ソシャゲの罠

 課金はしなかった。

 だが、エネルギーが溜まり次第、すぐリアナに会いに行った。講義中でも、軽音の練習中でも、夜遅くでも。

 ボーナスイベントがあれば、友人と遊びに行っててもトイレと嘘をついてゲームに参加した。いつしか俺のランキングはかなり上がっていた。

 そのお陰で王国は目覚しい発展を遂げ、いつしか俺は勇者タクヤと呼ばれるようになっていた。


 街でお世話になっている楽器屋のオヤジ、ボブからも褒められるようになった。

「おっ、勇者さん。最近調子良いみてーだな」

「あなた、失礼よ。異世界の勇者様に向かって」

 出てきたのは奥さんのセレーナ。

 二人はリアナの両親だ。

「あのよ、勇者タクヤさんよ、リアナの事頼むな。いい娘なんだけど真面目過ぎて、浮いた話が全くねーんだよ、勇者さんが旦那なら俺も安心して死ねるってもんよ」


 リアナが赤面する。


「もう、父さん! 私とタクヤはそんなんじゃないんだから! ごめんね、タクヤ」


 いや、俺は全然構わないんですけど。というか正直好きになりかけててヤバイ。

 楽器屋を出ると、リアナがおもむろに語り出した。


「私ね、実は父さんと母さんの本当の子じゃないの。身寄りのなかった私をここまで育ててくれた二人には感謝してる。だから早く安心させたいって気持ちは正直あるの。でもね、魔物の勢力もどんどん強くなってきて、いつか街も攻められるんじゃないかって言われてる。この生まれ育った大好きな街を守るために、まだ仕事を辞めるわけにはいかないんだ」


 ちょっと先行っててね、そう言うとリアナは消えた。代わりに現れたのは白銀の鎧を身に纏った男。


「お前か、異世界から来たというよそ者は」


 なんか変なやつが来たぞ。


『あなたは?』

「俺は親衛隊長のロドリゲスだ。お前最近調子に乗っているようだが、これだけは覚えておけ! 俺はリアナと幼馴染みで、物心ついた時からお互い良く知っている。お前みたいにふらっと来たやつとは違うんだよ。それが分かったら、リアナには手を出すな、いいな!」


 それだけ言ってロドリゲスは消えた。

 帰って来たリアナが、去ったロドリゲスを見て、慌てた表情を見せた。


「タクヤ、大丈夫? 変な事言われなかった? 彼、優秀なんだけど、ちょっと尖ってるところがあって……ごめんね」


 ライバル登場ね、とことんやってやろうじゃない。

 それにしてもこのリアナ、知れば知るほど昔好きだった理亜奈に似ている。

 でもおかしいな、理亜奈っていつ出会ってどう別れたんだろうか、そこらへんがぼんやりしててうまく思い出せない。

 最近ソシャゲにハマり過ぎて、頭がぼーっとしてきている。単位を落とす頻度も増えてきた。熱を込めていたバンドも、離れ気味になり、この前活動停止を言い渡された。理由は分かってる。俺が練習中にもLinxをやっていたからだ。徐々に生活リズムも崩れ始めたある日、事件は起きた。

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