第7話 うまれる(2)
「どうしたの?」
南は驚いて彼女に歩み寄る。
「さっきから・・ジンジンする感じが繰り返し。」
美咲はおなかを摩った。
「張ってるの? さっきみたく、」
「・・ちょっと、ちがうみたい。 イタタ・・」
思わず座り込んでしまった。
南は絵梨沙と顔を見合わせた。
「八神さん、病院に電話を! 陣痛かも!」
絵梨沙の言葉に
「じ、陣痛!? って、まだ・・1ヶ月以上も、」
八神はうろたえた。
「とにかく! 早く!」
絵梨沙は大きな声を出した。
病院に連絡すると、すぐに来るように言われて南が車を出した。
「・・だいじょぶか?」
八神は後部座席に美咲と一緒に座った。
「ん・・、」
美咲は苦しそうに八神の手を握った。
予定日にまだまだなのに・・産まれちゃうんだろうか。
って
未熟児とか?
八神は心配でドキドキしてきた。
幸い、夜で道が空いていたので病院にはすぐに着いた。
看護師に指示されて、処置室に美咲を運ぶ。
「うーん・・子宮口3cmくらい開いてるね・・」
内診をした医師が顔をしかめた。
「って・・生まれるって・・ことですか?」
八神は慌てた。
「まだちょっと早いけど。 エコーで見ると赤ちゃんはまだ2000gあるかないかってトコみたいだから、本当ならもうちょっとおなかにいて欲しいんだけど。」
「赤ちゃんは・・大丈夫なんですか?」
美咲は苦しそうに息をしながら言った。
「様子を見て、 収まらないようだったらこのまま出産になります。」
医師の言葉に
「あ、あたしのせいだ・・」
美咲は涙ぐんだ。
「・・美咲、」
「あたしが・・無茶したから・・」
八神はそんな彼女の頭を撫でて、
「大丈夫だよ。 美咲だけのせいじゃないから、」
と優しく言った。
「ううん・・あたしが・・もっともっと我慢すればよかったのに。 自分のことばっかり考えて・・。」
泣きじゃくる美咲に
「ごめん。 おれが・・思いやりのないこと言ったから、」
八神も
素直に謝ることができた。
「おれたちは。 何を差し置いても。 子供のことを考えなくちゃいけなかったのに。 両親学級で言ってたじゃん。 赤ちゃんはおなかにいるときからお父さんとお母さんの声が聞こえてるって。 おれたちがつまんないケンカする声も・・ぜんぶ聞こえてたかなァって。」
優しく美咲のおなかを撫でた。
「ん・・」
もう片方の手で美咲の涙をぬぐってやった。
「あ・・慎吾です。 あの、美咲陣痛が始まっちゃって。 病院にいるんですけど。 うん、うん。 まだわかんないけど。 収まらなかったら分娩に入るって。 うん、おれついてるし。 また電話するから。 ウチにも連絡しておいて・・」
八神は外に出て携帯で美咲の実家に電話をかけた。
「あ、八神。 美咲ちゃんの荷物とってきなよ。 車貸すから。」
南がキーを手渡した。
「あ・・すんません。」
「あたし、ついてるし。」
ニッコリ笑う南に頭を下げた。
美咲の用意してあった入院用の荷物を持って戻ってくると、
「あ、八神、」
真尋と絵梨沙も来ていた。
「真尋さん、絵梨沙さんも・・」
「心配で。 子供たちはお義兄さんがみていてくれるって言うんで。 なんか・・あたしまで興奮して意見してしまってごめんなさい、」
絵梨沙は申し訳なさそうに頭を下げた。
「い、いえ。 そんな。 ほんっと美咲が心配かけっから・・」
八神は恐縮してしまった。
「一番、考えなくちゃならないのは、おなかの赤ちゃんのことですものね。」
絵梨沙はふっと微笑んだ。
「おれ・・ほんっとこんなんで父親なんかになれんのかなって、」
八神は自嘲した。
「なれるって! おれもなれたし!」
真尋はいつもの笑顔で大いにうなずき、絵梨沙も八神も失笑した。
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