第8話 うまれる(3)

深夜になり


南や真尋と絵梨沙たちは帰って行った。



そして


八神は病室で美咲の様子を見守る。


って


どーしたらいいんだよ・・。


この


苦しんでいる人間の横にいるおれは。




「ん~~~~、」


美咲は時折やってくる陣痛の波に苦しそうに耐えていた。


そして、ガバっと八神の方を睨み、


「ちょっと!」


と攻撃的に言った。


「あ?」



「なに見ちゃってんのよ! ちょっとはさあ・・身体を摩るとか、励ますとか!」


「あ・・ああ。 が、がんばれよ、」


とりあえず彼女の言うとおりにしてみた。


「あ~~~もう! とってつけたように!」


「どこが痛いんだよ・・」


「おなかと腰!」



仕方なく腰を摩ってやった。



そこに看護師がやってきて、


「八神さーん。 今、担当の石川先生がいらっしゃいますからね。」


と笑顔で言った。


「えっ!!」


美咲はそれを聞いたとたん、八神に


「ちょ、ちょっと! バッグに入ってる鏡!」


と言い出した。


「は? 鏡?」


「早く!」


言われるままに鏡を出すと、美咲はいきなり乱れた髪を整え始めた。




なんだ??



と傍観していると、


「八神さん、どうですか?」


病室に担当医が入ってきた。



う・・。



八神は美咲の突然の行動が


ようやく理解できた。


「なんか・・5分おきくらいに、痛みが・・」


痛いくせに。


うふっと笑ったりする美咲を見て。



その医師は


シブい


イケメンだった。



こんのヤロ・・。



八神は美咲をジロっと睨んだ。



「そうですか。 ちょっと内診しますよ。」


その医師が診察を終えて、


「うーん。 やっぱり少しずつ開いているようですね。 まあ、このまま無理に陣痛を止めるよりも、自然に任せて産みましょう。 今は低体重児でもケアがしっかりできますから。 もうこのくらいになれば自発呼吸もできますし。 NICUの方の準備も進めておきますから。」


と言った。


「は・・はい。」


「じゃあ、もう少し。 頑張ってください。」


ニッコリ微笑んで、彼は去って行った。



バタンとドアが閉まる音がしたあと、


「よくあんなイケメンに恥ずかしげもなく股おっぴろげられるよな~~。」


嫌味たっぷりに八神は美咲に言った。


「ちょっと! そーゆーゲスなこと言わないでくれる!? ほんっとに慎吾って・・」


美咲は少し起き上がって反論しようとしたが、


「う・・・イタタタタ・・」


またもやってきた陣痛の波に顔をゆがめた。


「こんな時に。 髪を直す余裕だけはあるんだから。」


八神は冷めたように言って、彼女の腰を摩った。


「そこじゃない! もっと下!」



はああああ


うるせえなあ。



八神はそう思ったが


言うと3倍くらいになってかえってきそうなので


黙っていた。


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