3 第9班のメンバー
『あらすじ』
林間合宿は魔獣退治
男女合同の班に上級生が1人
課題失敗は退学処分
***
「芙蓉、由樹、学食で飯にしようぜ」
後藤の退学処分発言で混乱していた教室から、俺たちは消沈した由樹を引っ張りだした。
東高の学食は敷地内に複数ある。
以前、会長と行った食堂は人気が高く、俺たちの教室から遠い。
昼のチャイムが鳴った時点で急ぐ必要があったが、今回は出遅れてしまった。
蓮司と俺は、未だにブツブツつぶやく由樹を連れて、某ファーストフードのフランチャイズ店が入っているカフェテリアに向かって歩いていた。
周囲には俺たちのようにカフェテリアへ向かう学生もいれば、中庭のベンチで昼食をしている連中もちらほら見かける。
制服姿が大半だが、中には自分の魔法スタイルに合わせて、特別な衣装を着ている学生もいる。
学校としても制服の着用についてあまり厳しくないし、実習用の服は各自で準備なので、この風景は珍しくない日常。
俺も今朝のランニングは自前のジャージで校内を走っていた。
林間学校では、クラスメイト達の戦闘着を見ることになるかもしれない。
教室を出て歩くこと約5分、目的地に辿り着いた。
本格的なコンビニに、ファーストフード、パン屋、丼モノのお店がひとつの建物に詰め込まれている。
テイクアウトして他の場所で食べる学生もいるおかげで、行列に見えても席を確保しやすいのがポイントだ。
まだ、ぶつくさ言いながら不安定な由樹を席に置いて、蓮司と2人でファーストフード店のカウンターに並んだ。
食券を買うとその時点で注文が入り、列が進みカウンターに着いたころには、料理を受け取れる効率的なシステム。
適当にハンバーガーにポテトとドリンクのセットを3人分買って、2人で持っていく。
席について食べ始めたころに、話題の1つとして俺はある疑問を口にした。
「俺達は2組男子の4号室だから1組から数えると9班だよな。ところで女子の4号室は橘と
「後の2人は、」
「俺に語らせろ!」
蓮司が俺の質問に答えようとしたのだが、由樹が復活してやや食い気味にセリフを被せてきた。
彼は魔法使いの分析が趣味で、特に校内の女子について入念にチェックしている。
由樹にスイッチが入って、彼の解説のコーナーが始まろうとしていた。
「お隣、空いている?」
その声に俺達が顔を上げたら、ちょうど話題に上がっていた橘に胡桃、そして見知った顔がふたつ。
俺達と同じファーストフード店のトレイを持って並んでいた。
「別に構わないぜ」
代表して蓮司が返事をした。
男女の相席に一切
彼に比べると、俺は返事に出遅れてしまった。
由樹にいたっては、女子との相席にテンションを上げていいのか、自分の出番を失って下げていいのか戸惑っている。
「ちょうど、私たちの話をしていたみたいだから」
あいかわらず彼女の声には迷いがなく、真っ直ぐだ。
どこからなのかは分からないが聞かれていたようだ。
橘由佳は普段の振る舞いが凛々しいこともあって、クラスの女子のリーダー的な立ち位置だ。
黒い髪をシンプルに後ろで束ねている辺りも、彼女の性格が現れているようだ。
俺の正面に蓮司、その隣に由樹が座っていたが、橘達は自然と由樹とは逆の方へと腰掛けた。
蓮司と俺の隣にそれぞれ橘と胡桃が座った形だ。
胡桃こと
それでいて動作のひとつひとつが細かく俊敏なので、小動物のように愛嬌がある。
初めて話したときにファーストネームで呼んでほしいと言われたが、違和感なくすんなりと呼べた。
他のクラスメイト達も胡桃と呼んでいて、男女問わず人気がある。
草薙家は剣術を主体にした陰陽師の家系だが、彼女が刀を持ち歩いている姿を見たことがない。
そして橘を挟んで奥に座った女生徒2人は、クラスメイトなので当然見知った顔。
「残りの2人って、
野々村
身長は橘より少し小さいくらいで、胸はそこそこで、会長には及ばないがこのメンバーでは1番ということを補足させていただく。
クラスメイトからは委員長と呼ばれているが、別に何かの委員長ではない。
由樹曰く、野々村の風貌はまさに委員長のイメージそのものらしい。
蓮司や他のクラスメイトも同意していたが、俺には全く分からない。
「冴島くん達3人とも、明日から実習ではよろしくお願いします」
野々村は手を前に揃えて、由樹に向かってペコリと会釈した。
蓮司の見立てでは、彼女は由樹に好意を抱いているようだが、当の彼は残念なことに気づいていない。
彼女は橘のような積極性はないが、しっかり自分の意見を言う方でもあるし、礼儀正しいところもあるので、同じ班で上手くやっていけるだろう。
不安があるとすれば、もう1人のリゼットの方だ。
リゼット・ガロは、白い肌に曇りひとつない白髪を短く切りそろえているイタリーからの留学生。
キリッとした顔立ちで美形だが、橘と違い、感情を顔に出さないので、近寄りがたいところがある。
胡桃に近い小柄な体格だが、可愛さよりも触れてはいけない尖ったガラスのような雰囲気を纏っている。
2週間同じクラスで、授業を受けているが1度も話したことがない。
そもそも誰かと話している場面を見たことがなく、声を聞いた覚えすらない。
東高の授業はニホン語で行われるため、留学生は日常会話に不自由しない程度には修得してきているはずだ。
つまり彼女の無口は言葉の壁ではなく、本人の資質なのだろう。。
制服のベルトには汚れひとつない鞘が差されており、レイピアが納められている。
彼女の魔法使いとしての起源はイタリーの騎士だと考えられる。
「リゼットは留学生用の寮じゃないのか?」
俺の質問に対して、彼女は無反応で表情ひとつ変えない。
両手でハンバーガーを手に取って、小さい口でハムハムとしている。
この空気を見かねて、代わりに橘が説明を始めた。
「実習での班編成があるから、留学生は一般寮にも部屋が割り振られてあるわ」
東高は全寮制であり、クラス毎に寮が割り振られている。
留学生の寮は、それぞれの文化の違いによる生活の
しかし今回のように寮の部屋割りは、実習でそのまま班として編成されるので、実力やポジションを加味されている。
つまり橘の言っている意味は、留学生は実際に住んでいなくても一般寮にも部屋があって、それに従って実習の班に入るということだ。
そこに胡桃が付け加えた。
「でもリズちゃんは、私達と同じ部屋で暮らしているのです」
留学生がどちらの寮に入るのかは、本人の自由だ。
周りと話さないリゼットがわざわざ一般寮で生活していたのは意外だが、理由なんて人それぞれだろう。
それにしても、無口でほとんど顔色を変えない彼女を、『リズちゃん』と呼べるのは、胡桃くらいだろう。
入学直後は、少しオドオドしていた胡桃だったが、橘のおかげなのか持ち前の愛嬌なのか、クラスに馴染んでからは、自身の独特なペースを見せている。
「とりあえず、この7人が9班として、林間合宿の課題に受けるわけだな」
蓮司の言う通り、このメンバーで今回の実習に挑戦するし、今後の課題でも一緒に組むことが多くなる。
「ここにもう1人、上級生が加わるけどね」
橘が付け加えたが、後藤先生の説明によると、各班に上級生が1名付くことになっている。
午後は、担当の先輩と顔合わせして、具体的な説明がある。
1クラスに5班で8クラスということは40班もあるが、2、3年生は500人以上いるので、担当する上級生は全体の1割にあたる精鋭なのだろう。
「もしかしたら会長が担当かもな」
「「「なっ」」」
俺は何気ない冗談を言ったつもりだったが、全員の空気が凍りついた。
いや、厳密には全員ではない。
リゼットだけは表情を変えずに平然としていた。
「芙蓉、そういうのはニホンでは、
なぜみんなが固まったのか、その理由を由樹が補足したが、それでもまだよく分からない。
フラグとは、旗のことか。
たしかプログラミングで、動作を引き起こすための条件を指す用語だな。
まだピンと来ていない俺に由樹がいくつか例を示して、教えてくれた。
意外なことにリゼットも彼の方を向いて、一緒に説明を聞いていた。
彼の解説によると、特定のことを匂わせる発言や動作をすると、それが現実になるということだな。
つまり先ほどの俺の発言で、会長が俺たちの担当の可能性が高まったということだ。
非科学的だが、馬鹿にできない考え方。
魔法使いの発した言葉は、何気ないひと言でも言霊として、現実に影響をおよばす可能性がある。
ときには未来だけでなく、過去に遡って作用することもある。
まぁ俺のほぼゼロの魔力では、すでに決まっている担当の上級生を、会長に変更するような力はないだろう。
しかしフラグとは関係なしに、あの会長とは縁がありそうなので、担当になっているかもしれない。
せっかく林間合宿の間は、会長のことは別働隊に任せられるのに、本人が付いて来るならば、休暇にならないな。
「盛り上がっているところ悪いけど、そのフラグはニアミスだ」
俺たちの前に現れたのは……
***
『あとがき』
新キャラ登場で、今後は7ー8人での行動が増えそうです。
9班メンバー
高宮芙蓉、的場蓮司、冴島由樹
橘由佳、草薙胡桃、野々村芽衣、リゼット・ガロ
+ 上級生(会長のニアミス?)
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