27 新人王からの宣戦布告(『26 会長様との日常』を分割)

 新人戦を無事に終えた次の週、相変わらず放課後は生徒会ハウスを溜まり場にしていた。

 俺たちには、大会の事後処理の業務が多く残されていた。

 これを怠ると来年の開催に支障をきたしかねない。

 おそらく今の9班の何人かは、次の生徒会に残り役職に就くことになる。


 ステイツの暗殺者たちとの戦いの顛末てんまつだが、狙撃手であったハゲタカは、俺の銃弾があごの端にピンポイントで命中し、運動機能が麻痺していた。

 スコープを見ずに、蓮司の指示だけを頼りに撃った2発目の狙いは、完璧だったという訳だ。

 バディで行うとはいえ、狙撃の主役は狙撃手だと考えていたが、観測手の重要性を認識させられた。

 彼をリズの下へと送った凛花先輩の判断も、なかなか渋い手なのだが、今回は上手くはまった。


 負傷したハゲタカは、現場に駆け付けた第5公社の手の者によって、応急処置がなされて、その後警察へと引き渡された。

 そしておおやけにはされていないが、彼は警察病院で不審死を遂げた。

 それが俺たちの勢力なのか、彼の依頼主なのか、真相は現場の人間までは伝わらない

 残念ながら俺は正義の味方ではないので、上司であるフレイさんが裏で手を回していても、おかしいとは思わない。


 その後フレイさんの方で、アックスたち以外に実働隊がいないことの裏が確認できたので、会長の護衛レベルは引き下げられた。

 24時間常時の護衛をする必要はなくなり、俺としても一安心だ。


 観測手として協力した蓮司とリズの2人は、凛花先輩の手配で病院に運び込まれて、今週末に退院を予定している。

 リズは持ち前の運動神経で、銃弾が貫通することを避けた。

 それでも強化された弾丸は掠っただけでも、彼女の意識を刈り取るのに十分だった。


 蓮司の方は、スコープに当たっただけだと口にしていたが、実際は俺を動揺させない為に負傷したことを伏せていた。

 強化された弾丸に対して、新しく修得した堅固の身体強化を発動した腕を軌道に沿えることで、急所を守り抜いた。

 骨や大事な腱を傷つけることはなかったが、銃弾が腕に残ってしまい、摘出のために緊急手術を受けることになった。


 2人とも病状は回復していたが、会長が凛花先輩を巻き込んで、悪ふざけで考えた『短期集中リハビリプログラム(青春編)』の実験体になり、未だ病院に囚われている。

 午前中にチャットアプリで送られてきたメッセージでは、


 蓮司『このままここにいたら、殺されりゅ』

 リズ『ムリ』


 と届いており、元気にリハビリをやっているようだ。


 そんなこんなで本日の生徒会は、2人を欠いている。

 残り5名は、会議室で凛花先輩と共に書類仕事を行うことになる。


 ほとんどが集まっているが、珍しく芽衣だけがまだ来ていない。

 告白騒動は、すでに2週間前の出来事である。

 由樹とは会長の追跡の一件で仲直りしたものの、芽衣とはまだまともに話す機会が無かった。

 そんな彼女だが、新人王戦で見事優勝を果たし、一躍時の人である。

 内輪の行事なので、流石にインタビューなどはないが、全国放送のニュースでも取り上げられている。

 気が早いかもしれないが、夏休み明けの東西対抗戦での有力選手としても、学内外で注目されている。


 試合の映像は、学校側が管理しているものだけであり、一般生徒では閲覧できないのだが、会長様にお願いしたら生徒会権限でハードディスクを借りることができた。

 持つべきものは偉大なる会長様だ。


 芽衣と由佳の試合では、戦っている2人にしか分からない得体の知れない何かがうごめいていた。

 直接その場にいれば感じとれたかもしれないが、映像から読み取れる情報は、意外にも彼女が戦い慣れていたことくらいだ。

 あれは訓練などではなく、ひたすら場数を重ね、死線を乗り越えた末に辿り着く修羅の姿だ。

 皮肉なことに、実直に修練を積み重ねた由佳の強さを、芽衣の狂気が上回った。

 直接拳を合わせれば、より多くのことを読み取れるが、あんな泥臭いインファイトはお断りしたものだ。


 会議室のドアが開かれると、今話題の人物が入ってきた。

 あの激闘が嘘かのようにいつも通りの彼女だ。

 三つ編みと眼鏡がトレードマークの普通の女子高生にしか見えない。

 そんな彼女だが、部屋に入ると挨拶もなく由樹の隣まで進み、足を止めた。


「冴島君。好きです。付き合ってください」


 突然の告白に由樹だけでなく、この場にいる全員が言葉を失った。

 もちろん俺たちが余計なことを口にできる訳がなく、彼の返事を待った。


「俺は委員長と恋仲になるつもりはない」

「でも由樹君のことを好きなままでいるのは、私の自由でしょ。モテない由樹君に彼女ができたら素直に諦めます。それまでは想いを伝え続けることにしました」


 新たな1年生の王者は中々に屈強だ。

 1度振られた相手に、たった2週間のインターバルで再び告白をするとは、思いもしなかった。

 そしてその想い人に対して、さらりとモテないと言いつけている。

 由樹に彼女ができることがなければ、今の宙ぶらりんな関係を続けることになるのだろうか。

 いつかは終わりが来るのだろうが、由樹が逃げ切るのか、芽衣が捕まえるのかは、俺には分からない。

 2人のことを知る俺たちからしてみれば、結ばれて欲しいものだが、当の由樹が頑なである以上どうしようもない。


 もう少し事の推移を見守りたいところだが、全員揃っているはずの会議室に新たなメンバーが現れた。


「後輩くん。一攫千金よ! 新人戦での負債は、その肉体からだで取り返してもらうわ」


 会長様に襟元を掴まれた俺は、ずるずると引きずられながら連行されてしまった。

 もちろん誰も止めることなどしない。


 “3章 生徒会始動 完

 SSを経て、4章へ続く”


 ***

『あとがき』

いつもアクセスありがとうございます。

様々なキャラが交差する3章をようやく終えることができました。

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