第3話 衝突(3)

「・・あれ? 今帰って来たの?」


深夜、帰宅した八神が水を飲んでいると寝室から美咲が目をこすりながら出てきた。


「あ・・うん、」


そんな彼をジーっと見て、


「・・飲んでるね?」


と、にらみつけた。


「真尋さんが、たまにはパーっと飲みたいってゆーから。 あの人のいきつけの渋谷の飲み屋で・・」


八神はネクタイを緩めた。


「ってこの前も・・大学の時の友達と飲んで夜中の2時に帰って来たのに、」


「しょうがねえじゃん。 たまにだし、」


八神もうるさそうにそう言うと、美咲はいきなり怒り出し


「なによ! 自分ばっか羽伸ばしちゃって!」


テーブルをバンっと叩いた。


「はあ??」


「あ、あたしがこんなにしんどい思いしてるのにっ!」


いきなりボロボロと涙をこぼしはじめた。


「って・・・なんだよ、いきなり。」


「ほんっと! もう洗濯とか掃除とか・・するだけで大変で! おなかはしょっちゅう張って、どーしようもないし!」


「おれに仕事しないで家にいろっていうのかよ! 動いたほうが安産になるって病院で言われたんだろっ?」


八神は思わず言い返してしまった。


「こんなにしんどいのに働けっていうの!?」


美咲はテーブルにつっぷしてわんわんと泣いた。



全くも~~~。



このごろ


つまらないことで言い争いになって


最後は美咲が泣き喚いて終わる、ということが多かった。



普段からケンカはしょっちゅうだけど、


最近は


ほんっと


ウザく思えるほど


しつこく、怒ってきたりする。



「おまえさあ・・そんなしんどいんなら、実家帰れよ。」


八神は思わず言ってしまった。


「え・・」


美咲は顔を上げた。


「実家帰ればさ、おばちゃんや義姉ちゃんたちが何でもしてくれんじゃん。 病院だって今からでも何とかなるんだろ?」


その言葉に


美咲は呆然とそのまま固まってしまった。


「もう、早く寝ろ。 しんどいんなら、」


八神はバスルームに入ってしまった。





そんな翌日だった。



「あれ?」


たまには早く帰ろうと、7時には帰宅したのだが。


部屋の中は真っ暗だった。



出かけてるのかな・・。


しょうがないな、こんな時間まで。


八神はため息をついて食事の仕度をし始めた。



しかし。


美咲はそれから1時間しても2時間しても戻ってこない。


携帯も繋がらず。



八神はようやく



家出???


と思い始めた。



ケンカして家を飛び出されたことは初めてではない。


だけど


今回は普通の身体じゃないのに!


さすがの八神も焦り始めた。


そして



『実家に帰れば?』



と夕べ言ってしまったことを思い出す。


慌てて美咲の実家に電話をした。



「あ、慎吾? どう、美咲の調子・・」


と、美咲の母に言われて、


彼女がそこにいないことがわかってしまい。



「えっ・・あー・・はあ、」


とっても


家を出て行った、とは言えずに


心臓がドキドキしっぱなしだった。



もう、あてがあるわけではなかったが、とりあえず外に飛び出した。




相変わらず


こっちでの美咲の友達の連絡先なんかわからない。


八神は


たったひとつだけ心当たりのあるところに電話をかけた。



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