決戦の日

 12月31日、サービス終了の日。

 と同時に赤い月の夜と呼ばれるこの日は、予想通り大量の魔物が王国を攻めて来ていた。それを俺はステージクリアというエフェクトで倒していく。

 夜が更ければ更けるほど、魔物を倒すためのステージも難しくなっていき、俺は飯も時間も忘れてひたすら魔物を倒していった。


 ある時、突然意外な人物が現れた。


「ここにいたのか!」


 ロドリゲスだった。


 なんだよ、この忙しい時に。そう思っていると、突然ロドリゲスが土下座をした。


「勇者タクヤよ。不躾ぶしつけな願いとは分かっている、すまんが力を貸してくれ」


 何を今更、だからこうしてるんじゃねーか。

 すると突然、ロドリゲスが頭を上げた。


「リアナが……捕まった」


 何!?


 俺は言われた通り、最上階の玉座の間に向かった。まず目に入ったのは無数に転がる親衛隊の死体。そして奥には、首元を掴まれたリアナと特大クラスの魔物。リアナがすがるような目でこちらを見る。

 

「タクヤ……」

『リアナを離せ!』


 魔物が不気味な笑い声をあげた。


「クックッ、離すか。この娘こそが我々の目的なんだからな」

『目的?』

「知らないのか? まあいい、冥土の土産に教えてやろう。この娘は魔族の血を引いているんだ、この娘の心臓こそが封印された魔神ディオニス様を復活させるキーなんだよ。今目の前でこの心臓を取り出してやる」


 魔物が大きく手を振りかぶった。


「タクヤ、今よ!」


 俺は呼吸を整えた。この日のために練習して来たんだ。

 ステージレベルは予想通り「クレイジー」曲目は……


 マジか、よりによって。


 指定された曲、それはまだ一度もパーフェクトを出せていない曲「聖なる審判」だった。


 やるしかない、俺の頭は澄み切っていた。

 無数の音符、長押し、これらを正確にタップ。

 難易度の高い旋律も、全てパーフェクト、後は最後の長押しだけ。

 これもうまくタップできた、終わりのタイミングも良い、さあこれで……


 ところが無情にも画面にはmissと表示された。


 何でだよ!? 


 魔物はファッファッと笑った。

「所詮お前らの力なんぞそんなもんだ、死ね!」

 

 画面が止まった。

 そしてポップアップ。


「コンティニューしますか?」


 カウントダウンが始まる。しかも金額が——。


 この値段、バイト一ヶ月分じゃねーか! 運営のやろう、最後にふんだくろうとしやがって。


 5、4、3……。

 俺はスマホの画面を見ながら、叫んだ、くそーーっ!!


 俺は課金した。数万という金額を。

 次の瞬間、目を塞ぎたくなるほどの波動が出現し、魔物に向かっていった。


「グォォ! なんだこれは、これがカキンの威力か!?」

「タクヤ……カキンしたのね、今よ! もう一度エフェクトを!」


 再び始まったあの曲、聖なる審判。

 俺の頭は目の前の複雑な音符をタップしながら、別の事を考えていた。


 どうして最後にmissになるんだ。それを解決しない限りは……。

 最後までノーミスを続け、ラスト、長押しの場面へ来た。


 ここまではいいのに、どうして——!?


 その時、何かがひらめいた。ひょっとしてこれ——。


 俺は最後タ・タン、で終わるところを、タ・タ・タン、と打った。

 missは出なかった。


 やったか?


 永遠とも思えるその数秒を越え、出て来た言葉はこれだった。

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