第10話 うまれる(5)

そうだよなあ。



おれと美咲の子供が生まれてこようとしてるんだ。


なんか信じられないけど。



八神は彼女を抱きとめながらぼんやりと思った。



結婚式のときと同じように


子供のころからのことを思い出してしまった。



おれと美咲の子供なんて


どんななんだろ。


涼ちゃんの子供を初めて見たときに


すっごい不思議な気持ちがした。


ちっちゃくて



でも


ちゃーんと人間のカタチで。


まだ高校生だったおれは


その生き物があまりに頼りなさげで


びっくりしたのを覚えてる。




あんなんが


おれたちのトコに来るんだな。




「・・早く、会いたいな、」



八神はポツリと言った。



「え・・」



「おれたちの・・子供に。」



美咲は汗だらけの顔で少し彼から身体を離して



「・・うん、」



苦しそうな息をしながら


ちょっとだけ笑った。




そんなことを繰り返しながら


夜は明けていった。





お産って


こんなに時間かかるんだァ



さすがに八神はぐったりだった。


美咲もぐったりなのだが、それでもだんだんと陣痛が


シャレにならないほど強くなっていくのがわかっていた。



最初のうちはシーツをぎゅっと握り締めるくらいで耐えられたのが


だんだんと陣痛がやってくると、ベッドの枕をガンガン叩くくらいの状態になっていた。



「いま8cmくらいです。 もうちょっと頑張って。 いきみたくなってもいきまないでね、」


助産師がやってきてそう言った。


「ま・・まだなんですかァ・・?」


美咲はもうヘロヘロだった。


「子宮口10cmになったら分娩室に移動しますから。」


ニッコリ笑ってそういう彼女がちょっと恨めしいほどだった。



「いっ・・たいたいたいっ!!!」


もう絶叫に近かった。


他の妊婦はいつのまにみんな次々と分娩室へと移動していって、もうここには美咲しか残っていない状況だった。



八神は彼女の腰を摩りながら、


「どんだけ痛いんだあ? んっとに、」


思わず言ってしまった。


「・・すっごい・・下痢を耐えてるような・・」


美咲はうめくように言った。


「はあ??」


「すんごいおなか痛いのに・・トイレいっちゃダメって言われるみたい~~~~、」


「なんじゃ、そら、」




いきんじゃいけない、と言われる意味が


ようやくわかってきた。


もう


おなかが痛いよりも


そっちを我慢するほうが何倍も辛い。



「も~~~!! 出したいよう!!」


美咲はもう痛みのため自分を失っていた。



こわっ・・


八神はだんだんと恐怖さえ覚えてきた。

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