第4話 衝突(4)

「あ? 八神? なに帰ったんちゃうのん?」


南は暢気に言った。


「あっ・・あのう。 美咲、南さんトコ行ってないですか?」


八神は以前に家出をされたときに、彼女のところに行ったことを思い出した。


「え?美咲ちゃん? ・・って、あたし、まだ会社やで?」


と言われて、八神はいきなり心拍数が上がってきた。


「会社・・」


「なに? 美咲ちゃん、どっか行ったの?」


「・・帰ったら・・いなくて。」


「友達のトコとか・・」


「電話しても! 全然出ないんですよ、」


「またケンカ?」


「おれ・・ゆうべ美咲に『実家帰れば』とか言っちゃって・・」


八神はしょんぼりとしながら言う。


「はあ?」


「美咲が! あんまりしんどいしんどいって・・おれにどうしろって言うのかがわかんなくって! で・・つい、」


「しゃあないなあ。 でも、心配やな。 あたしからも電話してみるし、」


「・・すみません、」





しかし


南が電話をしても美咲の携帯の電源は切られていて


全く繋がらなかった。



八神は他に探すようなところがなく。


近所の公園で呆然とベンチに座っていた。



ほんっとに!


もう寒くなってきてるのに。


おなかの子供になんかあったら、どうすんだっつの!



美咲が心配のあまり


彼女に対して大いに腹立たしくなってしまった。



南は慌てて家に戻ってみた。



すると


北都邸の門の段差になっているところで、うずくまるようにしゃがんでいる美咲を発見した。


「み・・美咲ちゃん!」


美咲は苦しそうに顔を上げた。


「南・・さん、」


「どうしたん! 痛いの!?」


彼女の背中に手をやった。



「・・・おなか・・すっごく張ってて。」


美咲はおなかを押さえる。


「え?」


南は彼女のおなかに手をやる。


「・・ちょっと! だいじょぶなの? すんごい・・カッチカチになってる、」


「ん・・」


苦しそうな彼女に


「びょ、病院行かなくちゃ! 電話!」


慌てた南は携帯を取り出す。



しかし


「だ、大丈夫ですから。 いつものこと、・・しばらくしたら治りますから・・」


美咲は彼女の手を取った。



美咲の言うとおり、少しすると張りは収まった。


「とにかく、入って。 も~~、寒いのにこんなトコで!」


南は彼女の背中に手をやってゆっくりと彼女を移動させた。


「お手伝いさんが・・南さん、まだ帰ってないって・・、言うから。」


「エリちゃんもいたのに・・。 ほんまになあ、一人の身体ちゃうねんで? 赤ちゃんに何かあったらどないすんねん!」


ちょっと彼女を叱ってしまった。


「・・すみません、」


美咲は泣きべそをかいていた。




「美咲さん、」


突然やってきた美咲に絵梨沙も驚いた。


「エリちゃん、クッション持って来て。 背中に・・」


「は、はい。」


南に言われるままに絵梨沙はリビングの椅子に慌ててクッションを持ってきた。


「ほんまに大丈夫? 病院、行かなくていいの?」


南はしゃがんで美咲の顔色を伺った。


「・・大丈夫です。 いつもだから・・」


美咲はハナをすすりながらそう言った。


「どうかしたんですか?」


絵梨沙が言うと、


「美咲ちゃん、ウチの前であたしのこと待ってて、おなかが張って苦しんでてん・・」


「え? おなかが?」


「ほんまに、無理するから・・。」


「そんなにしょっちゅう張るの?」


絵梨沙は心配そうに言った。



「・・先月くらいから・・1日に何回も。 動けなくなるくらいで・・」


「気をつけなくちゃ。 まだ生まれるまで1ヶ月以上あるのに。 一度、診てもらった方がいいわ。」


絵梨沙は慌てて彼女のおなかにひざ掛けを掛けてやった。


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