第9話 うまれる(4)

それにしても。



病室と言っても、陣痛室なので


他の妊婦もカーテンの向こうで同じように苦しんでいる。



「ん~~~っ・・あっ・・!」



そんな声が


あちこちから聞こえてきて。



「なあ、」



八神は美咲にコソっと言った。



「あ?」


痛みに耐える美咲は彼を見た。




「・・陣痛に耐える声ってさあ。 Hの時の声に似てるよな、」




自分が今


死ぬような痛みで苦しんでいるというのに


こんなことを言い出す八神の神経が


到底理解できなかった。



「・・まさか、こんなんで興奮してんじゃないでしょうねえ・・」


呆れて言うと、



「いっくらなんでもそれはないけどさあ。」




バカじゃない?


んっとに!



アホらしくて相手にしたくもなかった。



その上。



「なあ、この『ウソ発見器』みたいなの、なに?」


八神は横の器具を指差した。


「は? これは・・陣痛計だよ・・」


痛みに耐えながら美咲は言った。


「陣痛計?? へーっ・・この山になってるとこが陣痛がキタってことなんだあ・・」


興味津々にそのグラフを見る。


「いっ・・・イタタタタっ・・」


また美咲の陣痛が強くなってくると、


「あ! ほんとだ! すっげー! ちゃんと反応してるよ、コレ。」


八神はむしろ喜んだりしていた。



慎吾の


アホさは


あたしが一番わかってっけど!!


なんなの、コイツ!!



心底


情けなくなった。




美咲のお産はジリジリと進む。



だんだんと眠気がやってきて、ウトウトしようと思うと


陣痛がやって来て


とても眠れない。



「・・慎吾・・みず・・」


もう、朦朧としながら言うと




八神はベッドの横の椅子に座って、まるで電車で爆睡している人のように口を開けて頭を壁に預けている姿になっていた。



美咲は猛烈に腹立たしくなり、


「ちょっと!!」


そこにあったタオルを彼に投げつけた。



「あ?」


ようやく目を覚ました。



「も~~~! あたしが苦しくって眠れないっていうのに! あんただけ爆睡して!」


「おれ、寝てた?」


「もう口までパックリ開いてたよっ!」


「そうかあ。 で、なに?」



あまりに暢気な彼に


「も~~、すんごく痛くなってきたよ~~、」



美咲はもう


情けないやら


腹が立つやらで


起き上がって八神に抱きついた。



「なんだよ・・もう、」



そうこうしているうちにまた陣痛の波がやって来て、



「いっ・・・たいっ・・、」


彼の背中に回す手に力が入る。


「こっちも、痛いよ・・」


背中に彼女のツメが食い込んでくる。



でも


そんだけ


痛いんだろうなあ・・。



そう思うと少しかわいそうになってきた。

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