SS1 男子3人集えば

『まえがき』

いつもアクセスありがとうございます。

今回、少し下ネタを含みます。

一応R15指定ですが、それでも苦手な方は飛ばしてください。

 ***


 的場蓮司、それが俺の名。

 とある事件をきっかけに、幼い頃からの夢を砕かれ、1度は自暴自棄になったこともあった。

 しかし新たな可能性を見つけ、通っていた高校を中退し、東ニホン魔法高校へと入学した。


 新しい環境での、生活は結構気に入っている。

 まだ数日しか経っていないが、寮でのルームメイトの2人とは性格が違ってもウマが合う。


「なぁ、橘のやつは絶対蓮司に気があるね」


 冴島由樹、ルームメイトの1人で日頃から女性にモテたいと豪語している生粋のオタクだ。

 彼に出会う前の俺ならば、この手の人種は軽蔑していが、この男は決して薄っぺらではない。

 興味のあることはトコトン突き詰める人物だ。

 オタク趣味は魔法の研鑽けんさんに対しても発揮され、自身の風属性のことだけでなく、様々な魔法に精通している。

 特に有名な魔法使い(女性)の戦い方についてリサーチすることを好む。

 俺は今までオタクの力というやつを見誤っていたことを、こいつに気づかされた。


「由樹、そういうのは本人たちの問題だろ」


 俺の代わりに返事したのが、もう1人のルームメイト、高宮芙蓉だ。

 ステイツからの帰国子女であることと、魔法使いにして毎日の体力作りを欠かさないこと以外は、いたって普通に見える。

 しかし見える・・・と表現したのには、訳がある。

 こいつは俺と同じで、何か黒い物を抱えている。

 自分では隠せているつもりみたいだが、会話中に唐突に消極的になることが度々ある。

 まぁ、本人に話す気がないなら、無理に聞くつもりもない。

 ただなんとなしに、強そうでもありながらも、脆そうでもあるこいつを放っておけない。


「そういう芙蓉は、どうなんだよ。もう経験とかあるのか」


 由樹の標的が俺から芙蓉に移った。

 このときはそのまま彼に生贄になってもらおうと考えていたが、この判断がこの後に訪れる混乱カオスを引き起こすとは思わなかった。


 芙蓉は机で欠席した分のノートを写しながら、質問に答えた。


「どうして、急に俺の経験の話になるんだ?」

「別にいいじゃないか。教えろよ」


 こういう質問を平気でできる由樹は、けっこう図太いと思う。

 俺だと羞恥心や保身が先行してしまい、なかなか聞くことができない。

 そんなデリケートな質問に対して、当の芙蓉はあっさりと答えてきた。


「まぁ、ステイツでは嫌になるくらい」


 予想の斜め上な回答に、俺も由樹も言葉を失った。

 もう高校生だし、あったとしてもとがめることでもないが、うんざりするかの様に口にした彼に圧倒されてしまった。

 しかし先にフリーズから溶けた由樹はここで踏み止まらず、下世話なことを聞いてしまった。


「へ、へぇ。芙蓉はステイツの出身だけど、やっぱり向こうのほうが進んでいるのか?」

「ニホンがどうかは知らないけど、たしかにステイツの都心の方は治安が悪いからな。その分経験する機会も多いかな」


 どうやら彼自身の責任でもないようだ。

 治安が悪いから早いというのは嫌な話だが、たしかに芙蓉の言う通り、そういう側面は否定できない。


「じゃあ、芙蓉の初体験はステイツで済ましたのか」


 俺なら遠慮して1歩目すら踏み込めないけど、芙蓉が躊躇ためらわないことをいいことに、由樹はグイグイ聞き出そうとしている。


「初めてと言われてもなぁ、物心ついた頃からと一緒に練習していたからな」

「「ステイツすごっ!」」


 さすがに母親が教えるとは乱れすぎていないか。

 いや、もしかしたら古く続く伝統的な魔法使いの家系ならば、そういう習わしを現代でもしているのかもしれない。

 固有魔法は血筋に左右されるので、次世代を残すために裏で何をしていてもおかしくない。

 高宮がならば、闇は相当深いのかもしれない。

 芙蓉が抱えている業は、俺の想像を遥かに超えている。

 高宮家が特別なのか、これまで遠慮していた俺もつい言葉に発してしまった。


「いやそれは、芙蓉のところだけだろ」

「そうかもな。たしかに母さんは毎日スパルタだった。終わった後は足腰が痛くて、立つことすら辛かった」


 もうギブアップだ。

 連続で投下される同級生の赤裸々発言を、これ以上受け入れる余裕は俺の心にはない。

 しかし芙蓉本人は何事も無かった様に、未だに机でノートを写し続けている。

 彼にとっては普通のことなのか。

 この先を知るには、まだ早すぎる。

 由樹、頼むから話題を変えてくれ。

 俺の視線を察して由樹が口を開いた。


「結局、母親以外としたのはいつなんだ」


 よしきー!

 全く話題を変えられてないぞ。

 それ以上掘り下げるな!


 どうやら俺の目配せは間違った方向に伝わってしまったようだ。

 ようやく芙蓉は手を止めて、少し考える仕草をしてから、さらにとんでもないことを口走った。


「そんなこと言われてもな。名前は知らないし、暗くて顔はよく見えなかった」

「「知らない相手!」」


 さすがの由樹も恐る恐る訊ねた。


「もしかして無理矢理?」

「そりゃ話の通じる相手なら、そんなことにならないだろ」


 おまわりさん。

 ここに犯罪者がいます。

 高宮家の闇が彼の人格をここまで捻じ曲げてしまったのか。

 せめて俺と由樹で、こいつが真っ当な道に歩めるまで支えてやろう。


「俺も初めてだったから、念のため俺が正面からで、先輩が後ろから周り込んでだな」

「「しかも、3○!」」


 ルームメイトのとんでもない遍歴がまだまだ明らかになっていく。

 芙蓉は大人の階段どころか、エレベーターで俺達の遥か上を行っている。

 なんだかもう、足を向けて寝られないし、同じ部屋で生活するのが恐くなってきた。

 そんな俺の感情を知ってか、知らずしてか、彼はとんでもないことを口走った。


「そういえば、蓮司はまだなんだろ」

「なっ、なんで知っているんだ」


「最初会ったときに自己紹介で言っていたぞ」

「初対面で、そんなこと言うわけがないだろ!」


 芙蓉の指摘に動揺している俺の気などお構いなしに、由樹が俺に肩を組んできた。


「蓮司、俺はおまえがイケメンだから妬んでいたけど、こっち側の人間だったんだな」


 由樹が仲間というより、同志を得たかのような眼差しを送ってきた。

 いや、今はそんなことを話している場合じゃないぞ。

 そんな俺に向かって芙蓉は、諭すように言ってきた。


「経験がなくても心配いらないさ。東高にいれば、毎月機会があるだろ」

「「そんな訳あるか!」」


 ニホンの高校はそこまで乱れていない。

 そもそも寮での共同生活で、そんな機会が巡ってくるはずがない。

 俺はここでふと、ある可能性に気がついた。


「そういえば、芙蓉は流暢りゅうちょうなニホン語だけど、ニホンに住むのは初めてだったよな」

「そうだが」


 俺は自分の仮説を確信した。


ってなんのことか分かるか」

「もちろん。魔法でののことだろ」


 俺はこれまでの芙蓉のセリフを思い返した。


『どうして、急に俺の経験の話になるんだ?』

 このときすでに芙蓉が恋愛の話から、戦闘経験の話に変わったと誤解している予兆があったのか。


『ニホンがどうかは知らないけど、たしかにステイツの都心の方は治安が悪いからな。その分経験する機会も多いかな』

 たしかに治安が悪ければ、実戦を経験する機会は多いよな。


『初めてと言われてもなぁ、物心ついた頃から母さんと一緒に練習していたからな』

『たしかに母さんは毎日スパルタだった。終わった後は足腰が痛くて、立つことすら辛かった』

 幼少期から、母親からスパルタの戦闘訓練を受けていたんだな。


『そんなこと言われてもな。名前は知らないし、暗くて顔はよく見えなかった』

『そりゃ話の通じる相手なら、そんなことにならないだろ』

『俺も初めてだったから、念のため俺が正面からで、先輩が後ろから周り込んでだな』

 話の通じない相手と戦闘になり、暗闇の中で挟み打ちにしたということか。


『最初会ったときに自己紹介で言っていたぞ』

 たしかに俺は、魔法での実戦経験がないと自己申告していた。


『経験がなくても心配いらないさ。東高にいれば、毎月機会があるだろ』

 ランキング戦は月に1、2回は組まれるので、頻度としては合致するな。


 由樹が何かを口にしようとするが、俺が静止した。


「由樹。ここは年長者として俺が話す」


 気恥ずかしいが、ここはしっかり知ってもらった方が今後の彼のためだろう。


「芙蓉、ここで言う経験とは……」


 数分後、すごく気まずい空気が寮の部屋に充満していた。

 誰も口を開かない。

 ノートを写していた芙蓉のペンも完全に止まっている。

 この固まった空気をぶち破った勇者は、我らが由樹だった


「つまり、俺らは3人とも仲間ということだな」


 この日、勇者由樹のパーティが爆誕した!?


 そういえば、幼い頃から魔法の鍛錬をしていた芙蓉が、たとえエリートが集まる東高でも、入試最下位というのは不自然だ。

 彼の抱えている問題に関係あるのだろうか。

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