1.5 学生証

 鮮烈な入学式の後、引き続き講堂では学生証が配られて、その説明が行われていた。

 学生証はスマホに似ているが、カードのように薄いプレートに液晶が挟まれている。

 カードの中央をタップすると画面が表示され、芙蓉おれについての、学内の基本情報が表示される。


氏名:高宮芙蓉

クラス:1ー2

寮:一般男2 1ー4

ふたつ名:なし

属性:無

ポジション:前衛・ブロッカー

新人ランキング:320位/320人中


 東ニホン魔法高校では、1学年に40人クラスが8と、多くの魔法使いの卵が集められている。

 クラスごとの実力は、ある程度均等になるように割り振られている。

 このうち入学前に実力者として、注目を集められているのは50名前後だ。

 しかし入学式のあの場で、咄嗟に臨戦態勢になった人数はもっと少なく感じた。

 経験の浅い学生でも魔力が常人より大きかったり、特別な魔法を持っていたりする。

 稀なことだが、適性だけで入学が許されて、魔法を使ったことがない者もいる。

 それでも卒業と同時に魔法公社のライセンスを得る者、つまりプロの魔法使いになれるのは10人にも満たない。

 じっくりと鍛錬すれば、より多くの学生がプロになれる素養があるのだが、東高は量よりも質を追求しており、大勢が振り落とされてしまう。


『寮』はクラス単位で決まっている。

 俺の寮には各学年の2組の男子が入っており、基本的に4人で1部屋を使う。

 ランキング上位になると、1人部屋を希望することもできる。

 朝と夜は寮の食堂で、食事が提供される。

 留学生の場合は文化の違いなどもあって、共同生活は困難なので、希望者は留学生用の別枠の寮に入ることができる。

 学年やクラスごとではなく、出身国で部屋が割り振られる。

 一応英語での対応もしてもらえるが、東高に来る生徒は授業に参加できる程度のニホン語を学んでいる。

 言語を理由に後れを取るような学生は、国の代表として海を渡って来られない。

 俺の場合はステイツから来たが、帰国子女扱いでニホン人の学生として入学しているので一般の寮に入る。

 他にも九重紫苑のような生徒会役員は、特別に専用の生徒会ハウスで、寝泊まりしている。


『ふたつ名』については学校側のサーバーで算出して、自動でつけられる。

 今後、ランキング戦に参加すれば、そのうち付く。

『魔法狩り』の名が表示されたら困ると心配したが、大丈夫のようだ。

 ちなみに先程、入学式をメチャクチャにした生徒会長のふたつ名が『絶対強者』だ。

 

『属性』とは、火、水、風、土の四元素魔法のことで、俺は一切使えないので無になっている。

 適正属性に応じて、選択科目が受講できる。

 俺の場合は無なので、選択科目の時間に課外活動をして、単位を稼がないと進級には届かない。


 『ポジション』は入学前の自己申告で決まり、後から変更手続きもできる。

 チームでこなす課題では、このポジションを参考にメンバーを決めることになる。


 得意な間合いと役割によって、5種類に分類される。

 前衛・アタッカー

 前衛・ブロッカー

 遊撃

 後衛・アタッカー

 後衛・サポーター


 呼び方や分類は所属によって異なるが、ポジションの割り振りはプロでもよく使われている。

 俺の場合は、魔法攻撃を無効化できるので、前衛・ブロッカーにしておいた。


 最後に『新人ランキング』についてだ。

 1年生は2ヶ月後に行われる新人戦が終わるまでは、1年生同士でしかランキング戦が行われず、それ以降は学年無差別の校内ランキングに組み込まれる。

 暫定ざんていのランキングは入学選抜の筆記試験と魔法適正、そして推薦書で総合的に判定される。


 俺の場合はフレイさんの手配で、ステイツにある第1公社の支部で行われた入学試験に参加した。

 筆記試験は魔法に関する出題だったが、母さんは俺に高校卒業程度の一般教養を叩き込んだが、魔法についてはあまり教えてくれなかった。

 ステイツの部隊に配属されてからも、学ぶ機会はなく、実戦の中で経験したことしかしらない。

 結果として足切りラインギリギリの点数だった。

 さらに魔法適正に関しては、俺は魔力をほとんど保持できないので、ゼロ方向に判定不能で属性だって持っていない。

 そして推薦書に関してもステイツ政府からのバックアップはなく、公立中学の普通科出身ということにしてある。


 そのままだと不合格だったが、救済措置が残されていた。

 魔法使いの適正審査を全て同じ物差しで測るのはナンセンスなので、不合格者で本人が希望すれば実技試験を受けることができる。

 たまたま試験官の魔法が不発だったように演出して、最後に足払いで転ばせることで勝利した。

 ステイツで受験したので、あの場の人間の印象に残っていたとしても、もう会うことはないだろう。

 試験官に勝った受験生を不合格にするわけにもいかず、最下位での入学になった。

 かなりグレーなやり方だが、全てフレイさんの入れ知恵だ。

 この事を知らなければ、徹夜で筆記試験の準備をしなければならなかった。

 別に最下位を狙うために実力を隠したのではなく、本当にギリギリの合格だった。

 この学校で生活する以上、能力を隠し通すことは不可能だが、わざわざ披露する必要もない。

 今後ランキング戦の日程やマッチアップの通知も、学生証に表示される。


 また通話機能もあったらしいが、現在は使えない。

 表向きはスマホの普及により使用率が低下したためとされている。

 しかしあの会長様がハッキングして無差別にイタ電をしまくったため、サーバーがダウンして使用禁止になったというのが有力な説だ。

 というかあの人、余計なことばかりしているなぁ。


 学生証の説明の後は各人、入寮して荷物を確認する必要がある。


“ステイツから送った荷物に、フレイさんがとんでもないものを紛れ込ませているを知るのは、すぐ先の事だった”

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