第6話 うまれる(1)
「どっ・・どうしたの? これ・・」
帰宅した真太郎が異様な雰囲気に驚いた。
「ああ、おかえり。 なんか、も~~。 めんどいことになっちゃってさあ。」
南が言う。
そこには
絵梨沙と真尋、そして八神が仏頂面で座り込んでいる。
「・・おじゃましています、」
八神は非常に険しい顔で真太郎に会釈した。
「あ・・いえ、」
真太郎はそーっとダイニングのテーブルに移動した。
「で、美咲は?」
八神が重い口を開いた。
「休んでる。 しんどそうやったから。 今日は泊めるからって言ったのに、」
南がため息をつく。
「そうやってすぐ甘えるんだからっ! 落ち着いたらつれて帰ります。」
いつも温厚な八神だが、かなり怒っているようだった。
「こんなんじゃ、またケンカになって。 おなかの赤ちゃんに何かがあったら、大変です。」
絵梨沙もムッとして言う。
「軽々しく飛び出すのは美咲ですからっ! おれは美咲のことを思って実家に帰るようにって言ったんですっ、」
八神はバンっとテーブルを叩いた。
「まあまあ。 ちょっとはさあ・・大目に見てやったら? 美咲ちゃん、今情緒不安定だし。」
南が言うが、
「黙ってましたけどね・。 ほんっと美咲のヤツ、ここんとこわがまま放題で! アレが食べたい、コレが食べたい! アレ買ってこいとか! 夜中もおかまいなしにおれに命令するし! しかもっ! おれのいない隙に携帯まで勝手に見るし!」
八神の怒りは頂点に達した。
「えっ! 携帯まで見るの?」
真尋は身を乗り出した。
「それでも~、女の名前の着信とかメールとか見つけると、誰なんだとかすんごくしつこく訊いてきて。 浮気してんじゃないでしょうね!とか言い出すし。」
八神は疲れたように両手で顔を覆った。
「そりゃひでーじゃん。 八神、仕事もいっそがしくて大変なのにさあ。」
真尋は大いに頷いた。
「だから。 今は本当に八神さんしかわがまま言える人がいないのに。 どうしてわかってあげないんですか?」
絵梨沙は言う。
「何かって言うと! あたしだけがなんで痛い思いして産まないといけないの?とか! グチグチ言うし! んじゃ、どうしろって言うんだよって! おれが代わるわけにもいかないし!」
「んじゃさあ、もう美咲ちゃんのお母さんに来てもらったら? しんどそうならさあ、」
南が妥協案を言ったが、
「美咲の母ちゃんだって仕事あるし。 まだ1ヶ月以上もあるのに。 美咲がわがまますぎるんだっ!」
八神は声を大にして言った。
「美咲ちゃんのわがままは今に始まったことやないやん。 それ、あんたが一番わかってるし、」
南は少し面倒になってそう言った。
「それにしても! 美咲は自分のことばっかでおなかの赤ん坊のことなんかひとっつも考えてないんですよっ! 自分だけが苦しいって言い張ってるけど。 そんなこと言うなんて母親失格じゃないですか!」
「それには父親の協力だって必要です。 全部を母親におしつけるなんて、」
絵梨沙はまだ怒っていた。
「ほんっと女って被害妄想だよな~、」
真尋は耳を耳掻きで掃除しながら言った。
「被害妄想ってなによ、」
絵梨沙がムッとすると、
「あたしばっかり!って そんなん言うしさあ。 そんなもん男だって大変だっつーの!」
「真尋には言われたくないわよ。 子育てなんか全然協力してくれないし。 まだお義兄さんの方がお父さんみたいに接してくれてるわよ、」
絵梨沙も日ごろの不満が爆発してしまった。
「はあ? そんなの! おれが子供抱っこできないことくらいわかってんじゃん!」
真尋は反論した。
「抱っこだけが父親の仕事じゃないわよ。 竜生が悪さをしても全然叱ってくれないし!」
「叱ってばっかじゃ、子供は大きな心に育たないの!」
いつの間にか
絵梨沙と真尋の言い争いへとなっていた。
「まあまあ。 今、真尋に父親像を説いてもさあ。 とりあえず、八神と美咲ちゃんのことだよ。」
南がなんとか収めた。
するとキッチンからペットボトルの水を飲みながら現れた真太郎が
「まあ少し落ち着いて。 お互いをもっともっとよく見てみたら、」
と、ニッコリと笑った。
「真太郎・・」
「やっぱり自分だけ大変って思っちゃうと、相手が見えなくなるし。 ひとつでも相手がこんなに頑張ってるってわかったら、きっと思いやれるだろうし。 まあ、おれたちには子供がいないから、よくわからないけど。 竜生や真鈴を預かるようになって、子供って産むのも大変だろうけど、育てるのはもっともっと大変だなあって。 弟の子供を留守の間面倒見てるだけって気持ちじゃあ、とてもとてもやってられないし。 人ひとり育ててるって思うと、責任持たなくちゃって思えるし。 子供はかわいいよ。 ほんっと。 どっちかが責任もってだなんて、とってもそんなんじゃやっていけないよ。」
真太郎の言葉は
八神の心に、すうっと入ってきた。
「まあ、男も大変だよね。 これから生まれてくる子もヨメさんも・・自分が頑張って養っていかなくちゃって責任もあるし。 家にいる奥さんは、外に出れていいなあって思うかもしれないけど。 ほんと外は敵ばっかりだしね。 一方的に責められるのもつらいし、」
と庇われて八神はホロっときた。
「・・専務~~~、」
「そやな。 今もめてることなんか、大したことやないってくらい、生まれてからのが大変かもしれへんもん。」
南もふっと笑った。
絵梨沙も真尋も
戦意が喪失してきたころ。
美咲がヨロっと部屋から出てきた。
「あ・・美咲ちゃん、」
南が立ち上がる。
「・・なんか、おなかが・・」
美咲は苦しそうにおなかを押さえた。
「え?」
みんな驚いて立ち上がった。
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