第22話 助っ人オスロー
モラートに案内された場所では、数人の隊員たちが談笑していた。俺がその場に現れた瞬間、全員の視線が俺のほうに向いたので、俺は小さく頭を下げて、
「レイル・フリークです。どうかよろしく」
と丁寧に挨拶。すると全員、愛想よく挨拶を返してくれる──第四部隊、どうやら悪い人たちではなさそうだと俺は少しだけほっとした。
隊員の輪の中に腰を下ろすと同時に、部屋の中にもう一人入ってきた。その顔を見た瞬間、にこやかな表情だった隊員たちの顔がキッ、と引き締まり、兵隊然とした顔つきになった。入ってきたのは昨日部屋に案内してくれた人……たしかリースとかいう名前の女性だった。
「全員集まってます? レイル君も? ……いいでしょう。今日のミーティングを始めましょうか。といっても、私から伝えることは大してありませんが。……ああ、言っていませんでしたね。私は第四部隊の隊長、リースです。今後ともよろしく……」
リースは手元の紙をぼんやりとした目つきで眺めながら、呟くような声で語りだした。
「まずは……先ほどフェリさんが言っていたように、新入隊員がウチに加わりました。レイル・フリークさん。次の作戦から活動に参加してもらいますのでそのつもりで」
「次の!?」モラートは驚愕の声を上げる。「次のって、リーベルンとの衝突にですか? それはしかし……新入りに対してあまりにも酷なのでは?」
「そうですね、非常に酷です。しかしながら、そんな正論が罷り通るほどこの組織に余裕はありません。実際の戦いの中で、戦闘に関しては覚えてもらうしかないでしょう」
あまりにも実践至上主義過ぎると、俺は文句の一つも言いたい気分だった。しかし俺たちの方を眺めているリースの表情には妙な威圧感があって……結局俺は何も言わず黙っていた。だが、モラートは勇気のある男のようだった。リースに対して、果敢にも物言いを続ける。
「お言葉ですが……戦闘訓練を満足に受けていない人間を前線に出すなんて、私は反対です。自殺を推奨しているようなものだ。それに、我々の行動作戦事態に支障をきたしかねない」
「その意見も正しいと思いますよ」リースは表情を動かさずに返答する。「確かに、今のままただ連れて行っても足手纏になる可能性は高いでしょう。私もそう思います。ですが今回に関しては、"十二剣聖"の方から特別な指令が出ているのです」
「"十二剣聖"から?」
モラートを含め、隊員たちは皆驚きの表情を隠さない。リースは手元の紙の束を一枚めくると、淡々とした調子で文字を読み始めた。
「これは、今朝届いたアメリア様からの指示だそうですが……『今度予定されているリーベルンとの交戦計画に、レイル・フリークの同行を求めます。私の見立てでは、彼は立派な戦力として活躍してくれるでしょう。無理を言う代わりに、"十二剣聖"から一人、彼の知り合いであるオスロー・スカイベルを補助戦力として派遣することにします。万が一の時は、彼女の力を活用するといいでしょう』……だそうです」
「オスロー様が!?」さっきよりも数倍大きな声でモラートが叫ぶ。「オスロー様が、我々とともに戦いに加わってくださると?」
「そうらしいね。なんの気まぐれか分からないけど……」リースは呆れたようにそういうと、俺の方を目を細めてジロリと見た。「あなた、オスロー様とどういう関係なの? 本当にただの新入隊員なの?」
「いやあ、何が何だか……」俺は頭を掻きながら有耶無耶に答える。オスローを俺の所に向けるというのは、文面から考えてアメリアとやらの独断だろう。彼女が俺のことを心配して? 顔を合わせたこともない俺を? 俺は少しだけ頭を捻って理屈を考えてみたが、もっともらしい考えは浮かんでこなかった。
「しかしなんだ。オスロー様が加わってくれるのであれば、千人力、否、万人力ではありませんか! それに元々、今回の作戦はチリン様が導いてくださる。……憂慮することはないぞ、新入隊員。安心して最前線に飛び込みたまえ」
「おい」あまりにも早い変わり身の早さに、俺は思わず突っ込んだ。
「モラート隊員。聖剣の持ち主が拝めるのが嬉しいというのは分かるが、冷静さを失うな。……フェリも言った通り、敵方には"三大悪"が混ざっている可能性が高い。そうだとすれば、必然的に激戦は避けられない。常に緊張感を持って取り組むことだ。いいな!」
リースが声を張り上げ、隊員たちがこれに応じて「了解!」と返答する。流石は軍隊、よく統率が取れている。
「作戦行動開始は明後日から。明後日より東部基地へと出発し、襲撃に備えて準備をする。東部基地へは泊まり込みになる、各自、遠征の準備を整えておくこと。私からの報告は以上だ」
その後リースが解散を告げ、ミーティングは終わった。彼女が部屋から立ち去ると、すかさずモラートが俺の方に向き直り、
「凄いじゃないか。君、もしかしてオスロー様と知り合いなのかい?」
と質問。周囲の隊員も気になっていたのか、期待するような眼で俺を見てきた。
「……まあ、色々なことがあってだな」
「はあー、羨ましい。まあしかし、君のおかげであの方と話すことができるんだな! 戦争の前線投入なんて嫌でしょうがなかったが、こいつは幸運としか言いようがないな」
「モラートは"十二剣聖"の熱狂的なファンでもあるからね」隊員の一人が茶化すように俺に言った。俺はモラートのテンションの上がりように内心引きかけていたが、これもやはり表には出さず、心の奥底に閉まっておいた。
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