7 生徒会の日常『リルちゃん♂』
『あらすじ』
月末は新人戦
9班は生徒会へ加入
名前で呼び合うことに
***
徐々に馴染みの習慣になりつつあるが、興も授業を終えた放課後は生徒会ハウスへと向かう。
9班のメンバーとは教室から一緒に行くこともあれば、バラバラと行って現地集合のときもある。
本日は午後の実習で汗をかいたので、1度寮に帰り、シャワーを浴びてきた。
生徒会ハウスの敷地は、校内にあるにも関わらず、2階建ての洋館がアンティークな門と塀によって囲まれている。
塀の中には小さな庭があり、役員の3人がスペース区切ってガーデニングに挑戦している。
誰がどの区画なのかは一目瞭然だ。
プランターを並べて和洋折衷で様々な花を育てる不思議なセンスの草薙先輩に、土を耕し野菜を育てる凛花先輩。
そして雑草と見間違う怪しい草が生い茂っている会長ゾーンがある。
そんな魔窟のような庭の中でも一際目立つのが、高さ1メートルを超える大きな犬小屋である。
『リルの家』と書かれているが、その住人の姿をこれまでに1度も見たことがなかった。
会長様のペットで、ハイイロオオカミという種類の犬だと聞いている。
なぜこんな説明をしているのかというと、遅れて生徒会ハウスの門をくぐると、例の犬小屋の前にクラスメイトの女子4人が集まって、腰を下ろしていたからである。
1度は無視して、そのまま建物に入ろうかとも思ったが、気になってしまい様子を見に近づいた。
それにしてもなぜ女性の大半が動物を可愛い、可愛いと愛でるのだろうか。
ちょうど4人がしゃがんでいたので、見下ろす形でリルの姿を確認できた。
これまではハイイロオオカミという情報から、犬よりも四肢が細長く、毛が短い姿を想像していた。
しかしまず驚かせた特徴は、その白色の体毛だった。
立派な
その純白は光の当たる角度によっては淡い青色に輝いた。
体長は150センチほどで、四つん這いになった成人男性よりも大きい。
鋭く砥がれた爪は野性のものではなく、しっかりと手入れされていることが分かる。
そして放し飼い状態で、女性陣から手で触れられても大人しくしていることから、かなり人に馴れているようだ。
色々と描写したが、簡単にいうと毛むくじゃらの塊だ。
誰が、毛むくじゃらだ!
あれっ、今何かおかしくなかったか。
(なんじゃい。われは挨拶もできひんのか。)
俺はすぐに余計な考えを捨てて、目の前の獣に対峙した。
どこまでかは分からないが、こちらの考えが読まれているし、思念波のようなものが送り込まれている。
その相手が目の前の魔性の生き物であることには、間違いない。
隠しているようだが、魔力持ちに違いない。
今更ながら、会長様が普通の狼をわざわざ小屋まで作ってペットにするとは思えない。
(そう警戒しなさんな。儂に向かって示した表面的な意思しか読めん)
その言葉が本当なのか信じる根拠がなければ、証明する手立ても思い浮かばない。
(お前は何者なんだ)
リルに対して、問いを念じながら、頭の中では別の考えも同時に巡らせていた。
(リルだよ。紫苑のペットで、今はそれ以上でも以下でもない)
初めて会長と会ってビビったことや、霊峰で凛花先輩と共闘したシーンや、会長と温泉に入ったことなどで頭の中を埋めてみたが、奴に特別な反応は見えない。
“今は”という言い方に含みを感じるが、少なくともこいつは犬でも狼でもない。
見た目は魔獣の類に近いが、これまでに戦ってきた魔獣に比べると禍々しさや野性味が感じられない。
どちらかと言えば母さんやダニエラに似ているが、それとも別の存在であることは確かだ。
俺と会話しながらも、飼い犬としてサービス精神旺盛に、喉を鳴らしながら女性陣に
しかしリル自身は抑えてはいるようだが、意識し始めると、自然と
(いい勘をしているな。儂を魔獣と違うと認識するとは、なかなか見どころがあるやんけ)
どうやら魔獣ではないようだが、自然界に存在するとは思えない。
吸血鬼なんかも人間から派生した地球産の異形なので、この毛むくじゃらもそういう類なのかもしれない。
正体が気になるところだが、自ら明かすつもりはないのだろう。
リルという名前からひとつだけ、思い当たる節がある。
会長様の安易なネーミングセンスから逆算すると、該当する有名な狼がいる。
俺の推測が正しければ、先日霊峰で手懐けたベヒモスなんて足元にも及ばない。
毛むくじゃらの正体に関しては、あまり深入りしない方が良さそうだ。
変った口調で話すリルだが、由佳が要求したお手に対して、素直に左の前足を出すことで応じていた。
ペットの証として首輪を着けていないが、差し出した足の真ん中の指に『VI』と彫られた指輪が
ポテンシャルだけでも突出しているのに、凛花先輩同様に特別な固有魔法を持っているならば、会長にとって最強の番犬なのかもしれない。
ところでなぜ俺にだけ念話をしてきたのだろうか。
別に周囲の女性陣に聞かれても構わない、他愛もない会話しかしていない。
(誰とでも話せる訳ではない。われが儂と同じ魔性の存在だからだ)
この毛むくじゃらは何を言っているのだ。
魔性などと言われてもピンとこない。
俺は血で
(もしかして、われは自分自身が人間だとでも思っておんのか?)
何のことだ。
俺は吸血鬼の真祖に育てられたが、ただの人間でしかない。
母さんの実の子であることを望んだ時期もあったが、俺自身に吸血衝動はなく、肉体も決して頑丈ではない。
これまでに対峙した敵の中には、俺のことを化け物なんて呼ぶ連中もいたが、それは母さんの施した魔法式の恩恵に過ぎない。
ステイツで幾度も肉体と魔法式の検査を受けたが、人間ではないなどという突拍子もない結果を突き付けられたことはさすがにない。
(今はそれでいいかもしれんが、いずれ自身のあるべき姿を選ばなければならない。われが儂と同類であるということを早く受け入れたほうが後悔は少ないだろうがな)
何を言っているのかまったく分からない。
母さんもときどき、俺には理解できない予言めいた言葉を口にしていたが、リルの提言も似たような印象だ。
(ところでそこで写真を撮っているお嬢ちゃんたちに、SNSに載せるのは止めるように注意してくれるか)
最初はそっとリルに触れる程度の彼女たちだったが、人に馴れていることを知ると、その行動は徐々にエスカレートして、抱きしめたり、芸をさせたり、スマホで写真を撮ったりしている。
まぁ他人のペットを勝手にネットに載せるのは、マナー違反なことくらい彼女たちも分かっていると思うが、一応注意しておくか。
それにそろそろ動物小屋から撤収して、生徒会の業務を行わなければならない。
しかし俺たちが動き出す前にリルが立ち上がった。
先程までは甘えるように唸っていた彼(?)だったが、今にも威嚇するために吠えだしそうに攻撃的な低い唸り声を響かせている。
しかし現れたのは害意を持った敵などではなく、その飼い主だ。
「リルちゃん。ただいま~!」
陽気に手を振る会長様に対して、リルは助走をつけて全力でぶつかって行った。
それはペットが主にじゃれ合う姿などではなく、外敵に牙を向ける猛獣の姿だ。
しかし会長様は軽く体を逸らすと脇で、リルの首を捉えた。
完全にヘッドロック状態なのだが、なぜか暴れる猛獣の叫びに歓喜が入り交じっている気がするのは気のせいだろうか。
(どうだ我がご主人様は凄いだろ。同類のそなたならば、この喜びが分かるだろ)
(この犬、
ハァハァという獣ならではの呼吸音が、なぜだか変態のそれにしか聞こえてこない。
もしかして同類ってそういう意味なのか。
たしかに会長には、何度もひどい目に遭わされるが、決して喜んだことは1度もない。
ましてや、しばかれるために、自ら突撃するなんて自殺紛いなことは、絶対に嫌だ。
“このときの俺は、自らが魔性に堕ちる未来など想像もしていなかった”
***
『おまけ』
『指輪の騎士達』
No.I ガウェイン(かつての契約者、紫苑たちの師匠)
No.II ?
No.III ?
No.IV ?
No.V ?(芙蓉と共闘の経験あり? 張の情報をもたらした)
No.VI リル(芙蓉と念話できる)
No.VII 工藤凛花(モノと対話することで、その意思を増幅する)
No.VIII 草薙静流(魔法を斬る? 斬撃を飛ばす?)
No.IX 空席
No.X 空席
***
『あとがき』
いつもありがとうございます。
ようやくリルを登場させることができました。
ファンタジー好きの方々ならば、その正体に気づいたかと思います。
異世界産ではなく、ヨルムンガンドとヘルの兄の方です。
実はNo.Vの方はすでに登場しており、芙蓉や紫苑との会話も作中にありました。
なおNo.IIも名前のみ登場しております。
さてさてクライマックスまでに、10人全員の出番はあるのか。
そして本編で、静流さんの出番は何回残されているのか。
生徒会の日常は残り2話投稿した後、事態が動き出します。
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