買い物②

 あの後、作り置きしてもいいように何枚かお皿を買っていた。


「次は何買うんだ?」

「そうだね〜、次はフライパンとか鍋とか買わないとね!」

「そうだな。そんじゃ、いいの選んで買ってきてくれ」

「えっ?! 斎藤くん、選ぶの手伝ってくれないの?」

「疲れたからその辺で休憩してるから、好きなの買ってきてくれ」

「……わかった」


 なんか悲しそうにしているんだが、そこまでの事か? というか、普段学校だと俺となんて話してないんだからここでそんな顔するなよ。なんか友達だと思っちまうだろ?


「……ほら、はやく買ってこい。ここで待ってるから」

「ここから動かないでね! 動いたらお仕置きだから」

「いや、どういう事だよ。まぁ言われなくてもどっかに行こうなんて考えてないから安心しろ」

「うん! なら少し待ってて!」

「おう」


 満足した顔で買いに行った伊藤さんを、ただただ眺めていた。今考えると、俺、女子と遊ぶなんて初めての経験だった事を思い出す。思い出した途端に緊張してきた。


「買ってきたよ〜! いやー、荷物いっぱいになっちゃたね〜!」

「お、おう。なら、次はハンバーグの材料でも買いに行くか」


 そう言いながら俺は伊藤さんの前に手を差し出す。荷物を持ってあげるためだ。それに対し何を勘違いしたのか、いきなり手を握ってきやがった。

 伊藤さんの手はすべすべで柔らかかった。ずっと堪能していたいと思ってしまう。だが目的は荷物を持つことであって手を繋ぐことではない。


「……なぁ、俺たちなんで手繋いでるんだ?」

「なんでって、斎藤くんが手を繋ぎたかったんじゃないの?」

「いや、違うから。俺は荷物を持つために手を出しただけだから!」

「えっ、そうだったの? ありがとう!」


 そう言って荷物を渡してくるので、それを受け取る。受け取った後また俺の手を握ってくる。


「な、なぁ。なんでまた手を握ってくるんだ?」

「別にいいでしょ〜? 友達と手なんて繋ぐのはじめてなんだ〜!」

「いや、いつから俺らは友達になったんだ? ただのクラスメイトだろ?」

「えっ?! 私たち友達じゃなかったの?」

「学校の時、ほとんど話したことないだろ。なんならこんなに話したの、今日がはじめてだからな?」

「そ、それでも、ご飯も一緒に食べたし、沢山お話しできたし、勝手に友達だと思ってた。……ごめんなさい」


 伊藤さんの頭の中はお花畑か何かなのか? 少し話しただけで友達になれるのなら、みんな友達になっちゃうだろ。

 というか、こんなに人懐っこい人だったっけ? ほんと、いい意味で期待を裏切ってくれる。学校でも、この伊藤さんなら関わりやすかったかもな。


「……はぁ。もう友達でもなんでもいいから、早く買いに行くぞ。それと、早く手を離してくれると助かる」


 正直、ずっと繋いでいたいと思う俺もいるが、流石に恥ずかしい。というか、パーソナルスペースが広いな。グイグイくるぞ? 


「えー、繋いでちゃ駄目なの〜?」

「恥ずかしいだろうが。それに繋ぐ必要もないし」

「そっか〜、残念」


 そう言って離してくれたので、安堵する。このまま繋いでいたら、緊張しすぎてどうにかなってたかもしれん。

 その後俺たちはスーパーに行き、ハンバーグの材料を買っていた。流石に伊藤さんもハンバーグの材料くらいは知っていたようで、次々と材料を買い物カゴに入れていく。

 会計をするとき、急に伊藤さんが俺の手からカゴを奪った。


「会計は私に任せて! 全部払うから!」

「いや、半分でいいぞ? 俺も食べるんだし」

「作ってもらうんだし、このくらいは私が払うよ!」

「……わかったよ。なら頼むわ」

「うん!」


 会計も無事に終わり、今は家に向かってる途中だ。今日の伊藤さんは終始話し続けている。行く時もそうだったが、帰りもテンションが変わらないのは凄いと思う。


「そういや、伊藤さんは友達とかと出掛けたりしないのか?」

「ほとんど出掛けないかなぁ? 誰も誘ってくれないんだよね。なんでだろ?」

「なんでって、俺に聞かれてもわかんないんだが」

「そうだよね〜。だから、斎藤くんとお出掛けできて楽しかったよ!」

「お出掛けって言っても、伊藤さんの買わないといけないものを買っただけだから、なんとも言えないだろ」

「うっ。そ、そうだけどさ。それでも楽しかったんだもん!」

「そうか。……ならよかったよ」

「うん!」


 家に着きそれぞれの部屋に入っていく。

 なんだかんだ言って、伊藤さんとの買い物が楽しかったと思う俺がいた。

 夜ご飯まで少し横になるか。流石に疲れた。

 家に着いて、服も脱がずに眠ってしまう俺であった。

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