こして、広報に使われることなくボツになったのですが、紫苑お姉様が学園中に貼りつけるという暴挙におよびました。
その結果良くも悪くもSNSでバズっております。
学校名にモザイクが入っておりますが、知る人が見れば絶対強者その人であることが分かります。
そしてどこから漏れたのか、“草薙胡桃は学園の裏番長”という24番目の学園七不思議が出回ったのです。
さらに試合中に魔法少女にコスプレした私の姿を、リズちゃんがちゃっかり撮影しており、こちらがバズるのはもう少し先のできごとでした。
***
『あとがき』
新人戦で見せ場の少なかった胡桃が大金星を挙げました。
校長の苗字は花菱かもしれません。
ここまで9班の中で能力不明は、リゼットの物理ブーストの正体と、由樹の切り札だけです。
由樹の方はいずれスピンオフで書きたいですが、リゼットの方はいつ公開するのか未定です。
ヒントとしては、芙蓉とは対極の能力です。
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