SS5 フヨウだけレベルアップな件

『フヨウのレベルが1あがった。HPが5あがった。MPが0あがった。ちからが3あがった。かたさが2あがった。すばやさが3あがった。ちしきが1あがった』


 RロールPプレイングGゲーム

 その多くは己の分身となるキャラクターを育て、敵を倒していくことで物語を進めるゲーム。

 特にプレイすればする分だけ、キャラクター達が強くなっていき、勝てなかった強敵を倒せるようになるのが何よりもの醍醐味だ。

 これは俺の持論だが、RPGの進め方で、そのプレイヤーの人間性が見えてくる。

 しかしここまでを見せるプレイヤーが身近にいるとは思わなかった。

 高宮芙蓉たかみやふよう、この男こそ、初心者でありながら、俺と同じゲームを介した表現者の1人だった。


 ***


 始まりは3日前の晩までさかのぼる。


 この春ルームメイトになった芙蓉に、オタク文化の布教中だった俺は、最初の入り口として誰でも簡単にプレイできる格ゲーのスマッシュ・ブラボーズを勧めた。

 日によって長さは違うが、ここ1週間は毎晩一緒に対戦していた。

 そしていよいよ今度はRPGを勧めることに踏み込んだ。


 そんな俺が選んだのが“Quest of Dragon 2”だった。

 パーティメンバーは固定で、レベルに応じて呪文を覚えるので、育成方針を考えずにサクサク進めることができる。

 レベルを上げて装備をしっかり整えれば、RPG初心者でもプレイ時間20時間程度でクリアできる。


 物語のあらすじは、かつて魔王を倒した勇者と王女の子孫である3人の王子達が、悪の神官を倒すために旅立つ。

 登場人物は3人とも王子だが実質、戦士、僧侶、魔法使いのステータスになっている。

 ひとつ不満があるとすれば、せめて3人目は王女にして欲しかった。

 さらに言えば、専用装備であぶないみずぎを用意してくれれば、もっとテンションが上がったのに。


 初期版では、イベントアイテムを関係ないところで使えたり捨てたりできるなどの、ゲームをクリアできなくなる欠陥があったが、スマホのダウンロード版ならばそのような心配もない。

 何よりハードを準備する必要がない点はお手軽だ。


 そして俺は布教のためだと、自腹を切って芙蓉のスマホにインストールさせた。

 そこまでしておきながら、攻略の楽しさを知ってもらうために、質問されるまで何も教えていない。

 どのみち、このゲームはしっかりとレベルを上げて、町で集めた情報の通りに進めば、最後までたどり着けるようになっている。

 とりあえずはRPGの面白さのキャラの成長を楽しんでもらいたい。

 しかしこの選択が彼のプレイを混迷に落としれるとは思いもしなかった。


 ***


「由樹、ロックゴーレムがなかなか倒せないのだが、どうすればいい?」


 Quest of Dragon 2を勧めてから3日後、いよいよ芙蓉が俺に質問をしてきた。

 すでにラスボス前の最後のボスまで進んでいるようだ。


「そいつなら魔法を使えば簡単に倒せるぞ。ボスにたどり着くまでにMPを節約するのがポイントだな」


 そう言って俺は、芙蓉のスマホ画面を後ろから覗いた。


 たたかう 『どうぐ』

 まほう  にげる


 ↓


『E くだものナイフ』

 E かわのむねあて

 E レザーブーツ

 やくそう

 やくそう

 やくそう


 ↓


 そうび

『はずす』


「なぜ武器を外した!?」

「拳こそ最強の魔法」


 こいつ、一体何を言っているのだ。

 なぜか偶然“かいしんのいちげき”が連発して、ロックゴーレムをタコ殴りにした。

 どうしてステ振りが固定されているゲームで、こんな脳筋な戦い方になってしまったのやら。

 気になった俺は、芙蓉のパーティを見せてもらうことにした。


 まず注目すべきはキャラ名だ。

 第1王子(戦士タイプ) フヨウ

 第2王子(僧侶タイプ) ヨシキ

 第3王子(魔法使いタイプ) レンジ


 これは初心者にありがちな、他人に見られると恥ずかしいパターンだ。

 キャラクターの名前を自分の身近な人間で埋めると、自身が友人達にどのような印象を持っているのか分かってしまう。

 ましてや人数の問題で、あぶれるような奴がいたら悲惨だ。

 俺ならば、適当にゲームキャラっぽいテンプレの名前を使い回す。


 次に着目すべき点は、なぜかヨシキとレンジのステータスウィンドウが赤色だ。

 そしてマップ上にいるフヨウのグラフィックは、ふたつの棺桶を背負っている。

 最初はロックゴーレムにやられたのかなと思ったが、ヨシキとレンジのレベルは初期値のままで、フヨウに関しては40というこのゲームで見たことがない値に達していた。

 ちなみにエンディングまでのレベルの目安は30だ。

 どうやら意図的にフヨウだけレベルアップさせているようだ。


 多くのRPGでは、敵を倒すことで経験値を得て、強さの基準となるレベルが上昇する。

 この経験値の配分方式はゲームによって異なり、 Quest of Dragon 2では、均等配分制が採用されている。

 仲間が死亡状態で敵を倒すと、その分の経験値は生きているキャラで山分けすることになる。

 この方法によって、自分のお気に入りのキャラだけを、倍のペースで強くすることができる。


 多くのプレイヤーが1度は試す方法だが、結局挫折する運命にある。

 なぜなら状況に応じてそれぞれのキャラを使いこなし、パーティとして経験値を稼いだ方が、各段に育成効率がいいからだ。

 特にターン制RPGでは、キャラの数がそのまま1ターンの手数になるので、全員で戦った方が有利だ。


 しかし芙蓉は、ヨシキとレンジが仲間になってすぐに死亡状態にしてから、フヨウでのソロクリアを目指していた。

 初心者がいきなり挑戦するプレイ方法じゃない。

 そもそも初心者の芙蓉がこのシステムを理解しているのか。


「芙蓉、どうしてヨシキとレンジのレベルを上げない?」

「ふたりとも仲間になってすぐに死なせてしまった」


 たしかに戦士タイプのフヨウと違って、2人はHPも防御力も低めなので、パーティに加わった直後は死にやすい。


「教会で蘇生させればいいじゃないか」

「死んだ人間を生き返らせるためにお布施だなんて、詐欺としか思えない」


 いや、たしかに現実世界ではそうかもしれないが、これはゲームだから。

 嫌な予感がしたので、引き続きプレイを見ていたら、まだまだツッコミどころが出てきた。


 戦闘画面を覗いていたら、戦士タイプのフヨウがレベル40のくせにダメージを受けすぎていた。

 隠し防具のオリハルコンのよろいは無理でも、さすがにミスリルのよろいなら前の町で購入できる。


「芙蓉、ミスリルのよろいは買ったのか?」

「鎧なんて装備したら、スピードが落ちるじゃないか。せめてかわのむねあてまでだ」


 どうしてそういうところで、現実主義リアリストなのやら。

 ゲームは終盤なのに、フヨウの防御力はペラペラだ。

 そう言えばロックゴーレムとの戦闘画面で気になったけど、もしかして武器は、


「くだものナイフか、素手だな」


 べつにこのゲームには、装備品によってすばやさが低下する要素はないので、どんどん強力な武器防具を装備させた方が良い。


「目に見える数字が本当の強さとは限らない」


 芙蓉がどや顔で、何かカッコイイこと言っている。

 たしかに昨今では、裏のパラメーターがあるゲームも見るけど、こんな古い作品には存在しない。

 現実主義で少し冷めたところのある彼だが、実は融通が利かなくて、意外とポンコツなのかもしれない。


 勧めるゲームを間違った。

 最初に入りやすいようにシンプルな昔のゲームを持ち出したが、よりリアルを追求した最近のソフトをやらせるべきだった。

 初心者でいきなり装備制限にソロの縛りプレイをするとは。

 芙蓉の中のゲーマー魂が覚醒するのは、時間の問題かもしれない。

 そして俺の見込みでは、彼は〇ム気質だ。



“結局、芙蓉はゴリ押しでエンディングまでたどり着いた。後日、彼に色々と試させたが、アイアンギアというダンボールに身を隠すオッサンで有名なステルスゲームにドはまりした”


 ***

『おまけ』


芙蓉クリア時レベル

フヨウ Lv56

ヨシキ Lv7

レンジ Lv11


由樹クリア時レベル

レシア Lv31

トリア Lv30

ブルク Lv30


紫苑クリア時レベル

シオン Lv999

リンカ Lv99

シズル Lv99


 ***

『あとがき』

いかがでしたか。

サブタイで『俺だ〇レベルアップ〇件』を匂わせておいて、実は『ドラゴンクエ〇トII 悪霊〇神々』のパロネタでした。

作中のゲームと実際のDQIIは多くの点で異なります。

興味のある方はぜひプレイしてみてください。

筆者はリメイク版をやりましたが、サ〇トリアの王子の一時離脱による戦力低下に絶望しました。


ゲームネタはそのうちまたやりたいです。

・スマブラ頂上決定戦

『並列処理の天才』冴島由樹

VS 『電脳世界の支配者』工藤凛花

VS 『場外乱闘の申し子』九重紫苑


・男子3人徹夜で恋愛ゲーム実況プレイ

芙蓉、蓮司、由樹それぞれの好みのヒロインをまとめて攻略しようとするが……


・校内ポケモンG〇大会


などなど考えております。

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