5 生徒会始動
『あらすじ』
月末は新人戦
生徒会への勧誘
飛鳥からの宣戦布告
***
「とりあえず、俺は生徒会なんかで馴れ合うつもりはない」
最後にそう言い残した飛鳥は会議室を後にした。
残された俺たちは少しだけ、気まずい空気になってしまった。
特に自分の趣味のためにクラスメイトを売った橘は、決して俺と目を合わせようとしなかった。
「茶が冷めてしまったし、入れ直すとするか」
場を仕切り直すために動いたのは、もちろん工藤先輩だ。
彼女の言葉に対して、同級生の女子たちは甲斐甲斐しくも、すぐに机の上の
気配りを標準装備している橘なら分からなくもないが、胡桃も野々村も、リズだって動作が早かった。
こういうとき男としては、一緒に手伝う優しさを見せるべきか、女性の仕事を奪わないように何もしない方が良いのか、悩ましい命題だ。
蓮司が後者を選んだので、俺も大人しくそれに
おそらく今回はこっちが正解なのだろう。
「凛花、お菓子のおかわりもよろしく」
そう言って会長の投げたコントロールの悪い湯呑を、工藤先輩は柔らかいキャッチングで受け止めた。
もちろんこの建物の
***
お茶を入れ直し、饅頭の次の新たなお茶請けとして、醤油をしっかりと塗り込んであげた煎餅が机に並べられていた。
ちなみにこれらは、会長様が学校側から勝ち取った生徒会の予算で調達しているそうだ。
そして場が和んだ頃に、改めて会長様が悪魔の契約書を差し出した。
「さてと、新人戦前の余興も見られたことだし、お菓子を口にした残りの7人はサインしてくれるよね」
一連の流れを余興などと口にした彼女だったが、飛鳥が人の下に付くような玉ではないことは、勧誘の前の下調べで分かっていたはずだ。
十中八九この人は、俺と彼が揉めることを予想しながらも、この場に呼んだのだろう。
たしか工藤副会長はすぐに決める必要はないと言っていたはずだが、さっそく答えを聞こうとする会長様は相変わらずだと思わざるを得ない。
そして取引材料にされた
日常の会話なら冗談のはずなのだが、彼女の場合は本気の時が混ざっているのでたちが悪い。
その見極めは、工藤先輩の域ならば可能かもしれないが、残念ながら俺にはできない。
「もちろん。工藤先輩のお手伝いをさせてください」
「私も静流お姉様のお役に立ちたいのです」
橘と胡桃の2人が生徒会への加入を希望していたことは、以前聞いたことがある。
会長様の人望とは関係ないが、とりあえず2人の加入は確定だ。
残りはというと、俺は任務の関係の上で生徒会に入るべきだが、リズの方は微妙な立ち位置だ。
俺が表で会長に貼り付き、彼女が暗躍する役回りが俺たちの関係だ。
しかし生徒会ハウスに堂々と立ち入る立場は、彼女にとっても確保しておきたいセーフティネットだ。
「……入る」
リズは小さい声で俺に断ってから、契約書に自身のフルネームを母国語で
残るは3人だが、野々村は由樹次第なことは誰もが予想している。
「生徒会で活躍して、俺もモテモテだぜ」
「(冴島くんと一緒ならいいかな)私も」
由樹の安定性には、むしろ惚れ惚れしてしまう。
たしかに知名度を上げることに限れば、生徒会への参加は意義があるかもしれないが、異性にモテるかは別問題だ。
むしろ会長様はあちこちで恨みを買っているので、巻き添えになるリスクの方が大きい。
そして野々村の方は聴覚を強化しなければ、聞き取れるかギリギリの前置きがあったが、想い人に届くことはないこともお約束だ。
これまで由樹に責任を押し付けていたが、野々村の方に問題があるのではないかと、最近では思い始めている。
「部活がある日はそちらを優先してもいいですか?」
最後に残された蓮司の挙げた質問だ。
俺たちは全員が部活に入っているが、中でも彼は特に力を入れている。
蓮司の所属する魔法格闘部は週3日の活動で、カリキュラムが過密な上にランキング戦まである東高としてみれば、かなり活発な方だ。
そこで彼は身体強化と組手の稽古をしている。
もともと身体が大分仕上がっていたこともあるが、明確な目標があるおかげで、みるみる吸収していき近接メインの上級生相手に善戦できるほどにまで成長している。
「もちろんだ。私も野球部と両立しているし、役員以外はその日集まった面子で、仕事を割り振ることになっている。適当にも思えるかもしれないが、様々ことを幅広く知っておいてもらった方が次の代に残せるからな」
これで蓮司の加盟が決まった。
俺たちの立ち位置は空いている今期の役員候補であり、来期以降への引継ぎ要因でもある。
そういえば、俺もまだ自身の意思を表明していなかった。
しかし会長様はすでに全員分の書類を回収していた。
「あっ、後輩くんの名前は、私が書いておいたから」
(サインの意味ねぇ!)
これまでのやり取りと関係なく、そもそも拒否権などなかったのだ。
試しに断ったら、会長様がどんな反応をするのかを見て見たくもあったが、俺の思い通りに事を運べることはあまりない。
余談だが、ニホンではサインの文化が根付いていないが、他人の名を詐称することは重い。
そもそも名とは重要な魔法のひとつだ。
この世に生を受けて、個体名を得ることで自己の確立が始まる。
名はその人間の存在であり、これまでの軌跡だ。
それを捨てたり、
ただ他者の名前を書く程度ならば問題ないが、サインを似せようとするのは危険だ。
特に西洋の魔術結社では、サインの取り扱いに慎重を期す。
しかしこの島国では、名前自体を重んじても、サインを軽視する風潮がある。
そんなこんなで最後に会長様が締めくくった。
「ということで、みんなには明日から馬車馬の如く働いてもらうわ」
現実世界でそんな言葉を口にする人間を初めて見た。
俺の所属するステイツの部隊よりも、ブラックな組織な気がするのは気のせいだろうか。
とは言っても、どうせ会長様はすぐに投げ出して、工藤先輩が俺たちの面倒を見る未来は容易に想像できるので、あまり不安はない。
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