サービス終了のお知らせ

「平素よりLinxをご愛顧いただき誠にありがとうございます。この度Linxの心臓部にあたるプログラムSwiMeスイミーに重大な欠陥が見つかりました。つきましては20--年12月31日をもちまして、サービスを終了させていただきます。今までご愛顧いただいたお客様には誠に感謝申し上げます」


 サービス終了?

 しかもよりによって12月31日って、向こうの世界では赤い月の夜、一番大事な時じゃないか。


 俺は来たる決戦の日に備え、練習モードで最も難しい裏ステージ「クレイジー」コースを毎日練習した。12月に入る頃にはほとんどの曲はパーフェクトを出せるまでに至った。とある一曲を除いては。


 無情にも赤い月の夜は迫っていた。

 俺はリアナと「サトラ」と呼ばれる最初に出会った小麦畑に座っていた。


「いよいよ近づいて来たね、決戦の日が」


 俺は会話の選択肢の中に、信じられないものを見つけてしまった。


『サービス終了のことをリアナに伝えますか?』


 なんだ、この選択肢は。ふざけてるのか?

 俺は試しにはいを選んでみた。


「え? するとその後はゲートが閉じてもうタクヤとは会えないってこと?」


 次に現れた選択肢は、俺に究極の選択として重くのしかかった。


A:『俺はこっちの世界の事なんか、所詮ゲームだと割り切ってる。リアナのこともすぐ忘れると思う』

B:『リアナの事は絶対に忘れない、必ずいつか会いにいくから』


 本当にリアナの事を考えれば、前者を選ぶべきなんだろう。そうすればあのロドリゲスとかいうゲス野郎とでも幸せになれるのかもしれない。出来もしない「会いに行く」なんて約束をする方が残酷だ。

 

 でも——俺は弱い人間だ。

 だから選んでしまったんだ、正直な気持ちのBを。


「ありがと。待ってるね、私。いつまでもタクヤのこと待ってる。絶対に王国を守ろうね!」


 リアナの笑顔に俺の胸が、キュン、となった。

 リアナはそのまま目を閉じていた。


『リアナが目を閉じている。どうしますか?』


 どうって?


『何もしない』

『キスをする』

『誤魔化す』


 マジかよ、これ。もうここまで来たんだから、行くしかないだろ。

 

 こうして、俺のファーストキスはよりによって異世界の二次元キャラと記録されることになった。


 後ろでは小麦畑がさわさわと優しい音を立てていた。インクの様な赤い夕日がその様子をただただじっと見つめていた。

 決戦の日がすぐそこまで迫っていた。

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