5 会長P
『あらすじ』
副会長は契約者候補
リズと同盟結成
迫りくる影
***
「後輩く〜ん」
リズと生徒会役員を守ることについて、同盟を結んだところまでは良かった。
しかしその様子を当の会長に目撃されてしまった。
さらにはリズこと、イタリーの騎士リゼット・ガロは、俺を残して早々に退散してしまった。
十分に離れていたし、イタリー語で話していたので、さすがの会長でも内容までは把握できていないはず。
生徒会長であり学園の支配者の九重紫苑が迫ってくる。
肩まで伸ばした黒い髪に、ピシッとした姿勢、そして温和な顔立ちをしている。
しかしその奇行のせいで何か企んでいるような笑みに見えて仕方がない。
先ほどまで4、5階はある建物の屋上にいたのに、すでに俺の目の前にいる。
あの会長様ならば屋上から飛び降りても、平然と着地しそうなので、あまり気にしていない自分がなんだか虚しい。
彼女は制服のスカートを少しだけ上げて、軽く会釈しながら上品に挨拶をしてきた。
「後輩君、ご機嫌麗しゅう」
誰だ、この人?
絶対に何かを企んでいるに違いない。
「先週、ベッドの上で指輪を捧げて誓いを交わしてくれたのに、すぐ他の女に乗り換えるなんて、お姉さん悲しいわ」
誤解を招く言い方をしないで欲しい。
模擬戦で気絶させられて、目が覚めたらベッドの上にいて、母さんが残した
「その上、熱い夜を共に過ごしたのに、お姉さんを捨てるの? ひと晩だけの過ちだと言うの?」
またもや意図的に事実を捻じ曲げた言い方だ。
女子寮のバルコニーで夜通し格闘戦を繰り広げ、汗だくになっただけだ。
男女の関係を指摘されるようなことは一切していない。
過ちといえば、たしかに徹夜で熱中したことは、過ちだったな。
会長の顔色はその言葉とは違い、まったく悲しそうには見えない。
むしろ口元が少し笑っている。
相変わらず、彼女が何を企んでいるのか分からない。
とりあえずリズと一緒にいたところを見られてしまったのは確定している。
留学生の多い東高でも銀髪の少女は珍しいので、同じクラスメイトとはいえ、彼女との関係を勘ぐられると面倒だ。
話題を変えなくてはならない。
「こんにちは。会長はもう昼食を済ませましたか?」
当たり障りのない、ありふれた話題を振る。
「ごちそうさま。後輩君の
ダメだ。
相変わらず会長は、人の話を聞いてくれない。
この人が思い通りに動いてくれるわけないか。
「いつから見ていたのですか?」
「凛花と別れて、銀髪ちゃんと2人きりになるところから?」
なぜ疑問形。
そして最初から見られていたのか。
俺はスパイ活動の専門ではないが、気配察知能力には自信があるつもりだ。
リズにマクスウェルの名で呼ばれてからは、それなりに警戒していたのに、彼女の視線にまったく気がつかなかった。
実際、会長が現れてからは、普通の学生とは思えない連中の監視をいくつも感じている。
彼女はとてつもない力をもっているが、普段の彼女からは魔力も、強者としての気配もまったく感じない。
「後輩君は、銀髪貧乳ちゃんが好みなのかしら?」
銀髪貧乳って、露骨な言い方だな。
この人は美人でスタイルもいいのに、喋ると全てを台無しにしてしまう。
「俺の好みは……」
いやいや、これでは会長のペースだ。
リズの名誉のために断っておくが、彼女は決して貧乳ではない。
会長と比べれば、並盛りでも慎ましくなってしまう。
「会長、覗きなんて悪趣味ですよ。俺に散々言っておきながら、自分は平然とするなんて。今は男性だけでなく、女性だってセクハラで訴えられる時代ですよ」
「そんなこと知っているわ」
珍しく、しっかりした返事が返ってきた。
リズとのことを追求されなければ及第点だが、俺の女性の好みについてだって知られたくない。
なにより口を開かなければ、会長のことを憎からず想っていることなんてバレてたまるか。
「なら人のことを詮索するのは、自重してください」
「私はいいのよ!」
私はいいのよ。
わたしはいいのよ。
ワタシハイイノヨ、イイノヨ……
なんとも会長様らしい理不尽な発言だ。
今この瞬間、人類は男性と女性、そして会長様の3つに分かれた。
嫌な天下三分の計だな。
どうして工藤先輩と草薙先輩の2人は、こんな会長様に付き合えるのだろうか。
土の精霊王と契約をしないことが、彼女を選ぶことになる意味は分からないが、人格者の工藤先輩がこんな好き放題な会長様と一緒にいられるのだろう。
2人の間に何があったのか全く想像できない。
「ところで、俺をからかうためだけに、ずっと見ていたのですか?」
この程度の話題の転換は、不自然ではないであろう。
すると会長が急に何かを思い出したかのように話始めた。
「そうだ後輩君に用事があったのよ」
俺に用事?
面倒ごとの予感しかしない。
せっかく林間合宿でオフだったのに、余計なことはしないでもらいたい。
会長が何かを渡そうとグーの状態の手を伸ばしてきた。
警戒しながらも俺が手のひらを出すと、そこには2個の小石が置かれていた。
手に置かれた小石はいびつな形をしており、石英よりも白く、まるで鏡のように光を反射していた。
純度の高い魔石だった。
魔石は文字通り魔力が込められた石で、効率に違いはあれど魔法使いならば、魔力を取り出して魔法を発動できる。
戦闘において強力な切り札になるが、一方で人工的に作れず、採掘された天然ものだけが市場に出回っている。
さらに使い捨てであることから、どの国でもかなり貴重な品だ。
俺もフレイさんからの支給されたものを寮に隠しているが、よほどのことがなければ使うつもりはない。
魔石には属性があり、発動する魔法と属性が一致しないと、せっかくの魔力を大幅にロスしてしまう。
彼女が手渡した魔石は白色なので無属性で、属性との相性を考えずに使うことができる高級品だ。
小石程度とはいえ、こんなものを惜しみなく手渡せるなんて、通常では考えられない。
余程込み入った事情があるのであろう。
「今回の林間合宿で、後輩君の能力を隠してほしいの」
言葉の意味は分かるが、彼女の目的が見えてこない。
俺の戦闘の基本パターンは敵の魔法を分解、吸収して、身体強化からの反撃だ。
しかし魔石を使えば、戦闘開始と同時に身体強化を行えるので、こちらから先手を取れるし、分解と吸収の能力を隠すこともできる。
「一時的に
「後輩君のデビューは新人戦の大舞台がいいと思うの。やっぱり、最下位が実は強かったという展開の方が燃えるじゃない」
何を言っているのだ、この人は。
俺のランキング順位は最下位だが、別にわざと最下位を演じているわけではない。
筆記試験も魔力測定も推薦書も点数が低くて、実技試験でなんとか合格したためランキングが最下位になってしまっただけのことだ。
ましてやステイツの権力で裏口入学をしたわけではない。
会長の身辺にいられるのであれば、べつに力を隠す必要も、誇示する必要もない。
今後は適当にカリキュラムを流せば問題ない。
順位もそのうち順当なものに落ち着くと考えていた。
すでに手遅れかもしれないが、急激な高騰は悪目立ちしてしまう。
しかし我らが暴君は、俺のデビューを派手にプロデュースしたいそうだ。
理由は完全に彼女の趣味である。
こんなくだらないことに魔石を渡すということは、彼女が一介の生徒ではなく、第5公社との太い繋がりを持っていることを想像してしまう。
完全に彼女の趣味の産物であったが、とんでもない可能性を引き当てたかもしれない。
“精霊殺しの剣”だけでなく、魔石という手札も持っているのか。
「とりあえずこの後、凛花と模擬戦をすることになるけど、適当に苦戦してね。そのとき用に1個と、実習で使うようにもう1個。用法容量はしっかり守ってね」
いや、魔石には薬みたいな用法容量とかないから。
魔石から魔力を分割して取り出すことはできるが、この大きさだと1度で使い切ることになる。
とりあえず今の話の流れなら、魔石の出どころを訊ねてみても不自然ではない。
「こんな純度の高い魔石どこで手に入れたのですか」
「後輩君。お姉さんくらい魅力的で人望があると、珍しいものが勝手に集まってくるものなのよ」
(魅力的? 人望? 誰に?)
完全に嘘だな。
それとも極端に自己評価が高いのか。
この人に人望があるとは思えない。
むしろ、どこからか略奪してきたと言った方が、まだ説得力がある。
つまり教えるつもりはないということだ。
露骨に誤魔化してきたわけだけど、堂々と言ってしまう会長は、すごいとむしろ感心してしまう。
「後輩君が林間合宿で能力を隠しきれば、お姉さんの胸に触ってもいいわよ」
このネタは2回目だから、騙されないぞ。
俺が平静を装っていると、会長が少し屈み、腕を寄せて、その双丘を前へと強調してきた。
なんですと。
俺の見立てでは、現在16歳の会長は未だに発展途上のDであったが、本人の自己申告によると普段はブラとパットでより強調しており、目測ではE、いや
盛っていることを理解していても、その制服の膨らみに視線は一時停止してしまう。
「鼻を伸ばしているところ悪いけど、もちろん冗談よ」
またやられてしまった。
やっぱりちょっと残念な気持ちもある。
「まぁ、ご褒美にお姉さんがひとつだけどんな質問にでも、答えてあげるわ」
いやいや、いやいや。
知りたいことはあるが、“精霊殺しの剣”と“第5の精霊王”について教えてくださいと、馬鹿正直に正面から聞けるわけない。
こちらはステイツ政府の秘密組織であり、調査していることを知られると警戒されてしまう可能性が高い。
まぁ、個人的に興味がある会長の固有魔法“指輪の騎士達”についてなら質問してみたい。
「あら、意外とやる気を出したみたいね。そんなにお姉さんのこと知りたいの? とりあえずはこれからある凛花との模擬戦で、適当に苦戦してから魔石を使って反撃なさい」
工藤先輩は各人の戦闘スタイルを確認すると言っていたが、彼女と模擬戦をするのか。
会長は規格外としても、校内ランキング3位でありながら土の精霊王にも見初められた工藤先輩にも少なからず興味がある。
「ところで工藤先輩の実力はどの程度なのですか?」
参考になるかは分からないが、教えてもらえるなら儲けものだな。
彼女は珍しく真剣な表情になって、俺に告げた。
「私と戦ったときが後輩君の全力ならば、凛花には敵わないわ」
***
『おまけ』
紫苑「新人戦は3章の予定よ」
芙蓉「会長、誰に向かって言っているのですか?」
紫苑「後輩くんの順位ならオッズは1000倍くらいかな」
芙蓉「それが狙いか!」
紫苑「儲けの1割くらいはバックしてあげるから」
芙蓉「がめつくないですか?」
***
『おまけ2』
セキヘキの戦い
天下の覇権は男性、女性そして会長様の3大勢力が争っていた。
しかし強大な力を誇る会長様に対抗するために、男性と女性は同盟を結び、セキヘキにて迎え撃つことになった。
連合軍「連環の計だ」
会長様「こんな鎖、足枷にもならないわ」
連合軍「東南の風だ」
会長様「私の魔力で吹き飛ばしてあげる」
連合軍「火計だ」
会長様「火力が足りないわね」
こうして天下は会長様によって統一されるのであった。
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