9 陰陽道と付与魔法

『あらすじ』

林間合宿は魔獣退治

9班はゴーレム相手に演習

次は草薙胡桃の番

 ***


「次は草薙胡桃」


 ゴーレムを修復した工藤先輩が次に指名したのは、小柄な陰陽師の胡桃だった。

 彼女はその小さな歩幅でトコトコと、観客席からリングへと向かう。

 その間に工藤先輩の説明が始まった。


「草薙胡桃。ポジションは遊撃で属性は無し。固有魔法については、本来ならば伏せるところだが、草薙家は陰陽師の家系で有名だな。登録武器は呪符と刀」


 しかし彼女が刀を持っているようには見えないし、まとっている狩衣に隠せるような場所も見当たらない。

 リングに上がり、ゴーレムと相対した胡桃は、袖の内側をまさぐると、白い呪符を取り出した。

 ちなみに呪符などの魔道具も攻撃性があるものは、銃刀法に抵触するので、学校への届け出が必要だ。


「それでは、開始」


 工藤先輩の合図を皮切りに、4戦目が始まった。


 胡桃は合図の直後に、呪符を無差別にリング上にばら撒く。

 それらは地面に落ちることなく、宙を舞だした。

 いや、呪符が白色の鳥の姿へと変わっていく。


「陰陽師の十八番おはこ、式神だな」


 式神は固有魔法のなかでも有名なので、工藤先輩はそれ以上の説明をしなかった。

 白い鳥は大きなくちばしに、鋭利な翼を羽ばたかせている。

 白色からは、マジックショーで使う鳩を連想させられるが、どちらかというとカラスに似た形態をしている。


 ゴーレムの頭部にある2つのくぼみが鈍く光る。

 これまでの戦いぶりから、この巨人は視覚情報のようなものをメインに、こちらの位置を感知しているようだ。

 ここからでは、無数の式神のせいで胡桃の位置がチラチラとしか見えない。

 しかしゴーレムは式神に惑わされることなく、胡桃の方へと向かって行った。


 これまでと同じ動作パターンで、ゴーレムが腕を上げて振り下ろそうとする。

 しかし胡桃は動かない。

 小さな鳥型とはいえ、あれだけ多くの式神を制御していれば、動くのもままならないのだろう。


「先輩、これは危ないのでは」


 蓮司が工藤先輩にゴーレムを止めさせようとする。


「だまって見ていろ」


 しかし工藤先輩は彼の意見を一蹴した。

 腕を組んだまま、止める気配を全く見せない。


「駄目です! 工藤先輩、止めてください。胡桃が!」


 今度は橘が喚きながら、工藤先輩の袖を掴み、止めさせようとする。


 だが無情にもゴーレムの腕が振り下ろされてしまい、無防備な胡桃に脳天から直撃した。

 彼女は1度地面に叩きつけられ、その軽い身体は簡単に宙へと跳ね上がり、再びリングの上へと落下した。

 過剰な打撃を受けた彼女は、起き上がらないどころか、ピクリとも動かなかった。

 誰1人言葉を発せず、呆然とリングを眺めていた。


 しかし胡桃の身体がいきなり霧散して、散り散りになった紙だけが残った。


「今潰されたのは胡桃じゃない。彼女に扮した式神」


 工藤先輩の言葉で、俺達は正気に取り戻した。

 彼女はこのことを知っていたので、わざとゴーレムを止めなかったのか。

 リングまでは距離があるし、飛び回る鳥形の式神のせいで視界も悪く、暴くことができなかった。

 同業者のリズだって、懐のレイピアを握りしめ、今にも飛びかかろうとするのを堪えていた。


 最も有名な陰陽師のアベノセイメイはころころと変わる姿やとって食えない性格から、伝承では狐の子や彼自身が狐と揶揄やゆされている。

 陰陽道は星を読み、陰陽五行を扱う科学的で厳格な面がある一方で、狐から連想させられるような化かすことに長けた術でもある。


 ゴーレムが攻撃した胡桃が式神ということは、彼女本人はどこにいったのだろうか。

 考えられるのは、式神に化けているのか、姿をくらます術を使っていることくらいだ。


 ゴーレムは飛び交う式神を、ひとつずつ処理しようと動き出す。

 多くの動くものから、胡桃に扮した式神を優先的に攻撃し、それがダメなら他の式神へとターゲットを移している。

 攻撃の優先順位がしっかりとプログラムされているようだ。


 ゴーレムが腕を振り回すと、ぶつかった式神は簡単に消滅し、破れた呪符が地面に落ちた。

 むやみやたらに攻撃するのではなく、多くの式神を巻き込むような軌道を描きながら、その太い腕が回る。

 もし胡桃が式神に化けているならば、そのうち攻撃が当たってしまう。

 工藤先輩の組んだゴーレムのスクリプトはとても優秀で、このままではジリ貧に思える。

 こんな戦い方をして、胡桃は一体何を狙っているのだろうか。


「おまえたち。魔力の感知は、どの程度できている?」


 工藤先輩が俺達に質問を投げかけてきた。

 蓮司のときに引き続き、彼女はすでに胡桃の狙いに気づいているようだ。


 魔力の感知は人によって異なり、六感のいずれかに現れる。

 普段の俺は触覚、つまり肌で魔力を感知している。

 しかし身体強化で集中すれば、他の感覚器官でも魔力を検出できる。

 深く呼吸して、会場の空気を吸い込むと、魔力を目に集中させた。

 するとリングの上で、倒された式神の呪符しがいの一部がまだ魔力を帯びていた。

 そして散らばっている呪符から発せられた魔力が細く繋がり循環して、星型を描いている。


「五芒星ですね。しかし魔除けだと、ゴーレムには効かないのでは?」


 由樹の指摘に対して、工藤先輩は感心しながら答えた。


「冴島はよく勉強しているな。汎用性の高い四元素魔法と違って、固有魔法は文献が少ないだろ。五芒星は魔を払う力を持ち、魔とは邪悪なものとされてきたが、実際には魔獣や怨霊に対して人間の善悪の基準は当てはまらない。ここでいう魔とは魔法のことで、魔法生命体であるゴーレムにも一定の効果を示す」


 彼女の解説が終わるころには、魔力の流れがより太く強固になっていた。

 指定された通りにしか動けないゴーレムは五芒星の中央を踏みぬくと、急激に動作が鈍くなり、そのまま停止した。

 巨人は腕を上げたまま、時の流れから外れてしまったかの様に固まっていた。

 五芒星、対象の動きを封じる魔法陣。

 あとは1発攻撃を成立させれば、模擬戦として十分アピールになる。


 すでに胡桃の居場所に検討がついている。

 俺はゴーレムの影に視線を移した。


 ゴーレムの影から、陰陽寮の正装である狩衣かりぎぬまとった小さな少女が現れた。

 隠遁術いんとんじゅつ、影に隠れるのも多彩な陰陽五行の特性のひとつ。

 彼女は別に影の世界に入っていたとか、超常現象を起こしたわけではない。

 気配を影と同化させただけで、物理的にはずっとそこに存在していた。


 人間にしても、たとえゴーレムでも、目は全ての映像情報を捉えているわけではない。

 映像情報は常に脳内で、過去の経験に基づいて補正を受けている。

 目が光の波長としての情報を捉えても、あまりにも気配が薄くなると、他が否定の信号を送り出し、脳が認識できなくなる。

 ましてや気配を減らすどころか、影と同化することで目に入る光学的な情報量を減らしている。

 結果として、リング全体を見下ろせる観客席にいた俺達ですら、彼女を見失ったのだ。


 とはいえ橘のときと同じで、魔力の使いすぎだ。

 彼女の魔力は橘よりは多いが、決して突出しているわけでもない。

 大量の式神に、隠遁、そして現在使用している五芒星による拘束はかなり消耗が激しい。

 橘同様、魔力切れでギブアップだな。


「胡桃、ひと通り見せたのなら、終わりでもいいが」


 工藤先輩も俺と同じ考えで、模擬戦の終了を提案した。

 しかし胡桃は先輩の方を向かなかった。


「最後にもうひとつなのです」


 右腕を伸ばすと、その上にまだ生き残っていた式神1羽が舞い降りた。

 彼女がなにかつぶやくと白い鳥は元の形に戻った。

 それは呪符ではなく、木製の白鞘に納められた刀。

 刀を持ち歩いていないと思っていたが、式神に変化へんげさせていたようだ。


 刀の詳しい分類は分からないが、その長さからドスや脇差などと呼ばれる代物。

 1学年上で、生徒会書記の草薙先輩は1メートル近い打刀うちがたなを腰に差していたので、胡桃の獲物は随分と短く感じる。

 たしかに普通の女子高生の腕力では、打刀を振り回すことは困難だ。

 そして彼女は刀を鞘から取り出すことなく、納刀のうとうしたまま、その先端をゴーレムの背中にトンと当てた。

 その意味を俺たちの誰もが理解して、背筋を強張らせた。

 そして工藤先輩から戦闘終了の宣言が放たれた。


「十分だ。そこまで」


 胡桃が最後に見せた行動は、ゴーレム相手だったので攻撃力不足だった。

 しかし人間相手ならば、十分に致命傷を負わせられるというパフォーマンス。

 何かに化けたり、動きを封じる罠を仕掛けたり、影に隠れたりして、突然ずぶりと刺せばどんな優秀な魔法使いでも実力を発揮させる前に倒せる。

 彼女は不意打ちや暗殺にとても長けている。

 書記の草薙も同じ術を持っているならば、今後会長に接触するのには一層気をつける必要がある。


 胡桃は魔力の消耗で多少の疲れが見られるが、いつも通り短い歩幅でちょこちょこと歩いて、客席に戻ってきた。


「草薙家はこういう戦い方が得意なのか」


 彼女は特に隠す素振りもなく、答えてくれた。


「違うのです。私のいる分家は影なのです。ほとんどの人達は、剣術で正面戦闘をするのです」


 そうなのか。

 同じ一族なのに本家と分家で戦闘スタイルが違うということは、それだけで草薙の歴史の深さがうかがえる。


「的場、ステージに残った呪符を燃やしてくれるか」


 先ほどの戦闘でゴーレムやリングに破損はないが、破れた呪符の残骸が舞い落ちている。

 蓮司は客席から魔法弾を1発放って火を点けた。


「あっ。ごめんなのです」


 胡桃が、しゅんと萎んでしまった。

 いつもの可愛らしい彼女がそこにいた。

 頭を撫でたいという願望があったが、ここはぐっと堪えた。


「よしよし」


 橘が撫ではじめて、それに横からリズも続いた。

 無口な彼女だが、胡桃のことをとても心配していた。

 そして無事に呪符が燃えきって、自然に鎮火したところで次の試合が始まった。


「次は野々村。おまえはサポーターだが、今回の実習はポジションに関係なく魔獣を1人1匹以上討伐がノルマだ。やれるか?」


 残ったメンバーは由樹が遊撃で、騎士であるリズは前衛のアタッカーかブロッカーのはずなので、バランスを考えると野々村がサポーターなのは予想できていた。

 たとえサポーターでも、1対1のランキング戦のある東高に入学したからには、何か戦闘手段があるはず。

 そうでない者は、西高に行くことが多い。

 両校とも全寮制なので、出身よりも校風で選ぶことになる。

 後はレベルは落ちるが、私立高校の魔法科に進学する手段だってある。


「はい。やります」


 返事をした野々村は、制服の上から着た白いローブと一体となった帽子をかぶり、50センチほどの木の杖を両手で握ってリングへと向かった。


「野々村は後衛・サポーターで、属性は4つ全てだな。固有魔法はなく登録武器もなしだ」


 武器として登録されていないということは、あの杖もローブも攻撃性の魔道具ではないことになる。

 4つ全ての属性を使える魔法使いは珍しいが、属性の数だけでは魔法使いの優劣は決まらない。

 たしかに19世紀に四元素魔法が現れてからしばらく、魔法使いは手札が多くてなんでもできる方が好まれた。

 しかし現代は、ライセンス持ちのプロの魔法使いが飽和状態が続いている。

 一方、優秀な魔法使いに限定するとどこも不足している。

 魔法使いは器用貧乏よりも、エキスパートが重宝されるのが、現在の主流だ。

 四属性使える平凡な魔法使い4人よりも、各属性で優秀な人材1人ずついた方ができることが多いと考えられている。

 そのため複数の属性に適正があっても、ひとつをメインに伸ばすのがセオリー。

 その場合はあえてサブの属性を伏せるのが一般的。

 野々村は、目立ちたがり屋とは縁遠い人物なので、実際に4つの属性を均等に使うということだと解釈できる。


「これで5戦目だな。始め」


 例に漏れず、工藤先輩が開始の合図で模擬戦が始まった。

 野々村の選んだ開始地点は、比較的ゴーレム近くのミドルレンジだった。

 後衛の彼女がゴーレムに近づくのは危険にも思える。

 しかし橘や蓮司の戦いで、あの巨人は距離があると突進をしてくることが分かっているので、あえて詰めるのは理に適っている。

 彼女自身は、杖を正面に構えているだけで、詠唱の素振りを見せない。


「またトリッキーな使い手だな。おまえら魔力をよく見ておけ」


 工藤先輩のアドバイスに従って、胡桃の試合のときのように視覚を強化する。

 野々村はうっすらと魔力を発していた。

 厳密には、彼女の纏ったローブと手に持った杖、そして靴にも魔力が集中している。

 試合前に近くで見た印象では、ローブも杖も魔道具のようには感じ取れなかった。

 橘が土の魔力で盾を強化したように、野々村も道具に何かしらの魔力を込めているようだ。


 動いたのは野々村の方。

 歩幅が先程までの彼女とは、比べものにならないほど大きい。

 上半身を屈めたまま足の力だけで、大きく早い歩みを見せる。

 1歩で真横に飛び、2歩目でゴーレムの斜め後方に回り込む。

 バネのような瞬発ではなく、地面から足を離してから不自然に加速していた。

 そして3歩目で巨人に近接する。


「靴に風の魔力を付与しているな」


 俺の見解も先輩と同じだ。

 以前、女子寮のベランダに侵入するために由樹が使ったエアーブーツは1回だけ跳躍力を高めるのに対して、単純な風の魔力の付与は威力こそ劣るが、詠唱を必要とせず、魔力が続く限り持続的に使うことができる。


 そして間合いを詰めた彼女は、魔力を込めた杖を巨人の胴体に向けて叩きつけた。

 動きは完全に素人のそれで、杖の先端の太い部分がぶつかると簡単に弾かれてしまい、彼女は態勢を崩した。


 ゴーレムには全くダメージが無いようで、ゆっくと野々村の方へと振り返った。

 野々村は巨人から距離を取らずにそのまま体勢を立て直して、同じ部位にもう一度、杖を叩きつけた。

 しかし結果は先ほどと変わらず、いとも簡単に弾かれてしまった。


 その間にゴーレムは彼女に正面を向けて、その太い右腕を薙ぎ払う。

 いくら靴に風属性の魔力を込めていても、攻撃後の今の体勢では退避に間に合わない。

 ゴーレムの右腕が、彼女の胴体に直撃した。

 いや、厳密には彼女のローブに命中していた。

 岩にぶつかったような重たい音とともに、その太い腕は急停止した。

 野々村は一切防御の動作をしていないのに、ゴーレムの腕は彼女に衝突したその場で止まっている。


「靴に風で、ローブに土というわけだ」


 俺の目では魔力の流れは見えても、属性を捉えるには強化が足りないので、工藤先輩の解説は助かる。

 土属性の付加は、先ほど橘が攻撃を受け止めるのに盾に使ったやり方と同じ。

 その特性のひとつは、“より硬く、より重く”。

 通常の魔力で強化しただけの防御では、物理ダメージを相殺できたとしても、彼女の体格では吹き飛ばされてしまう。

 そこで身にまとったローブに土属性を加えることで、こらえたのだ。

 しかし盾とローブでは、元来の強度も質量も異なるので、相当な魔力を練り込んでいるはずだ。


 付与魔法は四元素魔法の中でも詠唱がいらないので、素人には下級魔法のさらに下に位置するように思われがちだ。

 しかし実態は、物に魔力を流すのは単純であって奥が深い。

 高出力の魔力を流すと物体が弾け飛んでしまい、弱く魔力を流すと空気のように抜けてしまう。

 そこで一流の付与魔法の使い手は、魔力を流すのではなく、練ると表現する。

 多くの魔力を練り込み物体に定着させるのが、付与魔法の真髄しんずい

 魔法使いでなくても使える汎用性の高い魔導具の多くは、熟練の付与魔法師が長時間かけて魔力を練りこんだものだ。


 ちなみに俺の身体強化も無属性の付与魔法と言っても構わない。

 ローズかあさんの魔法式の補助を受けながら鍛錬をしたため、自身へと魔力を練り込むのに一切抵抗がない。

 橘はインパクトの瞬間、大盾に力任せに土の魔力を込めたのに対して、野々村はローブにねっとりと高密度の土の魔力を練りこんでいる。

 もちろん消耗も早いと推察できるが、そこまでして接近戦にこだわるということは、短期決戦の勝算があるということだろう。


 彼女は三度みたびゴーレムの胴体に杖を叩き込んだ。


「工藤先輩、あの杖にはどの属性が加えられているのですか?」

「火属性だな。しかも伝導性を高めて、ゴーレムに流し込んでいる」


 土塊のゴーレムに対して、火属性はあまり有効とは思えない。

 蓮司は弾を1点に集めることで、無理やり熱による融解を引き起こさせたが、あれは精密な射撃があって可能な芸当だ。

 彼女の杖の叩き方では、熱がゴーレムの体を伝わって全身へと逃げてしまう。


 再びゴーレムが攻撃体勢に入ろうとする。

 今度は拳を高く上げて振り下ろす動作。


 先ほどのなぎ払いとは異なり、単純にローブを強化しても腕の重さで潰されてしまう。

 巨人の攻撃パターンは自立型とは思えないほど、その場に即している。

 しかし野々村は4度目の攻撃のモーションに入る。


 俺は場の雰囲気で、彼女が勝負を決めに出たと感じとった。

 これまでの3回は力任せに粗々あらあらしく杖を叩きつけたのに対して、4回目は同じ動作にも関わらず、ゆったりとどこか涼しげに攻撃だ。

 トンと杖がゴーレムの腹部に当たると、爆発音が会場全体へと鳴り響いた。

 咄嗟とっさに両手で耳を保護したが、それでも身体が震えている。


 強烈な音に反して、ここからではゴーレムに特段の変化は見られない。

 その振り上げた拳を野々村へと突き落とそうとしている。

 しかしその拳は彼女に届くことはなかった。

 ぼろぼろと身体が崩れ始めたのだ。


 まずは拳を握っていた腕、次にもう反対の腕、そして足が胴体を支えられなくなり、最後には全身が粉々に崩壊した。


「サポーターの野々村が1番派手にやってくれたな。私はゴーレムを修復する。冴島、おまえが解説しろ」


 そう言って工藤先輩は客席から、リングへと躍り出ていった。

 由樹がみんなの視線を集めながら任されましたと、嬉しそうに喋り出した。


「委員長は火の属性を加えた杖で3回叩くことで、ゴーレムに熱を通して、最後は水の属性を加えて一気に冷やしたのさ」


 シンプルだが理に敵った効果的な方法。

 熱の変化を利用するならば、蓮司がやったように溶けるほどの高温を必要としない。


「つまり熱を加えて、膨張したとこに一気に冷やしたので、ゆがみみが生じて崩れたのか」


 蓮司がみんなを代表して感想を口にした。


「それだけじゃないさ。工藤先輩のゴーレムの素材は単純に土を固めただけではなくて、繋ぎとして粘土のような材質が混ざっている。そして粘土は一定量の水分を含んでいるのさ」


 粘土の水分を飛ばすことで、いびつな形になった状態にしてから、急激に冷やしたことで、一気に水分が供給されて形状を維持できず、最後には巨体の重みで自壊したのか。


 今回野々村のとった戦法は、明日からの魔獣討伐では使えないが、ソロでも十分に戦う手札を持っていることを俺達へと見せつけた。

 実際に耐久面では魔獣よりも、ゴーレムの方が上のはずなので、火力を心配する必要はない。

 それに本来、野々村サポーターである。

 魔法の付加を仲間の装備に加えることができれば、これ以上に心強いものはない。


 結局、殺傷能力の高い陰陽師はゴーレムに傷ひとつ付けずに俺たちに殺しの印象を残し、対照的に攻撃力の低いサポーターの野々村はゴーレムを大破させて自身の多彩さを示した。


 そんな話をしていると、野々村が客席に帰ってきた。


「芽衣、お疲れ」

「芽衣ちゃん、お疲れ様なのです」


 橘、そして胡桃ちゃんが野々村をねぎらった。

 リズも何か言いたげだが、タイミングを逃してしまったようだ。


 そんなこんなで、ゴーレムの修復が完了した工藤先輩がリングの上から次の対戦カードを発表した。


「次は冴島。降りてこい」

「いよいよ、期待のルーキーの出番さ」


***

『おまけ』

凛花「これより、九重生徒会長による謝罪会見を始めさせていただきます」


紫苑「前回は、出番が欲しいからと原稿を強奪しようとして、申し訳ございませんでした。(けっして、凛花にこっぴどく叱られたとかは関係ありません)読者の皆様に不安を与えてしまったこと、いくら謝っても切りがありません。(未だに本編でのセリフがくしゃみしかない静流から、ジト目で圧力を掛けられたとかは、関係ありません)また本作のイメージを下げてしまったことも深く反省しております」


凛花「よしよし、いい子だ。ちゃんと謝れたね」

紫苑「うん。それに原稿読んだら、ちゃんと私の出番があったんだよ。林間合宿で◯◯◯が現れて、それに凛花が×××して、後輩くんが△△△△を発動して、最後には私が……」


凛花「待て待て待て。以上で謝罪会見を終了させていただきます」

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