第12話 誕生(2)

「美咲ちゃん、だいじょぶかなあ・・」


南は頬づえをついて、ひとりごとのように言った。


「でも、こんなに時間かかるんですかあ?」


夏希は疑問を口にした。


「かかるかかる。 ゆうこもな、ひなたのときは・・そやなあ・・丸1日くらいかかったかも。」


志藤が横から口を挟んだ。


「えっ! 24時間っスか?」


夏希はわかりやすく驚いた。


「初産はな。 めっちゃ時間かかるねんて。」


南は笑った。


「あたしはねえ、病院に入ってから3時間くらいで生まれちゃったってお母さんが言ってました。」


夏希の言葉に


「アハハ、加瀬って安産で健康優良児そうやもんな~~、」


二人は笑ってしまった。


「エリちゃんも。 竜生の時はけっこう時間かかったし。 八神も大変なことになってるんやろなあ。」


南が言うと、



「ああ、目に浮かぶ。 八神がパニくっている姿が、」


志藤はぷか~~っとタバコの煙を宙に吐いた。



その通り



八神はパニくっていた。



分娩室に移動してからの美咲はさらに大変なことになり、


「まだ、いきんじゃだめよ。 無理にいきむと産道が裂傷するから、」


と言われたが、もう頭の中が真っ白になるほどその痛みは尋常ではなかった。




「も・・いったああああい!!」




八神の指をぎゅうううっと握った。



「いでででっ! 折れるっ!!」


関節と反対側に握られた八神の指は本当に折れそうなほどの力だった。



「・・ほんっと! いったい・・んだもん!! そんくらい我慢してよ!」


美咲はこんな状態でも八神を叱責することは忘れなかった。




すっげー


顔・・。




痛みに耐える美咲の顔は


長い付き合いの八神でさえも


見たことがないような形相になり。



「じゃあ、つぎの陣痛が来たらいきんで!」


ようやくその指示が出て、美咲は慌てていきもうとして、


「美咲! 落ち着け、」


八神は思わずそう言った。



陣痛に合わせて、


「んっ・・・」


顔が真っ赤になるほど力を入れた。


「顔に力を入れちゃだめ! こっちに!」


助産師の指示も


もう気が動転している美咲には聞こえなかった。


「美咲、ほら! 習っただろ? ヒッヒッ、フー、だろ??」


八神も一緒に呼吸法を思い出し、息をしたが


彼もパニくっていて、過呼吸になりそうなほど息をしてしまった。



美咲に腕をぎゅううっとつかまれて、ツメが食い込んできたが


もうその痛さも感じないほど、八神も汗だくだった。


「もうちょっとだから! 頑張れ!」


「~~~~~~!!」


美咲は何かを言いたげだった。


「あ? なに?」


彼女に顔を近づけると、



美咲は血走った目をキっと彼に向けて



「・・もうっ!!  あんたが産めばいいのよっ!!!」



と絶叫した。



「はああああ???」


気が抜けそうだったが、すぐに陣痛の波が来て美咲は思いっきりいきんだ。


もう断末魔のような声を上げて。



すると、


「あ、頭が見えてきた。 もう、いきまないで、力、抜いて!」


の声が聞こえて。


「え! 頭??」


八神は思わず慌てて助産師側に回りこんでしまった。


「も・・なによ~~~、」


美咲はまた心底情けなくなった。



そして、


それからすぐに。



ずるっと。



本当にずるっと、赤ん坊は出てきた。



子供・・・。



八神はその瞬間を目の当たりにして、全身の力が抜けた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る