12.5 7つのクラス

『あらすじ』

林間合宿は魔獣討伐

2組9班を結成

朝から霊峰へと移動

 ***


 林間合宿の舞台になる霊峰は、東高から距離がある。

 そのため俺達は学校の用意したバスに乗車している。

 1台の大型バスに2組全員が押し込められていた。

 霊峰の場所が漏れないための処置として、窓から外は見えず、俺たちの座る客席は運転席から完全に隔離されている。

 さらに携帯電話のGPS機能も妨害されている。

 毎年恒例の行事ということもあって、この辺りの処置は徹底していた。

 ちなみに引率の先輩達は乗っておらず、担任の後藤先生も座学担当なので今回の実習に不参加だ。


 霊峰は魔獣が現れるだけでなく、魔力が濃い影響によって、通常ではありえない植物や鉱物が発見される。

 他にも様々な魔法の実験にも用いられる。

 魔法公社が業界を牛耳っているのは、なにも精霊王との契約者による抑止力だけではない。

 このような魔力資源を管理している点でも、他の魔法組織に比べて群を抜いている。


 バスの中は空調の管理が行き届いており、席同士の幅が広く、シートも良い材質を使っているため、閉鎖的な空間でもあまりストレスを感じない。

 席順は特に決まってないが、自ずとそれぞれの班で固まっていた。

 俺達9班も例外じゃない。

 左右に2人ずつの席は女子4人が前の列に座り、男子は端から由樹、蓮司そして通路を挟んで俺。

 隣に誰もいないのをいいことに、俺は1人静かに睡眠と覚醒の狭間でまどろんでいた。


「だから芙蓉が槍兵で、橘が狂戦士でピッタリさ」

「狂戦士なんて嫌よ。じゃあ帰ったら槍を持つから、私を槍兵にしなさい」


 由樹と橘の声で、意識が覚醒側へと引っ張られる。

 ちょうど前後の席になる橘と由樹がなにか言い争いをしている。

 メインは2人のようだが、リズも含めて全員が会話に参加しているようだ。


「おっ芙蓉、お前は狂戦士と槍兵どっちだ?」


 俺が目を覚ましたことに気がついた由樹が、意味不明なことを聞いてきた。


「いや、なんの話題だ?」

「せっかく7人いるから、クラスに当てはめようってなって……」


 由樹の説明によるとニホンでは、英雄を性質に合わせて7つのクラスに分類する文化があるそうだ。


 7つのクラスとは、

 剣士

 弓兵

 槍兵

 騎兵

 魔術師

 暗殺者

 狂戦士

 のことだ。


 それでこのメンバーで、誰がどのクラスに当てはまるか話していたということらしい。


(いや魔法高校の学生だから、全員魔術師なんだけど……)


 しかしクラスメイト達の言わんとすることも分からなくもない。

 ステイツにいた頃は、コードネームをチェスの駒やアルカナにたとえることは、別段珍しくなかった。

 俺の場合はポーンかルークのどちらかという話題になり、毎回ポーンに落ち着いていた。

 確かに俺の切り札は、相手の懐に入ってこそ、真価を発揮する。

 そういう意味でもプロモーションのあるポーンは、結構気に入っている。


 アルカナだと“愚者”に当てはめられることが多い。

 攻撃魔法を持たず、他者の魔力を奪い自身の身体能力へと還元するのは、数字を持たず物質主義の愚者という訳だ。

 また愚者には、“もうひとつの切り札”という解釈もあるので、切り札と奥の手を持つ俺にはピッタリだった。


 とりあえず蓮司達がこれまでの経緯を説明し始める。


「まず、魔法銃を使う俺が弓兵で、杖とローブを装備する委員長が魔術師」

「次にスカイボードに乗る俺が騎兵と槍兵で悩んだけど、騎兵になった」


 なんで槍を持たないのに由樹が槍兵の候補かと質問したら、なんでもニホンの槍兵は足が早いのが常識らしい。

 俺にとって槍とは、騎乗からの攻撃や、敵を迎え撃つための武器なのに、使い手に機動力が求められるとは、ニホンの兵法はどうやら世界標準とは異なるようだ。


 さらに由樹の説明が続く。


「胡桃を剣士と暗殺者のどちらにするかで迷ったけど、剣士はリゼットがいるので、胡桃が暗殺者に落ち着いた」


 リズがコクコクと首を縦に振り、胡桃は不満げにちょっとむくれている。

 小さな2人が前の座席から頑張って顔を出して並ぶ姿は、なんとも愛らしい。

 それで残った槍兵と狂戦士を俺と橘で取り合うわけか。


「芙蓉の方が機動力あるから、槍兵は芙蓉がいいと思ったのさ」

「いやよ。狂戦士ってなかなか最後まで残れないじゃない。どうして盾兵は基本クラスじゃないのよ」


 そして俺が起きた時点に戻るわけか、別にただの喩えなのだから、そこまでムキになる必要もないのに。

 そんな軽い考えをしていたから、俺は小さな混沌カオスの渦に、サイを投げてしまう。


「でも由樹の説明だと、リズは剣士よりも槍兵じゃないか。機動力があるし、レイピアは刺突に有利な武器だろ」


 俺の発言に由樹だけでなく、リズ以外の全員がハッとする。

 由樹がみんなを代表して発言する。


「確かにそうか。盲点だった。みんなあまりにも剣に囚われていた」

「そうなると剣士のクラスが空いたな。芙蓉は剣を使えるのか」


 蓮司が訊ねたが、俺は任務に合わせて素手だけでなく、様々な武器を持ち変える。

 まぁ別に隠す必要もないし、知っていてもらった方が、いざという時にためになるかもしれない。


「刀剣だけじゃない。ナイフ術、それに射撃と投擲とうてきとかかな。さすがに槍は使ったことないけど、薙刀と棒術なら少しできる」


 これがまた余計なことだった。

 由樹がさらに訳の分からないことを言い出す。


「これって蓮司より弓兵っぽくない」


 なぜ俺が弓兵なのだ。

 魔法銃を使う蓮司が弓兵にピッタリだろ。


 なんでも由樹の話によると、弓兵は遠距離武器だけじゃなくて、様々な武具を扱えるのがニホンでの常識らしい。

 弓兵と言っても、やはり言葉のニュアンスや文化の違いで、多少感覚がズレるみたいだな。

 さらにニホンの弓兵は、宝物庫や固有結界を持っていたりするらしい。

 弓兵ってどこまで万能なのだよ。

 さすがにそこまでのことは俺にはできないぞ。


「そうなると、蓮司と橘で、剣士か狂戦士になってしまうな。どっちも合わないけどどうする?」


 俺の問いに、そろそろ飽きてきたのか蓮司が生返事する。


「もうどっちでもいいだろ。剣は使えないから残りでいいよ」


 これで、橘は狂戦士を回避したわけだな。

 橘おめでとう。

 そう思って彼女の方を振り向くと、


「的場くんが狂戦士だなんて、荒々しく強引でガテン系なのもいいかも。そしたら、私なんて簡単に襲われちゃうかも。あぁでも、あえて私が狂戦士で襲う側に回るのもいいかも。剣士から剣を取り上げて、あとは有無を言わさずなんて。でもでも的場×高宮も捨てがたい。やっぱり狂戦士バーサーカーに掴まれて身動きできない弓兵アーチャーっていいよね。やっぱり美女と野獣じゃなくて、今の世は野獣×美男子よね」


 えっ、俺と蓮司の話?

 何か別の物を想像していない?

 やばい、何か橘のスイッチが入った。


 不穏な発言が聞こえたが、聞かなかったことにしよう。

 こうして橘以外、静かにバスでの時間を過ごした。

 みんな優しいなぁ。


 霊峰までの移動の時間は、瞬く間に過ぎていった。


***

『あとがき』

いかがでしたか。

今回は完全にFa◯eにおんぶにだっこでした。

F〇teを知らない読者には申し訳ないです。


適当に書いていたら、オチで由樹に着陸できず、橘に不時着しました。

本作では、ほぼ全ての登場人物が、表キャラと裏キャラの設定を持っています。

表が真面目なキャラほど裏キャラとのギャップが激しいかもしれません。

***

『おまけ』


「待って、待って、やっぱり弓兵アーチャー×槍兵ランサーの鉄板は外せないよね。個人的には槍兵×弓兵の方が好きだけど、どっちもイケるのが高得点よね。ってことは、リゼットと高宮君?」


妄想トリップから戻ってきた橘が俺に向かって宣言する。


「高宮君! リゼットはお嫁にあげないから!」


いや、まだ彼女はまだ現実と向こうゆめの世界のはざまにいるようだ。

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