買い物①

 2人で1つの皿に入っているスパゲティーを食べている際、ふと聞きたい事を思い出した。


「そういえば、伊藤さんはなんで一人暮らししてるの?」

「お父さんが3月に転勤が決まったんだけど、他県になっちゃったんだよね。私ももう2年生になるし、連れて行くよりは今の高校を卒業したほうがいいっていう話になってね。それで一人暮らしさせてもらってるんだ〜」

「そ、そうだったんだ。というか、つい最近だったんだな、引越ししてきたの」

「そうだよ! まだ住んで1ヶ月くらいしか経ってないよ!」

「……それでこの散らかしようか。流石に汚くするの早くねーか?」

「うっ。で、でもこれでも頑張ってるんだからね?!」

「あー、はいはい。わかってるよ。これからよくなるんだもんな」

「そ、そうだよ! これからだよ!」

「まぁ頑張れ」


 そろそろご飯も食べ終わったし、帰るとするか。女子の部屋に長居するわけにもいかないだろ。


「そんじゃ、買い物も行かないといけないしそろそろ帰るわ」

「また夜ご飯も作ってくれる?」


 上目遣いで言ってくるため、断ることはできない。


「また持って行くよ。そういや、好きな食べ物とかあるか? 材料買ってこないといけないし、食べたいもん教えてくれ」

「うーん、ハンバーグとかかな?」

「わかった。なら今日の夜はハンバーグにするか」

「やったー!」

「そんじゃ材料買わないといけないから帰るわ」

「なら、私も一緒に買い物行く!」

「別に1人でもいけるんだが」

「お皿とか買わないといけないし、何より、作ってもらうのに何もしないっていうのは失礼だよ! 材料費くらい払うから!」


 確かに伊藤さんの家には皿とか他のものが諸々足りない。

 というか、2人で1つの皿を使うっていうのは精神的にきつい。相手はポンコツだけど美少女だ。普通なら、美少女と長時間同じ空間にいるっていうだけでお腹いっぱいになる所だが、この部屋のお陰で今はなんとかなっている状況だし、伊藤さん用のお皿は早急に必要になる。


「……そんじゃ、買い物行くか」

「うん! ちょっと待ってて、すぐ着替えるから!」


 その場で着替え出そうとするため、俺は慌てて玄関から外に出た。

 まさか俺がいるのに着替えようとするなんて思わず、一瞬思考停止してしまった。


「はぁ、ポンコツに加え天然が入ってるのかよ。かなわねーな、これは」


 一緒にいる時間が長いと、何しでかすかわかったもんじゃないぞ。こうなりゃ、出来るだけ早く買い物終わらせないと。

 しばらく待っていると、伊藤さんが出てきた。

 白のワンピースに薄いピンク色のカーディガンを羽織っている。

 その姿を見た瞬間に、俺は可愛いとか綺麗とか思う前に、やればできるじゃんと思ってしまった。


「どう、かな? 似合ってる?」

「……やればできるじゃん」

「ちょっ! なんで上から目線なの?!」

「部屋にいる姿を見たら誰でもこの感想だと思うけど?」

「うっ、何も言い返せないのが辛い」


 ぐぬぬと効果音が聞こえてくるかのような顔をしている。


「言い返したかったら、部屋にいる時もそれなりの生活をするんだな」

「が、頑張るよ!」

「頑張って料理とかしてくれると、俺の役目が終わって、俺も楽になるんだしな」

「えっ? やめちゃうの? なら料理はできないままでいいかなぁ〜。作ってもらった方が楽だし!」

「そういうんだったら、今日の夜で最後にするぞ?」

「ご、ごめんなさい。それだけはやめてくれると嬉しいなぁ〜、なんて。なんなら、洗濯とかもしてくれたら嬉しいなぁ〜なんて」


 なんだろう、料理以外に洗濯まで頼んできてるんだが。素性を知られたからって、いきなり図々しくなりすぎじゃね? 


「おい、どさくさに紛れれて洗濯まで頼むな! そもそも、性別が違うんだからな? さっきあんなに顔赤くしてたの忘れたのかよ!」

「そ、そうだよね。でも、洗濯って色々操作しないといけないから、めんどいじゃん!」

「学校での振る舞いはどこにいったんだよ! 実は伊藤さんってポンコツだったんだな!」

「ポ、ポンコツって、言ってはいけない事を言ったな! ……私だって自分がポンコツだっていう事分かってるよ。だから学校ではポンコツな自分を見せないようにしてるんです」

「すまん。言いすぎたな」

「ほんとですよ! 私、傷ついちゃったなぁ〜」

「……しょうがない。一度だけなんでもいう事聞いてやる。それで勘弁してくれ」

「なら、洗濯もしてもらおっかなぁ〜!」

「……はぁ、わかったよ。でも、文句とか変態扱いすんなよ?」

「大丈夫! 頼んでるのは私だし、何も言わないよ! それにそれは私が洗うから大丈夫!」

「……ならいいけど。でも、それだと2度手間じゃないか?」

「た、確かに。なら、それはネットに入れておいて、分からないようにすれば一緒に洗っても大丈夫だね!」

「……わかったよ。ただし、それを干すのはやらないからな?」

「と、当然だよ! 流石にそれくらいは私がやるよ!」

「なら、全部やって欲しいんだが」

「そ、そんなことより、どこに行くか決まってるの?」

「近場のスーパーでいいだろ。それとも、お洒落なお皿とか売ってるショッピングモールに行くか?」

「なら、ショッピングモールの方がいい! これを気に色々足りない物揃えたいし!」

「そんじゃ、そっちに行くか」

「うん!」


 歩いてる最中も、電車に乗っている最中も伊藤さんの話は止まらなかった。どうでもいい話しかしていないのだが、それでも楽しそうに話している伊藤さんの邪魔は出来なかった。

 でもなんだろう。普段女子とこんなにスムーズに会話した事のない俺が、こんな美少女と普通に話せていることに驚きしかない。

 女子との会話が、こんなにストレスがないのも初めての事だ。

 こんな会話を楽しいと思っている俺がいる。




 ショッピングモールにつき、最初は皿を買うことにした俺たちは、お皿が売っているお店に向かう。

 食器などの小物が揃う店に入り、色々見て回る。


「ちなみにどんな皿がいいんだ?」

「使いやすくて、色がピンクとかオレンジとかの明るい色のならいいなぁ〜」

「なら、この辺のやつならいいんじゃないか? この辺のはプラスチックだから落としても割れないし、明るい色もあるぞ?」

「なら、オレンジとピンクの両方買っちゃお!」

「2つも必要なのか?」

「片方は斎藤くんのだよ! うちでご飯食べる時、毎回家で作って持ってくるのめんどいでしょ? ならいっそ、私の家で作った方がいいかなって思って! その時お皿必要でしょ?」

「仮に伊藤さんの部屋で作るにしても、部屋から皿持ってくればいいだけじゃね? 何も買わなくてもよくないか?」

「使わなかったら、私が使うからいいもん。お皿が2枚あっても別に問題ないでしょ?」

「まぁそうだな。2つあれば作り置きとかもできるから便利だし」

「だ、だよね! 次はフライパンとか鍋とかも買わないと。それに包丁も買わないと駄目だよね!」

「そうだな。というか、1ヶ月も住んでて、フライパンとか無かったことに驚きなんだが」

「前にも言った通り、料理とかは一切しなかったから、必要なかったの! だから買ってなかったの!」

「そうか。なら、色々買わないとな」


 そこから料理に使う道具を探す俺たちであった。




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