ゲームの誕生

『ゲームが誕生しました!』


 誕生? とりあえず俺は始めてみた。

 場所はどこかの田園風景。小麦畑が揺れている。そこに現れたのはあの少女。


「うわ、びっくりした! あなたどうしてここに?」


 タップすれば自動的に会話が進むようになっている。


『いや、気づいたらここにいたんだ。君は?』

「私、リアナ。アストラル王国の諜報士をしているの、まあ一言でいうと何でも屋さんね。あなた、もしかして……」

『?』

「んーん、何でもない。あの、手伝って欲しいんだけどいい?」


 俺が『はい、もちろん』という選択肢を選ぶと、リアナが飛び上がった。


「やったぁ、この小麦を収穫して、運んで欲しいの。あなたの世界から私達にエフェクトを与えるにはこれ」


 すると画面が切り替わり、四つの縦線が現れた。


「それじゃあ説明するよ、まず……」


 音楽に合わせ、タイミングよくタップする音楽ゲーム、いわゆる音ゲーだった。ルールは簡単で俺は初期ステージを楽勝にクリアした。


「すごーい! ランクSSだよ、じゃあ次ね」


 なるほどね、音ゲーとストーリーの融合、なかなか面白い。

 しかもこのリアナ、結構可愛い。

 よくある二次元系アイドルなんだろうけど、この白の宇宙服みたいなコスチュームに黒のミニスカート、黒タイツ。揺れるたびにパンツが見えそうになる。

 喜び方とか、ねだる表情とかが、かなりリアルで変な気持ちになる。


 次のステージ、突然難しくなり、途中でfailとなった。


「あらー残念。顔が泥だらけだよぉ〜。もう一回やってみる?」


 俺がリトライをタップすると、突然ポップアップが現れた。


『エネルギーが足りません。購入しますか?』


 購入?

 俺が試しに『購入』をタップすると、購入価格が現れた。


 なんだ、金取んのかよ。絶対払うか。


 そう思って俺はギブアップをタップした。

 するとリアナは仕方なさそうに微笑んだ。


「そっか、お疲れ様! また、来るよね? きっとだよ……」


 そのまま画面がフェードアウトしていった。


 これが課金か、こうやってみんなハマっていく訳だ。

 でも俺は違う。絶対に課金はしない、したら負けだ。どうせしなくても、待てば勝手にエネルギーは溜まるみたいだ。それからまた遊べばいい。

 そう思った俺はスマホを裏返すと、大学に行く準備を始めた。



 裏返されたスマホ。

 誰の目にも溜まらなかったその画面で続きがあった。現れたのは白銀の鎧を身に纏った騎士。


「リアナ、今度の勇者は見込みありそうか? どうやら、課金カキンしないって言ってるようだが」

「大丈夫。彼ならきっとやってくれると思う」

「本当に大丈夫か? 我が国の未来は勇者召喚にかかってるんだ、必要ならリセットして再召喚も出来るんだぞ」

「その必要は無いわ。今回ばかりは何か感じるものがあるの、いいから見てて」


 そのまま二人は画面から消えて行った。



 俺は一通りの準備が終わると、机の上に置きっ放しだったスマホをポケットに突っ込んだ。そのまま外に置いてある自転車に飛び乗る、大学に行くためだ。

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