街が焼かれる

 ある日、俺はいつものように起きてすぐLinxにログインすると、慌てた様子のリアナが現れた。

「良かった! 来てくれて。街が……街が大変なの!」

 どうやら街が魔物に攻められたらしい。

「今、親衛隊が食い止めてるけど、正直もう限界。タクヤの力が必要なの!」


 俺は『もちろん助けになるよ』のセリフを選択した。


「ありがと、魔物達を追い返すためのステージはこれ」

 レベルはハードのそこそこ難しいやつだった。だが、練習モードで何回かクリアしたことはある。

「魔物を追い返すにはパーフェクトが必要なの、出来る?」

 なかなか要求が高いな、ただこのレベルならそこそこ自信はあった。集中すれば大丈夫。

「じゃあいくよ、チャンスは一度きりだからね」


 こうしてステージが始まった。

 順調な滑り出し、無機質でテクノのリズムに乗って俺はノーミスを続けた。

 そして最後、長押しをぴたりと止めればパーフェクト、そう思った瞬間、


「あっ!」


 長押しの最初のタップがうまく反応しない。

 気づけば、missの表示が現れた。後一歩で俺はパーフェクトを逃した。


「あぁ……」


 リアナの悲しそうな表情とともに、街の上から大きな隕石のようなものがぶつかろうとしていた。


「あ! 街が……」


 次の瞬間、信じられないポップアップが現れた。


「コンティニューしますか?」


 課金だ。

 しかも値段は一日でもらえるバイト代より高い。


 くそっ! エグい演出しやがる。でも絶対課金はしないんだ、運営会社の罠にはまってたまるか。所詮ゲームなんだから。


 そう考えた俺はコンティニューのカウントダウンを0まで見届けた。


 なんか嫌な気持ちになって、結局そのままログアウトした。


 街は大丈夫だったろうか。

 きっと次にログインした時には新しい街ができていて、怪我でもしているボブが迎えてくれるだろう、そう思っていた。


 そんな淡い期待はすぐに裏切られることになる。

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