13 林間合宿スタート
『あらすじ』
林間合宿は霊峰で魔獣討伐
9班のメンバーは癖がある!?
会長は合宿に参加するのか!?
***
東ニホン魔法高校の1年生最初の試練こそが林間合宿だ。
魔獣が発生しやすい土地、第1公社が管理する霊峰にて、魔獣相手に戦闘経験を積む。
課題を達成できなかった学生は、退学処分という厳しいおまけ付き。
そして俺達9班は工藤副会長と共に、霊峰の中腹にて行軍の準備をしていた。
朝の6時に東高からバスで出発して3時間ほどの移動だったが、途中から窓ガラスにシャッターが下り、ここがニホンのどこなのか特定できない。
移動時間からして、東ニホンのどこかくらいしか推測できない。
スマホの通話は普通に使えるが、GPSが機能していない。
この辺りから第1公社の情報統制の徹底ぶりが
服装は各人の自由だが、東高の制服は身体を動かしやすく、魔法に対する耐久性にも優れているため、そのまま着ている学生が多い。
服を選ぶのが面倒な俺にとっては都合がいい。
蓮司と由樹だって同じ格好をしていた。
もちろん由樹はゴーグルとマフラーは着用せずに、いつもの眼鏡を装備している。
そして女子達はいつものスカートではなく、俺達と同じズボンを履いていた。
普段からズボンを着用している工藤先輩は、男子の制服を流用していると思っていたが、どうやら女子の指定服にはパンツスタイルもあるようだ。
これから登山になるので、流石に胡桃も
野々村も杖は出しているが、動きを阻害するローブは荷物にしまってある。
「荷物をバスから下ろしたら、軽くミーティングするぞ」
髪を短く揃えて、サバサバしている工藤先輩は相変わらずボーイッシュだ。
周りも似た格好なのであまり浮かないと思ったが、それでも彼女の存在感は際立っていた。
彼女以上にズボンがマッチする女性はいないのかもしれない。
この霊峰の中腹まではコンクリートで舗装された道路があり、バスで来ることができた。
しかしこれより先は荷物を担いで、登山路を歩く必要がある。
すでにそれなりの標高があり眺めが良いのだが、これからさらに奥地へと登る。
春の始まりということもあり、芽吹く準備をしている花々が多い一方で、淡い花がちらほら咲いているのが目に映る。
荷物には自分達の私物以外にも、東高が準備した食料や様々な資材がある。
アウトドアグッズだけでなく、サバイバル道具に近いものまで混ざっている。
とりあえず天幕の骨組みだけはベースキャンプに置いてあって、自分たちで運ばなくてもいいのが、何よりの救い。
それでも2泊3日分の荷物はかなりの量で、全員リュックはもちろん男子は両手が塞がってしまう。
工藤先輩の号令に従い、俺達9班の7人は円状になって集合した。
「これよりベースキャンプまで、登山路を進む。すでに1組が先行していて、クラス単位での移動になる。この2組では上級生5人のうち、私が全体のリーダーを務める」
ベースキャンプまでお昼休憩を挟んで、4時間以上要する。
そこから野営の設置と並行して、実習を行うタイトなスケジュール。
ベースキャンプまでの道のりはふたつあり、1−4組が同じルートを使うことになっている。
2組は6から10班の計5班で、それぞれに上級生が1名ずつ付いている。
ちなみに担任の後藤先生と副担任の奈瀬先生は留守番だ。
クラス担任の彼らだが、他の授業の担当や寮の仕事があるので、俺達の面倒ばかり見ることはできない。
それに後藤先生曰く、彼は座学専門で実習の面倒は見られないらしい。
一応教官兼護衛として、第1公社のライセンス持ちの魔法使いが各クラスに1人引率に就くが、基本的に上級生が仕切って口出ししない。
工藤先輩の説明がまだ続く。
「登山路は魔獣の生息区域の外だが、稀に魔獣が現れることがある。魔獣と接触した場合は2年生で対処する。許可がないかぎり1年生の戦闘への参加は禁止だ」
彼女の指示はもっとも。
いくら東高に入学できた優秀な学生でも、魔獣との戦闘経験者はほとんどいない。
荷物を持ち
最初から戦闘要員を上級生に絞った方が、混乱が少なく対処が早い。
「それと班の中で1人リーダーを決めておくぞ。特に私は2組全体の指揮もするので、指示ができない場合はリーダーに判断を一任する」
俺「蓮司だな」
蓮司「芙蓉に任せる」
由樹「もちろんオレさ」
橘「的場くんね」
胡桃「的場さんなのです」
野々村「(冴島くんごめんね)的場くんかな」
リズ「……的場」
工藤先輩「本人以外、満場一致で的場だな」
工藤先輩の由樹に対する扱いが、段々とクラスの女子達のそれに近づいてきた。
まぁ実際、リーダーは蓮司に任せた方が安心だ。
落ち着いた性格に、協調性の高さ、周りを見渡す広い視野、それに後衛のポジションはリーダーとして、みんなに指示を出すのに向いている。
「仕方がない。工藤先輩が指示を出せないときはないと思いますが、リーダーを引き受けます」
ここでさらりと引き受ける辺りが、イケメンなのだよな。
由樹さんや、度を超えた羨望の眼差しのせいで、目が血走っているぞ。
素直に蓮司を見習えば、彼は十分にモテるポテンシャルがあると思うのだが、当分先になりそうだ。
一同は改めて荷物を確認すると登山路へと入って行った。
地面はすでに先行している1組によって踏み固められていた。
引率の教官が先頭で、6から10班までが順に並んでいる。
登山路は人が4、5人横に並べられるくらい広めで、軽自動車なら通れそうだが、あまり横に広がらず2列で行軍している。
不意の戦闘の場合、固まっていると身動きが取れないので、左右に余裕を持たせてある。
いくら開けていると言っても、登山路のすぐ隣は木々が高く生い茂っており、日光は十分に届くが、視界はあまり良くない。
林の中から魔獣が現れても、近づかないと視認は難しそうだ。
ちなみに移動や荷物の運搬に魔法は一切使っていない。
それらの魔法を持っている学生が限られているという理由もあるが、何よりこれから1年生にとっては未知の魔獣退治が控えているので、魔力の無駄費いはできない。
9班は先頭に俺と工藤先輩、次に胡桃と野々村、そして蓮司と由樹、橘とリズという順番だ。
近接に強いメンバーを前後に配置して、中央の遊撃、後衛を守る布陣。
確かに理に適っているのだが、蓮司と由樹と離れたのは辛い。
せっかく会長から離れて学外に来ているのに、この配置でベースキャンプまで約4時間の移動だ。
みんな隣同士で、適当に喋りながら気を紛らわせている。
俺もいたたまれなくなって、隣の工藤先輩に当たり障りのない話題を振った。
「ところで引率の先輩達は、どのような基準で選ばれているのですか?」
俺たち2組に5人ということは、1年は8組まであるので、40人の上級生らが今回の合宿に同行していることになる。
工藤先輩はこちらを見ずに、前を向いたまま答える。
「基本的には先生の推薦だな。実力もだが、後輩達の面倒を見られないような奴は選ばれない。上級生も単位が貰えるから、断る生徒は少ないな」
「会長や草薙先輩が担当の班もあるんですか?」
「あの2人が後輩の面倒なんて見られると思うか?」
たしかに。
気移りが激しく、自分勝手な会長様。
ほとんど喋らないコミュ障の草薙先輩。
うん、無理だな。
ちなみにリズも無口な方だが、彼女は要所でしっかりと自分の意見を口にする。
それに比べて生徒会書記の草薙先輩とは数回会ったことがあるが、くしゃみ以外で声を聞いたことがない。
「こういう行事は、生徒会からも最低1人出すことになっているけど、毎回私の担当だな」
御愁傷様です。
副会長の工藤先輩は苦労人なのだな。
それでいて、運動部の掛け持ちまでしているのだから、この人のバイタリティーは尋常じゃない。
ちなみに上級生は私物以外の荷物を持ち歩いていない。
魔獣が出た際に、
工藤先輩は登山用のリュックと、相変わらずいつものバットケースを肩に背負っている。
しかし会長が、この林間合宿に参加していないという言質を取れたのは、素直に喜ばしい。
これでこの2泊3日は殺伐とした実習ではあるが、任務を忘れて高校生活を堪能できる。
しかしこのとき俺は、由樹から教わったばかりのフラグというニホン文化についてすっかり失念していた。
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